豪州景気指標「NAB企業景況指数」発表前後のAUDJPY反応分析
本稿は、豪州景気指標「NAB企業景況指数※1」発表前後のAUDJPYの動きを分析し、過去傾向に基づく取引方針を纏めています。
発表機関 ナショナルオーストラリア銀行(National Australia Bank:NAB)※2 |
発表日時 翌月、時刻は10:30(現地夏時間は09:30) |
発表内容 企業の現在の事業環境認識や以後3か月の環境改善への期待感※3(発表事例※4) |
反応傾向
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※1 NABによる発表資料名は「NAB Monthly Business Survey(NAB月次ビジネス概説)」。本指標は国内ほぼ全てのFX会社HPの経済指標説明で取り上げられている割に、重要度・注目度の評価は低い。それらHPには事前に市場予想すら案内されていないことも多い。
※2 本店所在地はメルボルン。豪州市中銀行で最大の金融資産を有する。
※3 調査対象は、多業種を交えた約350社(回答率不明)。調査内容は、現在を基準に今後3か月間の各種見通しを3択で回答する形式。代表指数の信頼感指数の他にも、事業環境・雇用・価格・稼働率など多岐項目(指数)に亘る。
※4 NAB発表では、通例、1頁目下部のTABLE 1に重要項目毎統計値、CHART 1に信頼感指数(Business Confidence)と事業環境指数(Business Conditions)の推移を示す。この事業環境指数が企業景況感指数のことである。取引はCHART 1の指数推移を見て行う。発表資料中段の「何が結果に寄与したか?(What components contributed to the result ? )」はその変化の理由を示す。
Ⅰ. 分析結論
1.1 目的と要点
Ⅰ. 分析結論 分析初版のため、現時点では取引実績がない。せいぜい数pipsを狙う指標で、欲張り・深追いは禁物。発表結果が市場予想を上回るか否かよりも、前回結果を上回るか否かに素直に反応する。 |
Ⅱ. 分析対象 指標分析対象は2015年1月期集計分以降の65回。反応分析対象は2017年6月集計分以降の36回のうち、四半期住宅価格指数・中間経済/財政見通し・金融政策関連と同時発表が行われなかった32回。反応はかなり小さいものの、一足内反転率は低い。 |
Ⅲ. 指標分析 指標発表前は信頼感指数の影響が強く、発表後は景況感指数の影響が強い。市場予想の上下動が大きいという特徴があるものの、市場予想はあまりアテにできない。 |
Ⅳ. 反応分析 前月実態差異判別式の解の絶対値が9.9超のとき、過大反動を起こすと見込んで取引すれば良い。事前差異判別式の解の絶対値が大きくなるほど、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は一致率が高くなり、直後11分足値幅方向とは一致率が低下する。また、直前10-1分足値幅が大きいときほど、直前1分足値幅方向との一致率が低下する。発表後は、直後1分足順跳幅が大きいほど暫く反応を伸ばしがちだが、発表後1分を過ぎたら決済の機会を窺うべき。 |
Ⅴ. 過去成績 本指標での取引実績はまだない。 |
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
データからどのような過去の傾向を見出すかは自由です。
※5 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
2.1 分析母数
分析対象は、2015年1月集計分から2020年6月集計分までのNAB企業景況指数(NAB月次ビジネス概説)における
- 「NAB企業信頼感指数」(以下「信頼感指数」と略記。将来の期待「Business Confidence」の値を指す)
- 「NAB企業景況感指数」(以下「景況感指数」と略記。現在の認識「Business Conditions」の値を指す)
です。
上表記載の通り、市場予想が見当たらない場合が多々あり、前回結果の改定もしばしば行われています。
一方、反応分析の対象は下表の通りほぼ半減します。
これは、2017年5月集計分以前のチャート記録を持っていないことと、2017年6月集計分以降36回の発表から後記3.1項記載理由による4回※6を除外したためです。
※6 2017年9月集計分、2017年11月集計分、2018年11月集計分、2019年11月集計分。
2.2 指標推移
対象期間における指標推移を下図に示します。
※7 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
