日本収支指標「貿易統計(通関ベース)」発表前後のUSDJPY反応分析
Ⅰ. 分析要点
1.1 概要
日本「貿易統計(通関ベース)※1」はFX取引に向かず、取引すべき場面もかなり限られています。
※1 発表元統計名は「貿易統計速報」。
発表機関 財務省関税局※2 |
発表日時 多くの場合、当該月の翌月第3週水曜の08:50 |
発表内容 税関提出輸出入申告の集計※3(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明
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※2 財務省(税関)は、「速報」後に生じた輸出入情報の修正等を反映して集計したものを、輸出については対象月の1か月後、輸入については2か月後に「確報」として公表。そして「確報」公表後に生じた輸出入情報の修正等を反映させたものを「確々報」として公表。更に「確々報」公表後に生じた輸出入情報の修正等を反映させたものを「確定」として公表している。
※3 下図出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載の2018年数値を抜粋(図表化は当方にて実施)。日本の輸出入総額が名目GDPに占める割合(貿易依存度)は28%で、この数字は欧州主要国よりも低い。また、エネルギーバランス(単位[PJ]:ペタジュール)は常に輸入超過となっているものの、鉱物性燃料の赤字は輸出入総額の10%程度(輸入総額の20%程度)に過ぎない。商品分野別では機械類及び輸送機器が輸出総額の60%弱を占めており、この分野への偏りが他の主要先進国よりも大きい(参考:米国32%、独国48%)。中国向け輸出が占める比率が高いことも、日本の特徴と言える(参考:米国7%、独国7%)。
※4 下表出典は財務省HP上の『財務省貿易統計,「報道発表資料」, 2021.1.21』の巻頭から抜粋し、表中▢は当方にて記入。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
対象は、日本の通関貿易統計における季節調整済・稼働日数調整済の
- 季節調整前貿易収支額(以下「貿易収支」と略記)
- 輸出額前年同月比(以下「輸出」と略記)
- 輸入額前年同月比(以下「輸入」と略記)
です。
季節調整前数値のため、数値比は前年同月比を見ることになります。
各指標の過去推移を下図に示します。図の配置は、貿易収支(左図)・輸出(右上図)・輸入(右下図)、となっています。
※6 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。
季節調整前グラフのため貿易収支の上下動が激しく、輸出と輸入の上下動は大まかに同期しており、どちらかの先行・遅行は上図から判別できません。そして、コロナ禍の時期の上下動はそれまでの上下動よりもやや大きい程度で、他の主要先進国のようにそれまでに比して圧倒的に大きな上下動とはなっていません(本サイトに示す他の主要先進国の統計値が季節調整済・稼働日数調整済であることを差し引いても)。
また、コロナ禍以前・以後とも、これらのグラフから本指標の市場予想は精度が高いことがわかります。市場予想が高く事前のチャートへの織り込みを終えているせいか、後記4.1項に示す通り指標発表前後の反応方向は、事前差異判別式の解の符号に無関係かやや逆になりがちです。
次に、対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図の配置は、左側に直前10-1分足(上)と直前1分足(下)を、右側に直後1分足(上)・直後11分足(下)を、それぞれ指標発表前と後とで縦軸を揃えて示しています。
※7 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表月(3.1項参照)。
上図を見る限り、極端に大きな反応がないことと、指標発表前後1分間の反応が小さいことがわかります。指標発表前後1分間の反応が小さ過ぎるため、本指標での狙いは直前10-1分足と直後11分足ということになります。
そして、先に示した輸出や輸入の指標推移グラフと直後11分足の始値基準ローソク足の図を見比べてみてください。輸出入額の上下動は、何となく直後11分足の方向・程度と少し似ているように見えます。だからと言って、そんな感覚的な根拠で何となく取引すべきではありません。後記3.2項に示す通り、輸出や輸入の増減と直後11分足の方向一致率は、取引の根拠になるほど高くないのです。
※8 上表では反応分析対象外の月を集計していない。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は1.4pipsで、反応程度は極めて小さい指標です。けれども1足内反転率は低く、長いヒゲを残して反転する可能性が低い点では取引のしやすさを示唆しています。
Ⅲ. 指標分析
以下の指標分析の対象範囲は下表の通りです。
市場予想は毎回行われ、先述の通りそこそこの精度があります。
指標発表回数と同分析回数の差は、次3.1項に示す他の強い指標との同時発表が6回(重複1回を除く)と、チャートが入手できなかった2017年7月集計分の計7回です。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
機械受注との同時発表時は取引を控えます。また、金融関連との同時発表時は、内容次第で大きく動きかねないため、取引を控えます。そして、これらとの同時発表計6回(1回は同月重複している)を反応分析の対象から除きます。
※9 機械受注との同時発表は、本指標集計月で2019年4月・2020年1月・同7月・2021年1月の4回。金融関連との同時発表は、本指標集計月で2017年2月(BOJ議事要旨)・2018年2月(BOJ主な意見)・2020年6月(BOJ議事要旨)の3回。
3.2 項目間影響力比較分析
分析対象は、貿易収支・輸出・輸入、の3指標でした。
それぞれの判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果
です。
このとき、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率は、どれも良くありません。この結果から言えることは、本指標発表前後の取引で貿易収支だけとか個々の指標に別々に注目してもFX取引の役には立たない、ということです。
そこで、3指数全てを同時に踏まえた全体判別式を次のように立式します。
全体判別式=A✕貿易収支の差異[兆円]+B✕輸出の差異[%]+C✕輸入の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
※10 例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、ー25✕貿易収支の(発表結果ー市場予想)ー2✕輸出の(発表結果ー市場予想)+3✕輸入の(発表結果ー前回結果)、となる。そして上表は、この式の解の符号と直後1分足が過去69%方向一致だった、と読む。
これで、少なくとも本指標発表直後の反応方向だけは、指標の良し悪しで説明できるようになりました。
なお、参考までに各判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
3.3 利得分析
分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。
事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は、過去平均で0.11pipsです。
Ⅳ. 反応分析
以下の反応分析の対象範囲は下表の通りです。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
方向の情報だけを取り出しても、まだ顕著な傾向は見出せません。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。
結果、
- 直前1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが100超(過去平均値の約2倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度15%、期待的中率71%)
- 直後1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが50超(ほぼ過去平均値超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度41%、期待的中率68%)
- 直後11分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが100超(過去平均値の約2倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度15%、期待的中率73%)
です。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します。
方向の情報だけを取り出しても、直前1分足と直後1分足の関係ぐらいしか、高い不一致率となっていません。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を求めてみます。
結果、
- 直前1分足の反応方向は、直前10-1分足値幅が4.9pips超(過去平均値の2倍超)のとき、それと逆になりがち(場面発生頻度12%、期待的中率78%)
- 直後11分足の反応方向は、直前10-1分足値幅が4.9pips超(過去平均値の2倍超)のとき、それと同じになりがち(場面発生頻度12%、期待的中率73%)
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は59%しかありません。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは45%、値幅が同方向に伸びたことは39%でした。
この数字では追撃できないし、逆張りするにも少し不安です。
さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
結果、直後1分足順跳幅を階層化してみても、それでは直後11分足が直後1分足よりも反応を伸ばすか否かはわかりませんでした。
Ⅴ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。
まだ取引回数が少ないため、成績へのコメントは控えます。
※7 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。
関連リンク
改訂履歴
初版(2017年1月23日)
改訂(2021年2月18日):新書式反映。
以上