米国景気指標「ISM非製造業景況指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3.1訂版)
本稿は、米国景気指標「ISM非製造業景況指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
- 発表機関:供給管理協会(Institute for Supply Management)
- 発表日時:毎月第3営業日23:00(冬時間は24:00)
- 指標内容:全米非製造業サプライエグゼクティブによる多岐に亘る項目の対前月変化を総合的に指数化
特徴は次の通りです。
- チャートへの影響力が強い指標のため、金融当局の会見開始時刻と同時発表でない限り、同時発表指標があっても気にする必要がない
- 他の指標との関係は次の通り
(1) 本指標発表前に発表されることが多いサービス業PMI確定値の良し悪しは、本指標結果の良し悪しと関係ない
(2) 前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号に対し、当月の本指標実態差異判別式の解の符号は過去実績で77%が逆になっているが、この符号反転をアテにして取引したときの直後1分足値幅方向の期待的中率は67% - 本指標は、指標推移が上昇中であれ下降中であれ、そのことを根拠した取引は勧められない
また、本指標はいつも過大反動を起こしがちだが、そう見込んだ側に直後1分足が反応しがちと言えるのは、前月の実態差異判別式の解の絶対値が7.2超10.8以下と14.4超のとき(期待的中率68%)
反応には次の傾向があります。
- 反応方向は、指標発表前と発表直後こそ景況指数の良し悪しの寄与が大きいものの、数分後には事業活動指数・新規受注指数の良し悪しの寄与が大きくなる
- 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率83%)で、反応程度の平均値は中程度(直後1分足値幅平均10pips)だが、過去実績の半数近く(45%)は平均の0.5倍以下しか反応していない
- 指標発表後から数分間は追撃に適している
指標内容について補足します。
ISMは、製造業景況指数をPMIと表記し、非製造業景況指数をNMI(Non-Manufacturing ISM Report On Business)と表記しています。
NMIの指数化過程は複雑です。
調査対象は、全米非製造業のサプライエグゼクティブです。
質問項目は多岐に亘り、項目毎に前月に比べて当月の状況を肯定的・否定的・同じの3択で答える形式で行われます。
そして、項目毎に肯定的な回答数に同じという回答の半数を加えて点数化します。
点数は「事業活動」「新規受注」「雇用」「仕入期間(サプライヤー納期)」の4項目の1つか複数に集計され、4項目が別個に点数集計されます。
更に、この4項目の重み付けも変えて集計したのが非製造業指数です。
この過程のどこかで、製造品目の分野毎にGDPへの貢献度に応じて重み付けと、季節調整が行われています。
この非製造業指数が、我々が目にするISM非製造業景況指数のこと(以下「景況指数」と略記)です。
なお、製造業勤務が長かった私には、サプライエグゼクティブという役職に心当たりがありません。
日本の大手企業は事業部制を取り入れているところが多いので、事業部長を兼任する取締役に相当すると思われます。
参考までに、発表事例をこちらにリンクしておきます。
残念ながら、調査票実物は見つけられませんでした。
1.2 分析結論
次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。
注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)。
Ⅱ.指標分析
以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り、2015年1月集計分から2019年10月集計分までの58回分です。
また、対象項目は、景況指数・事業活動指数・新規受注指数、の3つとします。
2.1 分析対象
以下、景況指数・事業活動指数・新規受注指数の順に過去推移を示します。
景況指数は、後記2.2.1項の移動平均線分析のために、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしてあります。
景況指数と事業活動の市場予想は全て揃っていますが、新規受注指数はほぼ毎回市場予想が見つかりません。
上の各グラフ中にも記載がありますが、各指数のボトムとピークの時期を下表に整理しておきます。
最近のトップやボトムは時期が一致していません。
2.2 指標予想分析
2.2.1 移動平均線分析
本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。
指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。
分析結果を下表に示します。
上表「全数」の「判定数」が48回で、対象期間の58回集計分発表より10回も少なくなっています。
これは、対象期間の最初の6回移動平均値が2015年6月集計分発表後なので、最初の6回が判定されていないためです。
そして、2015年7月集計分発表以降、本指標より影響力が強い他の指標(後記2.3項参照)との同時発表が2回、直後1分足値幅が0pipsで方向判定不可だったことが2回あったためです。
仮説一致率は34~35%で、実績が仮説を否定しました。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。
2.2.2 過大反動分析
本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。
