豪州物価指標「四半期消費者物価指数」発表前後のAUDJPY反応分析
本稿は、豪州物価指数「四半期消費者物価指数※1」発表前後のAUDJPYの過去反応を分析し、本指標での過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
発表機関 オーストラリア政府統計局(Australian Bureau of Statistics:ABS) |
発表日時 翌四半期最初の月の下旬10:30(現地夏時間は09:30) |
発表内容 季節調整済のCPI・トリム平均値※2・加重中央値※3など(発表事例※4) |
反応傾向
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※1 ABSの公称統計名「Consumer Price Index」、以下「CPI」と略記。
※2 トリム平均(刈込平均)は、価格上昇の激しい15%と価格下落の激しい15%の品目を除いた平均値。トリムはトリミングと言えばイメージしやすい。一部の財やサービスの特殊事情による異常値を除外するために用いる。
※3 加重中央値は、価格上昇の激しい25%と価格下落の激しい25%の品目を除いた平均値。支出割合が大きな品目には予め重み付けをして求める。他の主要国中銀が重視するコアインフレ率に代えて、豪中銀はトリム平均と加重平均の単純平均を基調インフレ率と捉えて重視している。
※4 ABS発表画面「Summary」下部の表の下3行「All groups CPI, seasonally adjusted(季節調整済総合CPI) 」「Trimmed mean(トリム平均) 」「Weighted median(加重中央値)」の前期比の項を参照方
Ⅰ. 分析結論
1.1 目次と要点
Ⅰ. 分析結論 下記成績に示す的中率と勝率を踏まえ、取引方針の改訂実施。反応が大きく一方向に伸びやすいという本指標の特徴は、下記実績よりも本来ならもっと勝ちやすいはずである。分析対象を、以前の「前期比」「前年比」の2項目から、「前期比」「トリム平均値前期比」と「加重中央値前期比」の3項目に変更し、取引方針も新たなデータに基づき再構成した。 |
Ⅱ. 分析対象 2013年1-3月期分以降の29事例。市場予想は高めになりがちで、反応程度は大きい。 |
Ⅲ. 指標分析 過去事例は本指標単独発表しかなく、影響力持続時間は長い。「前期比」と「加重中央値前期比」は指標発表後早期にチャートへの影響力を失うのに対し、「トリム平均値前期比」は影響がしばらく持続。 |
Ⅳ. 反応分析 事前差異判別式の解の絶対値が大きいと、その解の符号と直前10-1分足と直後11分足は逆方向、直前1分足と直後1分足は同方向になりがち。発表10分前から1分前までの値動きは、指標発表の直前直後1分間のチャートが動く方向を示唆しがち。発表後の反応は、直後1分足順跳幅方向に伸び続けがち。 |
Ⅴ. 過去成績 分析適用率88%、分析的中率60%、分析適用時勝率64%。 |
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
2.1 分析母数
分析対象は、2013年1-3月集計分から2020年1-3月集計分までの豪州四半期消費者物価指数における
- 「前期比」(以下「前期比」と略記)
- 「トリム平均値前期比」(以下「トリム平均値」と略記)
- 「加重中央値前期比」(以下「加重中央値」と略記)
の3項目です。
本指標の発表では、過去にときどき前月の発表値修正が行われているものの、気にする必要はありません。
一方、反応分析の対象は下表の通りです。
2.2 指標推移
対象期間における各項目毎の推移を下図に示します。
図の配置は、前期比(左下)・トリム平均値(右上)・加重中央値(右下)です。
前年同期比(以下「前年比」と略記)は、後記3.2項記載理由により、ここに挙げません。
※6 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
前期比の市場予想は発表結果の上下動方向をほぼ正しく当てているように見受けられます。
そして、市場予想上昇時に発表結果がそれを上回るとは言えないものの、市場予想下降時は発表結果がそれを下回りがちに見えます。
つまり、市場は高めに予想する傾向があります。
同様の傾向は、前期比ほどはっきりしないものの、2016年以降のトリム平均値や加重中央値にも見受けられます。
上図の項目毎統計値を下表に示します。
項目毎判別式の解の統計値を下表に示します。
上表最後の行の「総合」は、後記3.2項に示す判別式の解の統計値です。
2.3 反応結果
分析対象期間における4本足チャート各ローソク足の各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
直前1分足は陰線率が高く、指標発表後の反応程度は2017年頃から小さくなったように見えます。
そして、指標発表後は全体的に全幅に対するヒゲが短く見えます。
上図における各ローソクの反応程度の統計値とその分布を下表に一覧します。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は28.0pipsで、反応が大きい指標です。
反応が大きいとは言え、直後1分足と直後11分足の順跳幅が平均値の1.5倍超となる頻度は20%以下(年に2・3度)です。
拙速すぎる決済ももったいないものの、過去平均値の大きさに惑わされて、利確の機会を逸することには注意しましょう。
