日本景気指標「日銀短観」発表前後のUSDJPY反応分析

日銀短観※1」は、全国約1万社の調査結果に基づく景気指標で、四半期毎に発表されます。本指標は日銀の金融政策を決定する上で重要な判断材料のひとつとされています。

本指標への反応の特徴は、指標発表前後1分間の反応が小さく、取引の狙いは直前10-1分足と直後11分足の数pipsとなります。ここ数年の実績に基づけば、直前10-1分足は事前差異判別式の解の符号と同方向、直後11分足は逆方向になることが多い、という傾向があります。

多くの本指標解説記事では、大企業製造業の指数が重要との記載が目立ちます。しかしながら、それでは本指標発表後の取引で勝てません。詳しくは、以下に示す過去の本指標への実際の反応傾向をご参照願います。

※1   発表元統計名は「全国企業短期経済観測調査」。企業の業況や経済環境の現状・先行きの認識、売上高・収益・設備投資額等の事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目を調査。


Ⅰ. 分析要点
1.1  概要
発表機関
日本銀行※2
発表日時
4月初・7月初・10月初・12月央の08:50
発表内容
企業の業況・事業環境の認識・事業計画の動向調査※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容=直後11分足を狙うなら「大企業非製造業業況判断指数」「大企業全産業設備投資」の総合的な前回結果との乖離※5
  • 反応程度=かなり小さい(直後11分足平均値幅4.5pips
  • 反応方向=素直(実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向の一致率70%
  • 伸長特性=わからない、狙えない
補足説明

  • 他の指標との同時発表はあまり気にしなくても良い(3.1項参照)

※2  日本銀行は、物価の安定を図ることと金融システムの安定に貢献すること、を目的とする。最高意思決定機関は政策委員会で、その委員は国会の承認を得て内閣が任命し、総裁・副総裁(2人)・審議委員(6人)で構成される(任期5年、再任可)。意思決定は金融政策決定会合と通常会合において多数決で決する。

※3  短観は、全国企業(31業種✕資本規模3段階 ✕売上規模)に対するDI指標。本稿では、大企業(資本金10億円以上)の2業種区分(製造業と非製造業)した発表値を扱う。
調査方法は郵送とオンラインで、調査期間は発表日前約1か月(調査票は日銀HPのこちらを参照)。全国約1万社(標本母集団は約22万社と見込まれている)が調査には協力し、回答率はほぼ100%となっている。主要先進国の同種統計と比べて、母集団の大きさに占める標本数比率と回答率の高さは、本指標結果の統計精度を継続的にかなり高く保っている。

※4  下図出典は『日本銀行HP. 「短観要旨」, 2020年12月』の注目箇所を抜粋転載し、表中を当方にて記入。は本指標注目指数の大企業製造業業況判断指数・大企業製造業短観指数・大企業非製造業業況判断指数・大企業全産業設備投資

※5 上の発表引用図のように、業況判断DIの大企業の項目は製造業と非製造業に分けて発表されている。そして、多くの本指標解説記事では「製造業(大企業製造業業況判断指数と大企業製造業短観指数)の数値が重要(あるいは注目すべき)」との説明が見受けられる。しかしながら、過去の実績データを見る限り、この説明は指標取引を行う上で記事を参考にする読者をミスリードしかねない。なぜなら、本稿3.2項に示す通り、大企業製造業業況判断指数と大企業製造業短観指数の市場予想や前回結果との改善/悪化は、反応方向に関係ない。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

※6  本表の詳細説明はこちら。なお、本指標での取引実績はまだ少なく、上記方針の妥当性はまだ検証途中である。


Ⅱ. 分析対象

分析対象は「日銀短観」における

  • 大企業製造業業況判断指数:在庫の影響を受けやすく、一般的には最重要視される
    (以下「製造業業況」と略記)
  • 大企業製造業短観指数:多くの部品・製品リードタイムとされる3か月後の予想
    (別称「先行き指数」といい、以下「製造業短観」と略記)
  • 大企業非製造業業況判断指数:一般的に製造業の変化がないとき・見込めないときは参考にされる
    (以下「非製造業業況」と略記)
  • 大企業全産業設備投資:土地投資を含みソフトウェアを含まない
    (以下「設備投資」と略記)

