米国景気指標「Phil連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3.1訂版)

本稿は、米国景気指標「Phil連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:Phil連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of Philadelphia :Phil連銀はPhillyと呼ばれている模様)
  • 発表日時:当月第3木曜日21:30(冬時間22:30)
  • 指標内容:Phil連銀管轄地区の製造業の事業活動の変化を月次指数化

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「前月に対する事業活動の変化(=Phil連銀製造業景気指数)」のみ
    他の項目が反応方向に影響している兆しは見出せていない
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 本指標は、チャートへの影響力が強い他の指標との同時発表が多いため、取引機会が限られる
    例えば、小売売上高・CPI・PPI・GDP・NY連銀製造業景気指数・建設許可件数・金融政策関連との同時発表時があるとき、本指標の特徴は取引に活かせない
    (2) 単月毎の指標結果の良し悪しは、NY連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数との相関が認められない
    ちなみに、意外だと受け取る人が多いことに、本指標はNY連銀製造業景気指数よりもチャートへの影響力が弱い
  • 指標推移が上昇中であれ下降中であれ、そのことを根拠した取引は勧められない
    また、前月の実態差異判別式の解の絶対値が1.5を超えて4.5以下のとき過大反動を起こしがちだが、そのことを根拠にした取引は勧められない

反応には次の傾向があります。

  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率87%)なものの、反応程度はかなり小さい(直後1分足値幅の平均5pips)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の符号と同方向になりがち
    指標発表直後の反応方向を示唆する兆しの発生頻度は低い
    指標発表後は追撃に適した傾向が窺える

指標内容について補足します。

本指標は、Phil連銀管轄のペンシルバニア州、ニュージャージー州、デラウエア州の製造業経営者による「本業での事業活動が前月に比べて良い/同じ/悪い」の回答を集計し、季節調整後に指数化したものです。

Phil連銀が本指標のために行う調査は、最初に結論にあたる「事業環境(General Business Conditions)」を答え、その後に10の個別項目に答える形式です。
なお、「General Business Conditions」について尋ねたクセに、発表時にはこの項目を「事業活動(General Business Activity)」と表記しています。

最初の結論と10の個別項目のうち9項目で、1か月前と比較した「現在」と6か月後の「見通し」を、「増加・改善」「同じ」「減少・悪い」の3択で回答し、残る1項目は6か月後の見通しのみを3択で回答します。
よって、Phil連銀による質問数は21項目です。

我々が目にするPhil連銀製造業景気指数とは、上記結論であり最初の質問への回答「現在」の「事業活動」のことです。
だから、他の項目の集計結果は、本指標の「内訳」でなく、回答者が結論をそう判断した「論拠・背景」に過ぎません。
他の項目の集計結果がどうあれ、それらは「現在」の「事業活動」の発表値には直接関係ありません

なお、我々にはPhil連銀製造業景気指数という名称が知られていますが、Phil連銀自身はHPで「Manufacturing Business Outlook Survey(製造業概観)」というレポート名で本指標を公表しています。
参考までに、その調査票はこちら、レポートはこちらにリンクしておきます。

本指標は2015年11月以降、発表時刻が24:00から22:30に変更されています(夏時間は23:00から21:30に変更)。
発表時刻変更以前の分析回数が少ないため根拠を示せないものの、以前に比べて本指標の影響力は弱くなったように感じています。

1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り、2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
分析対象項目は「Phil連銀製造業景気指数(先述の「現在」の「事業活動」)」だけを対象とします。

2.1 分析対象

対象期間の分析対象項目の推移を下図に示します。
この図には、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

分析範囲と統計値を下表に纏めておきます。

本指標は対象期間に2回しか前月発表結果が修正されていません(修正頻度4%)。
本指標の修正は翌月発表時に行われます。

書式に基づき、平均値と標準偏差も記載していますが、本指標ではほとんど意味がありません

2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、対象期間における本指標と他の指標が同時発表時の実績に基づき、どちらの指標がチャートへの影響力が強かったかを示しています。
影響力の強さ」は、各指標の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率の高さに基づき判定しています。

結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。
なお、指標名の後ろに⇅印がある指標は、数値減少を改善と見なしています。

本指標は、小売売上高・GDP・NY連銀製造業景気指数・金融政策関連よりチャートへの影響力が弱いことがわかります。

そして、CPIPPIは実績から言えば、本指標よりチャートへの影響力が弱いか同等になっています。
がしかし、相対基準にNY連銀製造業景気指数を採用すると、CPIもPPIもNY連銀製造業景気指数よりチャートへの影響力が強いことがわかっています。
上表から、NY連銀製造業景気指数の影響力は、実績から本指標より強いと判断できます。
そのため、CPIとPPIは本指標より影響力が強いと判断し、上表実績との矛盾はまだ同時発表回数が少ないため、と解釈します。

また、建設許可件数と同時発表が行われたときは、本指標はあまり素直に反応していません。

ともあれ、本指標より影響力が強い指標との同時発表時や、本指標が素直に反応しなかった事例を分析しても意味がありません。
そのため、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の57回発表のうち34回の事例となります。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目はPhil連銀製造業景気指数(現在の事業活動)だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー前回結果(修正が行われた場合は修正結果)

です。

2.4 指標予想分析
2.4.1  移動平均線分析

本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は50~60%で、実績が仮説を肯定するには一致率が不足しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は27回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、仮説一致率は56~63%で、実績が仮説を肯定するには一致率がやや不足しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が30回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.3 同期/連動指標分析