また、直後1分足の1足内反転率は3%しかなく、反転するときは発表から暫くしてから起きています。
定量的論拠を示せない話で恐縮ながら、本指標は発表直後に小さな逆跳幅を形成することが多い、という感触を持っています。
経験的には、本指標に限らず発表直後の逆跳幅からの戻りは、反転に1秒以内、もしくは、5~15秒を要することが多いものです。
この話は参考まで。
Ⅲ. 指標分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標はありません。
気がかりな点は、本分析が本指標より30~90分遅れて中国指標が発表されるときの中国指標の影響を踏まえていない点です。
がしかし、次項に示す通り、本指標の実態差異判別式の解の符号と直後11分足値幅方向は高い一致率を示しています。
このことは、本指標の影響持続時間は発表後10分以上続くことを示しており、もし本指標発表後に中国指標の発表が控えていても大して気にする必要がない、ということです。
3.2 項目間影響力比較分析
対象項目は、前期比・トリム平均値・加重中央値、でした。
そして、参考までに前年比の統計値を示していました(本改訂以前は前期比と前年比で判別式を求めていました)。
まずは上記項目毎の判別式の解の符号とローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
結果、いずれの項目も、指標発表前の反応方向への影響力は弱いことがわかります。
一方、発表結果が市場予想を上回ったか下回ったかは、反応方向に影響を及ぼしていることがわかります。
そして、前期比と加重中央値の良し悪しが指標発表後早期にチャートへの影響力を失うのに対し、トリム平均値は影響がしばらく持続していることがわかります。
前年比は、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向の一致率が低く(不一致率が高く)、これはこれで意味があります。
がしかし、前述の通り、以前の前年比を絡めた判別式を用いた分析に基づく成績には満足していません。
そのため、今次改訂では前年比を判別式から外すことにしました。
よって、前期比・トリム平均値・加重中央値の3項判別式を次のように立式します。
判別式=A✕前期比[%]の差異+B✕トリム平均値[%]の差異+C✕加重中央値[%]の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー前回結果(前回結果の修正が行われたときは修正結果)
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
例えば、先の判別式の形式と上表から、
事後差異判別式=1✕前期比の事後差異+3✕トリム平均値の事後差異+1✕加重中央値の事後差異
となります。
そして、上表のように各判別式の項目係数を決めると、指標発表後の反応が素直に記述できることがわかりました。
なお、トリム平均値や加重中央値は、前期比と同じデータを変動が小さくなるように加工したものです。
そのため、例えばトリム平均値の事後差異判別式の解は、29事例のうち12事例で0となっており、判別式の解が0ではローソク足の方向が素直だったか否かを判定できません。
そこで、3項目のうち少なくとも2項目で判別式を記述するようにしました。
なお、相関のある複数の項目で重回帰すべきでない、という統計の基本に反していることは承知願います。
3.3 利得分析
分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。
事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で61.1pipsです。
但し、毎年の変化を見ると16.7~88.0pipsとばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。
Ⅳ. 反応分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
4.1 移動平均線分析
事前差異と事後差異の総合判別式の解の移動平均線分析結果を下表に示します。
結果、仮説一致率は52~58%で、実績は仮説を棄却しています。
すなわち、3.2項で導出した総合判別式の解では、事後差異判別式と事後差異判別式の解の6回移動平均線の上下関係で直後1分足の方向を予測できません。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。
※7 上表「翌月から」の「判定回数」が23回となっているのは、分析対象事例29回の最初の6回で移動平均値が確定するため。
4.2 過大反動分析
実態差異と事後差異の総合判別式の解を用いた過大反動分析結果を下表に示します。
結果、前月実態差異判別式の解の絶対値が1.2以下のとき、過大反動が起きやすいことがわかります(上表「過大反動率」参照)。
がしかし、このとき過大反動が起きると見込んでも、実際に指標発表直後1分足がその方向に反応することは、前月実態差異判別式の解の絶対値が0.9超のときだけです(上表「仮説一致率」参照)。
本事例は本分析の有効事例です。
なお、過大反動が起きると見込む方向とは、前月実態差異判別式の解の符号と逆方向です。
※8 上表「全数」の「判定回数」が27回となっているのは、分析対象事例29回の最初の1回で前月実態差異判別式の解の符号が確定するため最初の1回を除くのと、判別式の解が0だったことが1回あったため。
4.3 同期/連動分析
