日本実態指標「機械受注」発表前後のUSDJPYの反応分析

機械受注※1」は、主要機械等製造業者の設備用機械類の受注額を集計した統計で、企業の設備投資動向を先行把握するために注目される指標です。本指標結果は、景気動向指数(内閣府)や月例経済報告(内閣府)、経済財政白書(内閣府)、ものづくり白書(経済産業省)に利用されています。

本指標へのチャートの反応は、過去の傾向から次のように定性的に説明できます。
例えば企業の設備投資増加は、企業が先行きに明るい見通しを持っていることを示唆するので、JPYにとっては肯定的な反応に結び付きます。その結果、指標発表前は市場予想が前回結果を上回っていると、USDJPYチャートが素直にJPY高方向が動きがちです。ところが、指標発表後しばらくすると、東証寄り付きの時刻になります。日経平均とUSDJPYの動きは正の相関がある(日経平均が高くなると、USDJPYチャートも上=JPY安に動く)ことが有名なので、指標発表後すぐに日経平均の動きを睨んだ動きに転じます。転じる、と書いたのは、このときの動きが指標発表前と逆になるからです。つまり、本指標結果が前回結果を上回るときは日経平均が騰がると期待されるため、JPY安側へと動く訳です。

もちろん、実際のチャートは上に記したほど単純な理由で動いている訳ではないでしょう。が、過去の本指標発表結果の良し悪しとチャートの動きを定量的に分析すると、そういった傾向が垣間見えます。どうせたいして稼げる指標じゃないのです。指標とチャート(反応)の関係に興味があれば、是非、以下本文の分析をご一読願います。

※1   内閣府統計名は「機械受注統計調査」。本統計は、船舶や電力業からの受注を除いた数値が同時発表され、それら数値が注目される(コア数値という)。コア数値は、企業が設備投資のための機械を機械製造業者に発注した段階で集計するため、実際の設備投資より6か月から9か月先行する指標とされている。


Ⅰ. 分析要点
1.1  概要
発表機関
内閣府※2経済社会総合研究所景気統計部
発表日時
当該月の翌々月中旬8:50
発表内容
機械製造業者の受注する設備用機械類の受注状況※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容=「船舶・電力を除く民需機械受注前月比」「同左前年同月比」の総合的な対前回乖離(狙いは直後11分足)
  • 反応程度=非常に小さい(直後11分足過去平均値幅2.4pips
  • 反応方向=非常に素直(実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向の一致率86%
  • 伸長特性=直後1分足終値が付いたら逆張りを勧める
補足説明

  • 経常収支」「貸出動向」「マネーストックM3」「M2マネーストック」以外の指標との同時発表時は取引を避けた方が良い(3.1項参照)
  • 本指標取引での狙いは、直前10-1分足の3pips前後と直後11分足での反転時の5pips前後

※2  内閣府は、他の省庁とは独立して総理大臣や特命担当大臣を補佐する役割を担い、内閣の重要政策の立案・調整を行う。

※3 調査対象の機械製造業社は1985年時点でカバレッジが80%程度(280社)となるよう選定され、調査対象企業は基本的に固定している。本調査における受注総額とこは回答額の単純合計で、母集団推計によるものではない。但し、本調査における販売額と経済産業省の「生産動態統計(機械統計編)」における出荷額等の比率を計算すると、年度合計で約9割となっている。
調査票の記入は自計とし、調査票の配布・回収は郵送及びオンラインにより行っている。調査時点は毎月末日で、税抜き金額での集計となる。内閣府が公開している調査票をこちらに示す。
設備用機械類が、企業内で自己消費される(例えば、自社で建造する船舶のエンジンを自社で製作して据え付ける)場合は、重複を避けるため受注計上しないこととする。しかし、機械類が自家使用にあたる(例えば、船舶を建造するためのクレーンを自社で製作して使用する)場合は計上する。
参考までに、本統計の2018年の主要受注者別受注額と民需の機種別受注額を下表に示す(先述の通り本統計は調査への回答の単純集計で母集団推定値ではない)。機種別受注額を見ると、電子・通信機械と産業機械が受注合計の29%を占めている。

