米国景気指標「ニューヨーク連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3.1訂版)

本稿は、米国景気指標「ニューヨーク連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概要と分析結論
1.1  指標概説
  • 発表機関:ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York:以下「ニューヨーク」を「NY」と略記)
  • 発表日時:毎月15日21:30(冬時間22:30)
  • 指標内容:NY州製造業幹部による前月と比較した当月の事業環境変化を指数化

特徴は次の通りです。

  • 影響力が強い他の指標との同時発表が多いため、本指標の特徴を捉えて取引する機会は毎年ほぼ6回と限られる
  • 本指標はフィラデルフィア連銀製造業景気指数(以下「フィラデルフィア」は「Phil」と略記)よりも影響力が強い
  • 本指標の単月毎の変化の方向は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数やISM製造業景況指数改善/悪化を追従しがち

反応には次の傾向があります。

  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率83%)
  • 反応程度はかなり小さく(直後1分足値幅の平均4pips)、事後差異判別式の解の大きさ1ips(Index Points)当たり直後1分足値幅は平均0.6pips反応
  • 直後1分足順跳幅が大きくなるほど、直後11分足値幅は直後1分足値幅を削りがち

指標内容について補足します。

本指標は、NY連銀管轄下のNY州の約200人の製造業幹部(通常、社長またはCEO)に毎月1日に調査票が送付され、10日過ぎまでの回答約100件に基づきます。
本指標は、その調査回答における「事業環境が前月に比べて良い/同じ/悪い」を集計し、季節調整して指数化したものです。

NY連銀が本指標のために行う調査は、最初に結論にあたる「事業環境(General Business Conditions)」について答え、その後に11の個別項目に答える形式です。

最初の結論と11の個別項目のうち9項目で、1か月前と比較した「現在」と6か月後の「見通し」を、「増加・改善」「同じ」「減少・悪い」の3択で回答し、残る2項目は6か月後の見通しのみを3択で回答します。
よって、NY連銀による質問数は22項目で、それらが本指標の発表項目です。

我々が目にするNY連銀製造業景気指数とは、上記結論であり最初の質問への回答である「現在」の「事業環境」の集計結果だけです。
だから、他の項目の集計結果は、本指標の「内訳」でなく、回答者が結論をそう判断した「論拠・背景」に過ぎません。
他の項目の集計結果がどうあれ、それらの「論拠・背景」は「現在」の「事業環境」の発表値には直接関係ありません

なお、我々にはNY連銀製造業景気指数という名称が知られていますが、NY連銀自身はHPで「Empire State Manufacturing Survey」というレポート名で本指標を公表しています(発表事例こちらにリンクしておきます)。

1.2  分析結論

本指標での過去傾向に基づく取引方針は以下の通りです。

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えているとき、その解の符号と同方向にポジションを取得し、4pips以上利確できるときか指標発表1分前に解消(期待的中率70~86%)
  • 以下の前提を満たすとき、指標発表1分前に以下のようにポジションを取得し、1pips以上利確できるときか指標発表直前に解消
    (1)事前差異判別式の解の絶対値が4.5を超えているとき、その解の符号と逆方向にポジションを取得(期待的中率75~86%)
    (2)直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、その逆方向にポジションを取得(期待的中率67%~75%)
    (1)(2)が矛盾していたときは(2)を優先
  • 以下の前提を満たすとき、指標発表直前に以下のようにポジションを取得し、4pips以上利確できるときか直後1分足完成で解消
    (1)事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解と同方向のポジション(期待的中率71~75%)
    (2)直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍を超えたら、それと同方向のポジション(期待的中率67%~75%)
    (1)(2)が矛盾していたときは(2)を優先
  • 直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら、直後1分足終値がついた時点で逆張りでポジションを取得し、2pips以上利確できるときか直後11分足終値がつくまでに解消(期待的中率67%)
    但し、直後1分足順跳幅が過去平均の2倍を超えたら、直後1分足終値がついた時点での逆張りを延期して、しばらく待ってから逆張りし、直後1分足値幅を削るか直後11分足終値がつくまでに解消

これら取引方針の論拠を以下に示します。


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り、2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
また、対象項目は「NY連銀製造業景気指数(先述の「現在」の「事業環境」)」だけとします。

2.1 分析対象

分析対象(指標グラフ)を下図に示します。
この図には、2.2.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

ちょっと見づらいですが、発表結果(青〇)が見えている月は、修正(青●)が行われた箇所です(修正がなかった月は発表結果が青●で表示されています)。
本指標は対象期間に3回しか前月発表結果が修正されていません(修正頻度5%)。

