米国景気指標「NY連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPY反応分析(3.1訂版)

本稿は、米国景気指標「NY連銀製造業景気指数」発表前後のUSDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。


Ⅰ. 指標概要と分析結論
1.1  指標概説
  • 発表機関:NY連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)
  • 発表日時:当月15日21:30(冬時間22:30)
  • 指標内容:NY州製造業の事業環境の変化を月次指数化

特徴は次の通りです。

  • 注目すべき項目は「前月に対する事業環境の変化(=NY連銀製造業景気指数)」のみ
    他の項目が反応方向に影響している兆しは、以前から一貫してない
  • 他の指標との関係は次の通り
    (1) 本指標は、チャートへの影響力が強い他の指標との同時発表が多いため、取引機会が限られる
    例えば、小売売上高・CPI・PPI・金融政策関連との同時発表時があるとき、本指標の特徴は取引に活かせない
    (2) 本指標の単月毎の改善/悪化方向は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数改善/悪化を追従しがち
    但し、この特徴に基づく取引は勧められない
  • 本指標は、指標推移が上昇中であれ下降中であれ、そのことを根拠した取引は勧められない
    また、前月の実態差異判別式の解の絶対値が8.0以下と16.0超のとき過大反動を起こしがち
    過大反動が見込まれるときは、過大反動を起こすと見込んでも良い

反応には次の傾向があります。

  • 指標発表直後の反応方向はかなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率83%)なものの、反応程度はかなり小さい(直後1分足値幅の平均4pips)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えていれば、指標発表前はその解の符号と同方向に反応しがち
    発表結果は過大反動を起こしがちなので、前月実態差異判別式の解の符号を予め確認しておくこと
    発表後に追撃するなら非常に短時間に留めた方が良い
    その理由は、直後1分足順跳幅が大きくなるほど、直後11分足値幅は直後1分足値幅を削りがちだから

指標内容について補足します。

本指標は、NY連銀管轄下のNY州の約200人の製造業幹部(通常、社長またはCEO)に毎月1日に調査票が送付され、10日過ぎまでの回答約100件と、その後の届く回答に基づくとされ、回答回収率はあまり高くないようです。
本指標は、その調査回答における「事業環境が前月に比べて良い/同じ/悪い」を集計し、季節調整して指数化したものです。

NY連銀が本指標のために行う調査は、最初に結論にあたる「事業環境(General Business Conditions)」について答え、その後に11の個別項目に答える形式です。

最初の結論と11の個別項目のうち9項目で、1か月前と比較した「現在」と6か月後の「見通し」を、「増加・改善」「同じ」「減少・悪い」の3択で回答し、残る2項目は6か月後の見通しのみを3択で回答します。
よって、NY連銀による質問数は22項目で、それらが本指標の発表項目です。

我々が目にするNY連銀製造業景気指数とは、上記結論であり最初の質問への回答である「現在」の「事業環境」の集計結果だけです。
だから、他の項目の集計結果は、本指標の「内訳」でなく、回答者が結論をそう判断した「論拠・背景」に過ぎません。
他の項目の集計結果がどうあれ、それらの「論拠・背景」は「現在」の「事業環境」の発表値には直接関係ありません

なお、我々にはNY連銀製造業景気指数という名称が知られていますが、NY連銀自身はHPで「Empire State Manufacturing Survey」というレポート名で本指標を公表しています(発表事例こちらにリンクしておきます)。

1.2  分析結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します(私見)。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。

注記:期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記の利確や損切のpipsは参考値です(判定対象外)


Ⅱ.指標分析

以下の指標分析の対象期間は、特に断らない限り2015年1月集計分から2019年9月集計分までの57回分です。
分析対象項目は「NY連銀製造業景気指数(先述の「現在」の「事業環境」)」だけとします。

2.1 分析対象

対象期間の分析対象項目の推移を下図に示します。
この図には、2.4.1項の移動平均線分析のため、市場予想と発表結果の移動平均線(6回平均)も重ねてプロットしています。

分析範囲と統計値を下表に纏めておきます。

本指標は対象期間に3回しか前月発表結果が修正されていません(修正頻度5%)。
本指標の修正は翌月発表時に行われます。

書式に基づき、平均値と標準偏差も記載していますが、本指標ではほとんど意味がありません

2.2 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、対象期間における本指標と他の指標が同時発表時の実績に基づき、どちらの指標がチャートへの影響力が強かったかを示しています。
影響力の強さ」は、各指標の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率の高さに基づき判定しています。

