米国住宅指標「中古住宅販売件数」発表前後のUSDJPY反応分析(4.1訂版)

本稿は、米国住宅指標「中古住宅販売件数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説

特徴は次の通りです。

  • 反応程度の小ささからすれば意外にも、過去の実績から言えば、金融当局の会見開始時刻と同時発表でない限り、同時発表指標があっても気にする必要がない
  • 本指標単月毎の増減は、単月毎の新築住宅販売件数の増減や、単月毎の中古住宅販売保留指数の増減からは予見できない
  • 住宅ローン金利変更直後や荒天・天災による影響が大きい様子が窺えるものの、その翌月の過大反動率は高くない
    また、本指標に上昇や下降のトレンドが発生していても、そのことを根拠に指標発表直後の反応方向を予想することはできない

反応には次の傾向があります。

  • 反応程度はかなり小さく(直後1分足値幅平均3pips)、反応方向の素直さにも欠ける(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率が62%)
  • 過去5年弱の平均値で、事後差異判別式の解1ips(Index Points)当たりの直後1分足値幅は1.2pipsだが、この値は毎年小さくなってきている
  • 指標発表時刻を挟んだボラティリティの変化がなく(直前10-1分足と直後11分足の過去平均値幅が4pipsで同じ)、本指標のチャートへの影響持続時間はかなり短い

指標内容について補足します。

本指標と新築住宅販売件数との関係について「本指標は新築住宅販売件数より1・2か月の遅行性がある」という説明をよく見かけます。
これは、本指標が所有権移転完了時に集計されるのに対し、新築住宅販売件数は契約書署名時点で集計されるためです。
米国では一般的に契約書署名と所有権移転の時差がだいたい1・2か月という話です。

ところが、実際に両指標の推移を調べてみると、単月毎の両指標の増減方向の一致率に連動性は認められません(もちろん同期性も)。
この話は、誤差を丸めた移動平均線での連動ということでもありません(そんなことは偶然に一時期だけに起きることです)。
なぜなら、論拠は集計方法の時差だけであり、長期・高額ローンの金融機関の与信枠が異なる購買層の動きは同期しないことを無視しています。

よって、FX参加者に両指標の関係を述べるなら、米国の事務手続き上の時差でなく、次のように説明すべきです。

住宅販売数の増減は、一部の消費指標の増減を先行示唆しがちです。
その先行性は、新築住宅販売件数の方が中古住宅販売件数よりも更に先行示唆しがちです。
但し、それらは消費指標の増減を介して先行示唆するので、両指標同士の先行/遅行の相関は伝言ゲームのように弱くなっていることが実績データからわかっています。
結果、単月毎の中古住宅販売件数の増減は、先に発表される新築住宅販売件数の単月の増減からは予想できません(その逆も真)。

1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
また、対象項目は、年換算販売件数(以下「件数」と略記)・前月比、とします。

2.1 分析対象

以下、件数・前月比の順に過去推移を示します。
件数は、後記2.2.1項の移動平均線分析のために、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしてあります。

本指標は、翌月に前回の発表結果修正が行われることが多く、対象期間に37回もの修正が行われています(修正頻度65%)。

細かな点を無視すれば、件数とその前月比はどちらの表現が扱いやすいかの違いしかありません。
けれども、見た目の印象はかなり違うことがわかります。
少なくとも、前月比のグラフを見て、件数のグラフ形状をパッと推察できる人なんていないでしょう。

件数の推移を大きく見れば、2018年にローン金利上昇と先行き不安から販売が減少していたものの、他の時期は好景気を背景に高い水準で推移しています。
このように、市場背景と指標結果を結びつけて考察するためには、件数の推移を見る必要があります。

一方、ハリケーンや豪雪による落ち込みやその後の反動は、件数よりも前月比を見る方がわかりやすいと思います。
何より、実態指標の多くは前月比での発表結果だけがすぐに表示されることが多いため、他の指標との相関を掴むためには前月比の方が便利です。

2.2 指標予想分析
2.2.1 移動平均線分析

本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

上表「全数」の「判定数」が45回で、対象期間の57回集計分発表より12回も少なくなっています。
これは、対象期間の最初の6回移動平均値が2015年6月集計分発表後なので、最初の6回が判定されていないためです。
そして、2015年7月集計分発表以降、本指標より影響力が強い他の指標(後記2.3項参照)との同時発表が2回、直後1分足値幅が0pipsで方向判定不可だったことが4回あったためです。

