米国景気指標「ISM製造業景況指数」発表前後のUSDJPY反応分析(4.1訂版)

本稿は、米国景気指標「ISM製造業景況指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関: 供給管理協会(Institute for Supply Management)
  • 発表日時:毎月第一営業日23:00(冬時間は24:00)
  • 指標内容:全米300社を超える製造業幹部による多岐に亘る項目の総合的な対前月事業活動変化を指数化

特徴は次の通りです。

  • 影響力が強く、金融当局の会見開始時刻と同時発表でない限り、同時発表指標があっても気にする必要がない
  • 前月発表の事後差異判別式の解がの絶対値が17.7超だったときは、当月のその解の符号は反転しがち(期待的中率71%以上)
  • 本指標が前月発表結果よりも改善するか否かは、同月集計分のNY連銀製造業景気指数のそれと一致しがち(期待的中率67%)

反応には次の傾向があります。

  • 反応方向は、指標発表直後こそ景況指数の良し悪しだけで決まりがちだが、数分後には価格指数・雇用指数・新規受注指数の良し悪しの影響も無視できなくなる
  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(81%)で、反応程度は中程度(平均10pips)で時期によってばらつきが大きい
  • 平均的な直後1分足値幅は、事後差異判別式の解の大きさ1ips(Index Points)当たり1.0pipsで、FRBの金融政策変更前後には大きくなりがち
  • 指標発表後は、直後1分足順跳幅が過去平均を超えたら追撃すべき

指標内容について補足します。

本指標の指数化過程は複雑です。

調査対象は、全米製造業の購買幹部もしくは供給幹部です。
質問項目は多岐に亘り、項目毎に前月に比べて当月の状況を肯定的・否定的・同じの3択で答える形式で行われます。
そして、項目毎に肯定的な回答数に同じという回答の半数を加えて点数化します。
点数は「新規受注」「生産」「雇用」「入荷遅延」「在庫」の5項目の1つか複数に集計され、5項目が別個に点数集計されます。
更に、この5項目の重み付けも変えて集計したのが購買担当者景気指数です。
この過程のどこかで、製造品目の分野毎にGDPへの貢献度に応じて重み付けと、季節調整が行われています。

この購買担当者景気指数が、我々が目にするISM製造業景況指数のこと(以下「景況指数」と略記)です。

複数の項目への回答を重み付けを変えて加算して指数化している点は、ニューヨーク連銀製造業景気指数フィラデルフィア連銀製造業景気指数との違いです(以下「ニューヨーク」「フィラデルフィア」を「NY」「Phil」と略記)。
また、本指標の調査への回答は月の大半の期間を通じて集まり、それを翌月月初に間にあうように指数化しています。
「月の大半の期間」という点もまた、月の前半に集めた回答を集計するNY連銀製造業景気指数やPhil連銀製造業景気指数との違いです。

なお、ISMは本指標のレポートを「MANUFACTURING INDEX SUMMARIES」という名称で発行しています。
参考までに、発表事例をこちらにリンクしておきます。
残念ながら、調査票実物は見つけられませんでした。

1.2 分析結論

本指標の過去傾向に基づく取引方針は以下の通りです。

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が10.0超のとき、その解の符号と同方向にポジションを取得し、指標発表前1分前までに解消(期待的中率83%)
  • 以下の少なくとも一方の前提を満たすとき、指標発表直前に以下のようにポジションを取得し、指標発表直後の跳ねでポジションを解消
    (1) 事前差異判別式の解の絶対値が10.0を超えているとき、ポジションはその解の符号と同方向(期待的中率83%)
    (2) 前月の事後差異判別式の解の絶対値が17.8超のとき、ポジションはその解の符号の逆方向(期待的中率70%以上)
    (1)(2)が矛盾していた場合、(2)を優先します。
  • 指標発表後は、直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直ちに追撃ポジションを取得し、直後11分足終値がつくまでに解消(期待的中率74%)

以上の取引方針の論拠を以下に示します。


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り、2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
また、対象項目は、景況指数・価格指数・雇用指数・新規受注指数、の4つとします。

2.1 分析対象

以下、景況指数価格指数・雇用指数新規受注指数の順に過去推移を示します。

景況指数だけは対象期間中に2度修正値が発表されています。
また、景況指数だけは、後記2.4項記載の通り反応への影響が強いことがわかっています。
そのため、後記2.2.1項の移動平均線分析のために、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

景況指数と価格指数の市場予想は全て揃っていますが、雇用指数と新規受注指数は市場予想が見つからなかったことがあります。
もっとよく探せば見つかるのかも知れませんが、都度の取引前にパッと見つからない情報は使うのは面倒です。

