米国収支指標「貿易収支」発表前後のUSDJPY反応分析(2.1.4訂)

本稿は、米国収支指標「貿易収支」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:商務省経済分析局(BEA:Bureau of Economic Analysis)
  • 発表日時:翌々月第1週21:30(冬時間は22:30)
  • 指標内容:貿易収支の月次推計値

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「貿易収支」のみ
  • 本指標発表直後の反応方向は、市場予想がどうあれ関係なく(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率52%)、貿易収支の改善有無によって決まる(実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率71%)(3.4項参照)
  • 反応程度は非常に小さい(直後1分足値幅の過去平均値1.8pips)(3.1項参照)
  • 本指標のチャートへの影響力は弱く、他の指標と同時発表が行われるときは本指標での取引を控えた方が良い(2.2項参照)
  • 指標発表前後の反応の特徴は次の通り
    (1) 移動平均線分析において本指標が上昇/下降基調に転じて以降は、指標発表直後の反応方向が上昇基調のときショート、下降基調のときロングで取引する方が良い(2.4.1項参照)
    (2) 前月の実態差異判別式の解の絶対値が6.3超のとき、当月は過大反動を起こさないと見込む方が良い(2.4.2項参照)
    (3) 指標発表直後は短期間の追撃に適している(3.5項参照)

指標内容について補足します。

こちらに発表事例をリンクしておきます。
本指標発表値は、上事例が示す通り「季節調整済み貿易収支額」と「前月比」です。

さて、慢性的な貿易赤字が続く米国では、国別収支への関心が高まる時期があります。
けれども、それが指標発表直前直後の反応方向に影響している兆しは見受けられません。
おそらく、その理由は相手国側の対米貿易収支の方が先に発表されることが多いせいだと思われます。
そもそも、米大統領が対中・対NAFTA・対欧・対日圧力発言を行っている時期ならば、その発言直後に既にチャートに織込済となっているのでしょう。

そんなことより、もっと注目すべき特徴が本指標にはあります。
本指標発表直後の反応方向は、他の指標のように、発表結果が市場予想を上回るか否かでは反応方向を説明できないのです。
発表結果が前回結果(多くの場合、前回結果の修正値)を上回るか否かによって、指標発表直後の反応方向が決まりがちです。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ. 指標分析

以下の分析対象項目は「貿易収支」のみです。
指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2020年2月集計分までの62回分です。

本指標は対象期間の発表でほぼ毎回、前月結果が修正されています(修正頻度92%の母数は最終回の未修正を踏まえて61回)。
本指標の修正は翌月発表時に行われます。


2.1 指標分析対象

分析対象範囲の全容を以下にグラフで示しておきます(グラフを最新に都度更新していくことが目的ではありません)。
このグラフには、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

本指標統計値を下表に纏めておきます。

書式に基づき、平均値と標準偏差を記載していますが、あまり意味がありません
むしろ、後記2.3項に示す本指標の判別式の解を統計的に整理しておいた方が参考になります。

データ数が増えるほど、毎月の発表結果の分布形状は正規分布から外れかねませんが、判別式の解の分布は正規分布に近づくことが経験的にわかっています。


2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、本指標が他の指標と同時発表された過去事例の実績に基づき、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を、本指標の反応方向に関わる分析対象から除くために行います
影響力の強さ」は、過去の同時発表時の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率によって判定しています。

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。
なお、指標名の後ろに⇅印がある指標は、数値減少を改善と見なしています。

本指標では、過去の同時発表指標全てと赤太字の判定でした。

上表「その他金融政策関連」では「本指標事後差異と直後1分足」の「方向一致率」が80%にも達しました。
がしかし、相対基準判断により、本指標は「その他金融政策関連」よりもチャートへの影響力は弱い、と判断しました。

ともあれ、本指標より影響力が強い指標との同時発表時に本指標の反応方向を分析しても意味がありません。
そのため、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の63回発表のうち24回の事例となります。


2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は「貿易収支」だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー修正結果(修正が行われなかった場合は前回結果)

