米国景気指標「Phil連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3.1.4訂)

本稿は、米国景気指標「Phil連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概説と分析結論
1.1 指標概説
  • 発表機関:Phil連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of Philadelphia :Phil連銀はPhillyと呼ばれている模様)
  • 発表日時:当月第3木曜日21:30(冬時間22:30)
  • 指標内容:Phil連銀管轄地区の製造業の事業活動の変化を月次指数化

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「前月に対する事業活動の変化(=Phil連銀製造業景気指数)」のみ
  • 指標発表直後の反応程度はかなり小さい(直後1分足値幅の平均値4.5pips)ものの、反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率80%)
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 本指標よりもチャートへの影響力が強い他の指標(小売売上高消費者物価指数生産者物価指数GDPNY連銀製造業景気指数・金融政策関連)との同時発表が多く、それら指標との同時発表時は本指標での取引を避けた方が良い
    (2) 単月毎の指標結果の良し悪しは、NY連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数との相関が認められない
    (3) 2015年11月以降は現在の発表時刻となり、毎回、週次失業保険申請件数との同時発表となっている
  • 指標発表前後の取引機会は限られ、最近は大きく稼ぐことが難しい指標になっている

指標内容について補足します。

本指標は、Phil連銀管轄のペンシルバニア州、ニュージャージー州、デラウエア州の製造業経営者による「本業での事業活動が前月に比べて良い/同じ/悪い」の回答を集計し、季節調整後に指数化したものです。

Phil連銀が本指標のために行う調査は、最初に結論にあたる「事業環境(General Business Conditions)」を答え、その後に10の個別項目に答える形式です。
なお、「General Business Conditions」について尋ねたクセに、発表時にはこの項目を「事業活動(General Business Activity)」と表記しています。

最初の結論と10の個別項目のうち9項目で、1か月前と比較した「現在」と6か月後の「見通し」を、「増加・改善」「同じ」「減少・悪い」の3択で回答し、残る1項目は6か月後の見通しのみを3択で回答します。
よって、Phil連銀による質問数は21項目です。

我々が目にするPhil連銀製造業景気指数とは、上記結論であり最初の質問への回答「現在」の「事業活動」のことです。
だから、他の項目の集計結果は、本指標の「内訳」でなく、回答者が結論をそう判断した「論拠・背景」に過ぎません。
他の項目の集計結果がどうあれ、それらは「現在」の「事業活動」の発表値には直接関係ありません

なお、我々にはPhil連銀製造業景気指数という名称が知られていますが、Phil連銀自身はHPで「Manufacturing Business Outlook Survey(製造業概観)」というレポート名で本指標を公表しています。
参考までに、その調査票はこちら、レポートはこちらにリンクしておきます。

本指標は2015年11月以降、発表時刻が24:00から22:30に変更されています(夏時間は23:00から21:30に変更)。
発表時刻変更以前の分析回数が少ないため根拠を示せないものの、以前に比べて本指標の影響力は弱くなったように感じています。


1.2 分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ. 指標分析

以下の分析対象項目は「Phil連銀製造業景気指数(先述の「現在」の「事業活動」)」です。
指標分析の対象期間は、2015年1月集計分から2020年2月集計分までの62回分です。

本指標は対象期間に3回しか前月発表結果が修正されていません(修正頻度5%)。
本指標の修正は翌月発表時に行われます。


2.1 指標分析対象

分析対象範囲の全容を以下にグラフで示しておきます(グラフを最新に都度更新していくことが目的ではありません)。
このグラフには、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

市場予想()と発表結果や修正結果()のピークやボトムの位置をご覧ください。
市場予想が発表結果を追いかけているように見えます。
市場予想は相応の見識が認められた人たちが行っているにも関わらず、変化を先取りするような予想が難しいことがわかります。

本指標統計値を下表に纏めておきます。

書式に基づき、平均値と標準偏差も記載していますが、あまり意味がありません
むしろ、後記2.3項に示す本指標の判別式の解を統計的に整理しておいた方が参考になります。

