日本収支指標「貿易統計(通関ベース)」発表前後のUSDJPY反応分析

日本「貿易統計(通関ベース)※1」は輸出額と輸入額とその差を集計した指標です。通関ベースというのは、統計計上日が輸出貨物を積載した船舶・航空機の出港日に輸出計上し、税関が輸入許可した日に輸入計上されることを指しています。計上金額はFOB価格・CIF価格※2となっています。
本統計は他の多くの経済指標と違って(建前上は確報段階で)全対象が集計されています。但し、該当月の税関長公示為替レートの平均値を用いて円換算されることと、通関書類への記載金額が誤差の原因です。そういう意味で変わった指標です。

本指標は、貿易収支の良し悪しだけでなく、輸出入額それぞれの拡大や縮小が反応方向に影響します。反応程度は小さく短時間で終わり、そのまま反応を伸ばした事例も少ないことがわかっています。つまり指標取引には不向きだと言えます。取引に適した発表は年1回ぐらいしかなく、そのときもたった数pipsしか狙えないのです。

※1 発表元統計名は「貿易統計(速報)」。ネット上には「通関貿易統計」という呼称も散見される。本統計は、後日財務省が発表する「国際収支」の「貿易収支」の基礎資料とされる。

※2 FOB(=free on board)価格とは、輸出品を船舶に積み込み同船上で相手方に引渡した時点の価格を指す。本船積込値段または輸出港本船積込渡値段ともいう。CIF(=cost,insurance and freight)価格とは、輸入品の輸送証券(代金支払済証券と船積書類)と船荷保険証券を当方が受け取った時点の価格を指す。運賃保険料込み価格ともいう。


Ⅰ. 分析要点
1.1  概要
発表機関
財務省関税局※3
発表日時
多くの場合、当該月の翌月第3週水曜の08:50
発表内容
税関提出輸出入申告の集計※4発表事例※5
反応傾向

  • 注目内容=「季節調整前貿易収支額」「輸出額前年同月比」「輸入額前年同月比」の総合的な対予想乖離
  • 反応程度=直後1分足値幅は極めて小さく(過去平均値1.3pips)、直後11分足順跳幅もかなり小さい(同5.1pips
  • 反応方向=素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率68%
  • 伸長特性=かなり限定された条件で、直後11分足値幅は直後1分足値幅を削るか反転する
補足説明

  • 反応は小さく短時間しか起きない上、そのまま反応を伸ばした事例も少ないため、取引に向かない指標
  • 機械受注」と金融関連との同時発表時には、本指標での取引を避けた方が良い(3.1項参照)

※3 財務省(税関)は「速報」後に生じた輸出入情報の修正等を反映して集計したものを、輸出については対象月の1か月後、輸入については2か月後に「確報」として公表。そして「確報」公表後に生じた輸出入情報の修正等を反映させたものを「確々報」として公表。更に「確々報」公表後に生じた輸出入情報の修正等を反映させたものを「確定」として公表している。

※4 下図出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載の2018年数値を抜粋(図表化は当方にて実施)。
日本の輸出入総額が名目GDPに占める割合(貿易依存度)は28%で、この数字は欧州主要国よりも低い。また、エネルギーバランス(単位[PJ]:ペタジュール)は常に輸入超過となっているものの、鉱物性燃料の赤字は輸出入総額の10%強(輸入総額の20%強)。
商品分野別では機械類及び輸送機器が輸出総額の60%弱を占めており、この分野への偏りが他の主要先進国よりも大きい(参考:米国32%、独国48%)。中国向け輸出が占める比率が高いことも、日本の特徴と言える(参考:米国7%、独国7%)。

※5 下表出典は財務省HP上の『財務省貿易統計,「報道発表資料」, 2021.12.16』の巻頭から抜粋し、表中は当方にて記入。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

巻頭に記した通り、本指標での取引があまりに小さなpipsを狙うことになるため、取引を勧めない点に変わりありません。

※6 本表の詳細説明はこちら。なお、本指標での取引実績はまだ少なく、上記方針の妥当性はまだ検証途中である。


Ⅱ. 分析対象

分析対象は日本「貿易統計(通関ベース)」おける

  • 季節調整前貿易収支額:輸出額と輸入額の差
    (以下「貿易収支」と略記)
  • 輸出額前年同月比:税関申告書類上のFOB価格の集計比
    (以下「輸出」と略記)
  • 輸入額前年同月比:同上CIF価格の集計比
    (以下「輸入」と略記)

の3指数と、その発表前後のチャートの反応です。分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。

※7 分析対象期間の発表回数と分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。2017年7月はチャートを入手できず分析除外。

2.1  指標推移と統計値

各指標の過去推移を下図に示します。図の配置は、貿易収支(左)・輸出(右上)・輸入(右下)、となっています。

※8 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。

季節調整前グラフのため、貿易収支は上下動が激しく、例年1月か2月に落ち込み3月か4月に跳ね上がります。そして、コロナ禍の時期の上下動はそれまでの上下動よりもやや大きい程度で、多くの国のようにそれまでに比して圧倒的に大きな上下動とはなっていません。

輸出と輸入の上下動は大まかに同期しており、どちらかの先行・遅行は上図からは判別できません。

コロナ禍以前・以後とも、これらのグラフから本指標の市場予想は精度が高いことがわかります。市場予想が高く事前のチャートへの織り込みを終えているせいか、後記4.1項に示す通り指標発表前後の反応方向は、判別式の解の符号に無関係か逆になりがちです。

2.2  反応結果と統計値

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図の配置は、左側に直前10-1分足(左上)と直前1分足(右上)を、右側に直後1分足(左下)・直後11分足(右下)を、それぞれ指標発表前と後とで縦軸を揃えて示しています。

