豪中銀金融政策発表時のAUDJPY反応分析
Ⅰ. 分析要点
1.1 概要
本稿の過去傾向に基づく取引方針は、有用さが実績によって裏付けられています。
意外なことに「政策変更があった場合」や「市場予想が外れた場合」は、初期反応方向に反応が伸び続けないことが多いのです。
これらの場合には発表後短時間で大きく反応することが多いものの、その短時間にスプレッドが広がった状態で一瞬の判断が必要になるため、安定的に稼ぐことが困難です。
むしろ、発表結果が「市場予想通り現状維持」だったときの方が、ずっと取引には向いています。
発表機関 オーストラリア準備銀行※1(Reserve Bank of Australia:RBA) |
発表日時 1月を除く毎月第1火曜日13:30(夏時間12:30=現地時間14:30) |
発表内容 銀行間取引の翌日物貸出金利(OCR)の誘導目標など※2※3 |
反応傾向(市場予想通り現状維持の場合) |
補足説明
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※1 豪中銀には法的責務として「金融政策を通じた通貨価値の安定・最大雇用の維持・経済的繁栄と厚生の促進」が課されている。そして「インフレターゲット」を掲げ、物価上昇率を年2~3%のバンドに収めることを目標としている。なお、インフレターゲット対象の基調インフレ率とは、トリム平均値と加重中央値の平均消費者物価指数を指す。
※2 金融政策は、9名からなる理事会(Reserve Bank of Australia Board)の多数決によって決定され、結果は「Monetary Policy Decision(金融政策決定)」という声明文で示される。通例、声明文には、今後の金融政策の維持や変更を明示もしくは示唆する。そして、その結論に至った現状と将来の経済情勢の認識が示される。結果、政策変更が緩和的か引締的か、あるいは、政策維持の場合の経済見通しが以前よりも改善しそうか否かに、AUD相場が反応する。下図に政策変更時の発表事例を示す。政策変更時には、下図赤線部のように「〇ベーシスポイント下げて(上げて)〇%に決定した」と第一段落に結論が記されることが多い。
※3 現在、RBAは従来の翌日物貸出金利(Official Cash Rate:OCR)に加え、3年債利回りの誘導目標、各種国債と準国債の購入(QE)、銀行・企業への資金供給など、他の主要国中銀と同様の政策を実施中。
1.2 結論
次節以降のデータに基づき、本指標での過去傾向に基づく取引方針例を下表に示します。
下表は下部2行を除き、発表結果が「市場予想通り現状維持」だったときの方針です。
※4 上表において、事後判定対象は反応方向のみ。参考pipsは過去の平均値や中央値やそれらの差。利確や損切の最適pipsは、その時々のボラティリティ、トレンド状態、レジスタンス/サポートとの位置関係によって大きく異なるため、事前予想できず判定対象外。
Ⅱ. 分析対象
2.1 対象期間
下表に関連情報を整理しておきます。
毎年1月は政策発表がありません。
また、コロナ禍で緊急会合が行われた2020年3月は、2回の発表が行われています。
2.2 対象項目
上記期間のRBA政策手段には、
- 翌日物貸出金利(Official Cash Rate:以下「OCR」と略記)
- 3年債金利誘導目標(以下「3年債金利」と略記)
- 資金供給
- 国債・準国債購入:3年債金利の目標誘導とイールドカーブ全般のコントロールのための手段
- ターム資金調達ファシリティ(以下「TFF」と略記):中小企業への資金供給
- RBA為替決済残高に対する付利
が挙げられます。
それらの過去推移を下図に示します。
※5 このグラフは分析データ開示のために載せており、グラフを本指標の発表毎に最新に更新していくことが本サイトの目的ではない。
上左図で赤●が見えている月は、OCRの市場予想が外れた月です。
2.3 対象反応
対象期間における4本足チャート各始値基準ローソク足を下図に示します。
