A04 スキャルの前提

取引スタイルはポジション保有期間毎に分類されます。けれども、ポジション保有期間毎に必要なスキルや狙いが異なることには言及していない解説も散見されます。でも、FXは自分のお金を自分の責任で投資するのだから、取引スタイルやその狙いをどうするかなんて好きに決めれば良いはずです。ですが、ここは基礎の話です。

指標発表前後に再現性を重視した指標取引を行うためのスタイルがスキャルです。けれども、指標取引に限らず、微益を積み重ねるスキャルでは、スプレッドによる不利を取り返すために最低限目指すべきpipsがあります。この最低限目指すべきpipsは、自分の実力(平均的な勝率)に応じて決まります

A04-1 スキャルの注意点:スキャル取引では最低限狙うべきpipsがある
A04-2  S損益分岐勝率:狙うべきpipsは、取引通貨ペアのスプレッドと実力勝率によって、スプレッドの何倍かが決まる


A04-1  スキャルの注意点

買値(Ask)と売値(Bid)の差をスプレッドといいます。スキャルは、短期取引を繰り返して微益を積み重ねる取引スタイルです。そのため、スキャル取引はスプレッドの影響が大きいことが知られています。

もしスプレッドが 0 pips ならば、狙った方向にチャートが動けば良いだけです。買ポジションの場合、下図にように買値(Ask)でポジションを取得し、売値(Bid)でポジションを解消すれば、Ask と Bid の上下関係だけで損益が決まります。

けれども、実際にはスプレッドがあるため、話が複雑になります。

例えば、スプレッド 1pips で取引している場合を考えてみましょう。このとき、買ポジション取得と同時に 1pips の含損を抱えて取引が始まります。この 1pips のハンデキャップがあるにも関わらず、チャートが 2pips 動いたら利確/損切することにしましょう。すると、陽線側に 2pips 動いても 1pips の利確にしかならず、陰線側に 2pips 動いたら 3pips の損切です。

上図の通り、このとき動いたのは陽線側に2pipsか陰線側に2pipsで、それぞれ確率的には50%ずつ起きる現象です。それなのにこんな取引を続けていたら、勝率75%(3勝1敗ペース)以上の実力が伴わない限り、利益が手元に残るはずありません。

このように、スプレッド分を取り返すための勝率を「スプレッドに対する損益分岐勝率(以下、単に「S損益分岐勝率」と略記)」と名付けます。

S損益分岐勝率は、スキャルを繰り返し行う上で最も大事な予備知識です。そんなことは言われるまでもなく、皆が知っているでしょう。スプレッドなんて小さい方がいいに決まっているのです。

では、スキャルで繰り返し取引するなら、最低でも何pips以上動きそうな場面を狙えば良いでしょう? そういう具体的なことは意外に知られていません。

A04-2  S損益分岐勝率

知りたいことは、スキャルで繰り返し取引するなら、最低でも何pips以上動きそうな場面を狙えば良いか、です

この計算を単純化するため、スプレッドが s pipsのとき、利確も損切もスプレッドの X倍の s・X pips で必ず行うことにします。これで計算が単純化できるものの、話がむしろ複雑になっていることに気がついても、アホウと思わないでください。だって次はもっとアホらしい仮定「買ポジションだけで勝負する」と仮定します。これで計算だけは単純化できます。

スプレッドが s pips で、チャートがその X 倍動いたなら、チャートが動いた幅は s・X pips となります。でも、先の図から明らかなように、利確したときはこの s・X pipsからスプレッド s pips が失われ、損切したときはこの s・X pips にスプレッド s pips が加わります。そして、n回の取引での勝率が Y % ならば、S損益分岐勝率の定義に従って、利確pips=損切pips が成り立ちます。

このとき、

n・Y(s・X-s)=n(1-Y)(s・X+s)

が成り立ち、この式を整理すると、

Y=(X+1)/(2X-1)

が得られます。

この解を見ても、訳がわからないでしょう。だから、この解を下図に青線で示しておきます。

横軸Xは、決済pipsをスプレッドの何倍にするか、です。縦軸Yは、S損益分岐勝率です。

  • コンスタントに勝率75%の実力がある人は、利確/損切pipsをスプレッドの3.5倍にする必要があります。
    でもまぁ、そんな人はどうにでも好きにやればいい、と思います。
  • 平均的に勝率67%の実力がある人は、同上5倍にする必要があります。
  • 1年間の勝率が60%ぐらいの人というのは、きっと毎月の勝率のムラが多いでしょう。同上8倍を目安にしなければ、勝ち数が負け数より多いのに利益が残らない可能性もあります。

例えば、多くのFX会社では、USDJPYのスプレッドは0.3pipsです。もし、過去の取引成績が2勝1敗ペース(勝率67%)の実力の人が、USDJPYで利確/損切を1.5pips(スプレッドの5倍)と決めた取引を続けても、損益0付近の状態が続きます。これがS損益分岐勝率です。

ひどいFX会社では、雇用統計などの大きくチャートが動く可能性がある指標発表時に、USDJPYのスプレッドが1pipsまで拡大することさえあります。そういうFX会社を使っていると、過去の取引成績が勝率60%の実力の人は、USDJPYで利確/損切を8pipsを超えない限り、損益0の状態が続きます。


以上の通り、スキャル取引には、最低でも何pips以上動きそうな場面を狙えば良いか、という制約があります。その制約を満たす決済pipsは、取引通貨ペアのスプレッドによって一義的に決まります。ここでは、利確pips=損切pips という条件でS損益分岐勝率を求めました。

興味があれば、利確pipsが損切pipsの2倍とした場合だって、本項に挙げた式を多少いじれば計算できます。けれども、そんな計算をしてみればわかるように、どんな条件にしてもスキャル取引の難易度が下がる訳ではありません。微益を積み重ねるスキャルでは、勝ちゃいいのだろう、というだけでなく、チャートを読んで最低限このぐらい狙えるというときに取引しなければ利益を残せません

この段階では余談ながら、それでも損小利大の取引に惹かれるなら、狙うべき場面はこちらを参照ください。


本稿のまとめ
  • 取引スタイルはポジション保有時間毎に分類され、取引スタイル毎に必要なスキルや狙いは異なる
  • 指標取引に限らず微益を積み重ねるスキャルでは、スプレッドによる不利を取り返すために最低限目指すべきpipsがある
  • 勝率67%以上の実力があれば、最低でもスプレッドの5倍以上のpipsを狙えるときに取引すべき

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以上

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