英国実態指標「四半期GDP速報値」発表前後のGBPJPY反応分析
本稿は、英国実態指標「四半期GDP速報値※1」発表前後のGBPJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
2018年7月以降、月次GDPが発表されるようになったことに伴い、それまで当該期終了後30日以内に発表されていた“旧”四半期GDP速報値発表が中止されました。代わりに、当該期終了後6~7週後に本指標(“新”四半期GDP速報値)が発表されるようになりました。
速報性のある月次GDPの公開開始によって、四半期GDPの位置づけを相対的に低下させた、と考えられます。けれども、チャート上の反応への影響力は、実績から言って、新四半期GDP速報値>月次GDP、です。この現象は、月次GDPの速報性よりも、新四半期GDP速報値の信頼性が高い(カバーしている裏付けデータが多く、多面的に捉えている)ことが原因かも知れません。
※1 発表元の本指標表記は「GDP first quarterly estimate(四半期GDP一次見積)」。
Ⅰ. 指標要点
1.1 概要
発表機関 国家統計局(Office for National Statistics:ONS)※2 |
発表日時 当該月最終日から6~7週後の15:00(冬時間16:00:現地時間07:00)※3 |
発表内容 生産アプローチ中心に算出した付加価値を四半期で集計※4(発表事例※5) |
反応傾向 |
補足説明
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※2 英国国家統計局(ONS)は、経済・人口・社会に関係する統計の収集と公表を業務とする議会直属組織。ONSのHPの「About us」では、内閣(政権)とは独立している点が明記されている。
※3 GDPは、生産(Output approach)・支出(Expenditure approach)・所得(Income approach)のどの視点から算出しても一致することが知られている(3面等価の原則)。がしかし、GDP一次見積時点では、生産関連データの信頼性が高い傾向がある。そのため、ONSは、支出関連データや所得関連データを生産関連データに合わせて調整している。結果的に、一時見積時点では、生産関連データが約80%、支出関連データが約60%、所得関連データが約40%となっている。
※4 下図出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載の2018年数値を抜粋(グラフ化は当方にて実施)。支出項目別において民間最終消費は、別名「個人消費」と英用語(Private Consumption)直訳が使われることがある。ところが、民間最終消費には、個々人の消費支出だけでなく、民間企業の消費支出も含まれている。
※5 通例、発表画面最初の「Main points(主なポイント)」項に、文書形式で当該期の前期比・前年同期比の数値が示されている。
1.2 結論
次節以降では、本指標での過去データにのみ基づき、本指標発表前後の反応傾向を抽出しています。その傾向に基づく取引方針が下表です。
※6 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。
Ⅱ. 分析対象
対象指標は、
- 四半期GDP前期比(以下「前期比」と略記)
- 四半期GDP前年同期比(以下「前年比」と略記)
で、対象期間は下表の通りです。
対象期間は、巻頭に記した通り、2018年8月発表(同年4-6月期集計分)以降です。本指標発表結果の修正は翌月下旬の改定値発表時にしばしば行われています。2020年5月発表(同年1-3月期集計分)以降は、発表時刻が現地時間07:00に変更されています。
2.1 指標推移と統計値
対象期間における指標推移を下図に示します(赤線より右側が対象期間)。
図の配置は、前期比(左)・前年比(右)です。
※7 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
コロナ禍の落ち込みに比べれば、それまでの凸凹などないようなものです。
2.2 反応結果と統計値
対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足(以下、単に「ローソク足」と略記)を下図に示します。
図の配置は、左から直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の順になっています。
対象期間における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧しておきます。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は8.0pipsで、反応程度は小さい指標です。GDP速報値というと大きく反応しそうな気がしますが、平均的にはそんなことはありません。
Ⅲ. 指標分析
本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象2指数の反応への影響度を求めます。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に示します。
どの指標であれ、本指標よりも反応方向への影響力が弱いようです。結論、本指標発表時に同時発表指標のことを気にする必要はありません。
3.2 項目間影響力比較分析
対象項目は前月比と前年比でした。まずは上記指数毎の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
指標発表前は前年比事前差異判別式の解の符号と逆方向、指標発表直後は前年比事後差異判別式の解の符号と同方向、指標発表後暫くすると前期比実態差異判別式の解の符号と同方向、に反応方向がなりがちです。
次に、総合判別式を次のように立式します。
判別式=A✕前月比の差異[%]+B✕前年比の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー改定結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー改定結果
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
以上の通り、各判別式の係数を上表のように決めると、指標発表前後のローソク足方向がかなり説明できることがわかりました。
Ⅳ. 反応分析
本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を下図に示します。
指標発表後の反応方向を示唆するような関係は見出せません。指標発表前は、直前10-1分足と直前1分足が事前差異判別式の解の符号と逆方向になりがちです。
4.2 反応一致性分析
4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を下図に示します。
直前10-1分足は、指標発表後の反応方向を示唆しがちです。また、直前1分足は、直後1分足の反応方向の逆方向になりがちです。
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は78%でした。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足値幅方向に対し、直後11分足は値幅を削るか反転しがちです。本指標は追撃には不向きです。
Ⅴ. 取引成績
まだ、取引実績はありません。
関連リンク
改訂履歴
初版(2020年11月12日) 新規、2020年4-6月期集計分までを反映
以上