結果を下表に一覧します。

指標名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。

本指標は、小売売上高PPI金融政策関連よりチャートへの影響力が弱いことがわかります。
そして、CPIは相対基準PPIよりもチャートへの影響力が強く、そのため本指標より影響力が強いと判断できます。
なお、方向一致率が同率だった四半期非農業部門生産性とは、同時発表回数が少ないため今後も注目していくこととします。

ともあれ、本指標より影響力が強い指標との同時発表時に本指標の反応方向を分析しても意味がありません。
そのため、以降の反応に関わる分析は、上表赤太字指標と同時発表時を含まずに行うことにします。
すると、以降の反応に関わる分析対象は、対象期間の57回発表のうち30回の事例となります。

2.3 項目間影響力比較分析

対象項目はNY連銀製造業景気指数(現在の事業環境)だけなので、項目間影響力比較分析は行いません。

判別式は、

  • 事前差異判別式=市場予想ー前回結果
  • 事後差異判別式=発表結果ー市場予想
  • 実態差異判別式=発表結果ー前回結果(修正が行われた場合は修正結果)

です。

2.4 指標予想分析
2.4.1  移動平均線分析

本分析は、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさ、を検証しています。

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、です。
そして、これら移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向の検証を行っています。
指標推移が上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線、下降中に陰線ならば、「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います。

分析結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は40~44%で、実績が仮説を肯定するには一致率が不足しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表にて「翌月から」の「判定回数」は25回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.2 過大反動分析

本分析は、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを検証しています。

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすと見込むことは自然です。
但し、市場予想もこの反動を見込んでいると考えられるため、市場予想を超えるほど大きな反動を起こすかが、取引上の関心事となります。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、過大反動を見込んだときに指標発表直後に素直な方向に反応したならば「仮説一致」と判定しています。
分析の方法論等の詳細はこちらを参照願います

分析結果を下表に示します。

結果、上表記載の通り、前月の実態差異判別式の解の絶対値が8.0以下のときと16.0を超えたとき、過大反動を起こしがちです(上表「過大反動率」参照)。
そして、過大反動を起こしがちの上記条件を満たすとき、過大反動が起きると見込んで指標発表直前にポジションを取得と、期待的中率(上表「仮説一致率」参照)は67~75%となります。
結論、本指標は本分析の適合事例です。

なお、上表にて「全数」の「判定回数」が30回となっています。
理由要点を下表に示しておきます。

2.4.3  同期/連動型指標分析

米国の製造業の景気指標には、本指標の他にPhil連銀製造業景気指数ISM製造業景況指数があります。
下表は、これら3つの指標の実態差異判別式の解の符号一致を調べた結果です。

下から2行目をご覧ください。
下から2行目は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、当月集計分のNY連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解も同じ符号だったことが76%あったことを表しています。

ポイントは、

  • 本指標の実態差異判別式の解の符号は、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号と一致しがち
  • 前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、本指標の実態差異判別式の解の符号もそれらに一致しがち

です。

2番目の結論は、最初の結論を補強します。
前月集計分のISM製造業景況指数がどうあれ、最初の結論によって指標の前月からの改善/悪化が予想できます。

さて、後記3.3項では、実態差異判別式の解の符号と指標発表後のローソク足方向の一致率を求めています。
結果、実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は80%です。

よって、

  • 指標発表直前に、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数の実態差異判別式の解の符号と同じ方向にポジションを取得し、直後1分足終値がつく頃に解消したときの勝率は、73%✕80%+(100-73%)✕(100-80%)=64%
  • 指標発表直前に、前月集計分のPhil連銀製造業景気指数と前月集計分のISM製造業景況指数の実態差異判別式の解の符号が一致したとき、それと同じ方向にポジションを取得し、直後1分足終値がつく頃に解消したときの勝率は、76%✕80%+(100-76%)✕(100-80%)=66%

です。

66%という数字は悪くはないものの、後述する他の方法で取引方針を決める場合より勝率があと少し不足、です。


Ⅲ.反応分析

以下の反応分析の対象は2.2項に挙げた30回で、毎年の対象数の内訳は下表の通りです。

2019年発表分は9月分までしか集計していません。

3.1 反応程度過去集計結果

過去の反応程度を一覧しておきます。

指標結果に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅は過去平均でたった4pipsで、反応程度はかなり小さな指標です。
なお、本指標への過去反応をもっと大きく集計している資料がネットには散見されます。
けれども、それは本指標が他の影響力が強い指標と同時発表されたことが多いため、です。

3.2 利得分析

利得分析は、差異判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異と反応程度の期間推移を以下に示します。

反応程度を指標差異で割った利得分析の結果を下図に示します。

事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で0.6pipsです。
但し、毎年の平均では0.3~0.7pipsとばらついており、事後差異判別式の解から直後1分足値幅を的確に予想することは難しいことがわかります。

