豪州経済指標「四半期GDP」発表前後のAUDJPY反応分析
豪州経済指標「四半期GDP※1」は、主要国主要指標において発表結果の良し悪しにチャートが最も素直に反応する指標です。
さて、かつて豪州と言えば高金利・資源輸出国というイメージがありました。けれども、鉱山投資ブームが終わって外国人住宅投資にも制約を設けたため金利が下がって、現在は内需拡大を目指す政策を政府も中銀も目指しているようです。資源輸出国であることは今も同じですが、GDPに占める鉱工業分野の粗付加価値や総固定資産投資の比率は、既に他の先進主要国とほぼ同じぐらいしかありません。それでも毎年の最低賃金引き上げを継続し、内需はコロナ禍の2020年を除いて拡大しています。
※1 ABS統計名は「Australian National Accounts: National Income, Expenditure and Product(国内会計:国民所得、支出及び生産)」。
Ⅰ. 指標要点
1.1 概要
発表機関 オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS※2) |
発表日時 翌四半期最終月の第1水曜日 10:30(夏時間 09:30、現地時間11:30) |
発表内容 当該四半期の豪州のGDP・消費・投資・収入・貯蓄等※3の以前との比(発表事例※4) |
反応傾向 |
補足説明
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※2 オーストラリア政府統計局(ABS)は、オーストラリアの国家統計機関。ABSはウェブサイトを通じて統計と出版物を政府・商業・公共ユーザーに同時公開する(通常、キャンベラ時間午前11時30分)。
※3 GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)は、国内で一定期間内に生み出された財とサービスの付加価値の総額で、国の経済規模を計るための指標。GDPには名目GDPと実質GDPがあり、名目GDPは実際の金額を、実質GDPは物価変動分を反映した金額を表す。本稿では実質値を扱う。
下図は豪州GDPの内訳を示す。出典は『総務省統計局, 「世界の統計2020」, 発行日不明』に記載の2018年数値を抜粋(グラフ化は当方にて実施)。鉱工業の粗付加価値は16%と、他の資源輸出国と比べて特に大きくない(米14%・英14%・加19%・NZ16%)。また民間最終消費支出は57%と、これも米英を除く主要先進国で普通(日本55%)。
※4 メディアリリースはテキスト表記だけのことが多い、ABS発表画面巻頭の「KEY FIGURES(重要値)」には前期比しか表示されない。同画面を下にスクロールして最初の表の右上端に前期比・前年同期比は表示される。
1.2 結論
次節以降では、本指標での過去データにのみ基づき、本指標発表前後の反応傾向を抽出しています。その傾向に基づく取引方針が下表です。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。本表の見方についてはこちらを参照方。
Ⅱ. 分析対象
2.1 対象範囲
分析対象は豪州「四半期GDP」発表における
- 前期比:国内当期の財とサービスの付加価値の前期との比
- 前年同期比:上記前年同期との比
(以下「前年比」と略記)
と、その発表前後のチャートの反応です。
ネット上では、他にも「設備投資(資源輸出国のため)」・「連鎖価格指数(RBA政策変更を示唆するため)」・「最終消費(GDPの57%を占めるため)」等に注目する解説記事が散見されるものの、それらは無視して構いません。後記3.2項に記す通り、本指標への反応方向は前期比と前年比で十分説明できます。
本稿での分析対象期間及び反応分析の対象回数は下表の通りです。
2.2 指標推移と統計値
対象期間における指標推移を下図に示します。図の配置は、前期比(左)・前年比(右)、です。
※6 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。統計値の表には修正結果を含まず発表結果のみを集計。
コロナ禍時期の落ち込みと回復は説明不要でしょう。
2016年7-9月期の前期比の大きな落ち込みは、2011年以来5年ぶりのマイナス成長でした。これは鉱山投資への減少が続くなかで住宅建設が鈍化したことによる一時的現象でした。
さて、上図から市場予想の精度は低いものの、だから予想が役に立たないとは言えません。
というのも下表をご覧ください。下表は、前期比の市場予想が前回発表結果を上回っていた/下回っていたとき、実際に発表結果が前回結果を上回った/下回ったときを”正解”として集計しています。
悪くありません。前期比の市場予想は精度こそたいしたことがないものの、増減方向についてはかなりアテにできます。
但し、気を付けてください。取引に必要なことは、指標の増減方向を当てるのでなく反応方向を当てることです。それには4.1項を参照願います。
2.3 反応結果
対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足とそれらの統計値を下図・下表に示します。図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(右上)・直後1分足(左下)・直後11分足(右下)となっています。
直前10-1分足は陽線が目立ち(陽線率68%)、直前1分足は陰線が目立ちます(陰線率84%)。しかし、直前1分足は上ヒゲを残して反転することが多いことがわかります。
さて、多くのFX会社においてAUDJPYのスプレッドは0.6円ぐらいです。勝率67%ならばS損益分岐点はスプレッドの5倍なので、利確/損切の目安は3pips以上となります。直前1分足値幅はそれに達していないものの、上記の通り上ヒゲを残して陰線に反転することが多いのです。やり方次第で3pips超が狙えます。
直後1分足値幅の過去平均は19.9pipsで、反応程度は大きい指標です。大きく反応する指標にしては発表直後の逆ヒゲもほぼ見られません。但し、2019年以降20pips超の跳ねが生じたことはありません。
2.4 2節まとめ
本節結論は、
- 前期比の市場予想は、発表結果が前回結果を上回るか否かを示唆する(期待的中率77%)
- 4本足チャート各ローソク足は、どれもS損益分岐点(3pips)を超えたpipsを狙える
- 指標発表直後の反応程度は平均的に大きい(19.9pips)が、2019年以降は跳幅すら20pipsに届いたことがない
です。
Ⅲ. 指標分析
本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象2指数の反応への影響度を求めます。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、チャートへの影響力比較結果を下表に一覧します。
本指標結果の良し悪しはチャートへの影響力が強く、同時発表指標があっても気にする必要はないようです。
