豪州実態指標「小売売上高」発表前後のAUDJPYの反応分析

本稿は、豪州実態指標「小売売上高※1」発表前後のAUDJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。

発表機関
オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS
発表日時
翌々月上旬10:30(夏時間09:30)
発表内容
国内居住の一般消費者向け国内小売業の月次売上高※2発表事例※3
反応傾向

  • 注目内容=「小売売上高前月比」の対予想乖離
  • 反応程度=中程度(直後1分足値幅の過去平均値10.8pips
  • 反応方向=非常に素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率87%
  • 伸長性=初期反応方向に直ちに追撃開始し、発表後1分を過ぎたら利確の機会を窺うべき

※1  ABS統計名は「Retail Trade小売業)」。がしかし、本稿では馴染のある名称「小売売上高」表記に統一する。

※2  調査は、大手企業約500社・中小企業約2700社への電話調査中心で、一部大手企業に対しては郵送調査を行う(それぞれ回答率は不明だが、売上高の約69%は大手企業が占める)。売上高には通販売上や代理店への販売手数料が含まれ、非居住者による販売や非居住者への販売は含まない。

※3  通例、ABS発表画面巻頭の「KEY FIGURES(重要値)」の「Turnover at current prices(現行価格での売上高)」の2行目2列目「季節調整済前月比」の項を参照する。


Ⅰ. 分析結論
1.1  目次と要点
Ⅰ. 分析結論
下記成績に示す通り、本稿分析に基づく取引方針は有用。市場予想は、高めになることの方が多く、予想精度はそこそこ高い。反応程度が大きい印象が流布されているが、平均的にはそれほど大きく反応する指標ではない。指標発表直後の上下動は激しく、数秒単位で取引するのか、数pips単位で取引するのか、予め決めて取引に臨む方が良い。
Ⅱ. 分析対象
本稿分析は、2015年1月集計分以降の「前月比」の65事例について実施(傾向分析するには十分な事例数)。2020年2月集計分以降は、本指標発表約半月前に暫定値を発表しているが、暫定値発表時は本稿分析の対象外
Ⅲ. 指標分析
四半期生産者物価指数金融関連との同時発表時は取引を避けた方が良い。分析対象は「前月比」のみなので、判別式は定義通りの基本形。2019年以降は反応程度が小さくなりつつある。特に2020年2月集計分からは、本指標発表の約半月前に暫定値が発表されるようになり、反応が小さくなっている。
Ⅳ. 反応分析
事前差異判別式の解の符号や直前10-1分足値幅方向が指標発表後の反応方向を示唆することは少なく、期待的中率も高くない。前月比の絶対値が大きかった翌月は、過大反動を見込むよりも、過大反動を見込まないポジションの方が有利。また、同月集計分と3か月前集計分のWestpac消費者信頼感指数は、本指標結果の良し悪しを示唆しがちだが、ポジションは逆張りが有利。発表後は、初期反応方向に直ちに追撃すべきだが、数分以内に決済した方が良い。
Ⅴ. 過去成績
分析適用率は80%、分析的中率は73%、実取引における分析適用時勝率は71%
1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
もちろん、下表方針に限らず、データからどのような傾向を見出すかは自由です。

※4  上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。


Ⅱ. 分析対象
2.1  分析母数

分析対象は、2015年1月集計分から2020年5月集計分までの豪州小売売上高における

  • 前月比

です。

本指標は「前年同月比」や四半期毎の「前期比」「前年同期比」も発表されますが、それらを加えて分析しても分析精度はさほど向上しません(4.4項記載の通り、「前月比」のみの事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率は、過去87%にも達しています)。
よって、本稿では「前月比」のみが分析対象です。

上表における「指標発表回数」と「分析対象回数」の差異3回は、後記3.1項に示す他の影響力が強い指標との同時発表があったときです。
また、本指標の発表では、過去にしばしば前月の発表値修正が行われているものの、あまり気にする必要はありません。

一方、反応分析の対象回数は、上表「分析対象回数」と同じです。


2.2  指標推移

対象期間における指標推移を下図に示します。

※5  このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。

上図の通り、2019年以前の指標推移はそのままだと読み取れないので部分的に拡大しています。
拡大部分を見ると、発表結果の上下動に対して市場予想の上下動が小さいことと、平均的には市場予想は高めになりがちなこと、が読み取れます。

そして、2020年以降のコロナ禍による混乱時期の市場予想の精度が高いこと、に気が付きます。
これは、2020年2月集計分以降、ABSが本指標発表の約半月前に暫定値(Preliminary Retail turnover)を発表しているためです。
その効果は絶大で、それが市場予想の精度を高めています。
この暫定値発表時は本稿分析対象外です。

