豪州実態指標「四半期民間設備投資」発表前後のAUDJPY反応分析
本稿は、豪州実態指標「四半期民間設備投資※1」発表前後のAUDJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
※1 ABS統計名は「Private New Capital Expenditure and Expected Expenditure(民間新規設備投資及び期待投資規模)」。がしかし、本稿では馴染のある名称「民間設備投資」に表記を統一する。
Ⅰ. 指標要点
1.1 概要
発表機関 オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS) |
発表日時 当該期8~9週後の木曜日10:30(夏時間09:30:現地時間11:30) |
発表内容 民間企業による新規設備投資額※2(発表事例※3) |
反応傾向 |
補足説明
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※2 調査は、行政と安全・公共事業部門・農林水産業を除く、10名以上の民間企業約9000社を対象に、有形固定資産への① 当該期購入額・② 短期的な将来の投資予定額・③ 長期的な将来の投資予定額、について行われる。その結果を、異なる業種/地域の異なる資産への投資規模の増減を全て集約して指数化している。豪州税法に不案内なため、日本における有形固定資産を例に挙げて補足すると、固定資産であるか否かは、ソフトウェア等の無形固定資産と消耗品を除く一定金額以上の物品で、貸借対照表において資産計上される物品を指す。
※3 通例、ABS発表画面巻頭の「KEY FIGURES(重要値)」の「Total new capital expenditure(新規設備投資総額)」「Buildings and structures(建築資本投資)」「Equipment, plant and machinery(その他資本投資)」の「季節調整済前月比」の項を参照する。「建築資本投資」は、建物及び構造物の建設・改築・補修への支出を指し、直観的に建築物への付随設備と見なせる上下水設備・給配電/通信設備・冷暖房換気用機器や、道路・橋・埠頭・港湾・線路・パイプライン等を含む。「その他資本投資」は、建築物に不可欠でない有形固定資産が対象で、装置・機械・治具・部品・車両・事務機器・家具・備品・容器・特殊工具等に対する支出を指し、その搬入・設置・調整費用を含む場合がある。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
もちろん、下表方針に限らず、データからどのような傾向を見出すかは自由です。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。
Ⅱ. 分析対象
2.1 分析母数
分析対象は、2013年1-3月期集計分から2020年1-3月期集計分までの豪州民間設備投資における
- 「新規設備投資前期比」(総額を指し、以下「設備投資」と略記)
- 「建築資本投資前期比」(建築物・構造物・それら付帯設備を指し、以下「建築投資」と略記)
- 「その他資本投資前期比」(建築投資に含まれない装置・機械・機器・車輌等を指し、以下「その他投資」と略記)
です。
上表における「指標発表回数」と「分析対象回数」の差異6回は、後記3.1項に示す他の影響力が強い指標との同時発表があったときです。また、本指標の発表では、ほぼ毎回前月の発表値修正が行われています。この修正結果は、後記3.2項の判別式に反映されます。
一方、反応分析の対象回数は、下表の通り21回に減ります。
反応分析は、2013年1-3月期と4-6月期のチャートが入手できなかったため、「分析対象期間」が2013年10-12月期から始まります。そして、後記3.1項に示す他の影響力が強い指標との同時発表があったときを除いています。
2.2 指標推移
対象期間における指標推移を下図に示します。
図の配置は、設備投資(左)・建設投資(右上)・その他投資(右下)となっています。
設備投資のグラフには、参考のため、市場予想と発表結果の6回移動平均線軌跡も載せています。
※5 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
設備投資のグラフは、平均的に市場予想が高めで発表結果が低めになりがちです。きっと、企業は市場予想を行うエコノミストらよりも投資に慎重なのでしょう。また、内訳にあたる建築投資とその他投資のグラフは、かつて発表結果の上下動が市場予想の上下動よりも小さかった傾向が、2017年後半以降は当てはまらなくなったように見えます。
そして何より、本指標各指数の市場予想はアテにならない(予想精度が低い)ことがグラフから読み取れます。ならば、精度が低い市場予想なんて無視して良いかと言えば、そうではありません。後記4.2項に示す通り、指標発表直後の反応方向が事後差異判別式の解の符号と方向一致率が83%にも達しているからです。
さて、参考までに各指数毎の統計値を下表に示しておきます。
