日本物価指標「全国消費者物価指数」発表前後のUSDJPY反応分析

未曽有の規模と期間に亘って日銀が金融緩和を継続してデフレ脱却を目指していることもあって、「全国消費者物価指数※1」は発表毎に結果がNHKのニュースで必ず取り上げられます。それほど注目度が高いにも関わらず、本指標発表直前直後のチャートの動きは小さく取引が難しい指標です。取引を難しくしている特徴は、指標発表直後1分足を直後11分足が削ったり反転しがちなためです。

※1   発表元統計名は「全国消費者物価指数」。


Ⅰ. 指標要点
1.1  概要
発表機関
総務省統計局※2
発表日時
19日を含む週の金曜日08:30
発表内容
全国の世帯が購入する各種の財・サービスの価格の平均的変化※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容直前10-1分足値幅と直後1分足の方向
  • 反応程度=非常に小さい(直後11分足平均順跳幅2.4pips
  • 反応方向=それほど素直とは言えない(実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向の一致率60%
  • 伸長特性=直後1分足形成中か同終値がついたら逆張りを勧める
補足説明

  • 他の指標との同時発表は気にしなくても良い(3.1項参照)

※2  日本の公的統計は、各府省が所管行政と関連する統計を作成している(分散型統計機構)。そのため、各行政機関が作成する統計を横断的に調整する機関が必要となり、その機能は総務省政策統括官(統計基準担当)が担当している。

※3 消費者物価指数の内容・作成方法・見方については『総務省統計局HP, 「消費者物価指数のしくみと見方 -2015年基準消費者物価指数-」, 平成28年8月』に非常にわかりやすい解説があるので、そちらを参照方。
全国消費者物価指数の場合、調査は585品目(2015年基準改定時)について行われ、上位300品目で全体支出額の約90%を占める。そのため、これ以上に品目を細分化したり増やしても調査精度は上がらない。各品目にはウェイトが割り付けられており、それらの加重平均値が指数となる(家計の消費構造が一定と見なす)。ウェイトは総務省統計局実施の「家計調査」の結果等に基づき、品目の価格は総務省統計局実施の「小売物価統計調査」によって得られた小売価格を用いる。

※4  下図出典は『総務省統計局HP, 「2020年基準 消費者物価指数 全国 2021年(令和3年)12月分」, 2022年1月21日』を転載し、赤下線部を当方にて記入。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。


Ⅱ. 分析対象
2.1 対象範囲

対象指数は「全国消費者物価指数」における

  • 季節調整前総合指数前年同月比:税金や社会保険料を含まず家計支出を特徴付ける商品やサービスの対前年同月価格変動
    (以下「CPI※6前年比」と略記)
  • 季節調整済総合指数前月比:上記を季節調整した対前月価格変動
    (以下「CPI前月比」と略記)
  • 季節調整前生鮮食品を除く総合指数前年同月比:上記のCPI前年比から生鮮食品の影響を除いた価格変動
    (以下「コアCPI前年比」と略記)

の3指数です。
後記3.2項を参照するとわかるように、これら3指数のうちコアCPI前年比だけに注目しても良いかも知れません。

次に対象期間です。
2017年以前の本指標は、東京都区部消費者物価指数と同時発表されていました。そのため、同指標の影響がなくなった2018年1月集計分以降を本指標の分析範囲とします。

※6 CPI=Consumer Price Index(=消費者物価指数)

※7 分析対象期間の発表回数と分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。

2.2 指標推移と統計値

各指数の過去の推移を下図に示します。図の配置は、コアCPI前年比(左)・CPI前年比(右上)・CPI前月比(右下)、となっています。横軸は集計月を表し、発表月ではありません。

※8 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。但し、発表結果統計値はグラフ記載範囲全体から計算(指標統計値はデータ数が多い方が確からしさが増すため)。

上図では、本指標の推移を俯瞰するため、分析対象期間よりも遡って2015年1月集計分以降を示しています。
図では、2015年4月集計分の大きな下落が目立ちます。これは、このとき実際に物価が大きく下がったのではありません。それより1年前の2014年4月集計分から各指数にオフセット操作をしていたことを止めたことが原因です。この件は「東京都区部消費者物価指数」の稿で詳述しているので、そちらを参照願います。

