豪州実態指標「四半期民間設備投資」発表前後のAUDJPY反応分析

豪州実態指標「四半期民間設備投資※1」は、指標結果の良し悪しにかなり素直に反応する上、反応程度もそこそこ期待できます。取引で注意すべき点は、指標発表直後の反応方向への追撃をすぐに行わず、しばらく待って直後1分足順跳幅の大きさを確認してからの方が良い点です。直後1分足がそこそこ伸びないときは、直後11分足も伸び悩む傾向があります。

豪州は人口が少なく経済規模が小さい割に、石炭・鉄鉱石・羊毛・食品等の輸出国として有名です。しかしながら、近年は豪中の政治的対立やコロナ禍による世界景気の後退懸念によって、鉱業分野への新規設備投資が減っています。鉱物資源輸出の減少・同分野への設備投資縮小に伴って、鉱業分野以外への投資が微増傾向にあるにも関わらず、新規投資が減って本指標への反応も小さくなりつつあります。

※1  ABS統計名は「Private New Capital Expenditure and Expected Expenditure(民間新規設備投資及び期待投資規模)」。がしかし、本稿では馴染のある名称「民間設備投資」に表記を統一する。


Ⅰ. 指標要点
1.1  概要
発表機関
オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS※2
発表日時
当該期8~9週後の木曜日10:30(夏時間09:30:現地時間11:30)
発表内容
民間企業による新規設備投資額※3発表事例※4
反応傾向

  • 注目内容=発表直後だけなら「新規設備投資前期比」の対予想乖離方向
  • 反応程度中程度(直後1分足値幅の過去平均値10.8pips
  • 反応方向=かなり素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率76%
  • 伸長特性=初期反応方向にすぐに追撃するのではなく、直後1分足終値がつくのを待って追撃した方が良い
補足説明

  • 小売売上高住宅建設許可件数・中国工業利益との同時発表時は、本指標の傾向に基づく取引を避ける

※2 オーストラリア政府統計局(ABS)は、オーストラリアの国家統計機関。ABSはウェブサイトを通じて統計と出版物を政府・商業・公共ユーザーに同時公開する(通常、キャンベラ時間午前11時30分)。

※3 調査は、行政と安全・公共事業部門・農林水産業を除く、10名以上の民間企業約9000社を対象に、有形固定資産への① 当該期購入額・② 短期的な将来の投資予定額・③ 長期的な将来の投資予定額、について行われる。その結果を、異なる業種/地域の異なる資産への投資規模の増減を全て集約して指数化している。豪州税法に不案内なため、日本における有形固定資産を例に挙げて補足すると、固定資産であるか否かは、ソフトウェア等の無形固定資産と消耗品を除く一定金額以上の物品で、貸借対照表において資産計上される物品を指す。

※4 通例、ABS発表画面巻頭の「KEY FIGURES(重要値)」の「Total new capital expenditure(新規設備投資総額)」「Buildings and structures(建築資本投資)」「Equipment, plant and machinery(その他資本投資)」の「季節調整済前月比」の項を参照する。「建築資本投資」は、建物及び構造物の建設・改築・補修への支出を指し、直観的に建築物への付随設備と見なせる上下水設備・給配電/通信設備・冷暖房換気用機器や、道路・橋・埠頭・港湾・線路・パイプライン等を含む。「その他資本投資」は、建築物に不可欠でない有形固定資産が対象で、装置・機械・治具・部品・車両・事務機器・家具・備品・容器・特殊工具等に対する支出を指し、その搬入・設置・調整費用を含む場合がある。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
なお、本方針は改訂後まだ実取引で未検証です。

※5  上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。


Ⅱ. 分析対象
2.1 対象範囲

分析対象は「民間新規設備投資及び期待投資規模」における

  • 新規設備投資前期比」(総額を指し、以下「設備投資」と略記)
  • 建築資本投資前期比」(建築物・構造物・それら付帯設備を指し、以下「建築投資」と略記)
  • その他資本投資前期比」(建築投資に含まれない装置・機械・機器・車輌等を指し、以下「その他投資」と略記)

の3指数と、その発表前後のチャートの反応です。分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。

※6 分析対象期間の発表回数と分析回数に差が生じた理由(分析除外した理由)は本稿3.1項を参照方。

2.2 指標推移と統計値

対象期間における指標推移を下図に示します。図の配置は、設備投資(左)・建設投資(右上)・その他投資(右下)となっています。

※7 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。

分析期間を通して市場予想が揃っているのは設備投資のグラフだけです。建設投資とその他投資のグラフは市場予想が部分的にしか入手できませんでした。

さて、上図を見て、これほど精度が低い市場予想に意味があるのか、と思うかも知れません。けれども意味はあるのです。
後記4.1項記載に示す通り、本指標発表直後のチャートは発表結果が市場予想を上回るか否かの影響を受けています。発表結果が市場予想を上回れば陽線、下回れば陰線だったことが過去76%です。発表結果の市場予想との乖離方向にかなり素直なのです。