そして、各項目毎の判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
事後差異の平均値は、事前差異や実態差異のそれらよりも大きくなっています。このことは、市場予想の精度が低いことを表している、と考察します。
※6 各指数毎の統計値は、毎月の発表結果の分布の形状は正規分布から外れかねない。一方、判別式の解の分布は、経験的にやがて正規分布に近づく。これは、前者のふたつの分布を足し合わせて後者となるため、前者よりも後者の標準偏差が小さくなるという分布の性質だけではない。前者が調査対象の地域・対象・入れ替え・季節調整等が行われる一方、後者はそれらを踏まえた市場予想が含まれることが原因。
2.3 反応結果
対象期間における4本足チャート各ローソク足の各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
下図の歯抜け箇所は、後記3.1項記載の通り、本指標よりも影響力が強い指標との同時発表が行われた事例です。
全体的に陰線が目立ちます。ぱっと見では利確/損切のポイントを、指標発表前は5pipsぐらい、指標発表後は15pipsぐらいにしておけば良さそうです。
上図における各ローソクの反応程度の統計値を下表に一覧します。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は12.6pipsで、反応程度は中程度の指標です。直後11分足値幅平均値は直後1分足順跳幅平均値よりも小さいので、平均的には反応が伸び悩む指標だと思っておきましょう。
Ⅲ. 指標分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
上表「同時発表指標」名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。
住宅建設許可件数と本指標は、対象期間に4回しか同時発表されておらず、方向一致率が同率です。今後も両指標同時発表時を注目することにし、ここでの判定は方向一致数が多い住宅建設許可件数の方が影響力が強い、と判定しておきます。
結論、
- 本指標が住宅許可件数・小売売上高と同時発表された事例を、本稿反応分析の対象から除く(その結果、本稿反応分析対象数は21事例となる※6)
- このことは、本稿結論の取引方針が今後それら指標との同時発表時に適用できないことを意味する
です。
※7 住宅許可件数との同時発表は、本指標の2013年1-3月期・2017年7-9月期・2018年4-6月期・2019年1-3月期の発表時。小売売上高との同時発表は、本指標の2016年4-6月期・2017年1-3月期の発表時。そして、2013年1-3月期・4-6月期・7-9月期は、チャート記録がないため反応分析対象外。重複分を除くと、2013年1-3月期以降29回の発表のうち8回が除外され、反応分析対象は21事例となる。
3.2 項目間影響力比較分析
対象項目は、設備投資・建設投資・その他投資、でした。まずは上記項目毎の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
どの項目も事後差異判別式の解の符号と直後1分足の一致率が高いことがわかります。一方、事前差異や実態差異判別式の解の符号は、それぞれ直前10-1分足や直後11分足の方向と無関係のように見えます。
次に、設備投資・建設投資・その他投資の3項判別式を次のように立式します。
- 判別式=A✕設備投資の差異+B✕建築投資の差異+C✕その他投資の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー修正結果(前回結果の修正が行われなかったときは前回結果)
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
例えば、先の判別式の形式と上表から、本指標の事前差異判別式は、
-3✕設備投資の(市場予想ー前回結果)+2✕建築投資の(市場予想ー前回結果)+1✕その他投資の(市場予想ー前回結果)
となります。そして、この式の解の符号と直前10-1分足は、過去74%の方向一致率です。74%の方向一致率は、先に示した設備投資・建設投資・その他投資の各項単独の事前差異判別式の解の符号と直前10-1分足の一致率よりも、大幅に高くなっています。
以上の通り、各判別式の係数を上表のように決めると、それぞれの判別式の解の符号と対応するローソク足の方向一致率(不一致率)が高いことがわかりました。
3.3 利得分析
分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。
事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で1.0pipsです。但し、毎年の変化を見ると0.2~2.1pipsとばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。
Ⅳ. 反応分析
以下、各項タイトルの分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