※4 下図出典は『内閣府HP, 経済社会総合研究所景気統計部「機械受注統計調査報告 令和3年11月実績」,2022年1月17日』の第1表。は当方にて記入し、()数値が前月比、[]数値が前年同月比。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
但し、下記方針は本指標発表の度に毎回適用される訳ではありません。後記3.1項に示した通り、「経常収支」「貸出動向」「マネーストックM3」「M2マネーストック」以外の指標との同時発表時は下記取引方針は適用できません。

※5  本表の詳細説明はこちら。上記取引方針は今次改訂で変更されており、妥当性はまだ検証途中。


Ⅱ. 分析対象

分析対象は日本「機械受注」における

  • 船舶・電力を除く民需機械受注前月比:船舶と電力を除く民間設備投資の季節調整前受注額の前月比
    (以下「コア前月比※6」と略記)
  • 船舶・電力を除く民需機械受注前年同月比:同上前年同月比
    (以下「コア前年比」と略記)

の2指数と、その発表前後のチャートの反応です。分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。

※6 本統計の狙いのひとつに、民間の設備投資を先行把握することがある。ところが、船舶や電力業は景気局面との対応性が薄く、不規則かつ多額で完成までの期間が長いものが多い。そのため、本統計では需要者別受注額において「船舶・電力を除く民需」という項目を設けている。本稿ではこの項目をコア指数と呼称する。

※7 分析対象期間の発表回数と反応分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。本指標は他の指標との同時発表が多く、且つ、チャートへの影響力が強くない。なお、次2.1項の過去指標推移のグラフと発表結果統計値のみは2015年1月集計分以降を記載。

2.1  指標推移と統計値

各指数の過去の推移を下図に示します。図の配置は、コア前月比(上)・コア前年比(下)、となっています。

※8 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。

上図では、本指標の推移を俯瞰するため、分析対象期間以前まで遡って2015年1月集計分以降を示しています。図は金額でなくその比を表しているため、平均値(コア前月比が0.6、コア前年比が1.3)を中心に上下動をしています。

まずコア前月比のグラフを素直に眺めてみましょう。
発表結果のピークとボトムは市場予想のそれらをほぼ毎回オーバーシュートしていることが見て取れます。但し、この関係はコロナ禍とその回復以降(2020年以降)によくわからなくなりました。が、いずれは以前のように、発表結果が市場予想をオーバーシュートしがちな状態に戻るでしょう。
次にコア前年比のグラフを素直に眺めてみましょう。
発表結果が上昇がち/下降がちのとき、市場予想は発表結果に遅れて上昇/下降しがちです。但し、上昇/下降基調はコロナ回復期を除くと、長続きしていません。上昇/下降基調が長続きしない指標は移動平均線分析が役に立ちません。

ひょっとすると、過大反動分析は役に立つかも知れません。ただ、反応分析の対象がまだ14事例しかない現状では十分な階層化ができません。そのため、同分析は数年後にもっと分析対象事例が増えてから行うことにします。

2.2  反応結果と統計値

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図は、上側に直前10-1分足(左上)と直前1分足(右上)を、下側に直後1分足(左下)・直後11分足(右下)を配置し、縦軸を揃えて示しています。

各始値基準ローソク足はずいぶんスカスカとなっています。これは、後記3.1項に示すように、本指標が単独で発表されることが少ない上、チャートが同時発表指標の影響を受けやすいためです(すなわち、本指標がチャートに与える影響が弱いためです)。チャートが本指標でなく他の指標結果の影響を受けている発表事例をいくら分析しても、本指標での取引の役には立ちません。そのため、本指標の反応分析対象は、下図にローソク足が現れている14事例しかありません。

