独国経済指標「四半期GDP速報値」発表前後のEURJPY反応分析
Ⅰ. 分析要点
1.1 概要
独国「四半期GDP※1」は、速報値結果が後日発表の改定値発表時に改定されることが少ない指標です。
よって、取引では本稿「速報値」だけ注目しておけば十分です。
但し、反応が小さい上に、発表後にそのまま初期反応方向に伸び続けることも多くはないので、どちらかと言えば取引が難しい指標になります。
※1 発表元の本指標表記は「Bruttoinlandsprodukt (BIP:国内総生産)」。
発表機関 連邦統計局※2(Statistisches Bundesamt:StBA) |
発表日時 当該期の翌月下旬15:00(冬時間16:00=現地時間08:00) |
発表内容 当該四半期の独国GDP※3(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明
|
※2 ドイツ連邦統計局は内務省の部局で、約380の統計データの収集・処理・普及を実施。同局の統計は連邦目的統計法によって規制され、欧州統計システム(ESS)及び欧州統計行動規範に準拠している。
※3 下図出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載の2018年数値を抜粋(グラフ化は当方にて実施)。独国GDPの特徴は、鉱工業(含製造業)の比率が新興国並みに高く、貿易収支のGDP寄与が先進国で最も高い。その結果、独国経済の貿易依存度(輸出額と輸入額の合計を名目GDPで割った比率)が極めて高く、71%にも達する(貿易依存度参考値:米20%、中34%、日28%、豪33%)。貿易依存度の大きさはEU域内の流通が盛んなことが一因で、収支黒字はEU域外からが大きい。
※4 下表出典は『独国連邦統計局, 「Pressemitteilung Nr. 432(プレスリリース 第432号)」, 2020年10月30日』より抜粋。表中▢は当方にて記入し、下表最下段の左側▢に囲まれた数値が最新の「前期比」、右側▢に囲まれた数値が最新の「前年同期比」。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
対象は、2013年1-3月期集計分から2020年7-9月期集計分の独国四半期GDP速報値における
- 前期比
- 前年同期比(以下「前年比」と略記)
です。
各指数の過去推移を下図に示します。
図の配置は、前期比(上)・前年比(下)、となっており、前期比の図はコロナ禍の時期以前の上下動を拡大しています。
※6 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。
グラフ縦軸尺度が異なるためわかりにくいのですが、前期比も前年比も標準偏差はほぼ同程度です。
そして、市場予想の精度が高く(後記3.2項参照)、速報値の精度が高い(改定値発表で速報値と同値が多い:Ⅲ節参照)ことが読み取れます。
これらのことは、本指標への反応方向の予測が難しいことに繋がります。
次に、対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)、です。
※7 上図における歯抜け箇所は、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表期(3.1項参照)と、チャートが入手できなかった集計期、です。
上図を見る限り極端に大きな反応がないことと、直前10-1分足が長いヒゲを残すことが多いことがわかります。
利確/損切の目安は、直前10-1分足が5pips程度、直後11分足が20pips弱付近、と捉えておけば良いでしょう。
次に、上図の各始値基準ローソク足の統計値を示します。
※8 上表では反応分析対象外の期を集計していない。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は4.5pipsで、反応程度はかなり小さい指標です。
直前10-1分足の1足内反転率が高い指標であり、先述のヒゲを残しがちな過去実績も踏まえると、高値や安値を叩いて戻したときは再び叩きに戻すのを待つより諦めた方が良いことを示唆しています。
分布を見ると、直前10-1分足順跳幅は過去平均値の0.5倍超1.5倍以下に77%が集中しています。
また、直後1分足値幅は、過去平均値以下に63%、過去平均値の1.5倍超に32%、と反応する/しないがはっきり分かれています。
これは、本指標の市場予想の精度が高いことに関係している、と推察されます。
Ⅲ. 指標分析
以下の指標分析の対象範囲は下表の通りです。
前期比・前年比とも市場予想は毎回あり、ごくたまに改定値で速報値の修正が行われています。
但し、前期比・前年比とも上記修正のうち2回はコロナ禍の時期なので、本速報値の精度が高いことがわかります。
なお、改定値が翌期速報値発表時に修正されたこともありますが、それは本稿で扱いません。
以下、3.1項は全発表事例に対して分析を行っています。
3.2項以降は「本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表期(延べ11回)」と「チャートが入手できなかった期(延べ3回)」を除いた19事例の分析を行っています。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
結果、消費者物価指数(CPI・HICP)との同時発表時は、本指標での取引を控えた方が良さそうです。
3.2 項目間影響力比較分析
対象は、前期比・前年比、でした。
それぞれの判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回改定値
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回改定値
です。
例えば、前期比の発表結果と市場予想の差は「前期比の事後差異判別式の解」と言います。
このとき、各判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