3.3  指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

差異判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

一見して、事後差異判別式の解に対し直後1分足値幅が素直な方向に比例的に反応していることが読み取れます。
ただ、事後差異判別式の解が△3~0の間では、判別式の解の符号とローソク足値幅方向が不一致になることが多く、取引を控えた方が良さそうです。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足各値幅方向の一致率を下図に纏めます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足の値幅方向の一致率が83%、実態差異判別式の解の符号と直後11分足の値幅方向の一致率が80%と高く、本指標発表直後の反応はかなり素直なことがわかります。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません

2.2項以降、分析対象は30回分の発表でした。
この30回(頻度53%)のうち、事前差異判別式の解の絶対値が1.5超だったことは20回(頻度35%)、3.0超だったことは12回(頻度21%)、4.5超だったことは7回(頻度12%)、6.0超だったことは4回(頻度7%)、でした。
「事前差異判別式の解の絶対値」とは、解が+1でも△1でも「大きさが1」と見なすことです。

それぞれの場合において、事前差異と4本足の指標一致性分析を行った結果を下図に示します。

上図から、本項分析結論は、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.5を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率70~86%)
  • 直前1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が4.5を超えているとき、その解の符号と逆方向になりがち(期待的中率75~86%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率71~75%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が3.0を超えているとき、その解の符号と同方向になりがち(期待的中率71~100%)

です。

3.4  反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを、過去の実績から検証しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R^2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
そこで、4本足各実体部同士の方向一致率を下図に求めます。
反応程度の予想を諦め、反応方向だけに分析目的を絞る訳です。

反応方向率(上左図)から、直前1分足の陰線率が77%と、かなり偏りが目立ちます。
実際の直前1分足の始値基準ローソク足を確認しておきましょう。

上図で歯抜けとなっている月は、本指標よりも影響力の強い指標との同時発表があった月なので、分析対象に含めていません。
一見して陰線率が高いことがわかるものの、以前は陽線側への跳ねも大きかったことがわかります。
これで、直前1分足を毎回ショートで取引するのは、なかなか強い気持ちが必要そうです。

さて次に、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しています

2.2項以降、分析対象は30回分の発表でした。
この30回(頻度53%)のうち、直前10-1分足が過去平均値幅の0.5倍を超えたことは17回(頻度30%)、過去平均値幅を超えたことは10回(頻度18%)、過去平均値幅の1.5倍を超えたことは6回(頻度11%)、過去平均値の2倍を超えたことは4回(頻度7%)、でした。

それぞれの場合において、直前10-1分足との方向一致率を下図に示します。

本項分析の結論は、

  • 直前1分足は、過去陰線率が77%と偏りがあり、また、直前10-1分足値幅が過去平均値の1.5倍超のとき、その逆方向になりがち(期待的中率67%~77%)
  • 直後1分足は、直前10-1分足値幅が過去平均値の1.5倍超のとき、それと同方向になりがち(期待的中率67~75%)
  • 直後11分足は、直前10-1分足値幅が過去平均値以下のとき、それと同方向になりがち(期待的中率67%~71%)

です。

3.5  伸長性分析

伸長性分析は、指標発表1分後から反応を伸ばしがちだったか否かを、過去の実績から分析しています。

下図をご覧ください。

直後1分足より直後11分足が同じ方向に伸びていたことは、順跳幅で53%、値幅で50%、でした。
この数字では追撃なんて勧められません

さて、2.2項以降の分析対象30回(頻度53%)のうち、直後1分足順跳幅が過去平均の0.5倍を超えたことは22回(頻度39%)、過去平均を超えたことは12回(頻度21%)、1.5倍を超えたことは6回(頻度11%)、2.0倍を超えたことは3回(頻度5%)、でした。
それぞれの場合において、伸長性分析を行った結果を下図に示します。

まず順跳幅方向です。

素直に読めば、直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら逆張りし、2倍を超えたら直ちに追撃を開始、ということになります。

どうするか結論を出す前に値幅方向も見ておきましょう。

直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら、反応を伸ばしたことより戻したことの方が多いようです。

よって、本項分析結論は、

  • 直後1分足順跳幅が過去平均の1.5倍を超えたら、直後11分足値幅は直後1分足値幅を削りがち(期待的中率67%

です。
注意すべき点は、直後1分足が直後11分足で反転することは少なく、この逆張りは狙うpipsが小さいことです。


Ⅳ. 過去成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、分析成績・勝率・平均取引時間のいずれも悪くありません。

3訂後、予め事前方針を開示して事後検証を行った取引は次の通りです。


関連リンク

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以上

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