米国実態指標「耐久財受注速報値」発表前後のUSDJPY反応分析

Ⅰ. 分析要点
1.1  概要

本指標の意義は、設備投資関連で最も早く発表が行われる点にあります。

がしかし、取引を行う上では、チャートへの影響力持続期間が短い、という特徴があります。
また、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表も多く、本指標自体の発表前後の反応方向を示唆する現象の発生頻度が少なく、取引機会がかなり絞られます。

※1  正式な指標名は「MONTHLY ADVANCE REPORT ON DURABLE GOODS MANUFACTURERS’ SHIPMENTS, INVENTORIES AND ORDERS(耐久財メーカーにおける出荷、在庫、受注に関する月次速報)」。

発表機関
商務省経済分析局※2Bureau of Economic Analysis:BEA
発表日時
翌月下旬21:30(冬時間22:30=NY時間08:30)
発表内容
製造業者約4000社を対象にした耐久財や資本財の受注状況の速報値※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容=「耐久財受注前月比」「輸送機器を除く耐久財受注前月比」「航空機を除く非国防資本財受注前月比」の総合的な対予想乖離
  • 反応程度=かなり小さい(直後1分足値幅の過去平均値5.6pips
  • 反応方向=非常に素直(事後差異の全体判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率84%
  • 伸長特性=発表後1分を過ぎると、チャートがどちらに動くかわからない
補足説明

  • 卸売在庫シカゴ連銀景気指数PCEコアデフレータ(月次)GDP速報値改定値確定値消費者物価指数金融関連との同時発表時には、本指標での取引を止めた方が良い(3.1項参照)
  • 本指標取引にあたって、過大反動を期待すべきではない
  • 本指標取引にあたって、ISM製造業景況指数の新規受注指数の増減を根拠にすべきではない

※2  BEAは、合衆国商務省(U.S. Department of Commerce)の経済統計局(Economics and Statistics Administration:ESA)の1部局。本指標の他にGDP等を集計・公表する。
※3  調査対象は92業種の出荷額5億ドル/年以上の製造業者(約4000社)で、回答回収率は一説によれば約60%とされている。耐久財というのは、通常は耐用年数3年以上の消費財のことを指しており、家具・家電・各種設備・武器・輸送機器(車輌・航空機・船舶など)を指す。資本財というのは、製造・生産に用いる機械・電機・化学設備を指し、本統計の趣旨に鑑み土地・建物等は含まないと推察される。そして、耐久財・資本財はいずれも中間財(その材料・部品・仕掛品など)を含む。回答書式はこちらを参照方。
※4  通例、発表末尾に添付された「Table 1.」から数値を読み取る。同表において見るべきポイントは、最上部に示される「Total(全体)」とその内訳の「Excluding transportation(輸送機器を除く)」と、最下部付近に示される「Nondefense captal goods(非国防資本財)」「Excluding aircaft(航空機を除く)」。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

※5  上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。


Ⅱ. 分析対象

対象は、2015年1月集計分から2020年11月集計分までの

  • 耐久財受注前月比(以下「前月比」と略記)
  • 輸送機器を除く耐久財受注前月比(以下「コア前月比」と略記)
  • 航空機を除く非国防資本財受注前月比(以下「コア資本財」と略記)

の3指数です。

各指数の過去推移を下図に示します。
図の配置は、前月比(左上)・コア前月比(左下)・コア資本財(右)、となっています。

※6  上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。

前月比に比べてコア前月比コア資本財の上下動は小さく、上3図のそれぞれ縦軸の数値にご注意ください。
そして、コロナ禍による急激な落込時期を除くと、どれも発表結果に比べて市場予想の上下動は小さいことがわかります。

次に、対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)、です。

※7  上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表時(3.1項参照)。

2016年以前に比べ、2017年以降の反応は小さくなっています。
いまでは、発表直後の反応が以前の発表前よりも小さくなっています。

次に、上図の各始値基準ローソク足の統計値を示します。

※8  上表では反応分析対象外の月を集計していない。

指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は5.6pipsで、反応程度はかなり小さい指標です。
先述の通り、2017年以降の反応程度は更に小さくなっています