例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います
分析結果を下表に示します。
上表「全数」の「判定数」が52回で、対象期間の58回集計分発表より6回少なくなっています。
これは、対象期間外の2014年12月集計分の実態差異が必要な2015年1月集計分の判定を行っていないためです。
そして、同年2月以降に本指標より影響力が強い他の指標(後記2.3項参照)との同時発表が2回、前月実態差異判別式の解が0だったり直後1分足値幅が0pipsで方向判定不可だったことが3回あったためです。
結果、上表記載の通り、本指標は常に過大反動を起こしがちです(上表「過大反動率」参照)。
但し、仮説一致率は前月の実態差異判別式の解の絶対値が7.2超のとき68%です。
結論、本指標は本分析の適合事例です。
2.2.3 同期/連動指標分析
2.2.3 (1) サービス業PMI確定値との対比
本指標と同様に、米国非製造業の景況感を示す指標にサービス業PMIがあります。
PMIには速報値と確定値があり、幸い、確定値の発表も本指標より前です(例外があるかも知れません)。
下図に、ISM非製造業景況指数発表値とサービス業PMI確定値の推移を示します。
全体的には、本指標とサービス業PMI確定値の上昇/下降時期はほぼ一致し、サービス業PMIの方が上下動が小さいように見受けられます。
がしかし、そんなことは毎月の取引の参考にはならないため、それぞれ指標の毎月の実態差異の一致率を調べておきました。
結果は上表の通り52~56%の一致率しかありません。
よって、本項分析結論は、本指標とサービス業PMI確定値は先述のように上昇/下降時期が一致するように見受けられるものの、単月毎の改善/悪化は一致率が高くない、です。
2.2.3 (2) ISM製造業景況指数との対比
ISMは、本指標に先立ち製造業景況指数の発表も行っています。
一般論として「景気の良し悪しを製造業指標は非製造業指標よりも先行示唆する」という話を目にしたことがあると思います。
下図に本指標とISM製造業景況指数の推移と、それぞれの6回移動平均線を示します。
俗説通りに贔屓目に見れば、製造業景況指数は上昇/下降のトレンド転換を少しだけ早く示しているような気もします。
がしかし、そんなことは毎月の取引の参考にはならないため、それぞれ指標の実態差異の一致率を調べておきました。
上表「非製造業」とは本指標のこと、「製造業」とはISM製造業景況指数のこと、です。
上表から、ISM製造業景況指数に対し本指標は1か月遅れて改善/悪化が逆になっています(期待的中率77%)。
「1か月遅れて改善/悪化が逆になっている」という結果は、俗説のように「景気の良し悪しを製造業指標は非製造業指標よりも先行示唆する」ということとは違います。
よって、俗説の根拠は実績を見る限り見出せませんでした。
次に、後記3.3項で「実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率」は81%でした。
ならば、前月のISM製造業景況指数の実態差異の解の符号が当月の本指標発表で反転することをアテにしたとき、直後1分足値幅方向が当たる確率は、77%✕81%+(100%-77%)✕(100%-81%)=67%、です。
これが本項結論です。
2.3 指標間影響力比較分析
下表は、対象期間に本指標と他の指標が同時発表されたときの影響力対比です。
青太字の指標は、本指標よりも影響力が弱い、と見なせます。
赤太字の指標は、本指標よりも影響力が強い、と見なせます。
この結果は、消費に繋がる本指標のチャートへの影響力の強さを示唆しています。
本項分析結論は、
- 本指標発表時には金融政策関連の発表や会見があるときを除いて他の指標を気にする必要がない
- 次項以下の指標発表時の反応に関わる分析では、上記赤字指標との同時発表を除いた56回を対象とすべき
です。
2.4 項目間影響力比較分析
対象項目は、景況指数・事業活動指数・新規受注指数、です。
各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
下表には、本稿分析対象外の雇用指数・価格指数の一致率も参考までに記載しています。
本指標に関しては、雇用指数・価格指数の反応方向への影響力が小さいことがわかります。
そこで次に、次のように各差異判別式を立式します。
- 差異判別式=A✕景況指数の差異+B✕事業活動の差異+C✕新規受注指数の差異
このとき、各差異判別式の係数と、各差異判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
各ローソク足とも、差異判別式の解に対しかなり素直な方向に反応です。
Ⅲ. 反応分析
以下の反応分析の対象は2.3項記載の56回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。
2019年発表分は、2019年10月集計分までのカウントとなっています。
3.1 反応程度過去集計結果
過去の反応程度を一覧しておきます。
指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で13pipsで、反応程度は中程度の指標です。
値幅は、直後11分足を除くと、過去50%近くが平均値の半分以下しかありません。
よって、跳ねたときに利確しなければ、本指標への反応は実質的にかなり小さい、と言えます。
3.2 利得分析
分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。
反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。
事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で1.3pipsです。
指標差異に比べ、反応程度は毎年大きくばらついています。