例えば、後記2.3項に示す本指標の事後差異判別式

  • 発表結果ー市場予想

です。
データ数が増えるほど、毎月の発表結果の分布形状は正規分布から外れかねませんが、判別式の解の分布は正規分布に近づくことが経験的にわかっています。


2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、本指標が他の指標と同時発表された過去事例から、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を、本指標の反応に関わる分析から除くために行います
影響力の強さ」は、過去の同時発表時の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率によって判定しています。

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
本指標は、2015年11月集計分を境に発表時刻が変更されています。
そのため、過去に同時発表指標された指標が多くなっています。
また、それを境に週次失業保険申請件数の発表と毎回同時に行われるようになりました。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しました。
なお、指標名の後ろに⇅印がある指標は、数値減少を改善と見なしています。

本指標は、小売売上高・GDP・NY連銀製造業景気指数・金融政策関連よりチャートへの影響力が弱いことがわかります。

そして、消費者物価指数生産者物価指数は実績から言えば、本指標よりチャートへの影響力が弱いか同等になっています。
がしかし、NY連銀製造業景気指数相対基準指標に採用すると、消費者物価指数生産者物価指数NY連銀製造業景気指数よりチャートへの影響力が強いことがわかっています。
上表から、NY連銀製造業景気指数の影響力は、実績から本指標より強いと判断できます。
そのため、消費者物価指数生産者物価指数は本指標より影響力が強いと判断し、上表実績との矛盾はまだ同時発表回数が少ないため、と解釈します。

また、現時点で実績同率の耐久財受注を本指標より影響力が弱い、と判定しています。
これは誤りかも知れません。
今後、同時発表が再び行われる機会を待ち、次回改訂時の備忘として記しておきます。

ともあれ、本指標より影響力が強い指標との同時発表時に本指標の反応方向を分析しても意味がありません。
そのため、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の62回発表のうち35回の事例となります。


2.3 項目間影響力比較分析

対象項目はPhil連銀製造業景気指数(現在の事業活動)だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー前回結果(修正が行われた場合は修正結果)

です。


2.4 指標予想分析

指標予想分析は、あわよくば指標結果の良し悪しを発表前に予想し、あわよくば発表直後の反応方向を予想するための分析です


2.4.1  移動平均線分析

移動平均線分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさを定量化しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、と判断します。
そして、2つの移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は39~47%で、実績が仮説を肯定するには一致率が全く足りません。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は34回となっています。
理由要点を下表に整理しておきます。


2.4.2 過大反動分析

過大反動分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを定量化しています

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすという予想がしっくりきます。
けれども、市場予想もこの反動を見込んでいるならば、その反動が市場予想を超えるほど大きくなるかに関心を絞るべきでしょう。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、仮説一致率は48~59%で、実績が仮説を肯定するには一致率が不足しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が37回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。


2.4.3 同期/連動指標分析

同期/連動指標分析は、分析対象指標と比較対象指標の上下動の一致率が高くなる時差を求め、その一致率が取引の参考たり得るかを定量判断するために行います。
上下動を調べるため、同期/連動指標分析には、ふたつの指標の実態差異判別式の解の符号の一致率を調べています。

さて、米国の製造業の主要な景気指標には、本指標の他にNY連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数があります。
これらは同期もしくは連動していると推察されるため、他の指標における同期/連動型指標分析のように数か月も先行/遅行している可能性は排除できます。
下表をご覧ください。

最初の行は、NY連銀製造業景気指数本指標の実態差異判別式の解の符号の一致率を調べています(上表「指標分析」の「方向一致率」参照)。
結果、本指標の実態差異判別式の解の符号は、同月集計分が先に発表されがちなNY連銀製造業景気指数の同符号との一致率が44%しかありません。
そして、実際のNY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号と本指標発表直後1分足の方向一致率を調べると、それは46%でした(上表「反応分析」の「方向一致率」参照)。
これでは取引上の参考になりません。

