独国実態指標「製造業新規受注」発表前後のEURJPY反応分析
独国「製造業新規受注※1」は、反応が小さい上、発表結果の良し悪しへの素直な反応もほどほどにしか期待できません。ただ、直後1分足が過去平均値を超えた場合は追撃に適しており、その場合は直後11分足順跳幅の過去中央値の7.8pipsが狙えます。
※1 発表元指標表記は「Auftragseingang im Verarbeitenden Gewerbe(製造業受注量)」。
Ⅰ. 分析要点
1.1 概要
発表機関 連邦統計局※2(Statistisches Bundesamt:StBA) |
発表日時 当該月の翌々月上旬15:00(冬時間16:00=現地時間08:00) |
発表内容 従業員20名以上の製造業者が国内製造する受注量と受注額の指数※3(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明 |
※2 ドイツ連邦統計局は内務省の部局で、約380の統計データの収集・処理・普及を実施。同局の統計は連邦目的統計法によって規制され、欧州統計システム(ESS)及び欧州統計行動規範に準拠している。
※3 独国製造業が名目GDPに占める割合は23%(参考:米国11%、日本20%、英国10%、仏国11%:2018年)。この数字は主要先進国において最も高い。調査対象は、製造部門に20人以上の従業員を有する企業が国内製造する製品の受注額(除付加価値税)。指数化は2015年を基準としている。
※4 添付画面は『独国連邦統計局, 「Pressemitteilung Nr. 007.(プレスリリース 第7号)」, 2021年1月7日』の巻頭部分を抜粋。▢は当方にて記入し、上▢に囲まれた数値が「前月比」、下▢に囲まれた数値が「前年同月比」。プレスリリース版の本文は、受注量と受注額のEU域内・域外・全体のグラフ推移が示される。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
対象は、独国製造業新規受注における
- 前月比
- 前年同月比(以下「前年比」と略記)
です。
両指数の過去推移を下図に示します。
図の配置は、前月比(上)・前年比(下)、となっています。
※6 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。
上図⇨の部分が分析対象です。2018年9月集計分以前の前年比の市場予想はありません。
コロナ禍の時期の急激な落ち込みと回復を除くと、前月比は±5%、前年比は±10%、に以前からだいたい収まっています。
また、その時期を除くと、前月比の市場予想はほぼ一定で、前年比の市場予想は明らかに前回発表結果を追いかけています。このように、本指標の市場予想はエコノミストらのやる気を疑うような推移が特徴的です。その結果、後記3.2項に示した通り、発表結果と市場予想の大小関係と指標発表直後の反応方向の相関は低い指標です。
次に、対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)、です。
※7 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表月(3.1項参照)。
上図を見る限り、極端に大きな反応がないことと、直後1分足の反応が小さいことがわかります。こうして眺めてみると、指標発表前後1分間は予想が難しい割に利益に結び付かないことがわかります。利確/損切の目安は、直前10-1分足が5pips程度、直後11分足が10pips弱付近、と捉えておけば良いでしょう。
次に、上図各ローソク足統計値を示します。
※8 上表では反応分析対象外の期を集計していない。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は2.2pipsで、反応程度は非常に小さい指標です。けれども1足内反転率は低く、長いヒゲを残して反転する可能性が低い点は取引のしやすさを示唆しています。分布にはこれといった特徴がありません。
Ⅲ. 指標分析
以下の指標分析の対象範囲は下表の通りです。
反応データが入手できているのは2017年9月集計分以降です。そして、前期比の市場予想は以前から毎回入手できるものの、前年比の市場予想は2018年10月集計分以降しか入手できていません。発表結果は、ほぼ毎回、翌月発表時に修正されています。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
まだ同時発表の実績が少ないものの、他の指標との同時発表時の取引は避けた方が良さそうです。現状はまだ、影響力強弱の信頼性が低く、あと数年は注目しておく必要があります。
※9 小売売上高との同時発表は2018年11月集計分、生産者物価指数との同時発表は2018年8月集計分、金融関連との同時発表は2020年6月・8月集計分のBOE金融政策発表。
3.2 項目間影響力分析
対象は、前月比・前年比、でした。
それぞれの判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回修正結果(前回結果が修正されない場合は前回結果を代入する)
です。例えば、前月比の発表結果と市場予想の差は「前月比の事後差異判別式の解」と言います。
このとき、各判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
※10 前年比の事前差異・事後差異との一致率は2018年10月集計分以降、前月比の各差異と前年比の実態差異の一致率は2017年9月集計分以降。
各判別式の解の符号と対応ローソク足の方向一致率は良くありません。こうした指標では、各指数の良し悪しやその程度がまちまちだったとき、どの指数が反応方向に影響するのかを見極めることが難しいものです。そうした場合も想定して各項目のチャートへの影響力を求めるため、これら指数による全体判別式を次のように立式します。
- 全体判別式=A✕前月比の差異+B✕前年比の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回修正結果
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
※9 例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、ー1✕前期比の(発表結果ー市場予想)ー3✕前年比の(発表結果ー市場予想)、となる。そして、上表はこの式の解の符号と直後1分足が過去65%方向一致と読む。
判別式をそのまま用いても、あまり高い方向一致率にはなっていません。
参考までに、各判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
