米国景気指標「ISM製造業景況指数」発表前後のUSDJPY反応分析(4.1訂版)

本稿は、米国景気指標「ISM製造業景況指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関: 供給管理協会(Institute for Supply Management)
  • 発表日時:翌月第一営業日23:00(冬時間は24:00)
  • 指標内容:全米製造業の事業活動の変化を総合的に月次指数化

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「景況指数」「価格指数」「雇用指数」「新規受注指数」
    指標発表前と直後は景況指数の良し悪しが反応方向に影響するが、発表から少し経つと他の項目の影響が強まる
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 本指標のチャートへの影響力は強く、金融当局の会見開始時刻と同時発表でない限り、他の指標を気にする必要がない
    (2) 本指標が前月発表結果よりも改善するか否かは、同月集計分のNY連銀製造業景気指数のそれと一致しがち
    但し、そのことを根拠にした取引は勧められない
  • 本指標は、指標推移が上昇中であれ下降中であれ、そのことを根拠した取引は勧められない
    また、前月の実態差異判別式の解の絶対値が20.0超のとき、実際には過大反動を起こしがちとは言えないものの、指標発表直後の反応方向は過大反動を起こすと見込んだ方向になりがち

反応には次の傾向があります。

  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率81%)で、反応程度は中程度(直後1分足値幅の過去平均値10pips)
    但し、金融政策転換期には驚くほど大きく反応することがあるので注意が必要
  • 事前差異判別式の解の符号が指標発表前の反応方向を高確率で示唆する場合や、指標発表直後の反応方向を高確率で示唆する場合があるものの、そうした場面の発生頻度は低い
    指標発表後に一方向に反応を伸ばし続けることが多く、追撃に適した指標だと言える

指標内容について補足します。

本指標の指数化過程は複雑です。

調査対象は、全米製造業の購買部門もしくはサプライ部門の幹部です。
質問項目は多岐に亘り、項目毎に前月に比べて当月の状況を肯定的・否定的・同じの3択で答える形式で行われます。
そして、項目毎に「肯定的な回答数」に「同じという回答の半数」を加えて点数化します。
点数は「新規受注」「生産」「雇用」「入荷遅延」「在庫」の5項目の1つか複数に集計され、5項目が別個に点数集計されます。
更に、この5項目の重み付けも変えて集計したのが購買担当者景気指数です。
この過程のどこかで、製造品目の分野毎にGDPへの貢献度に応じて重み付けと、季節調整が行われています。

この購買担当者景気指数が、我々が目にするISM製造業景況指数のこと(以下「景況指数」と略記)です。

複数の項目への回答を重み付けを変えて加算して指数化している点は、NY連銀製造業景気指数Phil連銀製造業景気指数との違いです。
また、本指標の調査への回答は月の大半の期間を通じて集まり、それを翌月月初に間にあうように指数化しています。
「月の大半の期間」という点もまた、月の前半に集めた回答を集計するNY連銀製造業景気指数やPhil連銀製造業景気指数との違いです。

なお、ISMは本指標のレポートを「MANUFACTURING INDEX SUMMARIES」という名称で発行しています。
参考までに、発表事例をこちらにリンクしておきます。
残念ながら、調査票実物は見つけられませんでした。

1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
分析対象項目は「景況指数」「価格指数」「雇用指数」「新規受注指数」の4つとします。

2.1 分析対象

対象期間の分析対象項目の推移を下図に順に示します。

景況指数だけは、後記2.3項記載の通り、反応への影響が強いことがわかっています。
そのため、後記2.4.1項の移動平均線分析のために、景況指数だけは市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

分析対象期間の項目毎の修正回数を下表に纏めておきます。

本指標は対象期間に2回しか前月発表結果が修正されていません(修正頻度4%)。
本指標の修正は翌月発表時に行われます。

そして、項目毎の統計値を下表に纏めておきます。

参考までに、同じ米国製造業景気指標のボトムとトップの時期を下表に纏めておきます。

ボトムやトップの時期は一致していません。

2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、対象期間における本指標と他の指標が同時発表時の実績に基づき、どちらの指標がチャートへの影響力が強かったかを示しています。
影響力の強さ」は、各指標の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率の高さに基づき判定しています。

結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。
なお、指標名の後ろに⇅印がある指標は、数値減少を改善と見なしています。

この結果は、多くの人にとって経験的に受け入れられるでしょう。
金融政策関連の発表があるとき以外は、本指標のチャートへの影響が強いことがわかります。
ここに挙げた例外1回は、FRB議長会見(本指標2018年2月集計分発表時に開始)のときでした。

ともあれ、本指標より影響力が強い指標との同時発表時に本指標の反応方向を分析しても意味がありません。
よって、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の57回発表のうち56回の事例となります。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目は、景況指数価格指数・雇用指数新規受注指数、でした。

2.2項結論に基づく56回の事例について、各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表から、景況指数の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率を除くと、あまり取引の参考にならないことがわかります。
がしかし、景況指数だけを参考にすると、直後1分足以外の方向一致率が低すぎます。

そこで、次のように各差異判別式を立式します。

  • 差異判別式=A✕景況指数の差異+B✕価格指数の差異+C✕雇用指数の差異+D✕新規受注指数の差異

このとき、各差異判別式の係数と、各差異判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

差異判別式を複雑にした分、実態差異判別式の解の符号と直後11分足の方向一致率が高くなりました。

2.4 指標予想分析
2.4.1 移動平均線分析

本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は50~54%で、実績が仮説を肯定するには一致率が不足しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は48回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、前月の実態差異判別式の解がどうあれ、過大反動を起こしにくいことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
但し、前月の実態差異判別式の解の絶対値が20超のとき、過大反動が起きると見込んで指標発表直前にポジションを取得すると、期待的中率(上表「仮説一致率」参照)は70%です。
結論、本指標は本分析の不適有効事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が53回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.3 同期/連動指標分析