(1) 四半期生産者物価指数との対比
分析対象指標を本指標前期比、比較対象指標を四半期生産者物価指数前期比、としたときの同期/連動分析は『豪州物価指数「四半期生産者物価指数」発表前後のAUDJPY反応分析』の稿に記載しています。
結論は、生産者物価指数と消費者物価指数の前期比同士が同期/連動している兆しは見出せない、です。
(2) MIインフレ期待との対比
「MIインフレ期待」は、メルボルン研究所(Melbourne Institute)の月次調査指標です。
この指標は、標準世帯による消費者物価指数の1年後の上昇を予想比率を表しています。
月次指数のため、ここでは該当3か月の発表値を平均して四半期の値と見なすことにします。
いま、分析対象指標を本指標前年比、比較対象指標をMIインフレ期待の3か月平均値として、両者推移を下図に示します。
両指標の値はさておき、上昇/下降のタイミングを見比べてください。
何か偶然にしてはタイミングが合い過ぎているように見えます。
そこで、両指標同士の実態差異判別式の解の符号の一致率(単期毎の増減方向の一致率)と、MIインフレ期待平均の実態差異判別式の解の符号と本指標発表前後のローソク足方向の一致率を、下表に求めておきました。
結果、いずれの一致率も取引の根拠にするには不足しています。
結論、MIインフレ期待を参照にして本指標での取引することは勧められません。
4.4 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
相関係数(R2値)を読むまでもなく、上左図と上右図は相関が弱く上中図は相関が強いことは一目瞭然です。
がしかし、いくら上中図のように相関が強くても、事前に判別式の解を予想できない限り、取引には使えません。
そこで、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を下図に求めます。
上右図から、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向は一致率が高く、発表結果が市場予想を上回るか否かに素直に反応することがわかります。
そして、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。
事前差異判別式の解の絶対値が大きいと、その解の符号と直前10-1分足と直後11分足は逆方向、直前1分足と直後1分足は同方向になりがちです。
ポジションの取得にあたってどの程度の方向一致率をアテにするかが判断どころです。
4.5 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
相関係数(R2値)を読むまでもなく、上左図と上中図は相関が弱く上右図の相関が高いことは一目瞭然です。
そして、上右図の回帰式では、直後1分足値幅よりも直後11足値幅は平均16%伸びると予想できます。
次に、4本足チャート各ローソク足同士の方向一致率を下図に求めます。
直前1分足は陰線率が80%と、偏りが目立ちます。
また、直後1分足と直後11分足の方向一致率は83%となっています。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。
分析対象の29回の事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。
直前1分足値幅方向は、直前10-1分足値幅が小さいときはその逆方向、大きいときはそれと同方向になりがちです。
そして、直後1分足値幅方向は、直前10-1分足値幅が大きくなければ、それと逆方向になりがちです。
指標発表の10分前から1分前までの値動きは、指標発表の直前直後1分間のチャートが動く方向を示唆しがちです。
4.6 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は83%です。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは79%、値幅が同方向に伸びたことも79%でした。
初期反応方向への追撃は5回に4回、成功しそうです。
さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れることがあります。
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証しておきます。
まずは順跳幅方向です。
次に値幅方向です。
です。
指標発表後の反応は、直後1分足順跳幅方向に伸び続けがちです。
Ⅴ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績は下表の通りです。
上表「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていません。
結果、
- 狙った発表事例(指標発表前に取引方針を開示)での方針適用率88%
- 方針適用時の分析的中率60%、そのときの実取引勝率64%
- 1発表当たりの平均獲得pips△6.62、同平均取引時間1分29秒
です。
従来は分析的中率が低く、そのための今次改訂です。
(※10) 実取引勝率には方針外取引の成績を含まない
関連リンク
改訂履歴
3訂(2019年1月26日)
4訂(2020年6月22日) 新書式反映、2020年1-3月集計分までを反映。判別式から前年比を除き、トリム平均値と加重中央値を加えた。
4.1訂(2020年7月20日) 3.2項誤記訂正、同期/連動分析追加。
以上