豪州は経済規模の小さい資源輸出国です。それだけに鉱物資源の輸出が低下すると、AUDは不安視されて売られがちです。
ところが、GDPに対する輸出額(輸出依存度)は16.7%で、意外なことに欧州主要国よりも輸出依存度が低いのです。それにも関わらず、AUDの世界景気や中国リスクに対する反応は敏感すぎる印象があります(豪州の中国への輸出依存度は5.8%、輸出全体の35%)。
それでも現実問題としてAUDは世界景気や中国リスクに敏感です。豪州の設備投資の多寡はその指標として捉えられて材料視されてAUD売買の材料になっている訳です。結果、次項に述べる通り、本指標への反応はそこそこ期待できる数字になっています。

※8 出典:『日本総務省統計局「世界の統計 2020」』。左記資料記載の2018年数値をグラフ化。

そして、近年の新規設備投資先は以前ほど極端な鉱業分野への偏りが解消されつつあります。
下図は、赤棒部分が鉱業分野での新規投資額で、青棒部分がその他分野への新規投資額を表しています。図から近年の鉱業分野への投資の減少傾向が読み取れます。結果、次項に示すように本指標への反応も近年は小さくなりつつあります。

※9 出典:『ABS「Detailed industry mobements by asset type」Download, 10/02/2022』。左記資料記載の2012, 2016~20年数値を集計・グラフ化.

2.3 反応結果

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(右上)・直後1分足(左下)・直後11分足(右下)となっています。下図のローソク足が歯抜けしている箇所は、後記3.1項に記載した本指標よりも影響力が強い指標との同時発表が行われたときです。

全体的には陰線が目立ちます。直前10-1分足は逆ヒゲが目立っており、取引には注意が必要です。また指標発表後の反応は2016年頃からやや小さくなったように見受けられます。

上図における各ローソクの反応程度の統計値を下表に一覧します。

直後1分足値幅の過去平均値は10.8pipsで、反応程度は中程度の指標です。前述の通り、反応方向は指標結果の良し悪しにかなり素直(76%)で一足内反転率も小さく、指標取引しやすい指標と言っていいでしょう。
また、直後1分足値幅平均よりも直後11分足順跳幅平均が9.1pipsもあることも、本指標での取引での魅力だと言えるでしょう。

しかし、分布が問題です。平均値はそこそこあっても、過去過半の事例で平均値の半分以下しか反応していません。大きく伸びると思っていた指標で伸び悩むと、指標発表後の追撃で損切が多くなってしまいます。
この点への対策は後記4.3項に興味深い示唆が与えられています。すなわち、直後1分足順跳幅が7.6pips超のとき、直後1分足終値よりも直後11分足終値が同方向に伸びやすいのです(75%)。そうした事例が過去2回に1回の頻度で起きています。

なお、多くのFX会社においてAUDJPYのスプレッドは0.6円ぐらいです。勝率67%ならばS損益分岐点はスプレッドの5倍なので、利確/損切の目安は3pips以上となります。直前1分足はそれに達していません。

2.3 2節まとめ

本節結論は、

  • 本指標への反応方向は発表結果の良し悪しに素直で、直後1分足順跳幅が7.6pips超のとき追撃で戦果拡大が見込める

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象2指数の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、チャートへの影響力比較結果を下表に一覧します。

上表右端の方向一致率は、比較対象指標と同時発表されたとき、本指標事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率を示しています。この数字が67%未満ならば、その比較対象指標との同時発表時には本指標での取引を避けた方が良いことを示しています。
結果小売売上高」「中国鉱工業利益」と同時発表されるときは、本指標での取引を避けた方が良いでしょう。

また「住宅建設許可件数」とは過去方向一致率が同率100%で優劣つけれられません。慎重に取引するならこれも避けた方が良いでしょう。

よって、これら3指標との同時発表時には本指標での取引を避けた方が無難です。
また、これら3指標との同時発表時の取引を避けるなら、本稿分析対象期間に行われた本指標発表32事例からそれら7事例を除いて反応分析するのが妥当でしょう。反応分析を行うのは25事例となります。

3.2  項目間影響力比較分析

本指標の分析対象指数は設備投資建設投資その他投資でした。それぞれの指数の判別式を次のように定義します。

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー前回発表結果の今回発表における修正値(修正がされなかった場合は前回結果、その場合も含めて以下これを「修正結果」と略記)

ちなみに分析対象期間の設備投資・建設投資・その他投資の翌月発表時の前回結果修正頻度は各82%75%82%です。

このとき、前項結論に基づく25回の発表事例について、両指数の判別式の解の符号と対応ローソク足の方向一致率を下表に纏めておきます。

どの項目も事後差異判別式の解の符号と直後1分足の一致率が高いことがわかります。一方、事前差異や実態差異判別式の解の符号は、それぞれ直前10-1分足や直後11分足の方向と無関係のように見えます。