さて、参考までに各項目毎の統計値を下表に示しておきます。

そして、各項目毎の判別式の解の統計値を下表に示しておきます。

標本標準偏差の各統計値を見比べると、事前差異や実態差異に比べて事後差異が1/10もありません。
これは、先述の理由に依って、市場予想の精度がかなり高いことを表しています。


2.3  反応結果

対象期間における4本足チャート各ローソク足の各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。

前項で述べたように、平均的には市場予想が高めのせいか、直前10-1分足はやや陽線が目立ちます。
そして、その反動なのか、直前1分足は陰線が目立ちます。
指標発表後は陽線や陰線に偏りがあるようには見えず、指標結果の良し悪しに反応している可能性が高いのでしょう。

上図における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧します。

指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は10.8pipsで、反応程度は中程度の指標です。
たまに大きく反応したときの印象が強いためか、本指標への反応は過大評価されがちです。
がしかし、過去順跳幅分布の表を見ると、反応が過去平均値の2倍超に達した割合は普通(年1回ぐらい)で、大きく反応したことが多い指標ではありません。

あと、指標発表後の一足内反転率はやや高く、上下動の激しさを示唆しているので気を付けましょう。


Ⅲ. 指標分析

以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。


3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

上表「同時発表指標」名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。

四半期生産者物価指数(PPI)と本指標は、対象期間に2回同時発表され、本指標の反応方向が素直になっていません。
また、金融関連発表(発言)との同時発表時は、もし発言者がサプライズを意図している場合、本指標結果の良し悪しとは関係なく大きく反応するリスクが常に存在するため取引できません。

結論、

  • 本指標が四半期生産者物価指数・金融関連発表(発言)と同時発表された事例※6を、本稿反応分析の対象から除く(その結果、本稿反応分析対象数は62事例となる)
  • このことは、本稿結論の取引方針が今後それら指標との同時発表時に適用できないことを意味する

です。

但し、気がかりな点が残っています。
それは、本分析が本指標より15~90分遅れて中国指標が発表されるときの中国指標の影響を踏まえていない点です。

※6  四半期生産者物価指数との同時発表は2018年9月集計分・2019年6月集計分、金融関連との同時発表は2015年8月集計分。


3.2  項目間影響力比較分析

分析対象が前月比だけなので、判別式は定義通りになります。

事前差異判別式=前月比の(市場予想ー前回結果)
事後差異判別式=前月比の(発表結果ー市場予想)
実態差異判別式=前月比の(発表結果ー修正結果)
但し、前回結果の修正が行われなかった場合には、上式「修正結果」を「前回結果」と読み替える

です。


3.3  利得分析

分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。

事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で41.4pipsです。

但し、この数字は期間推移(指標差異)の図から明らかな通り、2020年のコロナ禍の影響を強く受けています。
よって、2020年のデータを除いて計算すると、事後差異判別式の解1ips毎の直後1分足値幅は過去平均で46.3pipsです。


Ⅳ. 反応分析

以下、各項タイトルの分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
本指標については、フルラインナップで分析します。


4.1  移動平均線分析

結果を下表に示します。

仮説一致率は35~44%で、実績は仮説を棄却しています。
但し、発表結果6回移動平均線が市場予想6回移動平均線よりも上になった翌月からは直後1分足が陰線、下になった翌月からは陽線の反応を期待した方が有利です(場面発生頻度90%、期待的中率56~61%)。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。

なお、上表において「翌月から」の「判定回数」が53回となっています。
その理由を下表に挙げておきます。


4.2  過大反動分析

前月の実態差異判別式の解の絶対値の大きさ毎に過大反動分析を行った結果を下表に示します。

結果、本指標はどちらかと言えば過大反動を起きにくいことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
そして、前月実態差異判別式の解の絶対値が0.6超のときは、指標発表直後の反応を「過大反動を起こさない」と見込むと良さそうです(上表「仮説一致率」参照)。
本事例は本分析の不適有効事例です。

なお、「過大反動を起こさないと見込む方向は、前月実態差異判別式の解の符号と同方向です。


4.3  同期/連動分析

本指標に先立って同月集計分が発表されるWestpac消費者信頼感指数は、本指標が前回結果を上回るか否かを示唆する場合があります。
分析詳細は『豪州景気指標「Westpac消費者信頼感指数」発表前後のAUDJPY反応分析』に記載しているので、そちらを参照願います。