※9 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表月(3.1項参照)。

上図を見る限り、極端に大きな反応がないことと、指標発表後1分間の反応が小さいことがわかります。指標発表後1分間の反応が小さ過ぎるため、本指標での狙いは直前10-1分足や直後11分足ということになります。

直後11分足の始値基準ローソク足の並びの方向と大小は、先に示した輸出や輸入の指標推移グラフと少し似ているように見えます。そう見えるにせよ、後記3.2項に示す通り、輸出や輸入の増減と直後11分足の方向一致率は、取引の根拠になるほど高くありません。

また、他の指標での取引のように直後1分足を狙う意味はありません。後記4.3項に示す通り、本指標では直後1分足と同方向に直後11分足が伸びた実績が50%未満しかないためです。上に挙げた直後1分足を見ればわかるように、指標発表直後の跳ねも期待できません。

次に、上図各ローソク足統計値を示します。

※10 上表では反応分析対象外の月を集計していない。すなわち、取引対象外とすべき事例を除く後記3.1項結論を反映している。

指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は1.3pipsで、反応程度は極めて小さい指標です。けれども1足内反転率は低く、長いヒゲを残して反転する可能性が低い点では取引のしやすさを示唆しています。値幅は69%が平均値以下に収まっています。

直後11分足の1足内反転率は高く、9時の東証寄付時刻が近づくと注意が必要です。

2.3  2節結論

本節結論は、

  • 指標発表時刻を跨いで発表直後の跳ねを狙う意味はなく、本指標での取引は直前10-1分足と直後11分足を狙う

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象3指標の反応への影響度を求めます

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

「機械受注」との同時発表時は本指標での取引を控えます。また、金融関連発表時は、内容次第で大きく動きかねないため取引を控えます。そして、これらとの同時発表計12回を反応分析の対象から除きます。

※11  機械受注との同時発表は、本指標集計月で2019年4月・2020年1月・同7月・2021年1月・同4月・同5月・同7月・同10月の8回。金融関連との同時発表は、本指標集計月で2017年2月(BOJ議事要旨)・2018年2月(BOJ主な意見)・2020年6月(BOJ議事要旨)・2021年6月の4回。

3.2  項目間影響力分析

分析対象は、貿易収支輸出輸入、の3指数でした。それぞれの判別式

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果

と定義します。

このとき、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率は下表のようになっていました。

判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率はどれも良くありません。この結果から言えることは、本指標発表前後の取引で貿易収支だけとか個々の指標に別々に注目してもFX取引の役には立たない、ということです。

そこで、3指数全てを同時に踏まえた全体判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕貿易収支の差異[兆円]+B✕輸出の差異[%]+C✕輸入の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

これで、少なくとも本指標発表直後の反応方向だけは、指標の良し悪しで説明できるようになりました。

3.3  本節結論

以上、本節の結論は

  • 「機械受注」「金融関連」との同時発表時は本指標での取引を避けた方が良い
  • 本指標の良し悪しの予想や結果は、個別の指数でなく総合的に捉える必要があり、そうした場合の本指標発表直後の反応方向は素直
  • 本指標発表直後1分足の過去の反応方向は下記判別式の解の符号と68%方向一致した
    • 事後差異判別式=ー25✕貿易収支の(発表結果ー市場予想)[兆円]-2✕輸出の(発表結果ー市場予想)[%]+3✕輸入の(発表結果ー市場予想)[%]

です。

※12 単位系に注意。例えば貿易収支の(発表結果ー市場予想)=+6400億円ならば、上式の(発表結果ー市場予想)に0.64と入力する。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。上中図と上右図のドット分布はもあっと右上がりに並んでいるように見えるものの、相関係数(R2)が低すぎます。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、まだ顕著な傾向は見出せません。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

結果、事前差異判別式の解の絶対値を階層化すると、判別式の解の符号と反応方向の一部の高い一致率・不一致率に制約を設ければよいことがわかりました。

本分析結論は、

  • 直前10-1分足と直後11分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが120超(過去平均値の約2倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度12%、期待的中率70%)

です。

直前1分足と直後1分足は反応が小さく(過去平均値幅が各0.8pips・1.4pips)、取引の魅力に欠けます。

4.2  反応一致性分析

ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、高い一致率(不一致率)は見出せません。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を求めてみました。

結果、直後1分足こそ、直前10-1分足値幅が3.5pips超(過去平均値超)のとき、直前10-1分足と逆方向になりがちです。けれども、直後1分足は過去平均で順跳幅1.8pips、値幅1.3pipsしか反応せず、それら平均を超えたことは半分以下しかありません。狙うべき直後11分足については、

  • 直前10-1分足値幅は直後11分足の反応方向を示唆しない

が結論です。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は60%です。そして直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは46%、値幅が同方向に伸びたことは40%でした。この数字では追撃できないし、逆張りするにも少し不安です。

さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

結果、

  • 直後1分足値幅が4.6pips超(過去平均値の2倍超)のとき、直後11分足は直後1分足の値幅を削るか反転する(場面発生頻度11%、期待的中率67%)

です。直後1分足の小ささを踏まえると、残念ながらあまり魅力的な取引とは言えません。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

まだ取引回数が少ないため、成績へのコメントは控えます。

※13 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

初版(2017年1月23日)
改訂(2021年2月18日):新書式反映。指標間影響力比較分析を実施し、分析対象事例を絞り込んだ。季節調整前輸出額前年比と季節調整前輸入額前年比を分析対象に追加。
2.1訂(2022年1月24日):2021年11月集計分までを反映。

以上

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