米国収支指標「貿易収支」発表前後のUSDJPY反応分析(改訂版)

本稿は、米国収支指標「貿易収支」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:商務省経済分析局(BEA:Bureau of Economic Analysis)
  • 発表日時:翌々月第1週21:30(冬時間は22:30)
  • 指標内容:貿易収支の月次推計値

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「貿易収支」のみ
    慢性的な貿易赤字が続く米国では、国別収支への関心が高まる時期があるものの、それが指標発表直前直後の反応に影響している兆しは見受けられない
  • 本指標のチャートへの影響力は弱く、他の米国指標と同時発表が行われるときは取引を避けた方がよい
  • 数か月単位の赤字拡大/縮小のトレンドに対し、赤字拡大中は陽線での反応、縮小中は陰線での反応になりがち
    また、過大反動を起こしやすい指標だが、過大反動が見こしたポジションは持たない方が良い
    いずれも定説とは逆の反応方向という点に注意が必要

反応には次の傾向があります。

  • 本指標発表直後の反応方向は、市場予想がどうあれ関係なく(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率50%)、貿易収支の改善有無によって決まる(実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率70%)
  • 反応程度はかなり小さく(直後1分足の過去平均順跳幅3pips、同値幅2pips)、狙いは初期反応方向を見極めてからの追撃に絞られる(直後11分足の過去平均順跳幅8pips、同値幅5pips)
  • 指標発表直前直後の反応程度が小さいとは言え、本指標は無視できない
    なぜなら、直前10-1分足と直後11分足の方向一致率が57%と低いという事実は、指標発表前のトレンドが指標発表後も継続しがちとは言えない

指標内容について補足します。

こちらに発表事例をリンクしておきます。
本指標発表値は、上事例が示す通り「季節調整済み貿易収支額」と「前月比」です。

さて、慢性的な貿易赤字が続く米国では、国別収支への関心が高まる時期があります。
けれども、それが指標発表直前直後の反応方向に影響している兆しは見受けられません。
その理由は、相手国側の対米貿易収支の方が先に発表されることが多いことが挙げられます。
その結果、本指標のチャートへの影響力は弱まり、他の指標と同時発表が行われた場合はなおさら、国別貿易収支による反応を抽出することなんてできません。
よって、米大統領がどれだけ対中・対NAFTA・対欧・対日圧力発言を行っている時期であれ、そのことによるチャートへの影響は本指標発表時には現れません。

そんなことより、もっと注目すべき特徴が本指標にはあります。
本指標発表直後の反応方向は、他の指標のように、発表結果が市場予想を上回るか否かでは反応方向を説明できないのです。
発表結果が前回結果(多くの場合、前回結果の修正値)を上回るか否かによって、指標発表直後の反応方向が決まりがちなのです。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年11月集計分までの59回分です。
そして、対象項目は「貿易収支」のみとします。

2.1 分析対象

以下、指標推移を示します。
グラフには、後記2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

分析対象期間の項目毎の修正回数を下表に纏めておきます。
本指標はほぼ毎月修正が行われており、前回結果だけでなく2か月前に遡って修正が行われることもあります。

次に統計値を下表に纏めておきます。

2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、本指標が他の指標と同時発表された過去事例から、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を、本指標の反応方向に関わる分析対象から除くために行います。
「影響力が強さ」は、過去の同時発表時の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率によって判定します。

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。
本指標では、過去の同時発表指標全てと赤太字の判定でした。

上表「その他金融政策関連」では「本指標事後差異と直後1分足」の「方向一致率」が80%にも達しました。
がしかし、相対基準判断により、本指標は「その他金融政策関連」よりもチャートへの影響力は弱い、と判断しました。

本指標が上記赤太字の指標のどれとも同時発表されていないことは、対象期間の本指標発表59回のうち僅か23回でした。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は「貿易収支」だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー修正結果(修正が行われなかった場合は前回結果)

