英国実態指標「月次GDP」発表前後のGBPJPY反応分析
本稿は、英国実態指標「月次GDP※1」発表前後のGBPJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
本指標は、2018年7月から発表されるようになりました。当局者コメントでは「速報性と精度向上に繋がる改革によって、政府や中銀への政策判断材料を迅速に提供すること」が狙いです。
※1 発表元の本指標表記は「GDP monthly estimate」。
Ⅰ. 指標要点
1.1 概要
発表機関 国家統計局(Office for National Statistics:ONS)※2 |
発表日時 当該月最終日から約40日後の15:00(冬時間16:00:現地時間07:00) |
発表内容 英国の生産アプローチによる付加価値の月次集計※3(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明
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※2 英国国家統計局(ONS)は、経済・人口・社会に関係する統計の収集と公表を業務とする議会直属組織。ONSのHPの「About us」では、内閣(政権)とは独立している点が明記されている。
※3 月次GDPは生産アプローチでの計算結果に基づく。生産アプローチによる付加価値は、サービス指数(Index of Services)・生産指数(Index of Production)・建設生産高(Construction output)等によって算出される。
※4 通例、発表画面最初の1項に文書形式で当該月結果の前月比・前年比の数値と前月比のグラフが示されている。
1.2 結論
次節以降では、本指標での過去データにのみ基づき、本指標発表前後の反応傾向を抽出しています。
その傾向に基づく取引方針が下表です。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。
Ⅱ. 分析対象
2.1 対象範囲
本指標で分析対象とする指数は、
- 月次GDP前月比(以下「月次GDP」と略記)
- 月次GDP対3か月前比(以下「GDP対前3か月」と略記)
です。
発表は集計月の2か月後(3月発表指数は1月に集計された値)となります。GDP対前3か月前は、3か月前の月次GDPと比べた変化です(6月発表値は、4月集計値の1月集計値からの変化)です。
指標分析の対象範囲は下表の通りです。
発表回数と分析回数に差がある理由は、後記3.1項記載の通り、本指標よりチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を除いているためです。そして、GDP対前3か月の市場予想は見つからない場合がしばしばあります。また、発表結果の修正は翌月発表時にしばしば行われています。
次に、反応分析の対象範囲を下表に纏めておきます。
2020年4月発表以降は、発表時刻が現地時間06:00に変更されています。
2.2 指標推移
対象期間における指標推移を下図に示します。
図の配置は、月次GDP(左)・GDP対前3か月(右)です。
※6 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
コロナ禍による落ち込みと回復が大きく、それ以前のグラフが読み取れないため、2020年1月集計分以前を拡大しています。
参考までに各項目毎の統計値を下表に示しておきます。
そして、各項目毎の判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
上表「総合」とは、後記3.2項で示す総合判別式の解の統計値です。
2.3 反応結果
対象期間における4本足チャート各ローソク足を始値基準で下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
歯抜け箇所は、3.1項記載理由に依り反応分析対象外の月です。
さて、対象期間における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧しておきます。
先述の通り、2020年4月発表からは、発表時刻が現地時刻06:00に変更されています。発表時刻の変更前後における各ローソク足の順跳幅と値幅の平均値を下表に纏めておきます。
さすがに6時発表になってからは、反応程度が小さくなっています。
Ⅲ. 指標分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
上表「比較発表指標」名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。
貿易収支や鉱工業生産指数・製造業生産指数は、本指標発表開始(2018年7月)以降、ずっと本指標と同時発表されています。
また、GDP速報値は3か月毎に発表され、毎回、本指標と同時発表されています。そして、GDP速報値が発表されるときは本指標での取引を控え、GDP速報値の特徴に応じて取引した方が良いでしょう。
独国CPIや独国WPIとの同時発表はまだ少ないものの、それらと同時発表時には本指標結果に素直な反応となっていません。もう暫く何度か同時発表が行わるときに注目した方が良いものの、とりあえず慎重にそれらと同時発表時の本指標での取引も止めておきましょう。
結論、英国GDP速報値・独国CPI・独国WPIとの同時発表時は、本指標での取引を避けましょう。
3.2 項目間影響力比較分析
分析対象は、月次GDP・GDP対前3か月、でした。
それぞれの各判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー修正結果
但し、前回結果の修正が行われなかった場合には、上式「修正結果」を「前回結果」と読み替える
です。
このとき、各指数の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
目を引くような高い方向一致率はありません。
次に、月次GDP・GDP対前3か月の2項判別式を次のように立式します。
- 判別式=A✕月次GDPの差異+B✕GDP対前3か月の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果
上式において、各判別式の係数と、その解の符号と対応するローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
例えば、先の判別式の形式と上表から、本指標の事後差異判別式は、
4✕月次GDPの(発表結果ー市場予想)+5✕GDP対前3か月の(発表結果ー市場予想)
となり、この式の解の符号と直後1分足は、過去73%の方向一致率です。
以上の通り、各判別式の係数を上表のように決めると、過去の本指標発表前後10分程度の反応方向を2/3~3/4ぐらい説明できました。
Ⅳ. 反応分析
以下、各項タイトルの分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
いずれも相関係数R2値が低く、回帰式による予想はアテにできません。
それでも上図には利用価値があります。どのグラフにせよ、グラフの右上4分の1の領域(第一象限)と左下4分の1の領域(第3象限)に集まるドットが多いほど、本指標が素直に反応していることを直観的に把握できます。このことを定量的に表すため、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を下図に纏めておきました。
事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は73%の一致率で、反応方向は発表結果の市場予想との乖離方向に素直です。この傾向は、事後差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向も73%もの一致率なので、指標発表後10分を過ぎても持続しがちなことがわかります。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上左図と上中図は回帰式が意味を持ちません。上右図は比例的で、直後1分足値幅に対し直後11分足値幅は平均的に2.0%伸び、平均的な誤差は16%です。
そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください
直前1分足は陰線率が69%と、偏りがあります。また、直後1分足と直後11分足の値幅方向の一致率は94%にも達しています。そして、直前1分足と直後1分足は、直前10-1分足とは逆方向になりがちです。
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は94%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは30%、値幅が同方向に伸びたことは26%でした。
直後1分足終値がついたら、逆張りした方が良さそうです。
Ⅴ. 取引成績
まだ、取引実績はありません。
関連リンク
改訂履歴
初版(2020年11月3日) 新規、2020年8月集計分までを反映
以上