欧州景気指標「PMI速報値」発表前後のEURJPY反応分析
「欧州PMI速報値※1」は、独国PMI速報値の30分後に発表されます。言うまでもなく、独国はユーロ圏で最も大きな経済規模を占める大国です。そのため、独国指標の良し悪しと本指標の良し悪しは一致しがちだし、だからこの時間帯のEURは長く一方向に反応を伸ばしても良いはずです。
ところが、そう考えて本指標で何度も取引すると、勝ったり負けたり、なかなか成績が安定しません。この課題の解決方法は、本指標で取引しても良いとき/本指標は見逃した方が良いとき、を区別することです。本指標は他の指標と同時発表があるとき、弱い指標との同時発表であっても、なぜか素直に反応しない傾向があります。
※1 PMIはPurchasing Manager’s Indexの略で、一般的に「購買担当者指数」と訳される。本指標名は「IHS Markit Flash Eurozone PMI」。速報値(Flash)と改定値(final data) があり、本稿では速報値のみを扱う。
Ⅰ. 分析結論
1.1 概要
発表機関 IHS Markit※2 |
発表日時 当月下旬17:00(冬時間18:00=独国時間10:00) |
発表内容 欧州企業購買担当役員による景況感※3(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明
|
※2 IHS Markit社は、ロンドンに本社を置く金融情報サービス会社。同社は、G20政府の他、フォーチュン・グローバル500企業のうち85%・米国上位銀行50行のうち49行・世界上位自動車メーカー10社全て、を顧客とする。
※3 回答は、質問項目が前月に比べて「改善/同じ/悪化」の3択で行う。調査期間は月後半とされているが、速報値発表段階で回答の約80%超が反映されているため、速報値と改定値の差は小さい。
※4 通例、発表画面最初の「Key findings」に、「PMI Composite Output Index(総合指数)」「Services PMI Activity Index(サービス業指数)」「Manufacturing Output Index(製造業生産高指数)」「Manufacturing PMI(製造業指数)」が挙げられる。総合指数は、サービス業指数と製造業生産高指数(製造業指数ではない)の加重平均。下図は『「IHS Markit Flash Eurozone PMI」,24.3.2021.』発表画面巻頭の数値要点を引用。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
※5 本表の詳細説明はこちら。
Ⅱ. 分析対象
対象指数は、欧州PMI速報値における
- 「製造業PMI速報値」(以下「製造業指数」もしくは単に「製造業」と略記)
- 「サービス業PMI速報値」(以下「サービス業指数」もしくは単に「サービス業」と略記)
- 「総合PMI速報値」(以下「総合指数」もしくは単に「総合」と略記)
の3指数で、対象期間は下表の通りです。
分析回数が半減しているのは、後記3.1項に記す通り、本指標が他の指標との同時発表時の取引に向かないためです。
2.1 指標推移と統計値
各指数の過去推移を下図に示します。
図の配置は、製造業指数(左)・サービス業指数(右上)・総合指数(右下)、となっています。
※6 上グラフは分析データ開示のために載せており、本グラフを本指標発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値はグラフ記載範囲から計算。
2020年のコロナ禍からの回復は製造業中心で、サービス業の回復が進んでいません。これは経済規模が大きい独仏のロックダウンが長期化したため、と考えられます。
2.2 反応結果と統計値
対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、左側に直前10-1分足(上)と直前1分足(下)を、右側に直後1分足(上)・直後11分足(下)を、それぞれ縦軸を揃えて示しています。
上図のローソク足歯抜け箇所は、2015年12月集計分と、後記3.1項に記す指標間影響力比較分析結果による分析除外月です。2015年12月集計分(同年同月16日発表)は、予告なく発表時刻が17:58でした。また、指標間影響力比較分析によって、本指標より影響力が強い指標との同時発表時は、本指標への反応分析を行っても無意味です。
※7 上表では反応分析対象外の月を集計していない。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は4.7pipsで、反応程度はかなり小さい指標です。
直前1分足と直後11分足の1足内反転率は20%超に達しており、それら時間帯では注意しておいた方が良さそうです。
分布は、直後1分足が過去平均値を超えたことが30%ぐらいで普通ですが、平均値の2倍超となったことは多いようです。
Ⅲ. 指標分析
本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象4指数の反応への影響度を求めます。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
上表は、2015年以降の実績に基づき作成しています。がしかし、この表が完成したときは強い違和感を覚えました。と言うのも、本指標が独国Ifo景況指数よりも影響力が強い一方で、何で伊国やスペインの聞いたこともないような指標より影響力が弱いのか、納得できなかったからです。
でも、繰り返しになりますが、上表は実績に基づいています。
上表において、独国Ifo景況指数・欧州マネーサプライM3・伊国信頼感指数との同時発表時を除くと、本指標への反応方向が同時発表指標よりも素直に反応していないか67%未満となっています。結論、本指標は他の指標との同時発表時にほぼ全て取引すべきではなく、結果、本指標での取引機会がかなり少なくなります。
そうした取引すべきでない同時発表は上表で計46回あり、同月重複分を除くと対象期間中の発表74回のうち39回の事例が該当します。更に、2015年12月集計分は発表が予告なく17:58に行われたため、過去の傾向が適用できない事例となっており、これも分析対象から除きます。結果、40回の発表事例が本稿分析対象外です。
3.2 項目間影響力分析
分析対象は製造業PMI、サービス業PMI、総合PMIでした。
それぞれの各判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回改定値結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回改定値結果
