英国景気指標「製造業PMI改定値」発表前後のGBPJPY反応分析
本稿は、英国景気指標「製造業PMI改定値※1」発表前後のGBPJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
英国製造業PMIは、2019年11月集計分から速報値が発表されるようになり、本改定値と月2回発表されるようになりました。
そうなってまだ1年未満のため分析データが少ないことを踏まえても、以前の月1回発表時とは、指標発表前後の反応が方向・程度ともに大きく異なっています。
例えば、指標発表直後の反応方向は、以前のように発表結果の対予想乖離方向でなく、対速報値乖離方向に反応しています。
また、指標発表直後の反応程度も、以前に比べてかなり小さくなっています。
だから、本指標での取引にあたっては、以前の英国製造業PMI発表時と同じつもりで臨むべきではないのです。
※1 PMIはPurchasing Manager’s Indexの略で、一般的に「購買担当者指数」と訳される。本指標名は「UK Manufacturing PMI」だが、本稿では先行発表される「速報値(Flash)」値に対し「改定値」と呼称する。
Ⅰ. 指標要点
1.1 概要
発表機関 IHS Markit※2& CIPS※3 |
発表日時 翌月第1営業日17:30(冬時間18:30:現地時間09:30) |
発表内容 英国製造業購買担当幹部の景況感を集計※4(発表事例※5) |
反応傾向 |
補足説明
|
※2 IHS Markit社は、ロンドンに本社を置く金融情報サービス会社。同社は、G20政府の他、フォーチュン・グローバル500企業のうち80%・米国上位銀行50行のうち49行・世界上位自動車メーカー10社全て、を顧客とする。
※3 CIPS(Chartered Institute of Procurement & Supply:チャータード調達供給研究所)は、英国企業の購買部門とサプライチェーン管理部門の専門家による団体で、米国におけるISMに相当する。
※4 調査対象者は、製造業約400社の購買担当役職者か役員。質問は、生産・新規注文・延滞・支払価格・受取価格・仕入先納期・在庫・雇用・近い将来の景気の見通しについて、前月に比べて「改善/同じ/悪化」の3択で行う。指数は、それら回答を新規受注(30%)・生産(25%)・雇用(20%)・仕入れ先納期(15%)・在庫(10%)の5項目に振り分け、加重平均を季節調整している。調査は毎月10日過ぎから20日過ぎまで行われ、集計は月後半とされる。速報値段階で回答の大部分(80~90%)が反映されているため、改定値は速報値との差が小さい。
※5 通例、発表画面最初の「Key findings」に、「Manufacturing PMI(製造業指数)」が挙げられる。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
もちろん、下表方針に限らず、データからどのような傾向を見出すかは自由です。
※6 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
2.1 対象
対象は、英国製造業PMI改定値(以下「改定値」と略記)です。
指標分析の対象範囲を下表に纏めておきます。
市場予想は毎回行われ、改定値は速報値からこれまでのところ毎回改定されています。
反応分析の対象範囲を下表に纏めておきます。
反応分析回数が指標分析回数よりも減っている理由は3.1項記載の通りです。
分析母数がまだ少ないため、以下の各分析の一致率等はまだ誤差が大きい、と考察されます。
本稿はその点を踏まえて参考にして頂けると幸いです。
2.2 指標推移
対象期間における指標推移を下図に示します。
※7 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
上図赤線よりも左側は以前の月1回しか発表がなかった期間、赤線よりも右側は速報値や改定値が発表されるようになってからです。
赤線よりも右側は、コロナ禍による急速な落ち込みと回復があった時期にも関わらず、改定値の市場予想は速報値を参考にしているため、むしろ赤線よりも左側よりも精度が高いように見受けられます。
この関係を、各判別式の解の統計値で示します。
2019年11月集計分以降の事後差異判別式の標準偏差は、母数が少ないにも関わらず、2019年10月集計分以前のそれの1/5以下に小さくなっています。
本指標発表結果は、統計的に
発表結果=市場予想+0.1±0.3
あるいは、
発表結果=速報値+0.4±6.5
の範囲に63%前後(±1σ)が収まるであろう、と推察されます。
残念ながら、まだ母数が少ないため、上式はほとんどアテにならないでしょう。
2.3 反応結果
下図は、2015年1月集計分以降の本指標発表前後4本足チャートの各始値基準ローソク足です。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
