米国実態指標「鉱工業生産・製造業生産・設備稼働率」発表前後のUSDJPY反応分析(3訂版)

本稿は、米国実態指標「鉱工業生産・製造業生産・設備稼働率」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve)
  • 発表日時:翌月14~17日22:15(冬時間は23:15)
  • 指標内容:米国の鉱業・製造業の生産動向指数

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「鉱工業生産前月比」「製造業生産前月比」「設備稼働率」の3項目
    これら3項目のチャートへの影響力はほぼ同じだが、指標発表直後は鉱工業生産前月比の影響力が強く、少し経つと設備稼働率の影響力が強まる
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) ISM製造業景況指数(総合値のみ)と本指標全体の単月毎の改善や悪化には、同期/連動性を認められない
    (2) WTI原油先物価格と設備稼働率の単月毎の改善や悪化には、同期/連動性を認められない
  • 鉱工業生産前月比と製造業生産前月比は、市場予想を挟んだ上下動が激しい
    その結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が2.4超のとき、過大反動を起こしやすい(69%)
    けれども、本指標では過大反動を見込んでも、指標発表直後の反応方向は予想できない

反応には次の傾向があります。

  • 反応程度の平均値はかなり小さい(直後1分足値幅平均3pips)
    がしかし、反応方向は素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率75%)
    また、直前10-1分足と直後11分足の方向一致率は59%
    本指標にはチャートへの影響力がない、との予断は持たない方が良い(影響力の全くない指標は、発表前後の方向一致率がもう少し高くなりがち)
  • 直前1分足・直後1分足・直後11分足は、方向が示唆される場合がある
    けれども、前述の通り反応が小さい指標なので、方向を当てても欲張らないことが大事
    指標発表後は拙速を避け、直後1分足終値がつくまで追撃を待った方が良い

指標内容について補足します。

FRBに依れば「各指数は実際の生産量を測定して、2012年を基準年とした実質生産物の割合を示す」と説明する一方、「個々の指数は、民間の業界団体や政府機関から得た推定名目生産量(額?)を基にしたり、それができない場合には産業毎の生産労働時間から推定」と説明しています。
ソースデータは、発表時点から2か月目に85%、3か月目に94%、4か月目に95%、5か月目に96%と増えていくため、発表値は暫定値(速報)で、翌月以降の修正が前提の発表です。
がしかし、当然のことながら、指標へのチャートの反応は最新発表値に対してで、5か月前の発表値の修正結果に対してではありません。
統計方法や統計処理の詳細はこちらに記載されています。

鉱業・製造業のGDPへの寄与は約20%です。
ただ、近年はシェールガスの生産がかなり増えており、そのため原油価格の変化を設備稼働率の変化と関連づけた解説が散見されます。
そして、設備稼働率と設備投資額前年比の関係は、設備稼働率が80%程度に達すると設備投資が拡大局面に移る、という経験則が有名です。
こうした断片的な事実や知識に基づき、鉱業生産は設備稼働率への寄与が大きく、設備投資に繋がったりエネルギーの貿易収支改善に繋がって、結果的にGDP改善に寄与する、という話です。
話はわかるものの、単月毎の本指標はそんなことに素直に反応している訳じゃありません。

本指標発表事例にリンクしておきます。
鉱工業生産前月比は「Total index」の項、製造業生産前月比は「Manufacturing」の項、設備稼働率は「Table7」の「Total industry」の項、に記載されています。

1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年11月集計分までの59回分です。
分析対象項目は、鉱工業生産前月比(以下「鉱工業生産」と略記)・製造業生産前月比(以下「製造業生産」と略記)・設備稼働率、とします。

2.1 分析対象

以下、鉱工業生産製造業生産設備稼働率の順に過去推移を示します。
設備稼働率のグラフには、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

どの項目も修正が多く行われています。
分析対象期間の項目毎の修正回数を下表に纏めておきます。

そして、項目毎の統計値を下表に纏めておきます。

なお、標本群はいずれもほぼ正規分布状です。

2.2 指標間影響力比較分析

本指標の指標間影響力比較分析は行いません。
発表時刻が中途半端なせいで、同時発表指標はありません。
よって、以下の分析対象回数も59回となります。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は、鉱工業生産製造業生産設備稼働率、でした。

