米国雇用指標「ADP雇用統計」発表前後のUSDJPY反応分析(3訂版)

本稿は、米国雇用指標「ADP雇用統計(The ADP National Employment Report)」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:ADP研究所(ADP Research Institute)
  • 発表日時:労働省労働統計局発表雇用統計の1~2日前の21:15(冬時間22:15)
  • 指標内容:労働省労働統計局発表の雇用統計の非農業部門雇用者数の変化の先行予測

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「非農業”民間”部門雇用者数の変化」のみ
  • 反応程度は小さく(直後1分足値幅の過去平均値8.3pips)、反応方向の素直さもやや低い(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率69%)
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 発表時間が中途半端なため他の指標との同時発表はない
    (2) 本指標の増減方向と、労働省労働統計局発表の雇用統計の非農業部門雇用者数の変化の増減方向の一致率は55%しかない(2.4.3項参照)
  • 指標発表前後の反応には次の傾向が窺える
    (1) 事前差異判別式の解の絶対値が大きくなるほど、指標発表前はその解の符号と同方向に反応しがちで、指標発表後はその解の符号と逆方向に反応しがち(3.3項参照)
    (2) 発表結果と市場予想の移動平均線(各6回)分析は有効(2.4.1項参照)
    (3) 過大反動分析の結果、前月の実態差異判別式の解の絶対値が10超のときは、直後1分足は過大反応を起こさないと見込むと良い(2.4.2 項参照)
    (4) 指標発表直後1分足順跳幅が大きいほど、順跳幅・値幅とも直後1分足より直後11分足の方が反応を伸ばしがち(3.5項参照)

指標内容について補足します。

ADP社(Automatic Data Processing社)は、日本の会社で言えば総務・経理・人事といった管理部門の一部業務を代行や支援するサービスを提供しています。
その子会社(?)のADP研究所は、ADP社の顧客給与計算データに基づき、非農業民間部門雇用者数の変化(以下「NPS(Nonfarm Private Sector)と略記)を月次集計しています。
2020年3月以降の統計処理手法の変更に伴う説明文に記載された最新数値に基づけば、そのデータ数は全米約46万社の2600万人以上にも達し、これは米国民間給与所得者(被雇用者)の約5分の1を占めています。

本指標は、労働省労働統計局(以下「BLS」と略記)発表の雇用統計の非農業部門雇用者数(以下「NFP(Non Farm Payrolls)」と略記)の変化との一致を目指しています。
そのためには、調査対象業界や会社の規模の分布を雇用統計と同じになるように補正する等、本家NFPの変化の計算より複雑なデータ処理さえ行っています。
そもそもADP研究所ではNFPの変化を予想するために本指標を開発したと公言しているので、こうした操作を悪びれる様子がありません。

がしかし、その意図に反して、既に市場では「ADP雇用統計はBLS雇用統計の良し悪しを当てられない」という評価が定着しているように思われます。
だからADP研究所は、2020年3月集計分から統計処理手法をまた一部変更しました(変更は以前から何度も行われています)。
けれども、今後の両者の増減方向一致率も、これまで通りあまり高くないままであることを期待しています。
だって、もし一致率が高まってしまったら、雇用統計の魅力(予想の難しさによる大きな反応)を減じかねません。


参考までに、本指標発表事例をこちらにリンクしておきます。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ. 指標分析

以下の分析対象項目は「非農業民間部門雇用者数の変化(以下「民間雇用者数変化」と略記)」です。
分析対象期間は2015年1月集計分から2020年4月集計分までの64回分です。

ほぼ毎回、翌月発表時に前回結果の修正が行われています。


2.1 指標分析対象

分析対象範囲の全容を以下にグラフで示しておきます(グラフを発表都度最新に更新していくことが目的ではありません)。

2020年3・4月集計分は、コロナ禍の影響で同一目盛上にプロットすると平常時の推移が見えなくなるため、図中に表を設けています。
このグラフには、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

統計値を下表に纏めておきます。
但し、平均値と標準偏差は2020年3・4月集計分を除いて計算しています。

書式に基づき、平均値と標準偏差を記載していますが、本指標ではほとんど意味がありません
むしろ、後記2.3項に示す各判別式の解を統計的に整理しておいた方が参考になります。
但し、これも平均値と標準偏差は2020年3・4月集計分を除いて計算しています。