この期間のボトムは2016年1月集計分の△19.37ips、ピークは2017年10月集計分の+30.20ipsです。
これらのタイミングでは、2015年12月にFRBが利上げに転じ、2017年10月頃から米国2年債金利と10年債金利の差がはっきりと縮小し始めました時期、と一致しています。

2.2 指標予想分析
2.2.1  移動平均線分析

先の指標グラフにおいて、移動平均線は市場予想を赤太線、発表結果を青太線で示しています。
いま、赤太線が上になったら翌月・翌々月・3か月後から直後1分足が陰線と予想し、青太線が上になったら翌月・翌々月・3か月後から直後1分足が陽線と予想した、としましょう。
このとき、翌月・翌々月・3か月後からの予想的中率を下表に纏めておきます。

判定数51回で場面発生頻度が100%となっているのは、6回移動平均線が引けた翌月から判定を行っている(最初の6回は判定なし)ためです。

この結果「一致率35~38%」は、不一致率62~65%と同じです。
つまり、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線より上になった翌月以降に直後1分足が陰線になることが多く、その逆は直後1分足が陽線になることが多いこと、がわかります。

この結果を取引に活かすなら、指標発表直前にポジションを取得する場合でしょう。
けれども、そのタイミングでは、後述するようにもっとアテになる数字が得られます。
よって、この結果は取引方針に採用しない、が本項分析結論です。

2.2.2  過大反動/過小反動分析

ある月の市場予想と発表結果の乖離が大きかったとします。
その翌月に、市場予想と発表結果の大小関係が前月と逆転していた回数を調べます。
これを、「乖離の大きさ」の客観視のため、事後差異判別式の解の絶対値をランク化して行います。

結論、本指標は過大反動や過小反動が起きやすいとも起きにくいとも言えません

2.2.3  同期/連動型指標分析

米国の製造業の景気指標には、本指標の他にPhil連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数があります。
下表は、これら3つの指標の実態差異判別式の解の符号一致を調べた結果です。

下から2行目をご覧ください。
下から2行目は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、当月集計分のNY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解も同じ符号だったことが76%あったことを表しています。

ポイントは、

  • 本指標の実態差異判別式の解の符号は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号と一致しがち
  • 前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、本指標の実態差異判別式の解の符号もそれらに一致しがち

です。

2番目の結論は、最初の結論を補強します。
前月集計分のISM製造業景況指数がどうあれ、最初の結論によって指標の前月からの改善/悪化が予想できます。

さて、後記3.3項では、実態差異判別式の解の符号と指標発表後のローソク足方向の一致率を求めています。
結果、実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は80%です。

よって、

  • 指標発表直前に、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号と同じ方向にポジションを取得し、直後1分足終値がつく頃に解消したときの勝率は、73%✕80%+(100-73%)✕(100-80%)=64%
  • 指標発表直前に、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、それと同じ方向にポジションを取得し、直後1分足終値がつく頃に解消したときの勝率は、76%✕80%+(100-76%)✕(100-80%)=66%

です。

66%という数字は悪くはないものの、後述する他の方法で取引方針を決める場合より勝率があと少し不足、です。

2.3 指標間影響力比較分析

下表は、対象期間に本指標と他の指標が同時発表されたときの影響力対比です。

青太字の指標は、本指標の方が影響力が強い、と見なせます。
赤太字の指標は、本指標の方が影響力が弱い、と見なせます。
対象期間の57回の発表のうち、赤太字の指標のどれかと同時発表されたことは延べ27回ありました。

本項分析結論は、

  • 次項以下の指標発表時の反応に関わる分析では、本指標の影響力が強い30回を対象とすべき

です。

2.4 項目間影響力比較分析

対象項目はNY連銀製造業景気指数(現在の事業環境)だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー修正結果

です。

前述の通り実態差異判別式の「修正結果」は、対象期間において3回しか改定されておらず、その3回を除くと「前回結果」に同じです。


Ⅲ.反応分析

以下の反応分析の対象は2.3項に挙げた30回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2019年発表分は9月分までしか集計されていません。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均でたった4pipsで、反応程度はかなり小さな指標です。
なお、本指標への過去反応をもっと大きく集計している資料がネットには散見されます。
けれども、それは本指標が他の影響力が強い指標と同時発表されたことが多いため、です。

3.2 利得分析

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 毎年ほぼ安定して事後差異判別式の解の大きさ1ips毎に直後1分足値幅は0.6pipsずつ反応

