米国物価指標「生産者物価指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3訂版)

本稿は、米国物価指標「生産者物価指数(Producer Price Index:PPI)」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS)
  • 発表日時:翌月15日前後木曜か金曜21:30(冬時間22:30)
  • 指標内容:米国製造業者の出荷時点価格の変化を月次指数化

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「生産者物価指数」と「コア生産者物価指数」の「前月比」と「前年比」で、指標発表後の反応方向への影響力が特に強いのは「生産者物価指数コア前月比」の予想乖離
  • 反応程度はかなり小さい(直後1分足値幅の平均値4.8pips)ものの、反応方向は極めて素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率92%)
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 本指標はチャートへの影響力が強いものの、小売売上高耐久財受注・金融政策関連と同時発表時は、本指標での取引を諦めるべき
    (2) 本指標と輸入物価指数や輸出物価指数の単月毎の上昇/下降に同期性はなく、月ズレした連動性の有無は偶然の一致率との区別できない
    (3) 生産者物価指数コア前月比と消費者物価指数コア前月比の上昇/下降は同期している可能性が高いものの、そのことを根拠に取引することは薦められない
  • 本指標発表前後の反応傾向は次の通り
    (1) 適用できる場面発生頻度こそ低いものの、指標発表直後の反応方向を予想するには移動平均線分析や過大反動分析が有効
    (2) 取引機会は少なく、指標発表後の初期反応方向への追撃も難しい

指標内容について補足します。

生産者物価指数とほぼ同じ指標に卸売物価指数があります。
ざっくり両者の違いは、生産者から顧客に届くまでの輸送費(含輸送業者マージン)を含むか含まないかで、輸送費を含まないのが生産者物価です。
また、消費者物価指数は、生産者物価指数に輸送費と小売業者マージンと補助金と税を加えた価格指数です。

調査対象は、製造段階別(原材料・中間財・完成財)・品目別・産業別に分類された約1万品目です。
我々が目にする指数には、1982年の平均価格を100として算出された完成品の全体指数と、そこから変動が大きい食品とエネルギーを除いたコア指数があり、それぞれの前月比前年比があります。
指標発表後の反応方向には、コア指数(全体指数から食品・エネルギーを除く)の良し悪しの寄与が大きいことがわかっています(2.3項)。

発表事例(ニュースリリースPDF版)をこちらに示します。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ. 指標分析

以下の分析対象項目は「完成財の生産者物価指数コア前月比(以下「コア前月比」と略記)」「完成財の生産者物価指数前月比(以下「前月比」と略記)」「完成財の生産者物価指数コア前年比(以下「コア前年比」と略記)」「完成財の生産者物価指数前年比(以下「前年比」と略記)」とします。

指標分析の対象期間は、2015年1月集計分から2020年1月集計分までの61回分です。

発表結果の修正は翌月に行われるものの、修正されることはあまりありません。


2.1 指標分析対象範囲

分析対象範囲開示のため、以下にコア前月比・前月比・コア前年比・前年比の順に過去推移を示します(指標推移を最新に都度更新することが本稿の目的ではありません)。

コア前月比には、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

後述するようにコア前月比の市場予想と発表結果の差異は、指標発表直後の反応方向に最も強く影響力があるにも関わらず、その市場予想はやる気がないみたいにほぼ一定です。

各指数の統計値を下表に纏めておきます。


2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、本指標が他の指標と同時発表された過去事例から、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を、本指標の反応に関わる分析から除くために行います
影響力の強さ」は、過去の同時発表時の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率によって判定しています。

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。

耐久財受注は本指標よりも影響力が強いと判定しています。
がしかし、両指標の同時発表は過去1回しかないため、今後も継続して注目しているうちに逆転が起きるかも知れません。

さて、本指標より影響力が強い指標との同時発表時の反応を、本指標への反応と見なして分析しても、それは無意味です。
そのため、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の61回発表のうち43回の事例となります。