データ数が増えるほど、判別式の解の分布は正規分布に近づくことが経験的にわかっています。


2.2 指標間影響力比較分析

本指標の指標間影響力比較分析は行いません。
発表時刻が中途半端なせいで、同時発表指標はありません。


2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は「民間雇用者数変化」だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー修正結果(修正が行われなかった場合は前回結果)

です。


2.4 指標予想分析

指標予想分析は、あわよくば指標結果の良し悪しを発表前に予想し、あわよくば発表直後の反応方向を予想するための分析です


2.4.1  移動平均線分析

移動平均線分析では、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさを、過去の実績から定量判定します

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線(各6回)の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、と判定します。
そして、2つの移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向を検証します。
もし指標推移上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線か、指標推移下降中に反応方向が陰線ならば「仮説一致」、その逆に反応していたら「仮説不一致」と判定します。
分析方法論等の詳細説明はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は67~69%で、実績は仮説を支持しています。
すなわち、指標推移上昇中は直後1分足が陽線、下降中は陰線の反応を期待した方が有利です。
結論、本指標は本分析の適合事例です。

但し、分析対象事例64回のうち、上表「翌月から」の「判定回数」は54回となっています。
判定回数が減っている理由を下表に纏めておきます。


2.4.2 過大反動分析

過大反動分析では、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを、過去の実績から定量判定します

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすという予想がしっくりきます。
けれども、市場予想もこの反動を見込んでいるならば、その反動が市場予想を超えるほど大きな反動か否かが問題です。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、指標発表直後の反応方向が過大反動を見込んだ方向と一致していたら「仮説一致」と判定しています。
分析方法論等の詳細説明はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が大きくなると、過大反動が起きにくいことがわかりました(上表「過大反動率」参照)。
そして、前月実態差異判別式の解の絶対値が10.0超のときは、直後1分足は過大反応を起こさないと見込むと良さそうです(上表「仮説一致率」参照)。
「過大反動を起こさないと見込む」とは「前月実態差異判別式の解の符号と同方向に反応すると見込む」ということです。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

なお、分析対象事例64回のうち、上表「全数」の「判定回数」は60回となっています。
判定回数が減っている理由を下表に纏めておきます。


2.4.3  同期/連動型指標分析

労働省労働統計局(以下「BLS」と略記)発表の雇用統計との対比を行います。

紛らわしいので、もう一度、各指標名称を特定しておきましょう。

ADP雇用統計で市場の関心を集めているのは、非農業”民間”部門雇用者数(NPS:Nonfarm Private Sector)の変化で、本稿の分析対象です。
そして、このNPSの変化は、BLSが発表する雇用統計でも発表されています。
でも、BLS雇用統計で市場の関心を集めるのは、NPSの変化ではなく、非農業部門雇用者数(NFP:Non Farm Payrolls)の変化です。

さて、事後差異判別式=発表結果ー市場予想、実態差異判別式=発表結果ー前回結果の修正値、でした。
下表をご覧ください。
下表は、ADPのNPS変化(ADP’s NPS)とBLSのNPS変化(BLS’s NPS)とBLSのNFP変化(BLS’s NFP)の事後差異と実態差異の判別式の解の符号一致率を整理しています。

上表において方向一致率が高いのは、BLSが同時発表しているNPS変化とNFP変化の事後差異判別式の解の符号だけです。
肝心のADPのNPS変化との方向一致率は、事後差異判別式の解の符号であれ実態差異判別式の解の符号であれ、BLSのNPS変化ともNFP変化とも方向一致率が高くありません

よって、市場における定評通り、ADP雇用統計の良し悪しを根拠に、BLS雇用統計のNFPの良し悪しを予想すべきではありません

念のため、本指標の事後差異と実態差異判別式の解の符号と、BLS発表時のローソク足方向の一致率も纏めておきます。
本指標結果がどうあれ、BLS発表雇用統計への反応方向とはまるで関係ありません。

なお、上表集計にあたって、BLS発表時の直前10-1分足の方向一致率の判定回数は、直前10-1分足値幅が0だった2事例を除き、62回です。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は64回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2015年1月発表分(2014年12月集計分)は、分析対象期間外のため、2015年の対象数は11回です。
また、2020年発表分は、2020年4月集計分までの集計です。


3.1 反応分析対象

反応分析対象の直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)の各始値基準ローソク足を、分析対象開示のために示しておきます。

