豪州「雇用統計」発表前後のAUDJPY反応分析

本稿は、豪州「雇用統計(※1)発表前後のAUDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
(※1)  ABSの公称統計名は「Labour Force」で、「労働力調査」と訳す方がABS調査趣旨に合致する。がしかし、本稿では馴染のある「雇用統計」表記に統一する。

発表機関
オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS
発表日時
原則、翌月2週目木曜10:30(現地夏時間は09:30)
発表内容
季節調整済の雇用者数・失業者数(※2)・失業率・労働参加率・月間労働時間など発表事例

(※2)  15歳以上で就労意欲があるのに就業していない者をカウントする。

目次太字クリックでジャンプします)。

Ⅰ. 分析結論
下記成績に示す通り取引方針は有効
Ⅱ. 分析対象
2013年1-3月期分以降の64事例
Ⅲ. 指標分析
同時発表指標ほぼ無く、指標結果に反応は素直
Ⅳ. 反応分析
複数の反応パターン有
Ⅴ. 取引成績
分析適用率60%、分析的中率80%、分析適用時勝率75%

以下本文です。


Ⅰ. 分析結論
1.1 個別分析結論
注目内容=季節調整済「雇用者数増減(※3)」「失業率(※4)」「労働参加率(※5)」発表結果の市場予想との乖離

反応程度=大きい(直後1分足値幅の過去平均値22.2pips)

反応方向=非常に素直(事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率80%)

指標間影響力比較分析=本指標のチャートへの影響力は強く、本指標での取引にあたって同時発表指標を気にする必要がない

項目間影響力比較分析=常に注目すべき項目は「失業率」、それに加えて指標発表前は「労働参加率」、指標発表直後は「雇用者数増減

利得分析=事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で9.0pips

移動平均線分析雇用者数増減の発表結果と市場予想の各6回移動平均線がクロスした翌々月から有効

過大反動分析雇用者数増減の前月実態差異判別式の解の絶対値が5.2超のとき有効

指標一致性分析=前回結果に対し市場予想の乖離が大きいときは、その乖離方向が指標発表後の反応方向になりがち

反応一致性分析=直前10-1分足値幅が大きいとき、その方向は指標発表後の反応方向を示唆しがち

伸長性分析=直後1分足順跳幅が40pipsを超えたときは、直後11分足順跳幅がそれより反応を伸ばしがち

同期連動分析=ANZ求人広告件数の「前月比」が±2.1%超だった翌月集計分の豪州雇用統計「雇用者数増減」は、両者の実態差異判別式の解の符号が一致しがち

(※3)(※4)(※5) それぞれ、ABS発表画面巻頭の「KEY FIGURES(重要値)」の表において、 「Employed people(雇用者数)」の「前月 to 当月」の項、「Unemployment rate(失業率)」の「当月」の項、「Participation rate(労働参加率)」の「当月」の項、を参照方

1.2 結論

次節以降の論拠(データ)に基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針を下表に示します。
もちろん、データからどのような傾向を見出すかは自由です。

(※6) 上表において、期待的中率が定量化できているのは反応方向だけで(判定対象)、上記pipsは過去平均値や中央値に基づく利確や損切の参考値。狙うべきpipsは、その時々のボラティリティや本指標への注目度によって大きく異なるため、判定対象に含まない。


Ⅱ. 分析対象

分析対象は、2015年1月集計分から2020年4月集計分までの豪州雇用統計における

  • 雇用者数増減
  • 失業率
  • 労働参加率

の3項目です。

本指標の発表では、過去にしばしば前月の発表値修正が行われているものの、あまり気にする必要はありません。


2.1 指標推移

分析対象期間における各項目毎の推移を下図に示します。

各項目毎の統計値を下表に示します。

各項目毎の判別式の解の統計値を下表に示します。

上表最後の行の「総合」は、後記3.2項に示す判別式の解の統計値です。


2.2 反応結果

分析対象期間における4本足チャート各ローソク足の各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。

上図における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧します。

指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は22.2pipsで、本指標は反応が大きい指標です。

そして、直後1分足と直後11分足の順跳幅平均値が2倍超となる頻度は10%に達していません。
直後1分足と直後11分足の順跳幅平均値は、0.5倍超から1.5倍以下に70%が集中しています。

また、指標発表後の1足内反転率は10%を超えているものの、この数字は本指標取引の実感よりも小さい気がします。
定量的論拠を示せない話で恐縮ながら、本指標は発表直後に逆跳幅を形成することが多い、という感触を持っています。
経験的には、本指標に限らず指標結果に素直でない発表直後の逆跳幅は、素直な方向への反転に1秒以内、もしくは、5~15秒を要することが多いものです。
この話は参考まで。


Ⅲ. 指標分析
3.1 指標間影響力比較分析

指標間影響力比較分析は、本指標が他の指標と同時発表された過去事例の実績に基づき、本指標よりもチャートへの影響力が強い指標との同時発表時を、本指標の反応方向に関わる分析対象から除くために行います
影響力の強さ」は、過去の同時発表時の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率によって判定しています。