さて、CPIは税金や社会保険料を含みません。けれども1990年以降の「失われた30年」のことを思い出してみましょう。
この30年間は、賃金がほとんど上がらず、税金と社会保険料が上がり続けた30年でした。そのことが家計の消費内容に影響しなかったはずがありません。そして、CPIの調査対象品目は「家計調査」での出費が多い商品・サービスが選ばれます。他にもこの30年間に倍増したのは、通信費(ネット関連契約・衛星放送契約を加えた公共放送受信料を含む)といった項目があります。
結果、税金と社会保険料と通信費を除く家計は、その分だけ安い商品・サービスを求め続けました。被服費・交際費・家電購入費は減り、食費は30年経ってもあまり変わりません。

2.3 反応結果と統計値

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足とそれら統計値を下図・下表に示します。
下図は、上側に直前10-1分足(左上)と直前1分足(右上)を、下側に直後1分足(左下)・直後11分足(右下)を配置しています。指標発表前と後の縦軸は全て揃えています。横軸は集計月を表し、発表月ではありません。

※9 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表月(3.1項参照)。上表統計値は、上図ローソク足のみで集計。本指標よりも影響力が強い指標と同時発表されたときは、本指標での取引に適さないため分析対象外としている。

上4図を一見、極端に大きな反応がないこと、指標発表後1分間の反応が小さいこと最近は指標発表前1分間も反応が小さいこと、が読み取れます。よって、本指標での狙いは直前10-1分足と直後11分足ということになります。

また直後1分足値幅の過去平均値は0.7pipsで、反応程度は極めて小さい指標です。直後11分足順跳幅の過去平均値も2.4pipsしかありません。これではスプレッドを考慮すると、わざわざ取引するメリットがないように思えます。

けれども、直後11分足での取引の魅力を少しだけ増すと、後記4.3項に示す通り、本指標では直後11分足が直後1分足を削るか反転しがちです。つまり、直後1分足の順跳幅ピークで逆張りして直後11分足順跳幅ピークで決済すると、3.4pipsぐらいが狙いとなります。
ま、それでも小さいんですが…

2.4 2節まとめ

以上の通り、本指標とそれへの反応を大掴みに捉えると、

  • 注目すべき指数はCPI前年比・同前月比・コアCPI前年比
  • 指標発表直前直後は反応が小さすぎて狙えない
  • 本指標での取引は、直後11分足形成中に直後1分足と反転する機会を狙う(逆張り機会を窺う)

です。
取引に魅力的な指標とは言えませんね。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象3指数の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

なお、本指標本分析では、他の指標での同種分析とは異なり、実態差異判別式の解の符号と直後11分足反応方向の一致率を、影響力を見比べるためのキー・メトリクスとしています。これは、本指標への直後1分足での反応が極めて小さいため、それが取引対象にならないためです。

現時点では、まだ同時発表数が少なすぎて、本指標との影響力強弱が判定できません

東京都区部消費者物価指数」との同時発表は2020年9月集計分(2020年10月23日)です。このとき、東京都区部指数は10月集計分を部分的に発表しました(同10月集計分は2020年10月30日に全発表)。このときが特別で東京都区部指数との同時発表はもうないと思いますが、一応、同指標との同時発表時は分析対象から除きます(含めても、このときの本指標実態差異判別式の解は0なので、方向分析ができない)。

企業向けサービス価格指数」との発表も、対象期間では2019年10月18日の1度だけです。この指標は無視して良いでしょう。

すなわち、本指標は発表時刻(08:30)の関係で他の指標との同時発表が少なく、他の指標のことをあまり気にしなくても良い、が結論です。

3.2  項目間影響力分析

分析対象はコアCPI前年比CPI前年比CPI前月比でした。本指標への反応は小さいため、前回発表値の修正が行われても、反応への影響は更に小さい、と考察します。そのため、以下の判別式には、本指標の後日修正結果を反映しません。

各指数毎の各判別式

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果

と定義します。但し、CPI前年比とCPI前月比は市場予想が見当たらない場合が多く、事前差異判別式と事後差異判別式での一貫した判定ができません。そのため、それらは実態差異判別式のみを扱うことにします。

判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を求め、下表に纏めておきます。

結果、直後1分足は事後差異判別式の解の符号と逆方向に反応しがちです。他は指標取引の参考にするレベル(33%以下もしくは67%以上)に達していません。けれども、既に述べた通り、直後1分足は反応が小さすぎて取引には不向きです。こうした結果から言えることは、本指標発表前後の取引で各指数の良し悪しに個々に注目しても本指標でのFX取引の役に立たない、ということです。

そこで、上記3指数を全て踏まえた全体判別式を次のように立式します。

  • 全体判別式=A✕コアCPI前年比の差異[%]+B✕CPI前年比の差異[%]+C✕CPI前月比の差異[%]
    但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果