その43回の直後1分足の始値基準ローソク足を下図に示します。
下図において歯抜けとなっている集計月は、前記赤太字の月ということになります。


2.3 項目間影響力比較分析

項目間影響力比較分析は、ひとつの指標で複数の注目すべき指数(項目)が発表されるとき、各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さと方向を求めます
各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さは、事前差異判別式の解の符号が直前10-1分足と、事後差異判別式の解の符号が直後1分足と、実態差異判別式の解の符号が直後11分足と、方向一致率が高くなるように判別式の各係数を求めます。
判別式の係数の値の大きさと符号が、各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さと見なせます。

さて、本指標の分析対象項目は、前月比・前年比・コア前月比・コア前年比、でした。
まず先に、2.2項結論に基づく43回の事例について、各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

次に、4項目全てを踏まえた各判別式を次のように立式します。

  • 差異判別式=A✕前月比の差異+B✕前年比の差異+C✕コア前月比の差異+D✕コア前年比の差異
    但し、
    事前差異=市場予想ー前回結果
    事後差異=発表結果ー市場予想
    実態差異=発表結果ー前回結果(前回結果の修正が行われれば修正結果)

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表のように各判別式の各項目係数を決めると、指標発表後の反応が素直に記述できることがわかりました。

例えば、後記2.4.3項で用いる実態差異判別式は、

  • ー1✕前月比の実態差異+1✕前年比の実態差異+3✕コア前月比の実態差異+2✕コア前年比の実態差異
    但し、実態差異=発表結果ー前回結果(前回結果の修正が行われれば修正結果)

です。


2.4 指標予想分析

指標予想分析は、あわよくば指標結果の良し悪しを発表前に予想し、あわよくば発表直後の反応方向を予想するための分析です

2.4.1  移動平均線分析

本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、発表結果と市場予想の6回移動平均線がクロスした翌々月の仮説一致率は32%でした。
実績が仮説を肯定するには、一致率がかなり不足しています。
がしかし、一致率が小さ過ぎるため、逆に発表結果と市場予想の6回移動平均線がクロスした翌々月以降は、移動平均線で指標推移が上昇中は直後1分足が陰線、下降中は陽線、になりがちという結果が得られました。
それならそれで取引方針としては有効です。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は34回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。


2.4.2 過大反動分析

過大反動分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証します

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、過大反動の起こしやすさは前月実態差異判別式の絶対値の大きさとは無関係のようです(上表「過大反動率」参照)。
但し、前月の実態差異判別式の解の絶対値がどうあれ、それが0.5超のとき、直後1分足値幅方向は過大反応を起こさないと見込むと良さそうです(上表「仮説一致率」参照)。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が37回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。


2.4.3 同期/連動指標分析

同期/連動指標分析は、分析対象指標と比較対象指標の上下動の一致率が高くなる時差を求め、その一致率が取引の参考たり得るかを判断するために行います。
上下動を調べるため、同期/連動指標分析には、ふたつの指標の実態差異判別式の解の符号の一致率を調べています。

(1) 輸入物価指数前月比の増減に対する生産者物価指数前月比の増減の方向一致率

輸入価格の上昇/下降は生産者仕入価格の上昇/下降に直結し、生産者物価指数の上昇/下降に影響を与える、と考えられます。
そこで、輸入価格指数前月比と生産者物価指数前月比の実態差異判別式の解の符号一致率を調べました。
下図をご覧ください。

上図横軸は、生産者物価指数前月比に対し輸入物価指数前月比が〇か月先行/遅行と読みます。
上図縦軸は、両者の実態差異判別式の解の符号一致率です。

いま、輸入物価指数の変化が生産者物価指数の変化に影響し、その逆は起きない、と断じます。
すると、図中灰色線よりも左側は、生産者物価指数が輸入物価指数よりも先行して増減した、と見なした場合の符号一致率になります。
それでは原因と結果が逆になってしまうため、図中灰色線よりも左側の50%からの距離は、偶然による一致率を表している、と解釈できます。

ならば上図は、輸入物価指数の変化に同期もしくは遅行して生産者物価が起きたと見なせる灰色線より右側は、左側の偶然による一致率50%-35%=15%より大きい35%未満や65%超になった月がない点に注目すべきです。
よって、少なくとも単月毎の増減方向を見る限り、輸入物価指数前月比に対する生産者物価指数前月比は同期/連動関係が認められない、が本項結論です。

