豪州価格指標「四半期賃金指数」発表前後のAUDJPY反応分析

豪州「賃金指数※1」は、分析対象事例がまだ少なく取引実績もありません。過去の傾向を分析すると、方向は前期比の良し悪しに比較的素直に反応し、たまに大きく反応しています。そして直後1分足が一定以上跳ねると、直後11分足は直後1分足より反応を伸ばしがちです。

豪州の賃金は既にOECD加盟国で最も高い賃金となっています。豪州は人口の少ない資源輸出国で、以前は中国向け輸出で潤いました。けれども近年の両国は政治的対立が強まっており、中国による報復が景気に影を落としています。それにも関わらず、コロナ禍においても最低賃金引き上げが続いています。資源高のうちはそれでも良いにせよ、コロナ禍による新興国での資源需要が減ることが心配されています。

※1 ABS統計名は「Wage Price Index(WPI)」。なお、本稿では指標分野を「雇用」にしているが、ABSでは「価格」に分類されている。


Ⅰ. 分析要点
1.1  概要
発表機関
オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS※2
発表日時
集計期中間月第3金曜から3か月後の10:30(夏時間09:30=現地時間11:30)
発表内容
公的部門と民間企業の平均賃金を指数化※2発表事例※3
反応傾向

  • 注目内容=「賃金指数前期比」と「賃金指数前年同期比」の対予想乖離
  • 反応程度=平均的にはかなり小さい直後1分足値幅の過去平均値4.5pips)ものの、たまに大きく反応
  • 反応方向素直事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率67%
  • 伸長特性直後1分足順跳幅が3.3pips超のとき、直後11分足は直後1分足よりも値幅を伸ばしがち
補足説明

  • 新規分析のためまだ取引実績はない(本稿はまだ取引実績に裏付けられた内容ではない)
  • 他の指標との同時発表は気にしなくても良い

※2 オーストラリア政府統計局(ABS)はオーストラリアの国家統計機関。ABSはウェブサイトを通じて統計と出版物を政府・商業・公共ユーザーに同時公開する(通常、キャンベラ時間午前11時30分)。

※3 本指数は、2008-09を基準に公的部門と民間企業の四半期平均賃金を指数化している。賃金には残業手当・賞与・各種手当を含まない。職種は、豪企業約3,000社の約18,000種の職種(含パートタイム)に対して実施。但し、農業・林業・漁業・個人事業主とその被雇用者・外国大使館・軍隊への被雇用者は除く。調査方法は、郵便及びオンラインアンケートで行われ、該四半期中間月第3金曜日までの最後の支払に関する回答に基づく

※4 発表画面最初の表の「Seasonally Adjusted(季節調整済)」の「Australia(全体)」の行の前期比と前年同期比が示される。発表画面における注目箇所をに示す。

1.2  結論

次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。

※5 本表の詳細説明はこちら。なお、本指標での取引実績はまだなく、上記方針の妥当性は検証中である。上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。


Ⅱ. 分析対象
2.1 対象範囲

分析対象は「WPI(Wage Praice Index)」における

  • 賃金指数前期比:公的部門と民間部門の平均賃金の季節調整済前期比
    (以下「前期比」と略記)
  • 賃金指数前年同期比:上記前年同月比
    (以下「前年比」と略記)

の2つの指数と、その発表前後のチャートの反応です。下記期間の発表が対象で、そのうち反応分析の対象回数は下表の通りです。

2.2 指標推移と統計値

本指標の推移を俯瞰するため、下図は2013年1-3月期集計分以降を示しています。本稿での分析対象期間は下図赤線よりも右側になります。図の配置は、前期比(左)・前年比(右)、となっています。

※6 グラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本稿の目的ではない。発表結果統計値は、グラフ上全プロット(⇨より左側も含む)から計算。

上図を眺めると、市場予想が高めになりがちなことがわかります。後記4.1項に示すように、市場予想が発表結果を上回っていたことは60%です。

そして、右上図においてグラフが下降傾向となっているのは以前からの長期的傾向です。豪州では公正労働委員会(Fair Work Commission:FWC)という組織が最低時給と最低週給を決めています。最低週給の推移を参考までに下図に示します。豪州の最低賃金は毎年上昇しており、そのことが賃金指数のプラス推移維持に寄与しています。結果、豪州の時給換算賃金は既にOECD諸国において最も高くなっています※7