また、上図からは指標発表前後1分間の反応が極めて小さいことがわかります。
勝率67%の人のS損益分岐点はスプレッドの5倍なので、多くのFX会社のUSDJPYスプレッド0.3pipsに対し、1.5pips以上の値動きが必要です(S損益分岐点についてはこちらを参照方)。直前1分足や直後1分足を狙っていては、勝率67%でも中長期的に微損を積み重ねていくだけなことがわかります。よって、本指標での狙いは直前10-1分足と直後11分足ということになります。直前1分足や直後1分足を狙うのなら、それらが直後11分足と同方向のときしかあり得ません。

下表に各ローソク足の統計値を求めておきました。

多くの経済指標発表時に最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は0.8pipsで、反応程度は極めて小さい指標です。そして直前10-1分足も直後11分足も狙いは3pips前後というのが上表から読み取れます。これではスプレッドを考慮すると、わざわざ取引するメリットがあるかは疑問です。

ただ、後記4.1項に示すように、直前10-1分足は事前に反応方向を当てやすく、直後11分足は前回結果を発表結果が上回るか否かにかなり高い確率で素直に反応します。更に、後記4.3項に示す通り、直後11分足は直後1分足の値幅を削るか反転することが多く、うまくいけば(直後1分足順跳幅平均値+直後11分足順跳幅平均値=4.9pips)が狙えることになります。ま、やる気を起こすために大仰に言っても、大したことがないのですが…

2.3  2節結論

本節結論は、

  • コア前月比の短サイクルでのピークやボトムは、発表結果が市場予想をオーバーシュートしがち
  • 狙いは直前10-1分足の3pips前後と直後11分足での反転時の5pips前後

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象2指数の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、チャートへの影響力比較結果を下表に一覧します。

なお、本指標本分析では、他の指標での同種分析とは異なり直後11分足反応方向の一致率を、影響力を見比べるためのキー・メトリクスとしています。また、本指標の判別式には実態差異判別式を用いています。これらのことは、本指標への直後1分足での反応が極めて小さいため、直後1分足の反応方向には指標結果の良し悪しとの一貫した傾向が見出せないからです。

上表記載の通り、本指標は他の指標との同時発表がかなり多くなっています。そして、本指標結果の良し悪しに素直に反応したことが67%以上、且つ、同時発表指標よりも方向一致率が高い場合が限られています。更に「日銀短観」や「金融関連」の発表との同時発表も計4回あり、それらとの同時発表時には本指標での取引を避けた方が無難です(過去に本指標への反応の方が成績が良くても、今後そうならなかったときのダメージが極端に大きくなる恐れがあるため)。
そうすると、分析対象期間の発表47事例のうち、反応分析対象は僅か14事例まで減ってしまいました(場面発生頻度30%)。その14事例が2.2項に示したすかすかの始値基準ローソク足です。

本指標と同時発表されても本指標での取引が可能と言える指標は「経常収支」「貸出動向」「マネーストックM3」「M2マネーストック」の4つです。本指標がチャートに与える影響が弱いことは上表から明らかなので、今後それら以外の上表に記載していない指標との同時発表があったときにも取引は避けた方が無難でしょう。

3.2  項目間影響力分析

分析対象はコア前月比コア前年比でした。本指標への反応は小さいため、前回発表値の修正が行われても、反応への影響は更に小さい、と考察します。そのため、以下の判別式には、本指標の後日修正結果を反映しません。

判別式

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果

と定義します。このとき、各指数の判別式の解の符号対応ローソク足値幅方向の一致率を求め、下表に纏めておきます。

結果、直前10-1分足は事前差異判別式の解の符号と逆方向に反応しがちです。他は指標取引の参考にするレベル(33%以下もしくは67%以上)に達していません。次に、上記2指数を両方踏まえた全体判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕コア前月比の差異[%]+B✕コア前年比の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果