です。

2.4 指標予想分析
2.4.1  移動平均線分析

移動平均線分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証します。
指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の各移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に直後1分足の反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定します。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は27~30%で、実績はむしろ仮説を否定し、指標推移上昇中は直後1分足が陰線、下降中は陽線での反応を期待した方が有利でした。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

但し、対象期間59回の発表事例のうち、上表の「翌月から」の「判定回数」は僅か17回しかありません。
これは、2.2項結論に基づき、本指標のチャートへの影響力が弱いことが原因です。
取引可能な場面の発生頻度が少ない理由を下表に纏めておきます。

2.4.2 過大反動分析

過大反動分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさ、を検証しています。
例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。

分析結果を下表に示します。

結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が2.1超6.3以下では過大反動を起こしやすく、8.4超では過大反動を起こしにくい、ことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
けれども、そんなことはどうでも良いのです
前月実態差異判別式の解の絶対値が6.3超のとき、過大反動が起きないと見込んで指標発表直前にポジションを取得しましょう。
このとき、直後1分足の方向を正しく予想する期待的中率は67%です(上表「仮説一致率」参照)。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

但し、対象期間59回の発表事例のうち、上表の「翌月から」の「判定回数」は僅か19回しかありません。
取引可能な場面の発生頻度が少ない理由を下表に纏めておきます。

2.4.3 同期/連動指標分析

本指標の同期/連動指標分析は行いません。


Ⅲ.反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項記載の23回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

チャートへの影響力が弱い指標だけに、本指標での取引機会は限られます。
そして、この分析事例の少なさは、以下の反応分析結果の期待的中率の信頼度が低いことを、予めご了解ください。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で3pipsしかなく、反応程度は非常に小さい指標です。
本指標での取引は直後11分足でpipsを稼ぐしかありません。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として、指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

2017年以降は直後1分足が小さくなり、利得がそれ以前よりも急減しています。

3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、各差異判別式の解の符号と4本足各実体部の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、事前差異(市場予想)がどうあれ、各ローソク足がどっちの方向に向かうのか、予想できません。
けれども、直前10-1分足の方向は、66%の期待的中率で事後差異(発表結果と市場予想の大小関係)を予想できています。
但し、66%の期待的中率で事後差異を予想できても、事後差異と直後1分足の方向一致率は50%しかありません。
どちらかと言えば、指標発表前から指標発表直後までのローソク足は、実態差異との方向一致率が高くなっています。

以上のことは、反応方向に市場予想なんて関係ない、ということを意味しており、この点は本指標の特徴です。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に指標方向一致率を求めました。

結果、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.8超のとき、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度15%、期待的中率67%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.4超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度29%、期待的中率88%~100%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が2.8超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度15%、期待的中率67~100%)

です。

3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図は全て相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度の両方を予想することはできません

そこで、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想は捨てて、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、直前10-1分足の陽線率が高く、直前1分足の陰線率が高いことがわかります。
その結果、直前10-1分足と直前1分足の方向一致率は29%しかありません。
よって、直前10-1分足が陽線なら指標発表1分前にショートで、1・2pipsの利確可能なときか指標発表前までにポジション解消すれば良いでしょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています
そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎にその後に形成されるローソク足との方向一致率を求めました。

結果、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅方向がどうあれ、それとは逆方向になりがち(場面発生頻度39%、期待的中率71%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均値を超えれば、それと同方向になりがち(場面発生頻度17%、期待的中率67%)

です。

3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

順跳幅の伸長率は60%、値幅の伸長率が50%で、とても追撃も逆張りもできません。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

直後1分足順跳幅が大きいほど、直後11分足は順跳幅・値幅ともに直後1分足より反応を伸ばしがちです。
但し、値幅については、直後1分足終値から直後11分足終値まで安心してポジションを持てるほど期待的中率が高くありません。
結論は、直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直ちに追撃ポジションを取得し、直後11分足順跳幅を狙うべきでしょう。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

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以上

 

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