各判別式の解の符号と対応ローソク足の方向一致率は、どの指数も大差ありません。
こうした指標では、各指数の良し悪しやその程度がまちまちだったとき、どの指数が反応方向に影響するのかを見極めることが難しいものです。
そうした場合も想定して各項目のチャートへの影響力を求めるため、これら指数による全体判別式を次のように立式します。
- 全体判別式=A✕前期比の差異+B✕前年比の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回改定値、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回改定値
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
※9 例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、3✕前期比の(発表結果ー市場予想)+2✕前年比の(発表結果ー市場予想)、となる。そして、上表はこの式の解の符号と直後1分足が過去89%方向一致と読む。
以上の通り、各判別式の係数を上表のように決めると、少なくとも過去の指標発表直後のローソク足方向がほとんど説明できます。
そして上表の係数から、指標発表直後以外は前期比よりも前年比の影響力が強い、ということがわかります。
参考までに、各判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
上表から、前期比の事後差異判別式の解は、前回の解±0.3、の範囲に過去70%弱が収まっています。
また、各判別式の解の標準偏差を見ると、事後差異判別式の解のものがかなり小さいことがわかります。
これは、本指標の市場予想の精度の高さを表しています。
3.3 利得分析
分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。
事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は、過去平均で4.8pipsです。
コロナ禍に見舞われた2020年は事前差異・実態差異判別式の解の絶対値が大きくなった一方、事後差異判別式の解の絶対値は例年とあまり変わりません。
一方、2020年の反応程度は以前より半減しています。
Ⅳ. 反応分析
以下の反応分析の対象範囲は下表の通りです。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
※10 コロナ禍時期のドットは上グラフ外にある。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します(上図外にあるコロナ禍時期のデータも反映)。
事前差異判別式の解の符号は指標発表前の反応方向との一致率が高く、事後差異・実態差異判別式の符号は指標発表後の反応方向との一致率が高く、本指標が素直な反応をすることがわかります。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。
結果、
- 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度13%、期待的中率67%)
- 直後1分足は、事前差異判別式の解の符号と逆方向になりがち(場面発生頻度61%、期待的中率68%)
- 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0超のとき、その解の符号と同方向になりがち(場面発生頻度13%、期待的中率75%)
といった傾向があります。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します。
結果、
- 直後1分足・直後11分足は、直前1分足値幅と逆方向になりがち(場面発生頻度61%、期待的中率71%)
です。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。
下図は、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を纏めています。
結果、
- 直前1分足は、直前10-1分足値幅が1.2pips超のとき、その逆方向になりがち(場面発生頻度45%、期待的中率67%)
- 直後1分足・直後11分足は、直前10-1分足値幅が2.4pips超のとき、それと同方向になりがち(場面発生頻度23%、期待的中率71%)
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は63%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
結果、直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは53%、値幅が同方向に伸びたことは47%でした。
この数字では、指標発表直後に追撃すべきか逆張りすべきかを判断できません。
さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
まずは順跳幅方向です。
次に値幅方向です。
これらの結果は、
- 直後1分足順跳幅が10.0pips超に達したら、その時点もしくは直後1分足終値がついた時点で追撃を開始すると良い(場面発生頻度13%、期待的中率75%)
ということになります。
Ⅴ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。
まだ取引回数が少ないため、成績へのコメントは控えます。
※11 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。
関連リンク
改訂履歴
初版(2017年2月13日)
改訂(2017年8月14日)
3訂(2018年8月11日)
4訂(2021年1月22日)新書式反映、指標間影響力比較分析結果を反映して判別式の変更
以上