対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。

かつては現在より中国指標の影響がAUDに大きく影響したような気がします。
とは言え、今でも中国指標の影響はあるので、分析対象期間中の中国指標との同時発表時の指標間影響力比較分析を行っています。
結果、上表の通り、本指標>中国物価指数、でした。

但し、気がかりは残っています。
それは、本分析が本指標より30~90分遅れて中国指標が発表されるときの中国指標の影響を踏まえていない点です。

ともあれ、本項分析結論は「本指標のチャートへの影響力は強く、本指標での取引にあたって同時発表指標を気にする必要がないです。


3.2 項目間影響力比較分析

項目間影響力比較分析は、ひとつの指標で複数の注目すべき指数(項目)が発表されるとき、各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さと方向を求めます
各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さは、事前差異判別式の解の符号が直前10-1分足と、事後差異判別式の解の符号が直後1分足と、実態差異判別式の解の符号が直後11分足と、方向一致率が高くなるように判別式の各係数を求めます。
判別式の係数の値の大きさと符号が、各指数(項目)が反応方向に与える影響力の強さと見なせます。

さて、本指標の分析対象項目は、雇用者数増減・失業率・労働参加率、でした。
それらに加えに、RBA(豪中銀)金融政策発表時の声明で言及されることがある常勤雇用者数増減について本分析を行います。

なお、常勤雇用者数とは正社員のことではなく、勤務時間が週35時間以上の就業者を指しています。

まず先に、3.1項結論に基づく64回の過去事例について、各項目毎の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

常勤雇用者数増減は、市場予想が見当たらない事例が多く、実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向の一致率のみ算出しています。

結果、雇用者数増減失業率も、指標発表前の反応方向への影響力は弱く、取引参加者は市場予想が当たらないことを見越しているようです。
一方、発表結果が市場予想を上回ったか下回ったかは、反応方向に影響を及ぼしていることがわかります。
そして、雇用者数増減の良し悪しが指標発表後早期にチャートへの影響力を失うのに対し、失業率は影響がしばらく持続していることがわかります。

以上のことから、常勤雇用者数増減を除いた3項目の各判別式を次のように立式します。

判別式=A✕雇用者数増減[万人]の差異+B✕失業率[%]の差異+C✕労働参加率[%]の差異
但し、
事前差異=市場予想ー前回結果
事後差異=発表結果ー市場予想
実態差異=発表結果ー前回結果(前回結果の修正が行われたときは修正結果)

上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表のように各判別式の各項目係数を決めると、指標発表後の反応が素直に記述できることがわかりました。

なお、上表「事後差異(判別式)」の係数から、本指標発表直後の反応は、0.1%の失業率悪化が雇用者数の1.5万人減に相当する、と見なせます(あくまで反応方向からの解釈で、実際の失業率と雇用者数の関係ではありません)。


3.3 利得分析

利得分析は、各判別式の解の1単位当たり何pipsの反応が起きたかを、過去の実績から検証しています。

分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。

事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で9.0pipsです。
但し、毎年の変化を見ると6.2~12.0pipsとばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。


Ⅳ. 反応分析
4.1  移動平均線分析

移動平均線分析では、指標推移のトレンド方向を根拠にした取引の勝ちやすさを、過去の実績から定量判定します

指標推移が上昇中/下降中の判定は、市場予想と発表結果の移動平均線(各6回)の上下位置で行います。
発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも上なら上昇中、発表結果の移動平均線が市場予想の移動平均線よりも下なら下降中、と判定します。
そして、2つの移動平均線がクロスした翌月以降に反応方向を検証します。
もし指標推移上昇中に指標発表直後の反応方向が陽線か、指標推移下降中に反応方向が陰線ならば「仮説一致」、その逆に反応していたら「仮説不一致」と判定します。
分析方法論等の詳細説明はこちらを参照願います。

雇用者数増減の移動平均線分析の結果を下表に示します。

結果、仮説一致率は64~69%で、実績は仮説を支持しています。
すなわち、雇用者数増減の発表結果6回移動平均線が市場予想6回移動平均線よりも上になった翌々月からは直後1分足が陽線、下になった翌々月からは陰線の反応を期待した方が有利です(場面発生頻度88%、期待的中率67~69%)。
結論、本指標は本分析の適合事例です。

(※7) 上表「翌月から」の「判定回数」が58回となっているのは、分析対象事例64回の最初の6回で移動平均値が確定するため。


4.2 過大反動分析

過大反動分析では、過大反動を見込んだ取引の勝ちやすさを、過去の実績から定量判定します

例えば、前月と前々月の指標発表結果に大きな差があったとき、当月はその差と逆方向に反動を起こすという予想がしっくりきます。
けれども、当月の市場予想にはこの反動を見込まれていると考えられるため、その反動が市場予想を超えるほど大きな反動になるか否かが問題です。
この「市場予想を超えるほど大きな反動」を「過大反動」と呼び、指標発表直後の反応方向が過大反動を見込んだ方向と一致していたら「仮説一致」と判定しています。
分析方法論等の詳細説明はこちらを参照願います。