米国の製造業の景気指標は、本指標に先立ちNY連銀製造業景気指数Phil連銀製造業景気指数の同月集計分発表が行われます。
下表は、これら3つの指標の実態差異判別式の解の符号一致を調べた結果です。

上表結果から、

  • NY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号は、本指標実態差異判別式の解の符号を示唆しがち(期待的中率67%)
  • Phil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号は、本指標の実態差異判別式の解の符号を示唆しない
  • NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したときは、本指標実態差異判別式の解の符号も一致しがち(期待的中率71%)

という関係があります。

さて、後記3.3項の実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は75%です。
ならば、NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、指標発表直前にその方向にポジションを取得した場合の期待的中率は、71%✕75%+(1-71%)✕(1-75%)=61%、しかありません。

よって、残念ながら本項分析結論は、

  • NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したときは、本指標実態差異判別式の解の符号も一致しがち(期待的中率71%)
  • がしかし、上記関係を取引に利用しても、反応方向は十分な期待的中率には達しない

です。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は、2.2項記載の56回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2015年発表分のうち2014年12月集計分は、対象期間外のためカウントされていません。
2018年発表分のうち2018年2月集計分は、2.2項結論によりカウントされていません。
2019年発表分は、2019年9月集計分までのカウントとなっています。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で14pips、同値幅は過去平均で10pipsで、反応程度は中程度の指標です。

平均的には、直後11分足値幅が直後1分足順跳幅と同じになっています。
このことは、指標発表後に直ちに追撃開始し、直後11分足順跳幅が直後1分足順跳幅を超えて反応を伸ばすのを狙うべき、と示唆しています

また、指標発表後の順跳幅最大値の大きさには目を奪われます
市場環境次第では極端に大きな反応をしかねない点に注意が必要です。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で1.0pipsです。
指標差異は毎年ほぼ安定しているのに比べ、反応程度は大きくばらついています。
その結果、反応程度を指標差異で割った利得分析結果も年によってばらつきが大きくなっています。

ちなみに、FRBの金融政策は、2015年末に利上げを開始し、2017年以降に利上げペースを加速し、2019年に利下げへと転じています。
対象期間において、本指標の利得は金融政策転換前後に大きくなっています。

3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

一見して、事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅方向や、実態差異判別式の解に対する直後11分足値幅方向が一致しがちなことが読み取れます。

ただ、事後差異にせよ実態差異にせよ、判別式の解が±10以内では、判別式の解の符号とローソク足値幅方向が不一致になることが多く、取引を控えた方が良さそうです。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異と実態差異の判別式の解の符号と直後1分足の値幅方向の一致率が各81%・75%と高く、本指標発表直後はかなり素直に反応することがわかります。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.2項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度98%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が2.5超だったことは36回(頻度63%)、5.0超だったことは24回(頻度42%)、7.5超だったことは15回(頻度26%)、10.0超だったことは7回(頻度12%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

本項分析結論は、

  • 事前差異判別式の解の絶対値が10.0超のとき、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率83%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が10.0超のとき、その解の符号と直後1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率83%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が7.5超のとき、その解の符号と直後11分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率71~83%)

です。

3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

直前10-1分足が関わる図(上左・上中)では相関係数(R^2値)が低く、どっちにどれだけ反応するかの相関が予測できません。
また、直後1分足と直後11分足は相関が強く、回帰線の傾きも1をこえています。

上図から反応程度を無視して、反応方向だけを問題にして図示しておきましょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.2項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度98%)のうち、直前10-1分足値幅が過去平均値の0.5倍を超えたことは30回(頻度54%)、過去平均値を超えたことは20回(頻度36%)、過去平均値の1.5倍を超えたことは14回(頻度25%)、過去平均値の2倍を超えたことは7回(頻度13%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

直前10-1分足値幅が過去平均の2倍を超えているときだけは、直前10-1分足値幅方向と直前1分足値幅方向が逆になりがち(期待的中率67%)、です。
がしかし、直前10-1分足値幅が過去平均の2倍を超えることは9%しかなく、直前1分足値幅が3pipsを超えることは7%しかありません。

よって、本項分析の結論は、

  • 直前10-1分足値幅の大小は、その後に形成されるローソク足方向を示唆しない

としておきます。

3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で61%、値幅で57%、でした。
これでは追撃すべきか否か迷います

さて、2.2項以降の分析対象56回(頻度98%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは41回(頻度72%)、過去平均を超えたことは24回(頻度43%)、1.5倍を超えたことは13回(頻度23%)、2倍を超えたことは5回(頻度9%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

直後1分足順跳幅が過去平均値を超えると、直後1分足順跳幅を超えて直後11分足順跳幅が反応を伸ばしがちです。
しかも、この条件を満たすとき、直後1分足と直後11分足は反転したことがありません。

次に値幅方向です。

直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直後1分足値幅を超えて直後11分足値幅が同じ方向に伸びがちです。
しかも、この条件を満たすとき、直後1分足と直後11分足は反転したことがありません。

本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直ちに追撃した場合も直後1分足終値がつくのを待って追撃した場合も、追撃方向は期待的中率74%

です。


Ⅳ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。

4訂後、予め事前方針を開示して事後検証を行った取引は次の通りです。

2019年11月集計分(2019年12月2日24:00発表)


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

以上

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