です。
いま前3.1項に示した通り、独国Ifo景況指数・欧州マネーサプライM3・伊国信頼感指数を除く他の指標との同時発表時と2015年12月集計分を分析対象から除きます。このとき、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
どの指数の判別式も、それ単独では反応方向をあまり精度よく説明できません。けれども、上記3指数を全て踏まえた全体判別式を次のように立式します。
全体判別式=A✕製造業の差異[%]+B✕サービス業の差異[%]+C✕総合の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回改定値、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回改定値
このとき、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と対応ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
※8 例えば、先に示した全体判別式の形式と上表から、本指標全体の事後差異判別式は、2✕製造業指数の(発表結果ー市場予想)+2✕サービス業指数の(発表結果ー市場予想)+2✕総合指数の(発表結果ー市場予想)、となる。そして、上表はこの式の解の符号と直後1分足が過去70%方向一致と読む。
全体判別式は、本指標発表前後の反応方向をだいたい説明できることがわかります。
次に、3.1項の分析結果を無視して、金融関連との同時発表時と2015年12月集計分だけを分析対象から除外し、同様の検討を行ったときは下表のようになります。
先に挙げた3.1項分析結果を踏まえた表と「方向一致率」を見比べてみてください。つまり、伊国やスペインの聞いたこともないような指標と同時発表されたときも含めると、意外なことに本指標は素直に反応していなかったのです。
素直に反応しない指標には、指標結果がどうあれどっちに反応するのかがわかりません。更に指標発表前後の短時間は、テクニカル分析も通用しません。結果、本指標発表後には、詰まるところ「事前に何pips動いていたのでそろそろ感が強まった/未達成感を残して更に反応を伸ばした」みたいな解説が多くなります。
けれども、そんな感覚的な解説記事をいくら読んでも、我々アマチュアの感覚とマッチし続けることはありません。初心者の頃はそういう解説を真剣に読んで、英・独PMIは勝てるのに欧州PMIだけは訳がわからない、と思っていました。それなのに本指標で取引していたのだから救われません。
でも、鍵は指標間影響力比較分析にあったのだから、訳がわからなくて当然だったのです。指標取引は反応方向の確率的再現性を根拠に行うことを、当時、知らなかったことが残念です。
Ⅳ. 反応分析
本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向と過去どれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上3図はコロナ禍の時期のドットがグラフ外にありますが、それどころじゃありません。コロナ禍の時期を除いても、いずれも回帰分析するようなドット分布ではありません。
上図において、直後1分足は事後差異判別式の解の符号と70%の方向一致率となっており、本指標が素直に反応することがわかります。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の方向一致率を求めました。
結果、
- 直前10-1分足方向は、事前差異判別式の解の符号と同じになりがち(場面発生頻度100%、期待的中率69%)
です。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅同士の代表的な関係を下図に示します。
上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。前項と違い、上3図にはコロナ禍の時期も含めて対象期間の反応結果を全て含めています。
次に、上図から方向の情報だけを取り出します。
方向の情報だけを取り出しても、直後1分足と直後11分足の方向一致率を除くと、どのローソク足同士も高い一致率になっていません。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、それが大きいときにはその後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に直前10-1分足と直前1分足・直後1分足・直後11分足の値幅方向の一致率を求めてみます。
結果、
- 直後1分足の反応方向は、直前10-1分足値幅が3.1pips超(過去平均値の0.5倍超)のとき、それと同じになりがち(場面発生頻度74%、期待的中率67%)
です。
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は73%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
※9 直後1分足と直後11分足の方向一致率が73%だったのに、上図反転率(ピンク部分)が15%となっているのは、分析方法の違いによる四捨五入での誤差。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは62%、値幅が同方向に伸びたことは41%でした。この数字では追撃できないし、逆張りするにも不安です。
さて、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさ(伸びの強さ)に現れる場合があります。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
結果、
- 直後1分足順跳幅が5.8pips超(過去平均値超)に達したら直ちに追撃し、直後11分足跳幅を狙う(場面発生頻度29%、期待的中率70%)
です。但し、このとき直後1分足終値に比べて直後11分足終値が同方向に反応を伸ばしていたことは40%です。深追いを避け、ここは微益で我慢しましょう。
Ⅴ. 取引成績
後日追記します。
関連リンク
改訂履歴
初版(2017年1月22日)当時は期待的中率75%が取引条件
改訂(2021年3月24日)新書式反映。2015年1月集計分から2021年2月集計分までを反映。
以上