米国実態指標「小売売上高」発表前後のUSDJPY反応分析(4訂版)

本稿は、米国実態指標「小売売上高」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:商務省経済分析局(BEA:The United States Census Bureau)
  • 発表日時:翌月第2週21:30(冬時間は22:30)
  • 指標内容:全米小売業の月次売上額推計値の前月比

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「小売売上高前月比」「輸送機器を除く小売売上高前月比」のふたつ
    多くの指標解説記事には、前者より後者を重視すべきとの記述が目立つものの、実際には後者より前者への反応となりがち
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 2015年以降の実績に基づけば、本指標はCPI・PPI・金融政策関連よりもチャートへの影響力が弱い
    (2) 本指標の単月毎の改善/悪化方向は、時差1か月でCB消費者信頼感指数の改善/悪化方向と連動しがちだが、この特徴に基づく取引は勧められない
    また、本指標とISM非製造業景況指数との同期/連動関係は窺えない
  • 発表結果は市場予想を挟んだ上下動が激しいものの、過大反動は起きにくい

反応には次の傾向があります。

  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率81%)なものの、反応程度の平均値は中程度(直後1分足値幅平均12pips)
    以前は、CPIやPPIとの同時発表が多かったため、本指標への反応程度を過大評価している解説が多いことには注意すべき
  • 市場予想が前回結果より良くても悪くても、指標発表前のポジションの根拠にはならない
    直前10-1分足が陽線のとき、直前1分足は陰線になりがち
    指標発表後は、事前差異判別式の解の絶対値が2.8超のとき、その解の符号と逆方向に反応しがち
    但し、その反応は発表から1分を過ぎても持続が見込めるものの、直後11分足終値が直後1分足終値よりも伸びるとは言えない
  • 本指標での取引は、深追いを避けて追撃の止めどきが大事
    その止めどきは、指標発表から1分を過ぎて数分以内となりがち

指標内容について補足します。

経済分析局はGDPの計算に本指標結果を使用し、米国GDPの占める個人消費は約70%を占めています。
本指標は、月末に発表される個人消費よりも早く、その拡大/縮小を販売側データで把握できます。
また、FRBの法的責務のひとつに物価安定があり、労働統計局は消費者物価指数の作成に本指標結果を利用しています。
このように、本指標の好不調は経済・政策に広く影響を及ぼす点で、市場の関心が高い指標です。

調査は、百貨店や総合スーパーなど1万超の小売業者を対象に、原則、文書(郵便・ファックス)でのアンケートで行われます。
そして、業種別の回答数に偏りが生じてしまった場合は、電話での回答を求める場合があるようです。
但し、その回答率を見つけることはできませんでした。

さて、多くの指標解説記事では、「小売売上高前月比」よりも「輸送機器を除く小売売上高前月比」を重視すべきとの記述が目立ちます。
輸送機器には自動車が含まれ、自動車販売額は大きいため、消費動向を掴むためには、それを除いた「輸送機器を除く小売売上高前月比」を見るべきだ、との意見です。

けれども、ここで考察です。
本指標に注目する意義は、GDPの約70%を占める個人消費の動向を把握するためでした。
そして、自動車購入において支払った付加価値分はGDPに反映されています。
ならば、何のために自動車販売を除いた消費動向を掴むのか、これはおかしな話です。

これは私みたいなアマチュアの素直な疑問であって、経済学的に正しい疑問か否かはわかりません。
けれども「本指標とGDPとの関係を述べ、輸送機器を除く小売売上高前月比に注目を集め、そして指標結果が良ければUSDは買われがち」と論説している資料は、短期と中長期で起きる現象を区別して説明できていない、と言えます。

なぜなら、本指標発表前後の短期取引を行う上で、そんなことは関係ない点です。
指標発表前に「小売売上高前月比」と「輸送機器を除く小売売上高前月比」のどちらを重視すべきかは、指標発表後にどちらの良し悪しに素直に反応するのか、で決めるべきです。
それならば、実績に基づき結論が明確にできます。

後記2.3項に記載の通り、指標発表直後の反応は「小売売上高前月比」に対しての方が「輸送機器を除く小売売上高前月比」に対する反応よりも15%も素直です。
なお、参考までにこちらに発表事例をリンクしておきます。
発表事例を見ると、最初に「小売売上高前月比」と「その前回発表の修正値」が掲載されています。
「輸送機器を除く小売売上高前月比」は、棒グラフを読み取らないとわかりません。
そんな単純なことが、「小売売上高前月比」に対する初期反応が素直な理由かも知れません。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年11月集計分までの59回分です。
分析対象項目は「小売売上高前月比(以下「前月比」と略記)」「輸送機器を除く小売売上高前月比(以下「コア前月比」と略記)」とします。