4.1 過大反動分析
前月の実態差異判別式の解の絶対値の大きさ毎に過大反動分析を行った結果を下表に示します。
結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が1.2超1.8以下のとき、過大反動が起きにくいことがわかります(上表「過大反動率」参照)。がしかし、このとき過大反動が起きないと見込んでも、実際に指標発表直後1分足がその方向に反応することは50%です(上表「仮説一致率」参照)。
一方、前月実態差異判別式の解の絶対値が1.8超のとき、過大反動は起きやすいとも起きにくいとも言えません。けれども、このとき過大反動を起こすと見込んで取引すれば、直後1分足方向が75%的中(場面発生頻度20%)していました。なお、過大反動を起こすと見込んだ方向とは、前月実態差異判別式の解の符号と逆方向です。
このように、本事例は本分析の不適有効事例です。
なお、上表「全数」の「判定回数」は21回となっているのは、下表理由に依るためです。
4.2 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上左図と上右図は分布が意味を持ちません。それらに比べれば上中図は分布が比例的ですが、それでも相関係数R2値が低く、回帰式による予想はアテにできません。
次に、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
事前差異判別式(市場予想ー前回結果)の解の符号は、マイナスへの偏りが見られます。そして、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は86%の一致率で、反応方向は市場予想乖離方向に非常に素直です。また、実態差異判別式の解の符号に対し指標発表後の反応方向は反転しがちです。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。
経験的に信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンです。上図では、全体的にどのローソク足もそうした傾向が窺えます。
結論は、事前差異判別式の解の絶対値が大きいときほど、その解の符号が各ローソク足の方向を示唆しがち、です。
4.3 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
相関係数(R2値)を読むまでもなく、上左図と上中図は相関が弱く、上右図の相関が高いことは一目瞭然です。そして、上右図の回帰式は、直後1分足値幅よりも直後11足値幅は平均18%伸びる(誤差は平均±10%)、です。
次に、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
直前10-1分足と直後1分足は陰線率が高いことがわかります。それというのも、おそらくは本指標の市場予想が高めだということが知れ渡っているからでしょう。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。分析対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。
信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンですが、上図にはそうしたパターンが見られません。
ただ、いくつか注目すべき偏りが見受けられます。
例えば、
- 直前10-1分足値幅が4.0pips超(過去平均値超)のとき、直前1分足値幅方向は直前10-1分足値幅方向の逆になりがち(場面発生頻度34%、期待的中率67~71%)
- 直前10-1分足値幅が4.0pips超6.1pips以下(過去平均値超1.5倍以下)のとき、直後1分足値幅方向は直前10-1分足値幅方向と同じになりがち(場面発生頻度20%、期待的中率70%)
- 直後11分足値幅方向は直前10-1分足値幅方向と同じになりがち(場面発生頻度72%、期待的中率68~90%)
4.4 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は86%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは67%、値幅が同方向に伸びたことは72%でした。そこで、指標発表後の反応方向を確認したら早めに追撃開始、というのはやや早計です。
さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
まずは順跳幅方向です。
直後1分足順跳幅が8.9pips超26.8pips以下(過去平均値の0.5倍超1.5倍以下)のとき、すぐさま追撃しても3回に2回も勝てない、ということがわかります。
次に値幅方向です。
こちらは、どの場合も追撃できます。つまり、本指標発表後の追撃は、一呼吸おいて直後1分足終値がつくのを待って行うべき、ということがわかります。
Ⅴ. 取引成績
本記事は本指標分析初版のため、事前方針に基づく取引実績はありません。
関連リンク
改訂履歴
なし
以上