の4指数と、その発表前後のチャートの反応です。分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。

※7 分析対象期間の発表回数と分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。

2.1  指標推移と統計値

各指数の過去の推移を下図に示します。図の配置は、製造業業況(上左)・非製造業業況(下左)・製造業短観(上右)・設備投資(下右)、となっています。

※8  上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。

グラフ推移を単純化して説明します。

2016年は世界景気後退による輸出減少が日本の対中対米輸出を減少させました。
それが17年には回復し、同年末には輸出伸長によって大企業製造業業況を最大化しました。しかしながら17年に就任した米大統領は、貿易・安保への個性的なリーダーシップを発揮し、やがてそれが対中対米貿易を難しくしました。更には、19年10月に消費税が増税され、非製造業業況が急激に悪化し始めていました。そこに20年のコロナ禍です。結果、製造業業況は20年1-3月期に、非製造業業況は同年4-6月期にマイナスに転じました。
製造業・非製造業の業況がプラスに復したのは21年4-6月期からです。TVや新聞では、飲食・宿泊業や旅客・旅行業の苦境報道が目立つものの、少なくとも大企業の景気判断や見通しは改善が続いていました。

2.2  反応結果と統計値

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図は直前10-1分足(上左)・直前1分足(上右)・直後1分足(下左)・直後11分足(下右)と配置し、縦軸は全て揃っています。

上4図を見る限り、極端に大きな反応がないことと、2017年後半以降は指標発表前後1分間の反応が小さくなったことがわかります。最近の指標発表前後1分間の反応が小さすぎる点を踏まえると、本指標での狙いは直前10-1分足と直後11分足ということになります。

また上図からは、直前10-1分足は3~5pips程度、直後11分足は3~7pipsが狙いということがわかります。

次に、上図各ローソク足の統計値を下表に一覧に纏めておきます。

直後1分足値幅(跳幅)の過去平均値はたった1.7pips(2.6pips)で、しかも過去44%(48%)の事例ではその半分以下しか反応していません。更には後記4.3項に示す通り、直後1分足終値よりも直後11分足終値が同方向に反応を伸ばしたことも過去44%の事例しかありません。

2.3  2節まとめ

本節結論は

  • 取引に当たっては、他の多くの指標での取引のように直後1分足を狙えない(狙って、それが当たってもpipsは稼げない)
  • 本指標取引の狙いは、直前10-1分足と直後11分足

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象4指数の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標との影響力比較結果を下表に一覧します。

上表から、他の指標と同時発表が行われた実績がまだ少なく、あと数年は様子を見る必要があります。ただ、少ない実績から敢えて結論を言えば分の悪い取引を避けるには「外国債券購入額」との同時発表時は本指標での取引を避けた方が無難です

3.2  項目間影響力分析

分析対象は、製造業業況非製造業業況製造業短観設備投資でした。4指数いずれも後日修正は滅多に行われていません。よって、それぞれの指数毎判別式

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回結果

と定義します。

このとき、指数毎の判別式の解の符号対応ローソク足値幅方向の一致率は下表の通りでした。

判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率はどれも良くありません。この結果から言えることは、本指標発表前後の取引で個々の指数の良し悪しに注目してもFX取引の役に立たない、ということです。

本稿記述に先立ち、ネット上の多くの本指標解説記事に目を通しました。そして、それら記事のほとんどが「重要なのは大企業製造業の指数の良し悪し」と、読者に助言するものでした。
しかしながら上表に纏めた通り、本稿の分析対象期間(本稿執筆時点から直近31回の発表事例)において、そうした助言は間違っていると言わざるを得ません。重要だという製造業業況や製造業短観の結果がどうあれ、その良し悪しと反応方向は関係ないのです。
むしろ、製造業指数の市場予想と発表結果の乖離方向(製造業業況や製造業短観の事後判別式の解の符号)と直後1分足の反応方向は、そういった助言に敢えて反するように逆張りした方が取引成績が良かったはずです。
これではFXのためにその記事を読んだ人をミスリードしかねません。こうした現象が、短観発表の前から既に織り込みを終えることが多く、そのため発表時点での反応がないというのなら、指標解説記事はそう書くべきでしょう。
本サイトは一般論でなく、その指標発表前後の短期取引で分の良い勝負をするための傾向を実際のデータに基づき記載することにしています。結論を言えば、本指標への反応は大企業全体の主要指数の結果が総合的に反映されるため、個々の指数の良し悪しを漠然と見ても反応方向がわからない、です。問題は大企業全体の主要指数の結果を総合的に反映するとはどういうことか、です。