2.1 分析対象

以下、前月比コア前月比の順に過去推移を示します。

両指数ともに修正が多く行われています。
分析対象期間の項目毎の修正回数を下表に纏めておきます。

そして、項目毎の統計値を下表に纏めておきます。

なお、標本群はいずれもほぼ正規分布状です。

2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、対象期間における本指標と他の指標が同時発表時の実績に基づき、どちらの指標がチャートへの影響力が強かったかを示しています。
影響力の強さ」は、各指標の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率の高さに基づき判定しています。

結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。

本指標での取引は、PPICPI金融政策関連との同時発表時には避けた方が良い、が実績に基づく結論です。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の59回発表のうち33回の事例となります。

なお、本指標がPPIよりも影響力が弱い、という結論には異論もあるでしょう。
いずれ同時発表回数をもっと多く集計すれば、この結論は逆になる可能性が高い、とも考えています。
がしかし、2015年~2019年の実績からは上記結論です。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は、前月比・コア前月比、でした。

2.2項結論に基づく33回の事例について、各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

ネットで本指標を調べる限り「コア前月比に注目すべき」との解説が数多く見受けられます。
がしかし、少なくとも本稿分析対象事例を集計した限り、コア前月比よりも前月比の方が指標発表直後の反応が15%も素直なことがわかります。
指標取引に勝ちたいならば、コア前月比よりも前月比に注目すべきです。

各判別式は次のように立式します。

  • 差異判別式=A✕前月比の差異+B✕コア前月比の差異
    但し、
    事前差異=市場予想ー前回結果
    事後差異=発表結果ー市場予想
    実態差異=発表結果ー修正結果(修正なければ前回結果)

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

本指標は、指標発表直後こそかなり素直に反応するものの、発表以前や発表から暫く経つとどっちに反応するのかわかりません

2.4 指標予想分析
2.4.1 移動平均線分析

本分析は省略します。

2.4.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

上表記載の通り、それほど過大反動を起こしやすい指標とは言えません(「過大反動率」を参照)。
但し、過大反動が起きると見込んで指標発表直前にポジションを取得した場合、前月実態差異判別式の解の絶対値が6超ならば、67%の期待的中率(「仮説一致率」を参照)があります
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が29回となっています。
その理由を下表に整理しておきます。

2.4.3 同期/連動指標分析

本指標よりも先に発表が行われている関連指標には、CB消費者信頼感指数ISM非製造業景況指数があります。
両指標は、それぞれ消費者の購買意欲とサービス業の売上見込みを、小売売上高集計に先立って集計している、と見なせます。
以下に、それぞれ本指標との同期/連動指標分析を行います。

(1) CB消費者信頼感指数との対比

消費者の購買意欲について、CB消費者信頼感指数UM消費者信頼感指数は、ほぼ同時期にほぼ同内容の調査を行っています。
但し、UM消費者信頼感指数は、CB消費者信頼感指数よりも、約1桁少ないデータ数に基づく上、電話アンケートで済ませています。
そのため、UM消費者信頼感指数は、結果のブレが非常に大きい上に、同月集計結果が前月よりも改善したか悪化したか、CB消費者信頼感指数とあまり一致しないことがわかっています。
よって、消費者の購買意欲が上向きか下向きかは、CB消費者信頼感指数の方がアテにできる、と考えています。

単月毎のCB消費者信頼感指数と本指標の実態差異判別式の解の符号を比べた結果を下図に示します。
下図横軸は、本指標がCB消費者信頼感指数よりも何か月先行/遅行したか、を表しています。
下図縦軸は、両指標の実態差異判別式の解の方向一致率です。

さて、上図で灰線よりも左側が偶然の一致率を表し、灰線より右側が両指標の一致率を表している、と考えても良いでしょう。
結果、灰線より右側で左側の上下動よりも大きくブレている1か月先行と1か月遅行は、CB消費者信頼感指数の示す購買意欲が反映された可能性があります。
よって、単月毎の実態差異判別式の解の符号を見比べる限り、両指標の改善や悪化には前後1か月の連動関係がある可能性、が窺えます。