上図赤線よりも左側が毎月1度しか製造業PMIが発表されなかった時期の反応で、上図赤線よりも右側が改定値発表時の反応です。
はっきり言って、最近に限れば赤線の左右で反応の大きさの違いがわかりません。
但し、赤線よりも左側には大きく反応した事例が含まれているため、当然、平均値は左側の方が大きくなります。
下表に、両者の4本足チャートの各始値基準ローソク足の順跳幅と値幅の平均値を整理しておきます。
最も注目すべき直後1分足の順跳幅と値幅は、以前の1/3程度しか反応しなくなっています。
これほど以前と直近(改定値)の反応程度が違うと、以前と直近の反応が同じだと見なさない方が良いでしょう。
よって、以降の反応分析は改定値への反応だけを扱うことにします。
改定値への反応を下表に纏めておきます。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は4.8pipsで、反応程度はかなり小さい指標です。
Ⅲ. 指標分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
英国マネーサプライM4と英国消費者信用残高は同時発表指標です。
それらと本指標(改定値)が同時発表されたことは、対象期間に3回※8ありました。
がしかし、その3回の直後1分足値幅方向は、いずれの指標結果の良し悪しにも素直だと言えません。
一方、2019年10月集計分以前の58事例では13回の同時発表があり、その影響力比較結果は下表の通り、圧倒的に月に1回の製造業PMIの良し悪しに素直に反応しています。
さて、マネーサプライM4と消費者信用残高は、もともとチャートへの影響力が小さい指標(指標発表直後の反応が小さい指標)です。
やがて分析母数が増えれば、改定値発表時にも両指標との同時発表時に両指標の影響力を無視できることが、きっと判明するでしょう。
がしかし、そうした思い込みが間違っていることもあり得ます。
だから、あと数年間(同時発表の分析事例が増えるまで)、英国マネーサプライM4と英国消費者信用残高との同時発表時は本指標での取引を行わないこととし、本稿反応分析の対象から除きます。
※8 同時発表が行われた3回は、2020年1月集計分・同4月集計分・同9月集計分。
3.2 項目間影響力比較分析
分析対象が改定値のみなので、各判別式は定義通りになり、
事前差異判別式=市場予想ー速報値結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー速報値結果
です。
Ⅳ. 反応分析
以下、各項タイトルの分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
まだデータが少ないものの、各判別式の解と反応の方向と程度は全く関係ないように見えます。
次に、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は50%しか一致率がなく、反応方向は市場予想との乖離方向に素直とは言えません。
むしろ、実態差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は88%の一致率で、反応方向は速報値との乖離方向に素直です。
なお、参考までに2019年10月集計分以前の指標一致性分析結果を下図に挙げておきます。
先の図を見比べると、改定値が発表されるようになってからとそれ以前とは、各判別式と各ローソク足の方向一致率の特徴が全く違うことがわかります。
その原因として、速報値が発表されるようになってからは、本改定値への反応方向が速報値との乖離方向になったことが挙げられます。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
まだデータが少ないものの、各ローソク足の方向と大きさは全く関係ないように見えます。
そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
直前1分足値幅方向は、指標発表後の反応方向と高い一致率となっています。
なお、参考までに2019年10月集計分以前の反応一致性分析結果を下図に挙げておきます。
先の図を見比べると、改定値が発表されるようになってからとそれ以前とは、各ローソク足の方向一致率の特徴が全く違うことがわかります。
原因は、データの少なさとコロナ禍の影響が考えられます。
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は50%しかありません。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは50%、値幅が同方向に伸びたことは50%でした。
結論、これまでの改定値発表時のデータからは、初期反応方向に追撃すべきか逆張すべきかわかりません。
Ⅴ. 取引成績
まだ、取引実績はありません。
関連リンク
改訂履歴
初版(2020年10月8日) 新書式反映
以上