そして、逆跳幅が順跳幅より大きかった1足内反転は、各ローソク足とも年1回起きるか起きないか、といった程度です。
後記4.1項に示す発表直後の反応方向の素直さを踏まえれば、利確/損切への耐力が小さすぎない限り「騙し」を警戒する必要はほぼありません。

分布を見ると、直後1分足値幅は過去平均値以下に70%が集中しています。


Ⅲ. 指標分析

以下の指標分析の対象範囲は下表の通りです。

3指数とも毎回市場予想が行われ、ほぼ毎回結果の修正が行われています。
本指標は改定値が毎月上旬の「製造業受注」発表時に公表され、本指標発表時にも前月・前々月まで遡って修正される場合があります。

以下、3.1項は全発表事例に対して分析を行っています。
3.2項以降は「本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表時」を除いた44事例の分析を行っています。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

結果、本指標はあまりチャートへの影響力が強い指標とは言えません。

卸売在庫シカゴ連銀景気指数PCEコアデフレータ(月次)GDPCPI金融関連の発表時は、本指標での取引を避けた方が良さそうです。
これら指標との同時発表は、対象期間に延べ27回行われています。

3.2  項目間影響力比較分析

対象は、前月比コア前月比コア資本財、でした。

それぞれの判別式は定義通り、

事前差異判別式=市場予想ー前回改定値
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果の改定値か修正値
但し、前回改定値は翌月上旬の「製造業受注」での発表値、前回結果が修正されなかった場合は前回改定値

です。
例えば、前月比の発表結果と市場予想の差は「前月比の事後差異判別式の解」と言います。

このとき、各判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

判別式の解の符号と対応ローソク足の方向一致率は、どの指数も大差ありません。
こうした指標では、各指数の良し悪しやその程度がまちまちだったとき、どの指数が反応方向に影響するのかを見極めることが難しいものです。
そうした場合も想定して各項目のチャートへの影響力を求めるため、これら3指数による全体判別式を次のように立式します。

  • 全体判別式=A✕前月比の差異+B✕コア前月比の差異+C✕コア資本財の差異
    但し、事前差異=市場予想ー前回改定値、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果の改定値か修正値

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

※9  例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、1✕前月比の(発表結果ー市場予想)ー3✕コア前月比の(発表結果ー市場予想)+3✕コア資本財の(発表結果ー市場予想)、となる。そして、上表はこの式の解の符号と直後1分足が過去84%方向一致と読む。

以上の通り、各判別式の係数を上表のように決めると、少なくとも過去の指標発表直後のローソク足方向が説明できます

参考までに、各判別式の解の統計値を下表に示しておきます。

上表から、全体判別式(事後差異)の解は、前回の解+0.4±1.2、の範囲に過去70%弱が収まっています。

3.3  利得分析

分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。

事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は、過去平均で2.1pipsです。
コロナ禍に見舞われた2020年は各判別式の解の絶対値が大きくなった一方、反応程度は以前から減少しています。


Ⅳ. 反応分析

以下の反応分析の対象範囲は下表の通りです。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドットは、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

上図から、事後差異判別式の解の符号と指標発表後の反応方向は素直なことがわかります。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

結果、

  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が12.0超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度10%、期待的中率71%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が12.0超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度10%、期待的中率67%)

です。

4.2  反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドットは、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

反応方向率(上左図)から、直前1分足の陰線率が83%と、かなり偏りが目立ちます。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります
下図は、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を纏めています。

本項分析結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が5.3pips超(過去平均値の1.5倍超)のとき、同値幅と同方向になりがち(場面発生頻度13%、期待的中率71%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足値幅が5.3pips超(過去平均値の1.5倍超)のとき、同値幅と逆方向になりがち(場面発生頻度13%、期待的中率67%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足値幅が1.8pips超(過去平均値の0.5倍超)のとき、同値幅と同方向になりがち(場面発生頻度41%、期待的中率66%)