その結果、反応程度を指標差異で割った利得分析結果も年によってばらつきが大きくなっています。
3.3 指標一致性分析
差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
一見して、事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅方向や、実態差異判別式の解に対する直後11分足値幅方向が一致しがちなことが読み取れます。
ただ、事後差異にせよ実態差異にせよ、判別式の解が±5以内では、判別式の解の符号とローソク足値幅方向が不一致になることが多く、取引を控えた方が良さそうです。
次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。
事後差異判別式の解の符号と直後1分足の値幅方向の一致率が83%、実態差異判別式の解の符号と直後11分足の値幅方向の一致率が87%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。
また、事前差異判別式の解の符号と直前10-1分足値幅方向の一致率も70%に達しています。
さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。
2.3項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度97%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が1.3超だったことは38回(頻度66%)、2.6超だったことは22回(頻度38%)、3.9超だったことは13回(頻度22%)、5.2超だったことは7回(頻度12%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。
それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。
全体的に、事前差異判別式の解が大きくなるほど、その解の符号と各ローソク足値幅の方向一致率が低くなっています。
本項分析結論は、
- 事前差異判別式の解の絶対値が2.6以下のとき、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率67%以上)
- 事前差異判別式の解の絶対値が2.6超のとき、その解の符号と直前1分足値幅方向は逆方向になりがち(期待的中率77%以上)
- 事前差異判別式の解の絶対値が1.3以下のとき、その解の符号と直後1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率67%以上)
- 事前差異判別式の解の絶対値が2.6以下のとき、その解の符号と直後11分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率67%以上)
です。
3.4 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
直後1分足と直後11分足の相関が強く、回帰線の傾きも1をこえています。
上図から反応程度を無視して、反応方向だけを問題にして図示しておきましょう。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています。
2.3項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度97%)のうち、直前10-1分足値幅が過去平均値の0.5倍を超えたことは31回(頻度53%)、過去平均値を超えたことは18回(頻度31%)、過去平均値の1.5倍を超えたことは10回(頻度17%)、過去平均値の2倍を超えたことは5回(頻度9%)、でした。
それぞれの場合において、直前10-1分足との他のローソク足の方向一致率を下図に示します。
全体的には、直前10-1分足値幅が大きくなるほど、直前10-1分足値幅方向と直前1分足値幅方向が逆になりがちで、但し、2倍を超えるとその傾向に反しています。
本項分析の結論は、
- 直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍を超えると、直前10-1分足値幅方向と直前1分足値幅方向が逆になりがち(期待的中率70~80%)
です。
3.5 伸長性分析
下図をご覧ください。
直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で75%、値幅で60%、でした。
本指標は追撃に適しています。
さて、2.3項以降の分析対象56回(頻度97%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは40回(頻度69%)、過去平均を超えたことは22回(頻度38%)、1.5倍を超えたことは11回(頻度19%)、2倍を超えたことは5回(頻度9%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。
まず順跳幅方向です。
直後1分足順跳幅が過去平均値を2倍以下ならば、直後1分足順跳幅を超えて直後11分足順跳幅が反応を伸ばしがちです。
次に値幅方向です。
値幅については、直後1分足順跳幅が大きいほど、直後11分足が反応を伸ばさないことがわかります。
本項分析結論は、
- 直後1分足順跳幅が過去平均値の2倍以下ならば、初期反応方向に直ちに追撃を開始し、指標発表から1分を過ぎたら利確の機会を窺う(期待的中率75~82%)
です。
Ⅳ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。
上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。
関連リンク
以上