これほど賃金が高くなってしまえば、右上図において伸び率に勢いがなくなるのも当然です。それでもプラス推移が続いているのだから、直近が右下がりな点はあまり気にする必要はないでしょう。2020年のコロナ禍の影響は求人数を著しく減らしたものの、それでも前期比・前年比はプラス圏を維持し続けました。

なお、最近は最低賃金の伸び率を賃金指数が下回ることが多くなっています。その一因はフルタイムからパートタイムへと雇用形態の移動が起きたためで、ここ数年のRBAはフルタイム雇用の回復にコメントすることが多くなっています。

※7『OECD資料「実質最低賃金」2020年7月』。調査対象はOECD加盟国28と非加盟国4。

2.3 反応結果

対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。図の配置は、上の段が指標発表前の直前10-1分足(左上)・直前1分足(右上)、下の段が指標発表後の直後1分足(左下)・直後11分足(右下)です。

直後1分足や直後11分足(指標発表後の反応)に陰線が目立つのは、前項で述べたように市場予想が高めになりがちだからかも知れません。

上図における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧します。

直後1分足値幅の過去平均値は4.5pipsで、平均的な反応程度はかなり小さい指標です。順跳幅中央値は同平均よりかなり小さいものの、1足内反転率も小さいので発表直後の反応方向ははっきりしている(大きな逆ヒゲを形成せずにフラフラしない)ようです。

各ローソク足の分布には特徴が見て取れます。
指標発表前は直前10-1分足も直前1分足も順跳幅の分布が過去平均の0.5倍超1.5倍以下の範囲に45%が属し、上のローソク足からもヒゲを残しやすく深追いを避けるべきことが窺えます。
指標発表後は直後1分足も直後11分足も過去平均値の半分以下に50%以上が収まり、いつもは反応が小さくたまに大きく反応する指標だということがわかります。

2.4 2節まとめ

本節結論は

  • 本指標の市場予想は高めになりがち
  • 指標発表前はヒゲを残して反応が安定しない
  • 指標発表後はあまりヒゲを残さず反応が安定しているものの、たまに大きく反応する点に注意

です。


Ⅲ. 指標分析

本節は、他の指標との同時発表等の実績から、本指標の分析範囲を更に絞りこみます。また、分析対象指標の反応への影響度を求めます。

3.1  指標間影響力比較分析

対象期間に本指標と同時発表された指標との影響力比較結果を下表に一覧します。

これまでのところ、同時発表指標のことは気にしなくても良いようです。

3.2  項目間影響力分析

分析指標は「前期比」と「前年比」です。
それぞれの判別式は定義通り、

事前差異判別式=市場予想ー前回結果
事後差異判別式=発表結果ー市場予想
実態差異判別式=発表結果ー修正結果
但し、前回結果の修正が行われなかった場合には、上式「修正結果」を「前回結果」と読み替える

です。
ちなみに、分析対象期間における前期比の修正頻度は19%、前年比の修正頻度は5%でした。

このとき、指標毎の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。

上表から、前年比は反応方向にほぼ影響していないことがわかります。しかし、前期比だけで本指標の反応方向を決めると、その市場予想と発表結果が同値だったときに判定不可が続出することになってしまいます。そこで、本指標の全体判別式を次のように立式します。

全体判別式=A✕「前期比」の差異[%]+B✕「前年比」の差異[%]
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回修正結果(前回結果の修正が行われなかった場合には前回結果)

上式において各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率が高くなるように上式係数A・Bを求めます(導出過程は省略)。そして、それら係数を用いたときの全体判別式の解の符号と対応ローソク足との方向一致率を下表に纏めておきます。

上表では、事後差異判別式の解の符号に対する直後1分足方向は67%しか一致していません。しかし、後記4.1項に示す通り、事後差異判別式の解の符号は直後1分足でなく、直後11分足との方向一致率が73%と最大化します。

3.3 3節まとめ

以上、本節の結論は

  • これまでのところ、他の指標との同時発表は気にする必要がない
  • 本指標発表後の反応は、発表直後1分でなく11分で捉えた方が良い
    • 直後11分足に対する事後差異判別式=5✕前期比の(発表結果ー市場予想)[%]+1✕前年比の(発表結果ー市場予想)[%]