です。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は79%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

結果、直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは59%、値幅が同方向に伸びたことは57%でした。
これでは追撃すべきか止めるべきかを判断できません。

さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

指標発表直後に初期反応方向へと追撃するにも、直後1分足形成後に逆張りするにも少し心もとない数字です。

4.4  過大反動分析

Ⅱ節の過去指標推移のグラフに示した通り、コロナ禍の時期を除けば、本指標各指数はどれもほぼ一定の市場予想に対し発表結果の上下動が大きくなっています。

こうした指標では、前々月発表結果に比べて前月発表結果の乖離が大きいとき、当月発表結果が逆方向に反動しがちな気がします。
がしかし、指標取引を行う上での問題は反動の有無ではありません。
反動が起きそうなときに市場予想を超えるほど大きな反動(過大反動)が起きるか否か、が問題なのです。

本分析は3.2項に記した全体判別式の解に対して行います。
下表に、前月の実態差異判別式の解の絶対値の大きさ毎に、当月の事後差異判別式の解の過大反動分析を行った結果を示します。

※10  前月発表結果が前々回のそれより大きく乖離したとき、その逆方向に当月発表結果が市場予想を超えて反動を起こす、と仮説し、その通りになっていた場合は「過大反動」と判定。処理は、前月の実態差異判別式の解と当月の事後差異判別式の解の符号が、前月と反転したか否かを判定する。

上表は、前月の発表結果が前々月のそれより大きく乖離しても、当月の発表結果が過大反動を起こすか否かはわからない、という結果を示しています。

次に、前月実態差異判別式の解の絶対値を階層化し、各階層毎に当月の直前10-1分足と直後1分足の反応方向を検証しておきます。

※11  当月の反応方向が前月実態差異判別式の解の符号と逆方向のときが「過大反動が起きたときの方向=仮説一致」。

上表は、前月の発表結果が前々月のそれより大きく乖離しても、当月発表時の取引の参考にならない、という結果を示しています。

結論、本指標が反動を起こしそうに思えても、過大反動に至ることが多い訳ではなく、ゆえにそのことを根拠に取引すべきではない、です。

4.5  同期/連動分析

対比は「本指標全体判別式の解」と「ISM製造業景況指数の新規受注指数(以下「ISM製造業受注指数」と略記)の実態差異判別式の解」とで行います。
なお、本指標の調査対象は耐久財製造業者であるのに対し、ISM製造業景況指数は全米製造業者です。

下図は、両指標の実態差異判別式の解の単月毎の増減一致率です。

上図横軸は「本指標がISM製造受注指数よりも〇か月先行/同期/遅行」と読み、縦軸は「単月毎の増減方向一致率」を表しています。

この図は、39%から60%のジグザグ部分を、偶然の方向一致を含む誤差範囲と読むべきでしょう。
そう読めば、耐久財受注の増減がISM製造業受注指数の増減に影響するにせよ、それを区別して読み取ることはできない、が結論になります。
念のため、ISM製造業受注指数の増減に対し、同月集計分の本指標発表前後の反応方向の一致率を下表に求めておきました。

結論は「本指標取引にあたって、ISM製造業景況指数の新規受注指数の増減を根拠にすべきではない」です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

本稿は、初版と改訂版での成績不振に伴い、いくつか視点を変えて4訂し、現在もより良い取引方針を模索中です。

※12  日付横に*印があるのは、4訂以降の結果。
※13 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

4.0訂(2019年12月11日) 新書式反映
4.1訂(2020年4月17日) 2020年2月集計分までを反映、1.2項表を最新に更新、2.4.3項は分析方法を変更、3.1項に始値基準ローソク足を開示
4.2訂(2021年1月24日) 2020年11月集計分までを反映、過大反動分析、同期/連動分析を追加

以上

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