ところで、後記3.3項の指標一致性分析において、実態差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率は63%しかありません。
よって、もし両指標の改善や悪化に前後1か月の連動関係があったとしても、そのことをアテにして指標発表直前にポジションを取得するのは避けた方が良い、が本項結論です。

(2) ISM非製造業景況指数との対比

ISM非製造業景況指数は、小売業の景況感だけを対象にしている指標ではありません。
けれども、念のため本指標との同期/連動関係を調べておきます。

単月毎のISM非製造業景況指数と本指標の実態差異判別式の解の符号を比べた結果を下図に示します。
下図横軸は、本指標がISM非製造業景況指数よりも何か月先行/遅行したか、を表しています。
下図縦軸は、両指標の実態差異判別式の解の方向一致率です。

さて、本指標がISM非製造業景況指数よりも先行することはあり得ないし、もし一致率が高くても偶然に一致率が高かったと言えます。
上図では、灰線よりも左側が偶然の一致率を表し、灰線より右側が両指標の一致率を表している、と考えられます。
結果、灰線より右側で多少一致率が高いときがあっても、それは灰線より左側の偶然の一致率と同程度しかありません。
よって、単月毎の実態差異判別式の解の符号を見比べる限り、両指標に同期/連動関係は窺えない、が結論です。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項結論の33回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で17pipsで、反応程度は中程度の指標です。
但し、指標発表後の順跳幅の過去最大値は非常に大きく、指標発表時刻を跨いだ取引には注意が必要です。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

2018年以降は極端に本指標への反応が小さくなった結果、利得がそれより前よりも急減しています。
その理由を経済学的や金融政策的に色々と挙げることができるにせよ、そういうこととはちょっと違う理由がある気がします。

つまり、2017年以前は本指標がCPIやPPIとの同時発表が多く、その結果、本指標もまた反応が大きい指標だと考える人が市場に多くいたから、本指標が単独で発表されても反応が大きかった、と仮説します。
ところが、CPIやPPIとの同時発表が極端に減ると、本指標本来のpipsしか反応が起きなくなり、皆がそのことに気がついた、と考えられます。
少なくとも今でさえ個々の指標への反応を、その指標よりも影響力が強い指標を除いて集計・分析する指標解説記事はほとんどありません。
その結果、多くの初心者やアマチュアは本指標の反応を大きめに期待し続けているようです。

3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、各差異判別式の解の符号と4本足各実体部の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、事後差異判別式と指標発表後の反応方向は素直なことがわかります。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に指標方向一致率を求めました。

結果、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が5.6超のとき、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度5%、期待的中率67%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が5.6超のとき、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度5%、期待的中率67%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.8超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度27%、期待的中率81~100%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.8超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度27%、期待的中率67~86%)

です。

3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上右図の直後1分足と直後11分足の関係を除けば相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度の両方を予想することはできません
比較的、相関係数が高い直後1分足と直後11分足の関係についても、近似式の係数は1を割っています。
近似式の係数が1未満ということは、直後1分足の方向を見てから追撃しても、直後11分足で利確できるか確信が持てません。

そこで、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想は捨てて、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図からは、直前10-1分足と直前1分足の方向一致率が低いことと、直後1分足と直後11分足の方向一致率が高いことがわかります。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています
そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎にその後に形成されるローソク足との方向一致率を求めました。

直前10-1分足は、他のローソク足の方向を何ら示唆していないことがわかりました

3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

順跳幅の伸長率は84%ですが、値幅の伸長率は53%です。
指標発表後は初期反応方向を確認次第すぐに追撃開始し、どこで決済するのか悩む結果です。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。

まず順跳幅方向です。

反応を伸ばすか反転するかのどちらかです。
やはり、指標発表後は初期反応方向を確認次第すぐに追撃開始です。

次に値幅方向です。

直後1分足値幅方向に反応を伸ばすか否かは、直後1分足順跳幅の大きさに対し一貫した傾向が見受けられません。
このような場合、直後1分足順跳幅が過去平均順跳幅の平均値超1.5倍以下のとき、直後1分足終値がついた時点でポジションを取得し、直後11分足終値で解消すべきでしょうか(場面発生頻度10%、期待的中率71%)。
そうは思いません。

直後1分足順跳幅が大きくなるほど、あるいは、小さくなるほど、期待的中率が高まるのでなければ信頼できる傾向とは言えない気がします。
この判断は、このデータを読む人しだいです。
ここでは、指標発表後は初期反応方向を確認次第すぐに追撃開始したら、発表から1分を過ぎて直後11分足順跳幅最大値を狙うしかない、が結論です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

以上

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