仮説一致率は45~49%で、実績が仮説を否定しました。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

2.2.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

上表「全数」の「判定数」が49回で、対象期間の57回集計分発表より8回も少なくなっています。
これは、対象期間外の2014年12月集計分の実態差異が必要な2015年1月集計分の判定を行っていないためです。
そして、同年2月以降に本指標より影響力が強い他の指標(後記2.3項参照)との同時発表が3回、直後1分足値幅が0pipsで方向判定不可だったことが4回あったためです。

結果、上表記載の通り、仮説一致率は50~59%で、実績が仮説を否定しました。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

2.2.3 同期/連動指標分析
(1) 新築住宅販売件数との対比

本指標と新築住宅販売件数との対比を行いました。
結論は、単月毎の増減を比較する限り、その増減方向に両指標間の同期/連動はない、です。
分析の前提と結果を以下に示しておきます。

本指標が所有権移転完了時に集計されるのに対し、新築住宅販売件数は契約書署名時点で集計されています。
そのため多くの指標解説記事で「本指標は新築住宅販売件数より1・2か月の遅行性がある」という説明を見かけます。
本当にそんなことが起きているのか、検証しておきます。

まず、下図に両指標の推移を直接対比しておきます。
下図の中古住宅販売件数は1/10してプロットしています。

はっきり言って、全体を何気なく眺めても、両指標が同期しているか連動しているかわかりません。
ただ、一時期の特徴的な下降は、確かに本指標が新築住宅販売件数より0~3か月の範囲で遅行していることがあるようです。
そして、一部の突発的な上昇は、両指標で同時に起きていることが多いように見受けられます。

次に、両指標の増減方向の一致率を求めておきます。

横軸の月差とは、本指標が新築住宅販売件数に対し何か月遅れているか、を表します。
月差+1とは、ある月の本指標の増減方向とその前月の新築住宅販売件数の増減方向の一致率です(+は本指標の遅行月数)。
月差ー1とは、ある月の本指標の増減方向とその翌月の新築住宅販売件数の増減方向の一致率です(ーは本指標の先行月数)。
縦軸は、両指標の単月毎の増減方向の一致率を表しています。

上図から「本指標は新築住宅販売件数より1・2か月の遅行性がある」という話は、実際に単月毎の増減方向を比較してみると、正しいとは言えないことがわかります。

それならば、こんな役に立たないどころか、この話を信じた初心者が損をしかねない話が、なぜこれほど広く流布されたのでしょう。
移動平均線を使えば一定の遅行性がある、という話ではありません。
そんなことが起きても、それは偶然の一時期にしか通用しません。

先述の通り、本指標が所有権移転完了時に集計されるのに対し、新築住宅販売件数は契約書署名時点で集計されており、その時差がだいたい1・2か月、という事務手続き上の話だけがそもそもの遅行原理だったのです。
ならば、事務手続き上の時差がなければ(両指標集計時期さえ同じにすれば)、中古住宅販売数と新築住宅販売数の増減は、単月毎に同期するのでしょうか?
そんな訳がありません。
長期・高額ローンの金融機関の与信枠が異なる購買層の動きが同期するはずないのです。

この話は次のように解説すべきです。

住宅販売数の増減は、一部の消費指標の増減を先行示唆しがちです。
その先行性は、新築住宅販売件数の方が中古住宅販売件数よりも更に先行示唆しがちです。
但し、それらは消費指標の増減を介して先行示唆するので、両指標同士の先行/遅行の相関は伝言ゲームのように弱くなっていることが実績データからわかっています
結果、単月毎の中古住宅販売件数の増減は、単月毎の新築住宅販売件数の増減からは予想できません。

(2) 中古住宅販売保留指数との対比

本指標と中古住宅販売保留指数(以下「保留指数」と略記)との対比を行いました。
結論は、単月毎の増減を比較する限り、その増減方向に両指標間の同期/連動はない、です。
分析の前提と結果を以下に示しておきます。

両指標の関係は、保留指数は売買契約の成約数を指数化した指標で、販売件数は所有権移転数件数です。
つまり、保留指数は販売件数の先行指数で、契約成約から所有権移転に要する1~2か月がその時差と考えられます。