です。

※8 上式において、例えば前期比の(発表結果ー市場予想)を+0.1、前年比のそれをー0.6だったとする。このとき直後11分足に対応する事後差異判別式は、5✕0.1+1✕(ー0.6)=ー0.1となる。解の符号はマイナスなので、直後11分足が陰線となる期待的中率が73%ということになる。


Ⅳ. 反応分析

本節は、前節で求めた各判別式の解の符号や、先に形成されたローソク足方向が、狙いとするローソク足の方向とどれだけ一致したかを求めます。また、指標発表後に一方向に反応を伸ばしたか否かを調べています。

4.1  指標一致性分析

各全体判別式の解と対応ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上3図のドット分布は、どれも回帰分析で反応程度を予想するような分布ではありません。

次に、上図から方向の情報だけを取り出します。

前節で述べたように、事後差異判別式の解の符号と直後11分足の方向一致率が73%と最も高くなっています。反応が素直なことはわかりましたが、これだけではあまり取引の役に立ちません。

さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めてみます。

以上の指標一致性分析結果に基づき

  • 直前10-1分足は、事前差異判別式の解が4.5超(過去平均値の1.5倍超)のとき、その解の符号と逆方向に反応しがち(場面発生頻度19%、期待的中率75%)
  • 直後1分足は、事前差異判別式の解の絶対値が4.5超(過去平均値の1.5倍超)のとき、その解の符号と同方向に反応しがち(場面発生頻度19%、期待的中率75%)
  • 直後11分足は、事前差異判別式の解の絶対値が3.0超(過去平均値超)のとき、その解の符号と同方向に反応しがち(場面発生頻度59%、期待的中率69%)

といったことが取引に有用です。

4.2  反応一致性分析

各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。

上左図と上中図は回帰式が意味をもっていません。
上右図からは、直後1分足に対し直後11分足の相関が強く、しかも直後11分足は直後1分足よりも値幅を伸ばしがちなことがわかります。回帰式から、直後11分足は直後1分足よりも値幅を30%強伸ばしがちです。

次に、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。

先の回帰分析結果の「直後1分足に対し直後11分足の方向相関が強く、しかも直後11分足は直後1分足よりも値幅を伸ばしがち」に反して、直後1分足と直後11分足の方向一致率は59%しかありません。これは回帰分析のドット分布を見ればわかるように、直後1分足が小さいときに直後11分足との方向一致率が低いために起きています。つまり、直後1分足が一定以上ないと本指標での追撃は不適、ということになります。

さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。そこで下図に、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎にその後に形成される各ローソク足の反応方向一致率を求めてみます。

上図において直前1分足は、直前10-1分足が1.6pips以下のときにそれと67%同方向、3.2pips超のときそれと87%逆方向になっています。但し、2.2項の表に示した通り、過去平均順跳幅が1.7pipsしかありません。AUDJPYの一般的なスプレッドを踏まえると、直前1分足はS損益分岐点に達しないため取引対象外です。

以上の反応一致性分析結果に基づき、

  • 直後11分足は、直前10-1分足が1.6pips超(過去平均値超)のとき、それと同方向になりがち(場面発生頻度68%、期待的中率67%)

が取引に有用だとわかりました。

4.3  伸長性分析

前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は 55% しかありません。何も考えずに追撃するには数字が低い。

まず、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのか、全対象事例で分析します。

結果、直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことも値幅が同方向に伸びたことも55%でした。

次に指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れる場合があることに注目します。直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。

まずは順跳幅方向です。

次に値幅方向です。

結果、

  • 直後1分足順跳幅が3.3pips超6.7pips以下(過去平均値の0.5倍超1倍以下)のとき、直後11分足順跳幅は直後1分足順跳幅を超えて反応を伸ばしがち(場面発生頻度14%、期待的中率73%超)
  • 直後1分足順跳幅が3.3pips超(過去平均値の0.5倍超)のとき、直後11分足値幅は直後1分足値幅を超えて反応を伸ばしがち(場面発生頻度50%、期待的中率73%)

です。


Ⅴ. 取引成績

まだ取引実績はありません。


関連リンク

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改訂履歴
  • 初版(2021年1月4日):新書式反映、2017年1-3月期~2020年7-9月期集計分までを分析。
  • 改訂(2022年2月19日):2016年4-6月期~2021年7-9月期集計分まで分析対象拡大。判別式変更に伴い改訂とした。

以上

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