図の配置は、直前10-1分足(左上)・直前1分足(左下)・直後1分足(右上)・直後11分足(右下)となっています。
かつて、発表定時直前に極端に大きな反応していた時期がありました(上図左下参照)。
この時期は発表直後もチャートの動きが激しく、スプレッド幅も極端に大きくなっていました(FX会社によって違うでしょうが、確か10~20pipsぐらいだった記憶があります)。
直前1分足が大きく動くときは、発表直前・直後の取引を諦めた方が良いでしょう。
Ⅲ. 指標分析
概ねRBAの声明文は、① 結論、② 国際情勢や為替・資源市場の状況、③ 成長率・雇用・物価・住宅市場等の個別状況、④ 今後の方針、という構成となっています。
そして、まず結論が市場予想通りか否かにチャートは反応し、次に今後方針や雇用・物価の今後見通しに反応しがちです。
がしかし、例え英語が堪能でも、声明文から反応方向を着実に当てることは非常に困難です。
例えば、下表に2020年の声明文要点を整理しておいたので、ざっとご覧ください。
上表のポイントは、例え声明文に「緩和の用意がある」という文言があっても、それが次回のことなのか近々のことなのか、我々アマチュアには判断できないことがわかる点です。
その逆に、前回声明文で「緩和の用意がある」という文言があり今回が「現状維持」でも、必ずしも「失望」に繋がりません。
Ⅳ. 反応分析
4.1 市場予想に反した場合
RBAが市場予想に反した政策決定をしたことは、対象期間に下図4例があります。
2015年2月と2016年5月の事例では、予想外の利下げに対して陰線での反応でした。
2015年3月の事例では、利下げが予想されていたにも関わらず現状維持との結果に陽線で反応しました。
2020年3月の事例では、コロナ禍による金融・経済への不安を打ち消す(AUDへの不安を打ち消す)ための利下げゆえ、陽線で反応しました。
つまり、これらのように予想外の発表結果だったときには、いずれも我々アマチュアでさえ納得できる解釈が可能な反応だと言えるのです。
がしかし、2015年2月・2015年3月・2020年3月の事例では、発表後に逆跳幅を発生しています。
また、2016年5月の事例では、逆跳幅こそ生じていないものの、直後11分足が直後1分足の値幅を削っています。
前述のように後に妥当な解釈が可能な事例であっても、どこまで反応が伸びるかわからない金融政策発表時の取引でポジションと逆方向に大きく動いたときには損切せざるを得ません。
つまり過去の実績から言えば、発表結果が予想外の内容だったときには、小さく短時間に売買を繰り返して少しずつ稼ぐしかないのです。
危なくて、間違ってしまったポジションを持ち続けることなんて、とてもできません。
4.2 市場予想通りに政策変更した場合
RBAが市場予想通りに政策変更したことは、対象期間に下図8例があります。
市場予想通りに政策変更した場合は、何と8事例のうち4事例で直後1分足と直後11分足が反転しています。
そして、3事例では直後1分足逆跳幅が同値幅に対して無視できない大きさになっています。
また、直後1分足と直後11分足が反転しなかった4事例においても、直後1分足を超えて直後11分足が値幅を大きく伸ばせたことは2020年3月の1例しかありません。
つまり過去の実績に基づけば、市場予想通りに政策変更した場合に拙速な追撃開始は禁物です。
そして、直後1分足終値がついた後、直後1分足値幅方向に対して逆張りの機会を窺う方が、同様場面での取引回数を増やしたときに得られるだろう期待pipsが大きくなりそうです。
この傾向は、市場予想通りに政策変更時には発表以前に織り込みが進んでいたことが多いから、と推察されます。
4.3 市場予想通り現状維持だった場合
発表結果が市場予想通り現状維持だった事例は、対象期間に56回あります。
4.3.1 反応程度
これら56回の発表時の4本足チャート各ローソク足の反応程度統計値は下表の通りです。