上の各グラフ中にも記載がありますが、各指数のボトムとピークの時期を下表に整理しておきます。
最初のボトムを形成した時期は4指数ともにほぼ同じですが、トップを形成した時期はずれがあります。

なお、本節での対象期間は2015年1月集計分から2019年9月集計分までです。
次のボトム更新も窺える状況です。

また、同じ米国製造業景気指標のボトムとトップの時期を下表に纏めておきます。

ボトムやトップの時期は一致していません。

2.2 指標予想分析
2.2.1 移動平均線分析

先の景況指数のグラフにおいて、移動平均線は市場予想を赤太線、発表結果を青太線で示しています。
いま、赤太線が上になったら翌月・翌々月・3か月後から直後1分足を陰線と予想し、青太線が上になったら翌月・翌々月・3か月後から直後1分足を陽線と予想した、としましょう。
このとき、翌月・翌々月・3か月後からの予想的中率を下表に纏めておきます。

判定数51回で場面発生頻度が100%となっているのは、6回移動平均線が引けた翌月から判定(最初の6回は判定なし)を行っているためです。

この結果「一致率47~51%」は、どっちに反応するのかわからない、が結論です。

2.2.2 過大反動/過小反動分析

ある月の市場予想と発表結果の乖離が大きかったとします。
その翌月に、市場予想と発表結果の大小関係が逆転していた回数を調べます。
これを、「乖離の大きさ」の客観視のため、事後差異判別式の解の絶対値をランク化して行います。

上表結果から、前月の事後差異判別式の解の絶対値が17.7超のとき、当月は71%以上の期待的中率で、前月の市場予想と発表結果の大小関係が反転していたことがわかります。
一方、後記3.3項の事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は81%です。
前月の事後差異判別式の解の絶対値が17.7超のとき、指標発表直前にポジションを取得して直後1分足値幅方向が当たる期待的中率は、71%✕81%+(100-71%)✕(100-81%)=63%、です。

では次に、前月の事後差異判別式の解の絶対値が17.8超のとき、当月は83%以上の期待的中率で、前月の市場予想と発表結果の大小関係が反転していました。
先の例と同様に計算すると、期待的中率は、83%✕81%+(100-83%)✕(100-81%)=70%、です。

よって、本項分析結論は、

  • 前月の事後差異判別式の解の絶対値が17.8超のとき、指標発表直前にその解の符号の逆方向にポジションを取得(期待的中率70%以上)

です。

2.2.3 同期/連動指標分析

米国の製造業の景気指標は、本指標に先立ちNY連銀製造業景気指数Phil連銀製造業景気指数の同月集計分発表が行われます。
下表は、これら3つの指標の実態差異判別式の解の符号一致を調べた結果です。

上表結果から、

  • NY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号は、本指標実態差異判別式の解の符号を示唆しがち(期待的中率67%)
  • Phil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号は、本指標の実態差異判別式の解の符号を示唆しない
  • NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したときは、本指標実態差異判別式の解の符号も一致しがち(期待的中率71%)

という関係があります。

さて、後記3.3項の実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は75%です。
ならば、NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、指標発表直前にその方向にポジションを取得した場合の期待的中率は、71%✕75%+(1-71%)✕(1-75%)=61%、しかありません。

よって、残念ながら本項分析結論は、

  • NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したときは、本指標実態差異判別式の解の符号も一致しがち(期待的中率71%)
  • がしかし、上記関係を取引に利用しても、反応方向は十分な期待的中率には達しない

です。

2.3 指標間影響力比較分析

下表は、分析対象期間に本指標と他の指標が同時発表されたときの影響力対比です。

青太字の指標は、本指標よりも影響力が弱い、と見なせます。
赤太字の指標は、本指標よりも影響力が強い、と見なせます。

この結果は、多くの人にとって経験的に受け入れられるでしょう。
金融政策関連の発表があるとき以外は、本指標のチャートへの影響が強いことがわかります。
ここに挙げた例外1回は、FRB議長会見(本指標2018年2月集計分発表時に開始)のときでした。

本表から本項分析結論は、

  • 次項以下の指標発表時の反応に関わる分析では、上表赤太字指標との同時発表時を除いた56回を対象とすべき

です。

2.4 項目間影響力比較分析

対象項目は、景況指数価格指数・雇用指数新規受注指数、です。

各項目毎の差異判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表から、景況指数の事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率を除くと、とても取引の参考にならないことがわかります。