3.2 項目間影響力比較分析
分析対象が前月比だけなので、判別式は定義通りになります。
本指標の主たる発表指数は、前期比・前年比、です。それぞれの判別式は定義通り、
事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー修正結果
但し、前回結果の修正が行われなかった場合には、上式「修正結果」を「前回結果」と読み替える
です。
このとき、各指数の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
驚くべきことに前期比にせよ前年比にせよ、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は、分析対象期間において 100% の方向一致率です。これほど指標結果の良し悪しに素直に反応する指標は、主要国主要指標で他にありません。
次に、全体判別式を次のように立式します。
- 全体判別式=A✕前期比の差異[%]+B✕前年比の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回修正結果(前回結果の修正が行われなかった場合には前回結果)
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
上式係数を上表のように決めると、過去の指標発表前後の反応方向がうまく説明できました。
3.3 3節まとめ
以上、本節の結論は
- 他の指標との同時発表は気にする必要がない
- 本指標発表前後のチャートの動きは、本指標の良し悪しに反応しがちである
- 直前10-1分足に対する事前差異判別式=1✕前期比の(市場予想ー前回結果)[%]ー3✕前年比の(市場予想ー前回結果)[%]:本式の期待的中率75%
- 直後1分足に対する事後差異判別式=2✕前期比の(発表結果ー市場予想)[%]+2✕前年比の(発表結果ー市場予想):本式の期待的中率100%
- 直後11分足に対する実態差異判別式=3✕前期比の(発表結果ー修正結果)[%]+2✕前年比の(発表結果ー修正結果):本式の期待的中率71%
です。
※7 上の事前差異判別式において、例えば(市場予想ー前回結果)が前期比・前年比ともに+0.1だったとする。このとき、直前10-1分足に対応する事前差異判別式=1✕0.1ー3✕0.1=ー0.2となる。解の符号はマイナスなので、直前10-1分足は陰線となる期待的中率が75%となる。
Ⅳ. 反応分析
本節は、全体判別式の解の符号や先に形成されたローソク足方向が狙いとするローソク足の方向とどれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。
4.1 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
※8 上図はコロナ禍時期をプロットしていない。それらをプロットすると、上図各ドットが中央に集まり過ぎて全般的な傾向がわからなくなるため。
上中図の回帰線がドットの分布からずれているのは、図外にコロナ禍時期の外れ値があるためです。
次に、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を下図に纏めておきます。
事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は100%の一致率で、反応方向は発表結果の市場予想との乖離方向に完全に一致しています。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。
結果、
- 直前10-1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が1.6以下(過去平均値の2倍以下)のとき、それと同方向になりがち(場面発生頻度71%、期待的中率75%超)
- 直後1分足や直後11分足は、事後差異判別式や実態差異判別式の解の符号と一致しがちで、本指標の影響持続時間は長い
ということがわかります。
4.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上左図と上中図は分布が意味を持ちません。上右図は比例的で近似式の係数が1.28なので、直後1分足値幅に対し直後11分足値幅は平均的に28%大きく、指標発表後も反応が伸び続ける傾向が窺えます。
そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
直後1分足と直後11分足の値幅方向の一致率は94%あるものの、直後1分足と直後11分足の始値は直前1分足終値で同一のため、それだけでは取引の根拠には不十分です。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。
結果、
- 直前10-1分足値幅が3.4pips超(過去平均値超)のとき、直前1分足はそれと逆方向になりがち(場面発生頻度40%、期待的中率69%)
- 直前10-1分足値幅が3.4pips超5.0pips以下(過去平均値超1.5倍以下)のとき、直後1分足はそれと逆方向になりがち(場面発生頻度17%、期待的中率71%)
- 直前10-1分足値幅が6.7pips超(過去平均値の2倍超)のとき、直後11分足はそれと同方向になりがち(場面発生頻度17%、期待的中率67%)
4.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は94%です。がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは60%、値幅が同方向に伸びたことは63%でした。
さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れることがあります。そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
まずは順跳幅方向です。
次に値幅方向です。
結果、
- 直後1分足順跳幅が13.4pips超(過去平均値の0.5倍超)に達したら直ちに追撃を開始し、また直後1分足終値がついたときもその値幅方向に追撃すべき(場面発生頻度69%、期待的中率67%)
です。
Ⅴ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。
※9 実取引勝率には方針外取引の成績を含まない。ここに挙げた実績は全て、別サイトの該日付ないしはその前日以前の投稿で、指標発表前に取引方針を開示している。
関連リンク
改訂履歴
- 初版(2017年6月4日):2013年1-3月期から2016年10-12月期まで分析。
- 3訂(2019年1月1日):2017年7-9月期集計分までを反映。
- 4訂(2020年11月30):新書式反映。2020年4-6月期集計分までを反映。判別式を変更。
4.1訂(2022年2月27日):2021年7-9月期集計分までを反映。
以上