直後1分足値幅平均は11.3pipsで、反応程度は中程度しかないことに注意が必要です。
そして、一般論として声明文に
- 近々の政策変更の見通しが示されたとき
- インフレ率が近々の政策変更を予感させるほどターゲットレンジに近づいたり離れたとき
- 成長率の見通しが改定されたとき
- 為替介入の可能性が示唆されたとき
といった内容が含まれていた場合、一方向への反応持続時間が長くなりがち、と言われています。
4.3.2 反応一致性分析
各ローソク足値幅の代表的な関係を下図に示します。
上左図と上中図の分布から、直前10-1分足は発表後の反応方向を示唆していません。
上右図はやや比例的ですが相関係数は小さく、直後1分足値幅を見て直後11分足値幅を予想するには精度が悪すぎます。
そして、4本足チャート各ローソク足毎の方向率や、ローソク足同士の値幅方向の一致率を纏めた下図をご覧ください。
対象期間全般に緩和政策中のためか、発表後の反応は陽線率が高くなっています。
さて、直前10-1分足は、指標発表前にローソク足が完成しており、その後のローソク足方向を示唆している可能性があります。
対象事例について、直前10-1分足値幅を階層化し、その階層毎に反応方向一致性分析を行った結果を下図に示します。
結果、直前10-1分足値幅を階層化すると、
- 直前10-1分足値幅が6.5pips超(過去平均値の2倍超)のとき、その値幅方向と直前1分足値幅方向が同じになりがち(場面発生頻度9%、期待的中率83%)
- 直前10-1分足値幅が6.5pips超(過去平均値の2倍超)のとき、その値幅方向と直後1分足値幅方向が逆になりがち(場面発生頻度9%、期待的中率67%)
- 直前10-1分足値幅が3.2pips超(過去平均値超)のとき、その値幅方向と直後11分足値幅方向が逆になりがち(場面発生頻度37%、期待的中率75%)
4.3.3 伸長性分析
前項に示した通り、直後1分足と直後11分足の方向一致率は75%でした。
がしかし、直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばすか削るのかはわかっていません。
下図をご覧ください。
直後1分足よりも直後11分足の順跳幅が同方向に伸びたことは63%、値幅が同方向に伸びたことは52%でした。
これらの数字では追撃すべきか迷います。
そこで、指標発表後の反応が一方向に伸びるときには、最初の兆しは直後1分足順跳幅の大きさに現れる場合があることに注目します。
直後1分足順跳幅を階層化し、階層毎に直後1分足よりも直後11分足が反応を伸ばしがちか否かを検証します。
まずは順跳幅方向です。
次に値幅方向です。
結果、
- 直後1分足順跳幅が14.8pips超(過去平均値超)に達したら、直ちに追撃を開始し、発表後1分を過ぎたら決済の機会を窺うべき(場面発生頻度34%、期待的中率69~75%)
- 直後1分足順跳幅が29.6pips超(過去平均値の2倍超)のとき、直後1分足終値がついたら追撃を開始し、発表後11分以内に決済すべき(場面発生頻度12%、期待的中率75%)
Ⅴ. 取引成績
分析記事は不定期に見直しを行っており、過去の分析成績と取引成績を検証します。
※6 「分析成績」は、取引方針の反応方向についてのみ判定を行い、反応程度についての判定は行っていない。「分析適用率」と「分析的中率」は、都度の指標発表前に取引方針を開示していたときだけの成績を集計。「取引成績」は、指標発表直前・直後におけるスプレッド拡大、スリップ多発、注文不可などの影響を考慮してもなお、本稿取引方針が有効か否かを判断するため、実取引における分析適用時勝率。ここに挙げた実績は全て別サイトにて該日付もしくはその前日の投稿で事前に取引方針を開示。
結果、本稿分析の有用さは実績によって裏付けられています。
関連リンク
改訂履歴
初稿(2016年12月5日)
改訂(2017年7月31日)
2.1訂(2019年2月4日)
3訂(2021年1月1日) 新書式反映、2020年12月発表分までを反映
以上