直前1分足(左下)の図をご覧ください。
2018年からは反応が明らかに小さくなっています。
そのつもりで見てみると、他のローソク足にもこうした現象が生じているように見えます。

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

そして、2017年以前発表時と2018年以降発表時の順跳幅と値幅の平均値を対比しておきます。

やはり、2018年以降は直前1分足だけでなく、他のローソク足も小さくなっていました。

ともあれ、指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅が平均8.3pipsしかなく、反応程度が小さい指標です。


3.2 利得分析

利得分析は、各判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。
但し、2020年3・4月集計分は除いて集計しています。

分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。

事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で2.5pipsです。
但し、毎年の変化を見ると0.9~6.8pipsとばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。
この図から、本指標のチャートへの影響力は毎年低下していることがわかります。


3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
但し、この図は2020年3・4月集計分は除いてプロットしています。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、各差異判別式の解の符号と4本足各実体部の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

上図から、事後差異判別式の解の符号と直後1分足は方向一致率が高く、素直に反応する指標だということがわかります。
がしかし、多くの他の指標とは異なり、実態差異判別式の解の符号と直後11分足の方が方向一致率が高くなっています

この特徴は、本指標の1・2日後に発表される労働省発表雇用統計のNFPの良し悪しを意識してのこと、と推察されます。
但し、多くの指標解説記事で紹介されている通り、本指標結果の良し悪しとNFPの良し悪しは過去の一致率が低いことが知られています。
それでも両指標の関係を踏まえて、本指標結果を無視できないからでしょう。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。

上図から、事前差異判別式の解の絶対値が大きくなるほど、指標発表前はその解の符号と同方向に反応しがちで、指標発表後はその解の符号と逆方向に反応しがち、という傾向が見受けられます。
その原因は、市場予想の前回結果との乖離が大きいときほど、多くの参加者が指標発表前に取引を終えて、指標発表後には反対売買(事実売りや事実買い)に転じているため、と推察されます。

結論、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.8超ならば、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度16%、期待的中率70%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.7超ならば、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度59%、期待的中率68~80%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が5.1超ならば、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度28%、期待的中率67~80%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.8超ならば、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度16%、期待的中率80%)

です。


3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上左図・上中図は相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
上右図からは、直後1分足から直後11分足の値幅をそこそこ予想できるようです。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想は捨てて、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

直前1分足は陰線率が88%、直後1分足は陽線率が70%、と偏りが目立ち、その結果、直前1分足と直後1分足の方向一致率は32%(不一致率68%)です。
また、直後1分足と直後11分足の方向一致率は80%となっています。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります
分析対象の64回の事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

全体的には、直前10-1分足値幅が大きくても小さくても、それがその後に形成されるローソク足の方向を示唆しているようには見えません

よって、本項分析結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が5.1pips超(過去平均値の2倍超)のとき、それと逆方向になりがち(場面発生頻度14%、期待的中率78%)
  • 上記場面が発生していないときには、直前1分足はショート(場面発生頻度100%、期待的中率88%)
  • 直後1分足は、直前1分足値幅方向が陰線のときにロング(場面発生頻度88%、期待的中率78%以上)

です。


3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを定量分析しています。

3.4項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は80%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
そのわからない点を、過去の傾向から探ります。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは57%、値幅が同方向に伸びたことは52%でした。
この数字では指標発表後の追撃を勧められません。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

指標発表直後1分足順跳幅が大きいほど、順跳幅・値幅とも直後1分足より直後11分足の方が反応を伸ばしがちです。
それがどれだけ大きければ、追撃の信頼度がどれだけ高まるのか、上の2図から読み取れます。

本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が17.7pips超(過去平均値の1.5倍超)に達したら、直ちに追撃開始(場面発生頻度20%、期待的中率75~77%)
  • またそのとき、直後1分足終値がつくのを待って追撃開始(場面発生頻度20%、期待的中率69~75%)

です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・収益・取引時間のいずれも良い成績です。
反応程度が小さい指標の割に良い成績となっているのは、他の指標に比べて1回の発表毎の取引機会が比較的多いためと考えています。


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

改訂履歴

3.0訂(2020年5月14日) 新書式反映、2020年4月集計分までを反映、1.2項表を最新に更新、2.4.3項は分析方法を変更、3.1項に始値基準ローソク足を開示

以上

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