日本収支指標「国際収支」発表前後のUSDJPY反応分析

日本「国際収支※1」は輸出額と輸入額とその差を集計した指標です。経常収支はその内訳にあたる貿易収支の大小の影響を強く受けます。その貿易収支は、先に発表済の「貿易統計(通関ベース)」とほぼ同じ変化をします。

本指標はチャートへの影響力が小さく、他の指標と同時発表時の取引に向いていません。結果、取引の機会は本指標発表回数の半分程度しかありません。その半分の取引機会も、直前10-1分足が過去平均値を超えたときにしか、指標発表後の反応が伸びやすいとは言えません。つまり、取引機会が少ない上に勝ちやすい状況が生じることも少なく、勝ってもたかだか数pipsしか狙えません。
取引対象として魅力的とは言えませんね。

※1  発表元統計名は「国際収支統計(速報)」。「速報」後に生じた修正等を反映して集計した「第2次速報」は、翌々期最初の月に公表(四半期集計)。


Ⅰ. 分析要点
1.1  概要
発表機関
財務省日本銀行※2
発表日時
当該月の翌々月第6営業日の08:50
発表内容
国内居住者と非居住者の資金移動を集計※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容=直後11分足を狙うなら「季節調整前経常収支額」と「季節調整前貿易収支額」の総合的な前回結果との乖離
  • 反応程度=極めて小さい(直後1分足値幅の過去平均値0.9pips直後11分足順跳幅の過去平均値4.3pips
  • 反応方向=素直(実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向の一致率68%
  • 伸長特性直前10-1分足順跳幅が2.2pips超に達したら、直後1分足終値がつき次第、追撃を開始して直後11分足跳幅を狙うべき
補足説明

  • チャートへの影響力は弱く、他に指標との同時発表時には本指標での取引を避けた方が良い3.1項参照)
  • 直後11分足は最後に東証寄り付き時刻と重なるため、本指標での取引を行うときは前日ダウの上げ下げを確認しておいた方が良い(前日米国株と日本株は同方向の値動きとなりがちで、日本株とUSDJPYは同方向の値動きになりがち、と言われている)

※2  国際収支統計は、財務省とその委託を受けた日銀が集計・推計し共同公表。なお、類似統計の「通関貿易統計」と本統計の違いは下表の通り(出典:日本銀行HP)。

※3  下表出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載数値を抜粋した国際収支(2018年)。用語は『日本銀行HP, 国際局,「2019 年の国際収支統計および本邦対外資産負債残高 」, 2020年7月』より転記。
国際収支は、経常収支+資本移転収支+金融収支、からなり、経常収支は、貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支、からなる。日独は黒字・米英は赤字が長年続いている。貿易収支が注目される理由は、国際収支に占める月々の変動幅が大きいため。
なお、第一次所得収支とは対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支を指し、第二次所得収支とは居住者・非居住者間の対価を伴わない資産の提供に係る収支(国際機関や途上国への無償援助、外国人労働者の本国送金等)を指す。

※4  下表出典は財務省HP上の『令和2年12月中 国際収支の状況(速報)の概要』巻頭から抜粋し、表中は当方にて記入。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

巻頭に記した通り、本指標では小さいpipsを狙うことになるため、あまり取引を勧めません。

※5  本表の詳細説明はこちら。また本指標での取引実績は少なく(Ⅴ節参照方)、上表方針の妥当性はまだ検証されていない。


Ⅱ. 分析対象

分析対象は日本「国際収支統計」における

  • 季節調整前経常収支額:貿易・サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支で、居住者・非居住者間で債権・債務の移動を伴う取引の収支状況
    (以下「経常収支」と略記)
  • 季節調整前貿易収支額:財貨(モノ)の輸出入の収支で、国内居住者と外国人及び非居住者との間の財貨の取引(輸出入)を計上
    (以下「貿易収支」と略記)

の2指標と、その発表前後のチャートの反応です。分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。

※6 分析対象期間の発表回数と分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。

2.1  指標推移と統計値

各指標の過去推移を下図に示します。図の配置は、経常収支(上)、貿易収支(中)、となっています。そして、本指標発表時に既に同月集計分が発表されている貿易統計(通関ベース)(下)を並べて示しました。