各判別式の解の標準偏差を見ると、事後差異判別式の解が事前差異・実態差異のそれとほぼ変わりません。これは、本指標の市場予想の精度が低いことを表しています。
Ⅳ. 反応分析
以下の反応分析の対象範囲は下表の通りです。
対象期間の発表で分析対象外となっているのは、3.1項記載理由の4回です。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
※10 コロナ禍時期のドットは上グラフ外にある。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します(上図外にあるコロナ禍時期のデータも反映)。
結果、判別式の解の符号と各ローソク足方向は、あまり高い一致率を示していません。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。
結果、
- 指標発表後の反応方向は、事前差異判別式の解の絶対値が12.0超(過去平均値超)のとき、その解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度23%、期待的中率67%以上)
といった傾向があります。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します。
指標発表前のローソク足方向が発表後のローソク足方向を強く示唆している兆しはありません。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。下図は、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を纏めています。
結果、直前10-1分足の大小が、その後で形成されるローソク足方向を示唆している兆しは見受けられません。
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は71%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
結果、直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは63%、値幅が同方向に伸びたことは57%でした。この数字では、直後1分足を見て追撃すべきかを判断できません。
さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
結果、
- 直後1分足順跳幅が3.5pips超(過去平均値超)に達したら、直ちに追撃した方が良い(場面発生頻度33%、期待的中率85%)
- 直後1分足順跳幅が3.5pips超(過去平均値超)のとき、直後1分足終値がついたら追撃した方が良い(場面発生頻度33%、期待的中率67%)
4.4 過大反動分析
本分析は全体判別式の解に対して行います。なお、全体判別式の形式は3.2項に記した通りです。
前月の実態差異判別式の解の絶対値の大きさ毎に、当月の事後差異判別式の解の過大反動分析を行った結果を下表に示します。
※11 前月発表結果が前々回のそれより大きく乖離したとき、その逆方向に当月発表結果が市場予想を超えて反動を起こすことを「過大反動」と定義。データ処理は、前月の実態差異判別式の解の絶対値毎に、当月の事後差異判別式の解の符号が前月と反転したか否かを判定。
結果、前月の実態差異判別式の解がどうあれ、本指標は過大反動を起こしやすい、と言えます(上表「過大反動率」参照)。
次に、前月実態差異判別式の解の絶対値の階層毎に当月の直前10-1分足と直後1分足の反応方向を検証しておきます。
結果、
- 直前10-1分足は、前月の実態差異判別式の解の大きさがどうあれ、反応方向はわからない
- 直後1分足は、前月の実態差異判別式の解の大きさが12超のとき、その解の符号と逆方向に反応しがち(場面発生頻度26%、期待的中率70%)
といった傾向がありました。
※12 当月の反応方向が前月実態差異判別式の解の符号と逆方向のときが「過大反動が起きたときの方向」。
なお、上表「全数」の「直後1分足」「判定回数」が21回となっています。その理由を下表に整理しておきます。
4.5 同期/連動分析
本分析は、本指標と比較対象指標が単月毎の増減方向の同期や追従の有無を検証しています。
4.5.1 独国製造業PMI改定値と本指標前月比の対比
対比は単月毎の増減方向について行います。
両指標の推移を下図に示します。なお、本指標前月比の数値には50を加えてプロットしています。
両指数の意味が異なるため、同じグラフ上に推移をプロットしても増減方向の一致/不一致がわかりにくくなっています。そこで、数式処理して単月毎の増減一致率を求め、それを下図に示します。
上図横軸は「製造業PMI改定値よりも本指標前月比が〇か月遅行/同期/先行」と読み、縦軸は「単月毎の増減方向一致率」を表しています。そして、景気指標のPMIが本指標よりも遅行している上図左半分の一致率は、偶然の一致のばらつき範囲を示している、と考えられます。そうすると、両指標は同期して増減しがち(但し、その一致率は59%と低い)、と解釈すべきでしょう。
そこで、上図において一致率が最も高い同期時について、本指標発表前後の反応方向を調べておきました。
上表から結論は「同月集計分の製造業PMI改定値の前月からの増減は、本指標発表前後の反応方向と関係ない」です。
4.5.2 独国Ifo企業景況指数と本指標前月比の対比
次に、Ifo景況指数と本指標前月比の単月毎の増減方向について対比します。
両指標の推移を下図に示します。なお、本指標前月比の数値には100を加えてプロットしています。
両指数の意味が異なるため、同じグラフ上に推移をプロットしても増減方向の一致/不一致がわかりにくくなっています。そこで、数式処理して単月毎の増減一致率を求め、それを下図に示します。
上図横軸は「Ifo景況指数よりも本指標前月比が〇か月遅行/同期/先行」と読み、縦軸は「単月毎の増減方向一致率」を表しています。そして、景気指標のIfo景況指数が本指標よりも遅行している上図左側の一致率は、偶然の一致のばらつき範囲を示している、と考えられます。そうすると、Ifo景況指数は本指標よりも6か月先行して増減しがち(但し、その一致率は56%と低い)、と解釈すべきでしょう。
そこで、上図において一致率が最も高い6か月先行について、本指標発表前後の反応方向を調べておきました。
上表から結論は「6か月前集計分のIfo景況指数の前月からの増減は、本指標発表前後の反応方向と関係ない」です。まぁ6か月前ですからねぇ。
Ⅴ. 取引成績
本指標の取引実績はまだありません。
関連リンク
改訂履歴
初版(2020年2月4日)
以上