上式において各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率が高くなるように上式係数A・B・Cを求めます(導出過程は省略)。そして、それら係数を用いたときの全体判別式の解の符号と対応ローソク足との方向一致率を下表に纏めておきます。

※11 例えば、コアCPI前年比の(発表結果ー市場予想)が+1%だったとする。このとき、直後1分足に対応する事後差異判別式=4✕1=+4となる。解の符号はプラスなので、直後1分足はその逆、陰線となる期待的中率が72%となる。

判別式を用いて総合的な指標の良し悪しを求めても、本指標の場合は対応ローソク足が動く方向との一致率が良くありません。

3.3 3節まとめ

以上、本節の結論は

  • 他の指標との同時発表はあまり気にしなくてよい(他の指標との同時発表は少ない)
  • 本指標の良し悪しと反応方向の関係をうまく説明できる判別式はない

です。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、先の3.2項で求めた関係以上に顕著な傾向は見出せません。直後1分足は、事後差異判別式の解の符号と逆方向に反応しがちです(期待的中率71%)

さて次に、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

結果、

  • 直前10-1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の絶対値が0.9超(過去平均値の1.5倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度15%、期待的中率86%)
  • 直後11分足の反応方向は、事前差異判別式の解の絶対値が0.6超(過去平均値超)のとき、その解の符号と同じになりがち(場面発生頻度35%、期待的中率71%)

です。

直前1分足や直後1分足も、方向一致率(不一致率)の高い関係がありますが、それらはpipsが小さすぎて取引に向きません。

※12 上図において「全対象」の「場面発生頻度98%」は、分析対象期間の発表回数48回のうち反応分析の対象47回の比率。その差1回は本指標結果の良し悪しへの反応が素直にならない事例(相性の悪い指標との同時発表、3.1項参照方)。

4.2  反応一致性分析

ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、どのローソク足同士も高い一致率になっていません。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を求めてみます。

結果、

  • 本指標への反応一致性分析は取引に有益な関係が見出せなかった

です。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は57%です。しかし、方向一致率が高くても直後11分足が直後1分足よりも反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。それを検証した結果が下図です。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは43%、値幅が同方向に伸びたことは34%でした。この数字だと逆張りが良いようです。

さて、多くの指標で発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れがちです。けれども、本指標発表直後1分足の反応は小さすぎます(過去平均値0.7pips)。これほど反応が小さいと、例えば0.3pipsは0.4pipsよりも伸びが強いと言えるか、単なるブレなのか判断できません。その差に統計的な意味を見出すには、分析事例がまだ足りません。そこで、本指標本分析では、キーメトリクスに次善の直前10-1分足を用います。

下図は、直前10-1分足値幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証しています。

図から、順跳幅であれ値幅であれ、直前10-1分足の伸びが大きいほど直後11分足が直後1分足を削るか反転しがちな傾向が見えます。直後1分足の跳ねのピークを掴むのは難しいものの、過去に平均値の1.5倍(3.6pips)を超えたことは18%しかないことを参考にすればいいでしょう。結果、指標発表後の取引方針は、

  • 直前10-1分足が2.0pips超のとき、直後1分足順跳幅ピークのタイミングを計って逆張りする(場面発生頻度27%、期待的中率77%)
  • 直前10-1分足が0.7pips超のとき、直後1分足終値がついた時点で逆張りを行う(場面発生頻度54%、期待的中率69%

です。


Ⅴ. 取引成績

以上の分析結果を踏まえ、過去傾向に基づく4本足チャート各ローソク足での取引方針を下表のように策定しました。

※13 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。

なお、分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。上表取引方針も今次3.1訂版で改訂しています。

同様分析によるこれまでの実取引成績※14は下表の通りです。無理に取引するような指標ではなく、取引回数も少ないため、成績へのコメントは控えます。

※14「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

  • 初版(2017年1月27日):全国コアCPIと東京都区部コアCPIの前月比への反応を分析。
  • 改訂(2017年5月25日):上記に両分析対象に前年同月比を追加。2017年6月28日、図表書式変更。
  • 3訂(2021年3月14日):新書式反映。東京都区部CPIとの別の日に発表されるようになった2018年1月集計分以降を分析対象とし、全国コアCPI・CPIの前年同月比への反応を分析。
    3.1訂(2022年1月27日):全国CPI前月比を追加し、実態差異判別式を変更。2021年12月集計分までを反映。
    3.1.1訂(2022年3月11日):一部文言修正。

以上

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