です。

3.3  指標一致性分析

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

一見して、事後差異判別式の解に対し直後1分足値幅が素直な方向に比例的に反応していることが読み取れます。
ただ、事後差異判別式の解が△3~0の間では、判別式の解の符号とローソク足値幅方向が不一致になることが多く、取引を控えた方が良さそうです。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率が各83%・80%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.3項以降、分析対象は30回分の発表でした。
この30回(頻度53%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が1.5超だったことは20回(頻度35%)、3.0超だったことは12回(頻度21%)、4.5超だったことは7回(頻度12%)、6.0超だったことは4回(頻度7%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

上図から、本項分析結論は、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率70~86%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が4.5を超えているとき、その解の符号と逆方向になりがち(期待的中率75~86%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率71~75%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率71~100%)

です。

3.4  反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)は低く、回帰分析ではどれだけ反応するかが予測できません。
けれども、ドット分布を印象で捉えると、回帰線がいずれも右上がりとなっていることは肯定できます。

上図から反応程度を無視して、反応方向だけを問題にして図示しておきましょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.3項以降、分析対象は30回分の発表でした。
この30回(頻度53%)のうち、直前10-1分足が過去平均値幅の0.5倍を超えたことは17回(頻度30%)、過去平均値幅を超えたことは10回(頻度18%)、過去平均値幅の1.5倍を超えたことは6回(頻度11%)、過去平均値の2倍を超えたことは4回(頻度7%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 直前1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、その逆方向になりがち(期待的中率67%~75%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、それと同方向になりがち(期待的中率67~75%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足値幅が過去平均以下のとき、それと同方向になりがち(期待的中率67%~71%)

です。

3.5  伸長性分析

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で53%、値幅で50%、でした。
この数字ではとても追撃なんて勧められません

さて、2.3項以降の分析対象30回(頻度53%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは22回(頻度39%)、過去平均を超えたことは12回(頻度21%)、1.5倍を超えたことは6回(頻度11%)、2.0倍を超えたことは3回(頻度5%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

素直に読めば、直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら逆張りし、2倍を超えたら直ちに追撃を開始、ということになります。

どうするか結論を出す前に値幅方向も見ておきましょう。

直後1分足順跳幅が過去平均の2倍を超えたら、反応を伸ばしたことより戻したことの方が多いようです。

よって、本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら、直後11分足値幅は直後1分足値幅を削りがち(期待的中率67%

です。
注意すべき点は、直後1分足が直後11分足で反転することは少なく、この逆張りは狙うpipsが小さいことです。


Ⅳ. 取引方針の整理
4.1 直前10-1分足

3.3項結論に依り、直前10-1分足での取引方針は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えているとき、その解の符号と同方向にポジションを取得し、指標発表1分前までに解消(期待的中率70~86%)、とします。

参考までに、直前10-1分足は順跳幅平均値が6pips、それ以下しか跳ねなかったことが60%でした。
狙いは4pips程度にしておくと良いでしょう。

4.2 直前1分足

直前1分足は、

  • 3.3項で「事前差異判別式の解の絶対値が4.5を超えているとき、その解の符号と逆方向になりがち(期待的中率75~86%)」
  • 3.4項で「直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、その逆方向になりがち(期待的中率67%~75%)」

の結論を得ています。

がしかし、3.1項を参照すると、直前1分足の過去平均順跳幅は2pips、それ以下しか跳ねなかったことが70%に達しています。
せいぜい狙っても1pips程度になってしまいます。

4.3 指標発表時

直後1分足の方向は、

  • 3.3項で「事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解の符号と直後1分足は同方向になりがち(期待的中率71~75%)」
  • 3.4項で「直前10-1分足値幅が過去平均の1.5倍超のとき、それと同方向になりがち(期待的中率67~75%)」

の結論を得ています。

3.3項結論の方が3.4項結論よりも一致率がやや高くなっています。
がしかし、実チャート重視の原則により、もし両者が矛盾していた場合は3.4項結論を優先します。

参考までに、直後1分足は順跳幅平均値が6pips、それ以下しか跳ねなかったことが60%でした。
せいぜい4pips程度しか狙えません。

4.4 追撃/逆張り方針

直後11分足は、3.5項で「直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら、直後1分足終値がついた時点で逆張りでポジションを取得(期待的中率67%)」の結論を得ています。

注意すべき点は、直後1分足順跳幅が過去平均の2倍を超えたら、直後1分足順跳幅を超えて直後11分足順跳幅が反応を伸ばしがちな点です(期待的中率67%)。
けれども、その場合にも直後1分足値幅を直後11分足値幅は削りがちです(期待的中率67%)。
直後1分足順跳幅が過去平均の2倍を超えた場合は、直後1分足終値での逆張りを止めて、逆張り開始を先延ばしした方が良さそうです。


Ⅴ. 過去成績

今次改訂より前の本指標の分析成績と取引成績を下表に纏めておきます。


関連リンク

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以上

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