同様に、前月のISM連銀製造業景気指数当月の本指標の関係を調べてみると、指標分析の方向一致率は44%、反応分析の方向一致率は46%でした。

更に、前月のISM製造業景況指数当月のNY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、その符号と当月の本指標の実態差異判別式の解の符号の一致率は41%でした。
けれども、前月のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号は、当月の本指標発表直後1分足との方向一致率は43%しかありません。

結論、

  • 前月のISM製造業景況指数や当月のNY連銀製造業景気指数の結果がどうあれ、本指標発表直後の反応方向を予想することはできない

です。

なお、上表において「指標分析」と「反応分析」の「判定回数」に違いがあるのは、後者が2.2項結論に基づき反応分析の機会が限られるためです。


Ⅲ. 反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項に挙げた35回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2015年11月集計分以降の発表時刻変更に伴い、本指標よりも影響力が強い指標との同時発表されることが増えた結果、2016年からは分析対象数がほぼ半減しました。
2020年発表分は2月集計分までしか集計していません。


3.1 反応分析対象

反応分析対象の直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)の各始値基準ローソク足を下図に示します。
下図において歯抜けとなっている月は、2.2項結論により反応分析から除外した月です。
こんな図を眺めても仕方ありませんが、分析対象開示のために示しておきます。

多くの主要国主要経済指標が2017年頃から反応が小さくなったものですが、本指標にはそうした様子が見受けられません(直前1分足を除く)。
もともと本指標への反応は小さかったのです。

過去の反応程度とその分布を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均でたった4.5pipsしかなく、反応程度は小さい指標です。
なお、本指標への反応をもっと大きく集計している資料がネットには散見されます。
けれども、それは本指標が他の影響力が強い指標と同時発表されたことが多いため、です。

また、直後1分足の一足内反転率は2%で、順跳幅よりも逆跳幅が大きくなったことはほぼありません。
分布は、各ローソク足の順跳幅・値幅ともに平均値以下に50%以上が集まっており、自然な分布となっています。

指標発表後の直後1分足と直後11分足の順跳幅最大値は、過去平均値の3倍程度です。
珍しく大きく反応することがあっても、深追いは止めておきましょう。


3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で0.7pipsです。
但し、毎年の平均(2020年を除く)では0.5~1.1pipsと大きくばらついており、事後差異判別式の解から直後1分足値幅を的確に予想することは難しいことがわかります。


3.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)は低く、各判別式の解の大きさと反応程度の相関を回帰式で論じるのは難しそうです。
但し、相関係数こそ小さいものの、事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅と、実態差異判別式の解に対する直後11分足は、比較的素直に反応しているように見えます。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率が各80%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
2.2項以降、分析対象は35回分の発表でした。
この35回の事例について、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎の解の符号と4本足チャート各ローソク足の方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

上図から、本項分析結論は、

  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度48%、期待的中率71~76%)

です。


3.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上図から、いずれもローソク足間の反応程度の相関は低いことがわかります。

次に、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

反応方向率(上左図)から、直前1分足の陰線率が75%と、かなり偏りが目立ちます。
がしかし、3.1項に図示した通り、直前1分足は2017年以降に反応程度が小さくなっており、取引には注意が必要です。

さて次に、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています
2.2項以降、分析対象は35回分の発表でした。
それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が3.9pips超(過去平均値超)のとき、その逆方向になりがち(場面発生頻度24%、期待的中率67~70%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足値幅が3.9pips超(過去平均値超)のとき、それと同じ方向になりがち(場面発生頻度24%、期待的中率67~70%)

です。


3.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを定量分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で60%、値幅で48%、でした。
この数字では追撃なんて勧められません

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まず順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

よって、本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が10.5pips超(過去平均値の1.5倍超)に達したら、直ちに追撃ポジションを取得し、指標発表から1分を過ぎたら利確の機会を窺う(場面発生頻度29%、期待的中率67%)

です。


Ⅳ. 過去成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。


関連リンク

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改訂履歴

3.0訂(2019年10月16日) 新書式反映
3.1訂(2020年3月29日) 2020年2月集計分までを反映、1.2項表を最新に更新、2.4.3項は分析方法を変更、3.1項に始値基準ローソク足を開示

以上

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