米国の製造業の景気指標には、本指標の他にNY連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数があります。
下表は、これら3つの指標の実態差異判別式の解の符号一致を調べた結果です。

一番上の行をご覧ください。
一番上の行は、NY連銀製造業景気指数とPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解が同じ符号に一致したことが44%しかなかったことを表しています。
同様に、上から6行目は、前月集計分のISM製造業景況指数と当月集計分のPhil連銀製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したことが41%です。
また、一番下の行は、前月集計分のISM製造業景況指数と当月集計分のNY連銀製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致しても、当月集計分のPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号も一致たことは38%しかありません。

本分析の結論は、単月毎の本指標の変化方向を、NY連銀製造業景気指数や前月集計分のISM製造業景況指数の改善/悪化は示唆していない、です。


Ⅲ.反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項記載の34回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2015年11月集計分以降の発表時刻変更に伴い、本指標よりも影響力が強い指標との同時発表されることが増えた結果、2016年からは分析対象数がほぼ半減しました。

2019年発表分は9月分までしか集計していません。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均でたった5pipsしかなく、反応程度は小さい指標です。
なお、本指標への反応をもっと大きく集計している資料がネットには散見されます。
けれども、それは本指標が他の影響力が強い指標と同時発表されたことが多いため、です。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で0.8pipsです。
但し、毎年の平均では0.3~1.2pipsとばらついており、事後差異判別式の解から直後1分足値幅を的確に予想することは難しいことがわかります。

3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)は低く、各差異判別式の解の大きさと反応程度の相関を回帰式で論じるのは難しそうです。
但し、事後差異判別式の解に対し直後1分足値幅は比較的素直に反応しているように見えます。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率が各87%・74%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。

また、実態差異判別式の解の符号と直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率がともに70%を超えており、これは本指標の特徴と言えます(こうした指標は少ない)。

さて、指標発表前に差異判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.2項以降、分析対象は34回分の発表でした。
この34回(頻度60%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が1.5超だったことは24回(頻度42%)、3.0超だったことは14回(頻度25%)、4.5超だったことは11回(頻度19%)、6.0超だったことは2回(頻度4%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

上図から、本項分析結論は、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0を超えているとき、その解の符号と逆方向になりがち(期待的中率67%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率67~75%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0を超えているとき、その解の符号と逆方向になりがち(期待的中率67%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0を超えているとき、その解の符号と同じ方向になりがち(期待的中率67%)

です。

3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上右の直後1分足と直後11分足の関係を除くと相関係数(R^2値)が低く、ローソク足間の反応程度の相関は低いことがわかります。
直後1分足値幅に対し直後11分足値幅は7%程度伸びると期待できます。

次に、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

反応方向率(上左図)から、直前1分足の陰線率が72%と、偏りが目立ちます。
直前1分足の始値基準ローソク足を下図に示しておきます。

上図で歯抜けとなっている月は、本指標よりも影響力の強い指標との同時発表があった月なので、分析対象に含めていません。
陰線率が高いにせよ、以前は陽線側への跳ねも大きかったことがわかります。
これで、直前1分足を毎回ショートで取引するのは、なかなか強い気持ちが必要そうです。

さて次に、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.2項以降、分析対象は34回分の発表でした。
この34回(頻度60%)のうち、直前10-1分足が過去平均値幅の0.5倍を超えたことは19回(頻度33%)、過去平均値幅を超えたことは11回(頻度19%)、1.5倍を超えたことは6回(頻度11%)、2.0倍を超えたことは3回(頻度5%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、その逆方向になりがち(期待的中率67%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均の2.0倍超のとき、それと同じ方向になりがち(期待的中率67%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足値幅が過去平均の2.0倍超のとき、それと同じ方向になりがち(期待的中率67%)

です。

但し、直前1分足は3.1項集計結果に依れば、過去平均pipsが3pipsで、過去50%以上がその平均に届いていません。
また、直後1分足や直後11分足の値幅が過去平均の2倍超だったことは、年1回ぐらいです。

3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で65%、値幅で45%、でした。
両者の差が20%もあり、且つ、値幅が同じ方向に伸びた確率が50%を割っているということは、直後1分足形成中に追撃ポジションを取得し、直後1分足完成後は早めに利確の機会を窺った方が良い(期待的中率65%)こと、を示唆している気がします。
けれども、それは違います。

2.2項以降の分析対象34回(頻度60%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは23回(頻度40%)、過去平均を超えたことは10回(頻度18%)、1.5倍を超えたことは3回(頻度5%)、2倍を超えていたことは2回(頻度4%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

直後1分足順跳幅の大きさに関わらず、指標発表後は直ちに追撃しても良さそうです。

次に値幅方向です。

こちらははっきりと、直後1分足順跳幅が大きいほど、直後1分足値幅より直後11分足値幅が同じ方向に伸びた割合が高くなっています。

よって、本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたら追撃ポジションを取得し、直後11分足終値がつくまでに決済(機体的中率67%以上)
  • 直後1分足順跳幅が過去平均に達したら、直後1分足終値がついた時点で直後1分足値幅方向に追撃ポジションを取得し、直後11分足終値がつくまでに決済(期待的中率70%以上)

です。


Ⅳ. 過去成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

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以上

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