です。


2.4 指標予想分析

指標予想分析は、あわよくば指標結果の良し悪しを発表前に予想し、あわよくば発表直後の反応方向を予想するための分析です


2.4.1  移動平均線分析

移動平均線分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさを定量化しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、と判断します。
そして、2つの移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は25~28%で、実績はむしろ仮説を否定し、指標推移上昇中は直後1分足が陰線、下降中は陽線での反応を期待した方が有利でした。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

但し、対象期間62回の発表事例のうち、上表の「翌月から」の「判定回数」は僅か18回しかありません。
これは、2.2項結論に基づき、本指標のチャートへの影響力が弱いことが原因です。
取引可能な場面の発生頻度が少ない理由を下表に纏めておきます。


2.4.2 過大反動分析

過大反動分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを定量化しています

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすという予想がしっくりきます。
けれども、市場予想もこの反動を見込んでいるならば、その反動が市場予想を超えるほど大きくなるかに関心を絞るべきでしょう。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が2.1超6.3以下では過大反動を起こしやすく、8.4超では過大反動を起こしにくい、ことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
けれども、そんなことはどうでも良いのです
前月実態差異判別式の解の絶対値が6.3超のとき、過大反動が起きないと見込んで指標発表直前にポジションを取得しましょう。
「過大反動が起きないと見込む」とは、前月実態差異判別式の解の符号と同方向ということです。
このとき、直後1分足の方向を正しく予想する期待的中率は67%です(上表「仮説一致率」参照)。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

但し、対象期間59回の発表事例のうち、上表の「翌月から」の「判定回数」は僅か19回しかありません。
取引可能な場面の発生頻度が少ない理由を下表に纏めておきます。


2.4.3  同期/連動型指標分析

本指標の同期/連動指標分析は行いません。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項記載の24回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

チャートへの影響力が弱い指標だけに、本指標での取引機会は限られます。
そして、この分析事例の少なさは、以下の反応分析結果の期待的中率の信頼度が低いことを、予めご了解ください。


3.1 反応分析対象

反応分析対象の直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)の各始値基準ローソク足を下図に示します。
下図において歯抜けとなっている月は、2.2項結論により反応分析から除外した月です。
こんな図を眺めても仕方ありませんが、分析対象開示のために示しておきます。

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均で1.8pipsしかなく、反応程度は非常に小さい指標です。


3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。

2017年以降は直後1分足が小さくなり、利得がそれ以前よりも急減しています。

事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で1.0pipsです。
毎年の変化を見ても0.4~3.4pipsでばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。


3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、各差異判別式の解の符号と4本足各実体部の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率は52%しかなく、本指標発表直後の反応方向が市場予想と発表結果の大小関係とほぼ無関係なことがわかります。
けれども、実態差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率は71%となっており、本指標発表直後の反応方向が前回結果(その修正結果)と発表関係の大小関係に依存していることがわかります。
本指標は、反応方向に市場予想なんて関係ない、という珍しい特徴あります。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に指標方向一致率を求めました。

本項分析結論は、

  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.4超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度26%、期待的中率67~75%)

です。


3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図は全て相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度の両方を予想することはできません

そこで、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想は捨てて、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、直前10-1分足の陽線率が高く、直前1分足の陰線率が高いことがわかります。
その結果、直前10-1分足と直前1分足の方向一致率は27%しかありません。
よって、直前10-1分足が陽線なら指標発表1分前にショートで、1・2pipsの利確可能なときか指標発表前までにポジション解消すれば良いでしょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています
そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎にその後に形成されるローソク足との方向一致率を求めました。

本項分析結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が3.4pips以下のとき、それとは逆方向になりがち(場面発生頻度26%、期待的中率71~73%)

です。


3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを定量分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で57%、値幅で48%、でした。
この数字では追撃なんて勧められません

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が2.9pips超(過去平均値超)のとき、直後1分足順跳幅か値幅が確定するのを待って逆張りし、直後11分足終値がつくまでに決済(場面発生頻度19%、期待的中率73%)

です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

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改訂履歴

2.0訂(2020年1月20日) 新書式反映
2.1訂(2020年4月18日) 2020年2月集計分までを反映、1.2項表を最新に更新、2.4.3項は分析方法を変更、3.1項に始値基準ローソク足を開示

以上

 

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