この式において対応ローソク足値幅方向と判別式の解の符号の方向一致率が高くなるように上式係数を求め、その一致率を下表に纏めておきました。

結果、事前差異判別式や実態差異判別式の解の符号と、対応ローソク足の方向一致率は各71%86%となりました。これらの数値なら、指標数値に基づく取引が十分行えます

ただ、よく見てみると、全体判別式の係数はA(コア前月比)に偏っており、実質的にコア前月比のみが判別式の解の符号に影響しています。特に、事前差異判別式と直前10-1分足、実態差異判別式と直後11分足の方向一致率は、コア前月比だけでの方向一致率と同じです。それでも全体判別式で係数B(コア前年比)を設けることは、コア前月比の事前差異や実態差異が0のときにも判別式を適用させるためです。

また、事前差異判別式の係数はA・Bともにマイナスとなっています。これは、例えばコア前月比・コア前年比の市場予想がともに前回結果を上回るとき、JPYの買材料となります。JPY買はUSDJPYチャートでは下向きの動きです。一方、実態差異判別式の係数はA・Bともにプラスです。これは、コア前月比・コア前年比の発表結果がともに前回結果を上回るとき、直後11分足形成の最終場面が9時の東証取引開始時刻に被るため、と推察されます。コア前月比・コア前年比の発表結果がともに前回結果を上回るとき、日経平均に上向き材料を与えるため、日経平均とUSDJPYチャートに正の相関があることが影響している、と推察します。

3.3  3節結論

以上、本節の結論は

  • 本指標が「経常収支」「貸出動向」「マネーストックM3」「M2マネーストック」以外の指標と同時発表されるときは、本指標での取引を止めた方が良い
  • 本指標の良し悪しと反応方向の関係を説明できる判別式は次の通り
    • 直前10-1分足に対応する事前差異判別式=ー5✕コア前月比の(市場予想ー前回結果)[%]ー1✕コア前年比の(市場予想ー前回結果):本式の期待的中率71%
    • 直後11分足に対応する実態差異判別式=5✕コア前月比の(発表結果ー前回結果)[%]+1✕コア前年比の(発表結果ー前回結果)[%]:本式の期待的中率86%

です。

※9 上式はまだ過去14事例の反応方向を説明できるようにしかなっていない。14事例というサンプル数は少なく、数年後に再検証を行って式の精度を高めることが必要。

※10 上式において、例えば(市場予想ー前回結果)がコア前月比0.1、コア前年比ー1%だったとする。このとき、直前10-1分足に対応する事前差異判別式=-5✕0.1-1✕(-1)=ー0.5+1=+0.5となる。解の符号はプラスなので、直前10-1分足は陽線となる期待的中率が71%となる。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、先の3.2項で求めた関係以上に顕著な傾向は見出せません。直後1分足は、事前差異判別式の解の符号と逆方向に反応しがち(期待的中率69%)ですが、反応が小さすぎるため取引き対象にはなりません

結果、

  • 直前10-1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の符号と同じになりがち(場面発生頻度30%、期待的中率71%)
  • 直後11分足の反応方向は、実態差異判別式の解の符号と同じになりがち(場面発生頻度30%、期待的中率86%)

です。

※11 上記「場面発生頻度30%」は、分析対象期間の発表回数47回のうち反応分析の対象14回の比率。

4.2  反応一致性分析

ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、どのローソク足同士も高い一致率になっていません。ただ、直後11分足は陰線率が71%と高くなっています。

結果、

  • 本指標への反応一致性分析は取引に有益な関係が見出せなかった

です。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は46%です。しかし、直後11分足が直後1分足よりも反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。それを検証した結果が下図です。

直後11分足が直後1分足の順跳幅や値幅を削るか反転したことは各64%71%でした。この数字だと逆張りが良いようです。

結果、

  • 直後1分足終値が付いたら、逆張りして直後11分足の86反転を狙う

です。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

無理に取引するような指標ではなく、取引回数も少ないため、成績へのコメントは控えます。

※12 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

初版(2017年1月14日):2015年1月集計分~2016年10月集計分までの22事例について同時発表指標のことを踏まえずに分析
1.1訂(2017年6月10日):2017年3月集計分までを反映。
改訂(2022年2月2日):2018年1月~2021年11月集計分までの47事例について分析。新書式反映し、指標間影響力分析や項目間影響力分析を実施。

以上

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