上左図の信頼感指数はコロナ禍の影響が極端に悲観的な予想だったため、そのままの縮尺では途中変化を読めりゃしません。
もともと本指標は景気予想なので、市場予想はエコノミストら経済の専門家、発表結果は実業者の予想と言えるでしょう。
きっとそれぞれの使命に基づき、専門家は変化を過敏且つ長期化すると捉え、実業者は変化を現状を踏まえて慎重に捉えがちなのでしょう。
上図プロット値と3.2項記載の各判別式の解の統計値を下表に示しておきます。
上表最後の行の「総合」は、後記3.2項に示す判別式の解の統計値です。
2.3 反応結果
対象期間における4本足チャート各ローソク足の各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
そして、下図の歯抜け箇所は分析対象外の月です。
上図における各ローソクの反応程度の統計値を下表に一覧します。
指標結果の良し悪しに最も素直に反応しがちな直後1分足値幅の過去平均値は3.8pipsで、反応はかなり小さい指標です。
そして、反応程度がかなり小さいにも関わらず、全体的に1足内反転率は小さく無視できます(普通です)。
また、過去平均値の2倍超まで順跳幅が伸びることは、確率的に1年に1回も起きません(普通です)。
Ⅲ. 指標分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
3.1 指標間影響力比較分析
対象期間に本指標と同時発表された指標と、影響力比較結果を下表に一覧します。
※8 金融関連は2017年9月集計分(BOJ総裁発言予定と同時刻)。
上表「同時発表指標」名が青太字ならば本指標の方が影響力が強く、赤太字ならば本指標の方が影響力が弱い、と判定しています。
結果、四半期住宅価格指数や中間経済/財政見通しとの同時発表時は、本指標での取引を控えた方が良さそうです。
また、金融関連発表(発言)との同時発表時は、もし発言者がサプライズを意図している場合、本指標結果の良し悪しとは関係なく大きく反応するリスクが常に存在するため取引できません。
結論、
- 本指標が四半期住宅価格指数・中間経済/財政見通し・金融関連発表(発言)と同時発表された事例を、本稿反応分析の対象から除く(その結果、本稿反応分析対象数は32事例となる)
- このことは、本稿結論の取引方針が今後それら指標との同時発表時に適用できないことを意味する
3.2 項目間影響力比較分析
本指標の分析対象項目は信頼感指数と景況感指数でした。
まず先に、3.1項結論に基づく32事例について、両項目の判別式の解の符号と対応ローソク足の方向一致率を下表に纏めておきます。
次に、両項目を含む判別式を次のように立式します。
判別式=A✕信頼感指数の差異+B✕景況感指数の差異
但し、事前差異=市場予想ー前回結果、事後差異=発表結果ー市場予想、実態差異=発表結果ー修正結果、とおく
上式において、各判別式の係数と、各判別式の解の符号と各ローソク足値幅方向の一致率を下表に纏めておきます。
例えば、先の判別式と上表係数から本指標実態差異判別式は、
実態差異判別式=3✕信頼感指数の実態差異+1✕景況感指数の実態差異
但し、信頼感指数の実態差異=信頼感指数の(発表結果ー修正結果)、事業環境指数の実態差異=事業環境指数の(発表結果ー修正結果結果)、いずれも修正が行われない場合は前回結果
です。
残念ながら、上表係数の各判別式は対応ローソク足との方向一致率があまり高くありません。
がしかし、この式の真価は後記4.3項に示されます。
3.3 利得分析
分析内訳として指標差異(左上)と反応程度(左下)の期間推移と、分析結果として反応程度を指標差異で割った利得分析結果(右)を示します。
事後差異判別式の解1ips(Index Points)毎の直後1分足値幅は過去平均で0.2pipsです。
但し、毎年の変化を見ると0.2~1.6pipsとばらつきが大きく、予想乖離幅の大きさで反応程度を見込むことはできません。
Ⅳ. 反応分析
以下の各項タイトル分析名をクリックすると、各分析方法の詳細説明頁に移ります。
4.1 移動平均線分析
総合判別式の解の移動平均線分析結果を下表に示します。
結果、仮説一致率は52~59%で、実績は仮説を棄却しています。
結論、本指標は本分析の不適合事例です。
なお、上表「翌月から」の「判定回数」が23回となっているのは下表理由に依るものです。
4.2 過大反動分析
総合判別式の実態差異の解の絶対値の大きさ毎に過大反動分析を行った結果を下表に示します。
結果、前月実態差異判別式の解の大きさに関係なく、過大反動が起きるか否かはわかりません(上表「過大反動率」参照)。
がしかし、前月実態差異判別式の解の大きさが9.9超のときは、当月の発表直後1分足値幅方向が過大反動を起こすと見込んだ側に反応しがちです(上表「仮説一致率」参照)。