(2) 輸出物価指数前月比の増減に対する生産者物価指数前月比の増減の方向一致率

同様に、輸出価格の上昇/下降は生産者出荷価格の上昇/下降に直結し、生産者物価指数の上昇/下降に影響を与える、と考えられます。
そこで、輸出価格指数前月比と生産者物価指数前月比の実態差異判別式の解の符号一致率を調べました。
下図をご覧ください。

上図では、輸出物価指数の変化に同期もしくは遅行して生産者物価が起きたと見なせる灰色線より右側は、左側の偶然による一致率50%-31%=19%より大きい31%未満や69%超になった月がない点に注目すべきです。
よって、少なくとも単月毎の増減方向を見る限り、輸出物価指数前月比に対する生産者物価指数前月比は同期/連動関係が認められない、が本項結論です。

(3) 消費者物価指数コア前月比の増減に対する生産者物価指数コア前月比の増減の方向一致率

詳細は米国物価指標「消費者物価指数(CPI)」発表前後のUSDJPY反応分析の2.4.3 (1)項を参照願います。

結論は、単月毎の増減方向を見る限り、消費者物価指数コア前月比に対する生産者物価指数コア前月比は同期している可能性があるものの、そのことを根拠に取引するのは勧められません


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項記載の43回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2020年発表分は、2020年1月集計分までのカウントとなっています。


3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均で4.8pipsで、反応程度は小さな指標です。
そして、指標発表後のローソク足は順跳幅最大値が平均値に比べてかなり大きく、一足内反転率が小さいことから、チャンスに見えても逆張りは慎重に行うべきです。
分布は、直後11分足値幅が過去平均値の0.5倍以下に49%が集中し、反応が伸びないときは極端に小さい反応となることが見て取れます。


3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips(=Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で3.7pipsです。
但し、毎年の平均では0.3~5.7pipsと大きくばらついており、事後差異判別式の解から直後1分足値幅を的確に予想することは難しいことがわかります。


3.3  指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が小さく、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
2.2項以降、分析対象は43回分の発表でした。
この43回の事例について、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎の解の符号と4本足チャート各ローソク足の方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

以上のことから、本項分析結論は、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が0.9超のとき、その符号と同方向になりがち(場面発生頻度11%、期待的中率71%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が0.9超のとき、その符号と逆方向になりがち(場面発生頻度11%、期待的中率71%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が0.9超のとき、その符号と逆方向になりがち(場面発生頻度11%、期待的中率86%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が0.6超のとき、その符号と逆方向になりがち(場面発生頻度30%、期待的中率69~71%)

です。


3.4  反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上左図と上中図は相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません

一方、上右図は相関係数(R^2値)がそこそこ高くて近似式の係数も1.3あるため、直後1分足値幅を直後11分足値幅は平均3割伸ばすと見込んでも良さそうです。
ところが、pipsは平均3割伸びても、次3.5項に示すように伸びる期待的中率は53%です。
このことは、直後1分足終値がついたら直後1分足値幅方向に追撃を行うことが長期的な期待値を稼ぐ意味で正解でも、毎回発表時取引を繰り返したときの勝率は53%しかない、という点を許容するか判断が分かれるところです。

さて次に、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞ります

直後1分足と直後11分足の方向一致率を除けば、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の方向を示唆しているとは言えません。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります
2.2項以降、分析対象は43回分の発表でした。
この43回の事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎の解の符号と4本足チャート各ローソク足の方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が6.8pips超(過去平均値の1.5倍超)のとき、直前10-1分足値幅と同方向になりがち(場面発生頻度16%、期待的中率86~100%)
  • 直後1分足と直後11分足は、直前10-1分足値幅が9.1pips超(過去平均値の2倍超)のとき、直前10-1分足値幅と同方向になりがち(場面発生頻度5%、期待的中率100%)
  • 直後1分足値幅よりも直後11分足値幅は平均30%伸びる(場面発生頻度70%、期待的中率約50%)

です。


3.5  伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で58%、値幅で53%、でした。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

指標発表直後の順跳幅の大きさがその後の反応の伸びを示唆するのは、直後1分足順跳幅が14.9pips(過去平均値の2倍超)のときだけです。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

以上

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