両指標の推移を下図に示します。

同月集計分の発表順で言えば、先に販売件数が発表されてから、次に保留件数が発表されます。
特に時差1~2か月で増減が一致しているようには見えません。
念のため、両指標の増減方向の一致率を求めておきます。

横軸の月差とは、保留指数に対し販売件数が何か月遅れているか、を表します。
月差+1とは、ある月の販売件数の増減方向とその前月の保留指数の増減方向の一致率です(+は販売件数の遅行月数)。
月差ー1とは、ある月の販売件数の増減方向とその翌月の保留指数の増減方向の一致率です(ーは販売件数の先行月数)。
縦軸は、両指標の単月毎の増減方向の一致率を表しています。

上図から「販売件数は保留指数より1・2か月の遅行性がある」という話は、実際に単月毎の増減方向を比較してみると、正しいとは言えないことがわかります。

2.3 指標間影響力比較分析

下表は、対象期間に本指標と他の指標が同時発表されたときの影響力対比です。

青太字の指標は、本指標よりも影響力が弱い、と見なせます。
赤太字の指標は、本指標よりも影響力が強い、と見なせます。

この結果は、消費に繋がる本指標のチャートへの影響力の強さを示唆しています。
がしかし、本指標が過去同時発表指標よりも影響力が強いと言っても、後述するように本指標発表直後の反応は小さ過ぎます。
よって、今後も長く観察を続ければ、いくつか影響力の強さが逆転する指標も出てくるでしょう。

本項分析結論は、

  • 本指標発表時には金融政策関連の発表や会見があるときを除いて他の指標を気にする必要がない
  • 次項以下の指標発表時の反応に関わる分析では、上記赤字指標との同時発表を除いた54回を対象とすべき

です。

2.4 項目間影響力比較分析

対象項目は前月比のみとし、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、前月比を用いて

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー修正結果

とします。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.3項記載の54回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2019年発表分は、2019年9月集計分までのカウントとなっています。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で4pipsで、反応程度はかなり小さい指標です。
直前10-1分足と直後11分足は値幅が同じことも、本指標のチャートへの影響力の小ささを示唆しています。

反応程度が小さ過ぎるため、この表のpips単位表記では平均値と中央値と分布の関係が読み取り難くなっています。

3.2 利得分析

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で1.2pipsです。
但し、毎年の値を見ると、1.6・1.6・1.3・1.0・0.9と、徐々に小さくなっています。

2019年は利下げが行われており、それでもこのまま利得が下がり続けるようならば、もう本指標に市場は関心がないと考えても良いかも知れません。

3.3 指標一致性分析

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.3項以降、分析対象は54回分の発表でした。
この54回(頻度95%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が2.1超だったことは36回(頻度63%)、4.2超だったことは19回(頻度33%)、6.3超だったことは9回(頻度16%)、8.4超だったことは4回(頻度7%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

本項分析結論は、

  • 事前差異判別式の解の絶対値が4.2を超えて8.4以下のとき、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率78~79%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が8.4超のとき、その解の符号と直前1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率67%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が6.3超のとき、その解の符号と直後1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率67~71%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が8.4超のとき、その解の符号と直後11分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率75%)

です。

3.4 反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上図から反応程度を無視して、反応方向だけを問題にして図示しておきましょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.3項以降、分析対象は54回分の発表でした。
この54回(頻度95%)のうち、直前10-1分足値幅が過去平均値の0.5倍を超えたことは33回(頻度58%)、過去平均値を超えたことは18回(頻度32%)、過去平均値の1.5倍を超えたことは12回(頻度21%)、過去平均値の2倍を超えたことは7回(頻度12%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との他のローソク足の方向一致率を下図に示します。

本項分析結論は、

  • 直前10-1分足が過去平均の2倍超のとき、直前1分足値幅方向はそれと同方向になりがち(期待的中率67%)

です。

3.5 伸長性分析

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で65%、値幅で47%、でした。

さて、2.3項以降の分析対象54回(頻度95%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは48回(頻度84%)、過去平均を超えたことは21回(頻度37%)、1.5倍を超えたことは9回(頻度16%)、2倍を超えたことは5回(頻度9%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均値の1.5倍超のとき、直後1分足終値がついた時点でそれとは逆方向にポジションを取得(期待的中率71~100%)

です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

以上

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