次に、設備投資建設投資その他投資の3項判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕設備投資の差異+B✕建築投資の差異+C✕その他投資の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー修正結果(前回結果の修正が行われなかったときは前回結果)

上式において各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率が高くなるように上式係数A・B・Cを求めます(導出過程は省略)。そして、それら係数を用いたときの全体判別式の解の符号と対応ローソク足との方向一致率を下表に纏めておきます。

これで、直前10-1分足と直後1分足の方向を70%以上説明できるようになりました。

ただ、直後11分足に対する全体判別式の効果は取引に有効なレベルに達していません。直後11分足方向については、後記4.2項に示すように判別式よりも直前10-1分足値幅を見て判断した方が良いでしょう。

3.3 3節まとめ

以上、本節の結論は

  • 小売売上高」「住宅建設許可件数」「中国鉱工業利益」と同時発表されるときは、本指標での取引を避けた方が良い
  • 本指標発表前後のチャートの動きは、本指標の良し悪しに反応しがちである
    • 直前10-1分足に対する事前差異判別式=ー3✕設備投資の(市場予想ー修正結果)[%]+2✕建築投資の(市場予想ー修正結果)[%]+1✕その他投資の(市場予想ー修正結果)[%]:本式の期待的中率70%
    • 直後1分足に対する事後差異判別式=6✕設備投資の(発表結果ー市場予想)[%]:本式の期待的中率76%

です。

※9 上の事前差異判別式において、例えば(市場予想ー修正結果)が信頼感指数・建築投資が+0.1、その他投資がー0.1だったとする。このとき、直前10-1分足に対応する事前差異判別式=ー3✕0.1+2✕0.1+1✕(-0.1)=ー0.3+0.2ー0.1=ー0.2となる。解の符号はマイナスなので、直前10-1分足は陰線となる期待的中率が70%となる。


Ⅳ. 反応分析

本節は、全体判別式の解の符号や先に形成されたローソク足方向が狙いとするローソク足の方向とどれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1 指標一致性分析

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

事前差異判別式の解の符号は、マイナスへの偏りが見られます(69%)。そして、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は76%の一致率で、反応方向はかなり素直です。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。

結果、

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解がどうあれ、それと同方向になりがち(場面発生頻度78%、期待的中率70%)
  • 直後1分足と直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が6.0超(過去平均値の1.5倍超)のとき、それと同方向になりがち(場面発生頻度22%、期待的中率78%)

という傾向が見出せます。

直前1分足の過去平均順跳幅は、AUDJPYの一般的なスプレッドを踏まえるとS損益分岐点に達しないため、取引対象外です。

4.2 反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

相関係数(R2値)を読むまでもなく、上左図と上中図は相関が弱く、上右図の相関が高いことは一目瞭然です。そして、上右図の回帰式は、直後1分足値幅よりも直後11足値幅は平均18%伸びる(誤差は平均±10%)、です。

次に、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。

直前10-1分足と直後1分足は陰線率が高いことがわかります。それというのも、おそらくは本指標の市場予想が高めだということが知れ渡っているからでしょう。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。分析対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンですが、上図にはそうしたパターンが見られません。

ただ、いくつか注目すべき偏りが見受けられます。
例えば、

  • 直前10-1分足値幅が3.7pips超(過去平均値超)のとき、直後1分足値幅方向は直前10-1分足値幅方向と同じになりがち(場面発生頻度31%、期待的中率70%)
  • 直前10-1分足値幅が1.8pips超(過去平均値の0.5倍超)のとき、直後11分足値幅方向は直前10-1分足値幅方向と同じになりがち(場面発生頻度59%、期待的中率68%)na

です。

4.4  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は86%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは67%、値幅が同方向に伸びたことは72%でした。そこで、指標発表後の反応方向を確認したら早めに追撃開始、というのはやや早計です。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

直後1分足順跳幅が8.9pips超26.8pips以下(過去平均値の0.5倍超1.5倍以下)のとき、すぐさま追撃しても3回に2回も勝てないということがわかります。

次に値幅方向です。

こちらは、どの場合も追撃できます。つまり、本指標発表後の追撃は、一呼吸おいて直後1分足終値がつくのを待って行うべき、ということがわかります。


Ⅴ. 取引成績

成績不振のため本稿は改訂しました。改訂後の取引はまだありません。

今次改訂の結果についてしばらく様子をみたいと思います。

※10 実取引勝率には方針外取引の成績を含まない。ここに挙げた実績は全て、別サイトの該日付ないしはその前日以前の投稿で、指標発表前に取引方針を開示している。


関連リンク

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改訂履歴
  • 初版(2020年8月2日):新書式反映。対象期間2013年10-12月期~2020年1-3月期。
  • 改訂(2022年2月22日):分析成績不振に伴い判別式変更。対象期間2021年7-9月期まで延長。

以上

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