過去59回の事例について、各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

個々の項目毎では、あまり一致率が高くありません。
そこで、次のように各差異判別式を立式します。

  • 差異判別式=A✕鉱工業生産の差異+B✕製造業生産の差異+C✕設備稼働率の差異
    但し、
    事前差異=市場予想ー前回結果
    事後差異=発表結果ー市場予想
    実態差異=発表結果ー修正結果

上式において、各差異判別式の係数と、各差異判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

各差異と各ローソク足の方向一致率が高くなりました。

2.4 指標予想分析
2.4.1 移動平均線分析

本分析は、設備稼働率の推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は40~53%です。
仮説は否定されたものの、結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は42回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、前月の実態差異判別式の解が2.4超3.2以下のとき、過大反動が起こしがちなことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
但し、前月の実態差異判別式の解がどうあれ、直後1分足値幅方向はどちらになるかわかりません(上表「仮説一致率」参照)。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が56回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.3 同期/連動指標分析
(1) ISM製造業景況指数との対比

単月毎のISM製造業景況指数(総合値のみ)と本指標(全体)の実態差異判別式の解の符号を比べた結果を下図に示します。
下図横軸は、本指標がISM製造業景況指数よりも何か月先行/遅行したか、を表しています。
下図縦軸は、両指標の実態差異判別式の解の方向一致率です。

さて、本指標がISM製造業景況指数よりも先行することはあり得ないし、もし一致率が高くても偶然に一致率が高かったと言えます。
上図では、灰線よりも左側が偶然の一致率を表し、灰線より右側が両指標の一致率を表している、と考えられます。
結果、灰線より右側で多少一致率が高いときがあっても、それは灰線より左側の偶然の一致率と同程度しかありません。
よって、単月毎の実態差異判別式の解の符号を見比べる限り、両指標に同期/連動関係は窺えない、が結論です。

(2) WTI原油先物価格との対比

単月毎のWTI原油先物価格と本指標設備稼働率の実態差異判別式の解の符号を比べた結果を下図に示します。
下図横軸は、本指標が何か月先行/遅行したか、を表し、縦軸は、両指標の実態差異判別式の解の方向一致率です。

原油先物価格と設備稼働率の上昇や下降は、どちらが原因でどちらが結果かわかりません。
ただ、上図を見る限りでは、両者に強い相関は窺えません。
よって、単月毎の実態差異判別式の解の符号を見比べる限り、両指標に同期/連動関係に基づく取引はできない、が結論です。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項記載の59回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で僅か5pipsで、反応程度は小さい指標です。

平均的には、直後11分足値幅が直後1分足順跳幅と同値となっています。
このことは、指標発表後の追撃をしやすいことを示唆しています。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で2.5pipsです。
但し、毎年の平均では1.4~3.6pipsと大きくばらついており、事後差異判別式の解から直後1分足値幅を的確に予想することは難しいことがわかります。

3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、各差異判別式の解の符号と4本足各実体部の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、事後差異判別式や実態差異判別式の解の符号と、指標発表後の反応方向は素直なことがわかります。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に指標方向一致率を求めました。

結果、

  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.2超で、その解の符号との方向一致率が高まります(場面発生頻度39%、期待的中率72~100%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.2超で、その解の符号との方向不一致率が高まります(場面発生頻度39%、期待的中率77~83%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が4.4超で、その解の符号との方向不一致率が高まります(場面発生頻度10%、期待的中率83%)

です。

3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図からは、直後1分足と直後11分足の方向一致率が高いこと以外、取引に有益な情報は見出せません。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています
そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎にその後に形成されるローソク足との方向一致率を求めました。

上図から、

  • 直前1分足は、直前10-1分足が過去平均値の1.5倍超のとき、直前10-1分足と逆方向に反応しがち(場面発生頻度19%、期待的中率88~100%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足が過去平均値の2倍超のとき、直前10-1分足と同方向に反応しがち(場面発生頻度2%、期待的中率100%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足が過去平均値超のとき、直前10-1分足と同方向に反応しがち(場面発生頻度36%、期待的中率71~100%)

が、本分析結論です。

3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

順跳幅は伸長率58%ですが、値幅は47%です。
追撃はほどほどにしなければいけません。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

直後1分足順跳幅がどうあれ、直後1分足終値がつく前に追撃を開始した場合、勝てる見込みが足りません
一方、直後1分足終値がついた時点で追撃を開始するなら、直後1分足順跳幅が過去平均値の1.5倍超のときに限ります


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

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以上

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