結果を転記しておきます。

例えば上表1行目は、両指標が同じ集計月で、WP発表結果の絶対値が4%超のとき、両指標の実態差異判別式の解の符号が73%一致、と読みます。
そしてそのとき、小売売上高発表時の直前10-1分足値幅方向は、同月集計分のWP実態差異判別式の解の符号と57%一致、と読みます。

結論を転記しておくと、

  • 小売売上高前月比の改善/悪化は、Westpac消費者信頼感指数と同期もしくはWPより3か月遅行連動している可能性がある
  • 但し、その同期や連動は、Westpac消費者信頼感指数発表結果の絶対値が大きいときだけ顕在化する
  • 小売売上高発表時の反応方向は、集計月が3か月前のWestpac消費者信頼感指数の実態差異判別式の解の符号と逆になりがち

です。

なお、上表各欄における場面発生頻度は下表の通りです。


4.4  指標一致性分析

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
但し、回帰分析を行う都合から、ここでは2020年3月~5月集計分のデータを除いています。
判別式の解の値が大きすぎるそれらデータを含めると、回帰式が意味を為さなくなってしまうからです。

上左図と上右図は分布が意味を持ちません。
上中図は比例的で、事後差異判別式の解0.1%あたり3.9pipsの反応程度で、平均的な誤差は回帰線から13%ぐらいです。
計算方法が異なる3.3項の利得分析結果(4.6pips)を踏まえると、事後差異判別式の解0.1%あたり4pips強ぐらいと見込んでおけば良いでしょう。

次に、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
この分析以降、再び2020年3月~5月集計分のデータも含んでいます。

事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は87%の一致率で、反応方向は市場予想乖離方向に非常に素直です。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。

経験的に信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンです。
がしかし、上図からはそうした傾向を示すローソク足がありません。

それほど信頼度が高くなくても、過去の一致率だけに注目すると、

  • 事前差異判別式の解の絶対値が0.4超(過去平均値超)のとき、その解の符号と直前1分足値幅方向は67~71%逆方向(場面発生頻度22%)
  • 事前差異判別式の解の絶対値が0.4超0.6以下(過去平均値の1.5倍超)のとき、その解の符号と直後11分足値幅方向は69%逆方向(場面発生頻度8%)

となっています。


4.5  反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上左図と上中図は分布が意味を持ちません。
上右図は比例的で、直後1分足値幅1pipsあたり直後11分足値幅は12.2%それより伸び、平均的な誤差は10%ぐらいです。

そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。

直前1分足は陰線率が81%と、かなり偏りがあります。
また、直後1分足と直後11分足の値幅方向の一致率は80%あるものの、直後1分足と直後11分足の始値は直前1分足終値で同一のため、それだけでは取引の根拠には不十分です。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります
対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

経験的に信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンです。
例えば、直前10-1分足値幅が大きいときほど、直後11分足値幅方向との一致率が上昇しています。
また、それほど信頼度が高くなくても、過去の一致率だけに注目すると、直前10-1分足値幅が1.6pips超3.1pips以下のとき、直前10-1分足と直前1分足の値幅方向の一致率が低いことがわかります。


4.6  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は86%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは75%、値幅が同方向に伸びたことは58%でした。
初期反応方向への追撃は数分以内に終えた方が良さそうです。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れることがあります
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

直後11分足は直後1分足よりも、順跳幅こそ反応を伸ばしがちですが、値幅を伸ばすとは言えません。
このことから、指標発表後の追撃は直ちに開始し、発表から1分を過ぎたら利確の機会を窺うべきでしょう。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。

下表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
そして当然のことながら、分析時点よりも過去に遡った分析的中率には意味がありません(最新の取引方針に示した期待的中率通りになってしまいます)。
よって、下表は事前に取引方針を開示したときの成績のみを集計しています。

結果、

  • 狙った発表事例(指標発表前に取引方針を開示)での方針適用率は80%
  • 方針適用時の分析的中率は73%、そのときの実取引勝率は71%
  • 1発表当たりの平均獲得pipsは+9.06、同平均取引時間は5分13秒

です。

結論、本稿分析は(少なくとも以前の分析までなら)有用です。

※7  実取引勝率には方針外取引の成績を含まない。ここに挙げた実績は全て、別サイトの該日付ないしはその前日の投稿で事前に取引方針を開示しています。


関連リンク

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改訂履歴

4.1訂(2018年12月25日)
5訂(2020年7月24日) 新書式反映、2020年5月集計分までを反映

以上

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