結論、本指標は本分析の適合事例です。
ちなみに、当月の発表直後1分足値幅方向が過大反動を起こすと見込んだ側とは、前月実態差異判別式の解の符号と逆方向のことです。
なお、上表「全数」の「判定回数」が28回となっているのは下表理由に依るものです。
4.3 指標一致性分析
各判別式の解とローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
但し、回帰分析を行う都合から、ここでは2020年3月~5月集計分のデータを除いています。
判別式の解の値が大きすぎるそれらデータを含めると、回帰式が意味を為さなくなってしまうからです。
上左図は分布が意味を持ちません。
上中図と上右図は右上がりの分布となっていることはわかりますが、回帰式の相関係数(R2値)が小さく、回帰分析が予想の役に立たないことが明らかです。
次に、各判別式の解の符号と4本足チャート各ローソク足値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
この分析以降、再び2020年3月~5月集計分のデータも含んでいます。
さて、指標発表前に判別式の解がわかっているのは事前差異しかありません。
そこで下図に、事前差異判別式の解の絶対値を階層化し、その階層毎に事前差異判別式の解の符号と各ローソク足の指標方向一致率を求めました。
信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンです。
例えば、事前差異判別式の解の絶対値が大きくなるほど、その解の符号と直前10-1分足値幅方向は一致率が高くなり、直後11分足値幅方向は一致率が低下しています。
4.4 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
相関係数(R2値)を読むまでもなく、いずれも相関が弱いことは一目瞭然です。
そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
4本足チャート各ローソク足同士の値幅方向の一致率は、取引に有益なほど高くも低くもありません。
直後1分足と直後11分足の値幅方向の一致率は68%あるものの、直後1分足と直後11分足の始値は直前1分足終値で同一のため、それだけでは取引の根拠には不十分です。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。
分析対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。
信頼度が高い傾向は、階層の変化方向に応じて方向一致率が変化しているパターンです。
例えば、直前10-1分足値幅が大きいときほど、直前1分足値幅方向との一致率が低下しています。
4.5 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は68%です。
そして、過去平均反応程度は、直後1分足に比べ直後11分足は2倍弱も反応があります。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばした回数の方が多いか、削ったり反転した回数が多いのかはわかっていません。
その点を過去の傾向から探ります。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは52%、値幅が同方向に伸びたことは40%でした。
この数字ではとても追撃を勧められません。
さて、指標発表によって一方向に反応が伸びるときには、経験から言って最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れがちです。
そこで、直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
まずは順跳幅方向です。
次に値幅方向です。
順跳幅方向にも値幅方向にも、直後1分足順跳幅が大きいほど、そのまま反応を伸ばすことが多くなっています。
特に、順跳幅方向は、直後1分足順跳幅5.4pips超(過去平均値超)のとき、直ちに追撃開始する根拠たり得ます。
但し、値幅方向へは順跳幅方向ほど反応が伸びていないため、上記追撃は発表から1分を過ぎたら早めに利確して逃げた方が良さそうです。
Ⅴ. 取引成績
本記事は本指標分析初版のため、事前方針に基づく取引実績はありません。
関連リンク
改訂履歴
初版(2020年7月9日)
1.1訂(2020年7月20日) 景況感指数の過去市場予想の判明分を追加、移動平均線分析・過大反動分析を追加。
以上