雇用者数増減の実態差異判別式の解の絶対値の大きさ毎に過大反動分析を行った結果を下表に示します。

結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が5.2超のとき、過大反動は起きにくいことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
このとき過大反動が起きると見込んでいたら、指標発表直後1分足は25%しか見込み通りの方向になっていません(上表「仮説一致率」参照)。
ならば逆に、前月実態差異判別式の解の絶対値が5.2超のとき過大反動は起きない、と見込んでおけば良いだけです(場面発生頻度13%、期待的中率75%)。
よって、本事例は本分析の不適有効事例です。

なお、過大反動が起きないと見込む方向とは、前月実態差異判別式の解の符号と同方向です。

(※8) 上表「全数」の「判定回数」が63回となっているのは、分析対象事例64回の最初の1回で前月実態差異判別式の解の符号が確定するため。


4.3 指標一致性分析

指標一致性分析は、差異判別式の解がローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

いずれも相関係数(R2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません

ただ、上中図は回帰線がドット分布とずれているように見えます。
これは、2020年4月の事後差異判別式の解が△59.43と、ひとつだけ大きく図外にずれて見えていないからです。

(※9)「△59.43」は「マイナス59.43」の意、「-」記号は文章中で見逃しやすいのでこのように表記。

次に、各差異判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を下図に求めます。

上左図から、分析対象期間の事後差異判別式の解の符号はプラス率が70%と、偏りが目立ちます。
また上右図からは、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は一致率が高く、発表結果が市場予想を上回るか否かに素直に反応することがわかります。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。

一見して、事前差異判別式の解の絶対値が大きいほど、直後1分足や直後11分足の値幅方向は、事前差異判別式の解の符号と同方向になりがち(前回結果に対し市場予想の乖離が大きいときは、その乖離方向が指標発表後の反応方向になりがち)です。


4.4 反応一致性分析

反応一致性分析は、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の大きさや方向を示唆していないかを定量分析しています。

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上左図・上中図は相関係数(R2値)が低く、回帰分析の近似式によって反応の方向と程度を予想することはできません
上右図からは、直後1分足から直後11分足の値幅をそこそこ予想できるようです。

次に、4本足チャート各ローソク足同士の方向一致率を下図に求めます。

直前1分足は陰線率が76%、直後1分足は陽線率が72%、直後11分足は陽線率が67%と偏りが目立ちます
また、直後1分足と直後11分足の方向一致率は86%となっています。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります
分析対象の64回の事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。

一見して、直前10-1分足値幅が大きいとき、直後1分足や直後11分足の値幅方向が直前10-1分足値幅方向と同方向になりがち(直前10-1分足値幅が大きいとき、その方向は指標発表後の反応方向を示唆しがち)です。


4.5 伸長性分析

伸長性分析は、指標発表後に一方向に反応を伸ばしがちだったか否かを定量分析しています。

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は86%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
そのわからない点を、過去の傾向から探るのが伸長性分析です。

下図をご覧ください。

直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは57%、値幅が同方向に伸びたことも57%でした。
手放しで初期反応方向への追撃を勧められる数字ではありません。

さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れることがあります
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

上図から、直後1分足順跳幅の大きさでは、その後に反応を伸ばすか否かがよくわかりません。
但し、直後1分足順跳幅が40pipsを超えたとき(場面発生頻度23%)、直後11分足順跳幅がそれより反応を伸ばしがちでした(期待的中率67%)。


4.6 同期/連動分析

同期/連動分析は、分析対象指標と比較対象指標の上下動の一致率が高くなる時差を求め、その一致率が取引の参考たり得るかを判断するために行います。
上下動を調べるため、同期/連動指標分析には、ふたつの指標の実態差異判別式の解の符号の一致率を調べています。

ここで、分析対象指標を「雇用者数増減」とし、比較対象指標をANZ求人広告件数の「前月比」とします。
このときの同期/連動指標分析を『豪州雇用指標「ANZ求人広告件数」発表前後のAUDJPY反応分析』の4.4項に詳述しています。

結果は、ANZ求人広告件数の「前月比」が±2.1%超だった翌月集計分の豪州雇用統計「雇用者数増減」実態差異判別式の解の符号は、ANZ求人広告件数の「前月比」の実態差異判別式の解の符号と79%一致です(場面発生頻度22%)。


Ⅴ. 取引成績

分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。

上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。

結果、

  • 狙った発表事例(指標発表前に取引方針を開示)での方針適用率60%
  • 方針適用時の分析的中率80%、そのときの実取引勝率75%
  • 1発表当たりの平均獲得pips11.2、同平均取引時間7分0秒

です。

(※10) 実取引勝率には方針外取引の成績を含まない。


関連リンク

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改訂履歴

2訂(2019年1月8日)
3訂(2020年6月17日) 新書式反映、2020年4月集計分までを反映
3.1訂(2020年7月1日) 同期連動分析追加

以上

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