そこで、上記4指数を全て踏まえた全体判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕製造業業況の差異[ips]※9+B✕非製造業業況の差異[ips]+C✕製造業短観の差異[ips]+D✕設備投資の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果

※9 ipsは、index pointsの略記。

上式において各係数を下表のように決めると、全体判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率が下表右端のようになります。

※10  例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、ー1✕製造業業況の(発表結果ー市場予想)ー1✕非製造業業況の(発表結果ー市場予想)ー2✕製造業短観の(発表結果ー市場予想)、となる。そして上表は、この式の解の符号と直後1分足が過去73%方向一致した、と読む。

これで、本指標発表前後の反応方向は、全体判別式の解の符号(総合的な指標結果の良し悪し)で70%以上説明できるようになりました。

3.3  本節結論

以上、本節の結論は

  • 外国債券購入額との同時発表時は本指標での取引を避けた方が無難
  • 本指標の良し悪しの予想や結果は、個別の指数でなく総合的に捉える必要があり、そうした場合の本指標への反応方向は素直
  • 本指標の良し悪しを総合的に捉えるための判別式は次の通り
    • 直前10-1分足に対応する事前差異判別式=ー2✕非製造業業況の(発表結果ー市場予想)[ips]+1✕製造業短観の(発表結果ー市場予想)[ips]+1✕設備投資の(発表結果ー市場予想)[%]
    • 直後11分足に対応する実態差異判別式=1✕非製造業業況の(発表結果ー前回結果)[ips]ー3✕設備投資の(発表結果ー前回結果)[%]

です。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、取引の狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、先の3.2項で求めた関係以上に顕著な傾向は見出せません。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

結果、

  • 直前10-1分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが6.0以下(ほぼ過去平均値以下)のとき、その解の符号と同じになりがち(場面発生頻度55%、期待的中率76%超)
  • 直後11分足の反応方向は、事前差異判別式の解の大きさが3.0超(過去平均値の約0.5倍超)のとき、その解の符号と逆になりがち(場面発生頻度58%、期待的中率72%超)

です。直前1分足や直後1分足も、上図から70%以上の方向一致率となる条件が見出せるものの、それらの反応は小さすぎることがわかっているので省略します。

4.2  反応一致性分析

ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。最もドット分布が直線状に並んだΔ直後1分足-Δ直後11分足の関係も、相関係数は0.21しかありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

方向の情報だけを取り出しても、どのローソク足同士も高い一致率になっていません。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を求めてみます。

結果、

  • 直後11分足の反応方向は、直前10-1分足値幅が3.2pips超4.8pips以下(過去平均値超、同1.5倍以下)のとき、それと同じになりがち(場面発生頻度9%、期待的中率70%以上)

です。直前1分足も、上図から70%以上の方向一致率となる条件が見出せるものの、その反応は小さすぎることがわかっているので省略します。。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は54%しかありません。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは48%、値幅が同方向に伸びたことは44%でした。この数字では追撃できないし、逆張りするにも不安です。

さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。そこで、本指標発表時の直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

結果、

  • 本指標発表後の追撃は分が悪く、かと言って逆張りもできない

です。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。

本指標での取引実績はまだ1度しかありません。取引回数が少ないため、成績へのコメントは控えます。

※11 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。


関連リンク

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改訂履歴

初版(2021年3月4日)新規。2014年4-6月期集計分から2020年7-9月期集計分までの発表27事例を定型分析。
1.1版(2022年1月16日)2021年10-12月期集計分までの発表31事例を分析。

以上

 

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