※7  上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。

経常収支は、例年3月にその年の最大値となっています(2020年は2月)。これは、企業が3月決算に備えて海外資金を国内本社に戻すために起きる現象と言われています。この現象をレパトリ(Repatriationの略)といい、欧米では年末に同じ現象が起きやすい、と言われています。
レパトリの時期は大きな資金移動が起きるため、例えば上記3月はJPY高になりやすいと言われていますがしかし、最近のUSDJPYを見る限りそうとは言えません(過去2011~20年の10年間で3月月足が陰線=JPY高だったことは4回、陽線=JPY安だったことは6回)。

むしろ経常収支と貿易収支のグラフを素直に見ると、両グラフの毎年のピークやボトムの月は、例年3月に限らずほぼ一致しているように見えます。
自分の目で2つのグラフを見比べてください。
いかがでしょう。両グラフの縦軸数値を見ると、経常収支は貿易収支の大きな変動が1~2兆円程度の貿易収支以外の収入で嵩上げされているように見えないでしょうか? もし例年3月にレパトリが起きるなら、3月だけその嵩上げが大きくなるはずです。ところが、そうは見えません。レパトリらしい資金移動が特定月だけに大きく見えないということは、経常収支のピークやボトムは貿易収支のピークやボトムの影響が大きいということです。

なお、貿易収支以外の経常収支の内訳では、第一次所得収支の黒字の微増傾向が続いていることが指摘されています。これが前述の1~2兆円程度の嵩上げの多くを占めています。この金額は近年微増傾向にあり、いずれ貿易収支よりも大きくなり、貿易収支が赤字化するという予測があります。
近年の第一次所得収支の微増傾向は、海外現地法人(以下「現法」と略記)から日本本社への移転利益に厳しい目を向けるようになったことが影響しています。単に現法の利益を丸ごと国内に戻すのではなく、配当をそのまま貸し付けて利息(第一次所得収支)や技術指導料(サービス収支)名目で目立たないように分散して受け取る会社が増えているようです。日本と中国を除く他の主要国中銀が引締へと政策変更すると、中長期的にJPY安方向に向かうことも、こうした動きを助長します。
将来的な貿易収支の赤字化は、JPY安予想による前記現法への貸付増(国内還流減と現地生産能力増)による国内製造拠点からの輸出減と、TPP・RCEP等による輸入増を根拠とする解説が多いようです。エネルギー輸入は、菅政権での自然エネルギー依存率の引き上げ目標と原発の順次再開によって、東日本震災の影響が中長期的に解消される見通しです。

2.2  反応結果と統計値

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図は、上側に直前10-1分足(左)と直前1分足(右)を、下側に直後1分足(左)・直後11分足(右)を配置し、上側と下側(指標発表前後)で縦軸を揃えて示しています。

※8 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表月(3.1項参照)。

図を見る限り、極端に大きな反応がないこと指標発表前後1分間の反応が小さいことがわかります。そして後記4.1項に示す通り、直前10-1分足の方向は予想できません。よって本指標での狙いは直後11分足ということになります。更に後記4.3項に示す通り、直前10-1分足値幅が過去平均値を超えると、直後1分足値幅方向に直後11分足が跳ねているので、その跳ねを狙って指標発表時刻を跨いだポジションを持ってもいいでしょう。

次に、上図各ローソク足の統計値を示します。

※9 上表では反応分析対象外の月を集計していない。

指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は0.9pipsで、反応程度は極めて小さい指標です。直後1分足順跳幅51%は過去平均の0.5倍超1倍以下に分布しています。つまり、もし直後1分足順跳幅の方向を当てても0.67~1.2pipsしか取れないことが約半数、ということになります。よって先述の通り、指標発表時刻を跨ぐポジションを持つなら、狙いは直後11分足の跳ねに絞るべきでしょう。
直後11分足の方向は、後記4.2項に記載の通り、直前10-1分足によって示唆されています。