そこで、次のように各差異判別式を立式します。

  • 差異判別式=A✕景況指数の差異+B✕価格指数の差異+C✕雇用指数の差異+D✕新規受注指数の差異

このとき、各差異判別式の係数と、各差異判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表印の箇所の一致率を先の各項目毎の一致率の表と対比すると、数字が少し大きくなっています。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は、2.3項記載の56回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2015年発表分のうち2014年12月集計分は、対象期間外のためカウントされていません。
2018年発表分のうち2018年2月集計分は、2.3項結論によりカウントされていません。
2019年発表分は、2019年9月集計分までのカウントとなっています。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足順跳幅は過去平均で14pipsで、反応程度は中程度の指標です。

平均的には、直後11分足値幅が直後1分足順跳幅と同じになっています。
通常、直後1分足と直後11分足の値幅方向は一致率が高いので、このことは指標発表後に直ちに追撃開始すべきことを示唆しています。

また、順跳幅最大値の大きさには目を奪われます。
市場環境次第では爆発的な反応をしかねない点に注意が必要です。

3.2 利得分析

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で1.0pipsです。
指標差異は毎年ほぼ安定しているのに比べ、反応程度は大きくばらついています。
その結果、反応程度を指標差異で割った利得分析結果も年によってばらつきが大きくなっています。

ちなみに、FRBの金融政策は、2015年末に利上げを開始し、2017年以降に利上げペースを加速し、2019年に利下げへと転じています。
対象期間において、本指標の利得は金融政策転換前後に大きくなっています。

3.3 指標一致性分析

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

一見して、事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅方向や、実態差異判別式の解に対する直後11分足値幅方向が一致しがちなことが読み取れます。

ただ、事後差異にせよ実態差異にせよ、判別式の解が±10以内では、判別式の解の符号とローソク足値幅方向が不一致になることが多く、取引を控えた方が良さそうです。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率が各81%・75%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.3項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度98%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が2.5超だったことは36回(頻度63%)、5.0超だったことは24回(頻度42%)、7.5超だったことは15回(頻度26%)、10.0超だったことは7回(頻度12%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

本項分析結論は、

  • 事前差異判別式の解の絶対値が10.0超のとき、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率83%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が10.0超のとき、その解の符号と直後1分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率83%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が7.5超のとき、その解の符号と直後11分足値幅方向は同方向になりがち(期待的中率71~83%)

です。

3.4 反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

直前10-1分足が関わる図(上左・上中)では相関係数(R^2値)が低く、どっちにどれだけ反応するかの相関が予測できません。
また、直後1分足と直後11分足は相関が強く、回帰線の傾きも1をこえています。

上図から反応程度を無視して、反応方向だけを問題にして図示しておきましょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.3項以降、分析対象は56回分の発表でした。
この56回(頻度98%)のうち、直前10-1分足値幅が過去平均値の0.5倍を超えたことは30回(頻度54%)、過去平均値を超えたことは20回(頻度36%)、過去平均値の1.5倍を超えたことは14回(頻度25%)、過去平均値の2倍を超えたことは7回(頻度13%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

直前10-1分足値幅が過去平均の2倍を超えているときだけは、直前10-1分足値幅方向と直前1分足値幅方向が逆になりがち(期待的中率67%)、です。
がしかし、直前10-1分足値幅が過去平均の2倍を超えることは9%しかなく、直前1分足値幅が3pipsを超えることは7%しかありません。

よって、本項分析の結論は、

  • 直前10-1分足値幅の大小は、その後に形成されるローソク足方向を示唆しない

としておきます。

3.5 伸長性分析

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で61%、値幅で57%、でした。
これでは追撃すべきか否か迷います

さて、2.3項以降の分析対象56回(頻度98%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは41回(頻度%)、過去平均を超えたことは24回(頻度43%)、1.5倍を超えたことは13回(頻度23%)、2倍を超えたことは5回(頻度9%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

直後1分足順跳幅が過去平均値を超えると、直後1分足順跳幅を超えて直後11分足順跳幅が反応を伸ばしがちです。
しかも、この条件を満たすとき、直後1分足と直後11分足は反転したことがありません。

次に値幅方向です。

直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直後1分足値幅を超えて直後11分足値幅が同じ方向に伸びがちです。
しかも、この条件を満たすとき、直後1分足と直後11分足は反転したことがありません。

本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均値を超えたら、直ちに追撃した場合も直後1分足終値がつくのを待って追撃した場合も、追撃方向は期待的中率74%

です。


Ⅳ. 取引成績

今回の改訂以前の本指標の分析成績と取引成績を下表に纏めておきます。


関連リンク

➡ 米国指標の目次に移動

以上

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です