2.3  2節結論

本節結論は、

  • 本指標取引の狙いは直後11分足の跳ね
  • 直前10-1分足値幅が過去平均値を超えたときのみ、指標発表直前にポジションを取得して直後11分足跳幅を狙う

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象2指数の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、チャートへの影響力を比較した結果を下表に一覧します。

本指標が素直に反応したことが67%以上(上表右端の数字)、且つ、その数字が同時発表された他の指標よりもその数字(上表真ん中の数字)より大きいときでなければ、本指標での取引は勧められません。

結果、本指標のチャートへの影響力は弱く、他の指標と同時発表があるときは取引を勧められません。結論、以降の分析では、他の指標と同時発表時を除いて分の良い取引機会があるかに目的を絞ります

他の指標との同時発表は延べ43回ですが、重複が3回あるため分析対象外とするのは40事例となります。

3.2  項目間影響力分析

分析対象は、経常収支貿易収支でした。

それぞれの判別式

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果

です。

このとき、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を求め、下表に示しておきます。

判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率は、経常収支も貿易収支も良くありません。この結果から言えることは、本指標発表前後の取引で個々に指標数値の良し悪しに注目してもFX取引の役に立たない、ということです。

そこで、両指標の良し悪しを同時に踏まえた全体判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕経常収支の差異[兆円]+B✕貿易収支の差異[兆円]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

これで、少なくとも本指標で狙う直後11分足の方向だけは、発表結果の良し悪しで過去の反応方向を説明できるようになりました。

3.3  本節結論

以上、本節の結論は

  • 本指標のチャートへの影響力は弱く、他の指標と同時発表時には取引しない方が良い
  • 本指標結果は、経常収支と貿易収支を別々に捉えるのではなく総合的に捉える必要がある
  • 本指標発表直後11分足の過去の反応方向は下記判別式の解の符号と68%方向一致した
    • 実態差異判別式=1✕経常収支の(発表結果ー前回結果)[兆円]-2✕貿易収支の(発表結果ー前回結果)[兆円]

です。

※10 上式において、例えば(発表結果ー前回結果)が経常収支+1.2兆円、貿易収支+0.7兆円だったとする。このとき、直後11分足に対応する実態差異判別式=1✕1.2-2✕0.7=1.2ー1.4=ー0.2となる。解の符号はマイナスなので、直後11分足は陰線となる期待的中率が68%となる。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、先に3.2項で求めた関係以上に顕著な傾向は見出せません。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

結果、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解がどうあれ(市場予想がどうあれ)取引の根拠が弱い
  • 直後1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが1.6超(過去平均値の2倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度7%、期待的中率80%)
  • 直後11分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが1.6超(過去平均値の2倍超)のとき、その解の符号と同じになりがち(場面発生頻度7%、期待的中率67%)

です。

※11 上記「場面発生頻度52%」は、分析対象期間の発表回数83回のうち反応分析の対象43回の比率。

4.2  反応一致性分析

ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

すると、直後11分足は直前10-1分足と逆方向に反応しがちだったことがわかりました(場面発生頻度52%、期待的中率75%)。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は61%しかありません。そして直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは61%、値幅が同方向に伸びたことは50%でした。この数字では追撃できません。

さて、指標発表直前直後の様子見で反応が小さい指標では、指標発表後に直前10-1分足の勢いが戻る場合があります。そこで、直前10-1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

結果、

  • 直前10-1分足順跳幅が2.2pips超(過去平均値超)に達したら、直後1分足終値がつき次第、追撃を開始して直後11分足跳幅を狙った方が良い(場面発生頻度19%、期待的中率67%)

です。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

まだ取引回数が少ないため、成績へのコメントは控えます。

※12 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

初版(2017年1月9日):2015年1月集計分から2016年11月集計分までを分析。
改訂(2017年7月9日):2017年5月集計分までを反映。図表類の書式を変更。
3訂(2018年10月8日):2018年7月集計分までを反映。
4訂(2021年2月21日):新書式反映。指標間影響力比較分析を実施し、分析対象事例を絞り込み。
4.1訂(2022年1月24日):2021年11月集計分までを反映。
4.1.1訂(2022年2月5日):誤記訂正。

以上

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