Ap.01 指標間影響力比較分析の方法

このサイトでは「市場予想よりも指標結果が改善したとき、その国の通貨が買われた」か「市場予想よりも指標結果が悪化したとき、その国の通貨が売られた」という状況を「素直な反応」と定義しています。

いま、指標Aと指標Bが同時発表され、指標Aの発表結果が市場予想を上回り、指標Bの発表結果が市場予想を下回ったとします。
そして、このときの指標発表直後1分足が陽線で反応したとします。
この場合、指標Aに対し素直な反応をし、指標Bに対し素直な反応でなかった、ということになります。

この現象を「指標Aのチャートへの影響力が指標Bのそれより強い」と言い、指標A>指標B、と表記することにします。
指標A>指標B、といった関係は、過去に遡って指標Aと指標Bの同時発表時を検証して判定します。
この分析を、指標間影響力比較分析と呼びます。

この分析は、指標毎の反応を分析する上で必須で、他の分析に先立って行う必要があります
だって、指標A>指標B、の関係があるなら、指標Aと指標Bが同時発表されるとき、指標Aの特徴を踏まえた取引を行うべきでしょう。
逆に、指標Bの反応を分析する場合、指標Aとの同時発表されたときを除いて行わないと、指標Bの特徴が抽出できなくなってしまいます。

よって、指標間影響力比較分析の結論は「どの指標と同時発表されたときを除けば、分析対象指標の反応の分析を行えるか」です。


例えば、米国NY連銀製造業景気指数は2018年に12回発表されています。
けれども、そのうち6回は米国小売売上高と同時発表されています。
ならば、その6回はNY連銀製造業景気指数が単独で発表された場合と、指標発表前後の反応が同程度だったでしょうか?
そんな訳がない!

実際は、NY連銀製造業景気指数が単独で発表されたときと、小売売上高と同時発表されたときとでは、倍・半分の反応程度の違いがありました。
これが、ある指標の反応を分析するときは、その指標よりも影響力の強い指標との同時発表時を除いて分析を行う必要がある、という事例です。
このことをきちんと説明するのは面倒なため、同時発表指標の影響を考慮しないまま、分析対象指標への反応を解説する資料は多いのです。
それでは、読者をミスリードしてしまいます。

Ap.01-1  方法論概説

ある指標の分析を行うとき、その指標を「分析対象指標」と呼びます。
また、分析対象指標と過去に同時発表されたことがある指標を「比較対象指標」と呼ぶことにします。
そして、指標間影響力比較分析の手順は次の通りです。

  • 分析対象指標比較対象指標それぞれの良し悪しは、事後差異判別式の解の符号で判定
  • 反応方向は直後1分足値幅方向で判定
  • 分析対象指標と比較対象指標のそれぞれについて、事後差異判別式の解の符号と直後1分足値幅方向が一致した方向一致回数と、不一致だった方向不一致回数を過去に遡ってカウント
  • 方向一致回数/(方向一致回数+方向不一致回数)✕100=方向一致率、と定義し、分析対象指標と比較対象指標の方向一致率を比べて、一致率が高い指標を「影響力が強い」と判定

通常は、分析対象指標の方向一致率が67%未満、且つ、比較対象指標以下の方向一致率となった場合、その分析対象指標での取引は不可と判断します。
ここまでは分析対象期間における実績に基づく判断を機械的に行います

文字で読むだけではわかりにくいかも知れません。
そこで、細かな説明不足を残したまま、次項で図説します。


Ap.01-2 分析事例図説

分析シート(上)と結論シート(下)を示します。
これらシートは、NY連銀製造業景気指数と、その同時発表指標のチャートへの影響力強弱を判断しています。

上の分析シートをご覧ください。

分析対象指標の事後差異判別式の解が0なら、分析対象指標の反応が素直だったか否かは判定していません。
また、比較対象指標の事後差異判別式の解が0なら、比較対象指標の反応が素直だったか否かは判定していません。
そして、直後1分足値幅が0なら、分析対象指標も比較対象指標も反応が素直だったか否かは判定していません。
その結果、分析対象指標と比較対象指標の方向一致や方向不一致を判定する回数は、それらの同時発表回数以下となります。

次に結論シートをご覧ください。

結論シートでは、比較対象指標の指標名を青太字赤太字に色分けしています。
青太字ならば(分析対象指標>比較対象指標)、赤太字ならば(分析対象指標<比較対象指標)、が結論です。
なお、この結論シートでは「相対基準判断」という方法で、方向一致率が高いNY連銀製造業景気指数よりも、方向一致率が小さいコアCPI前月比を影響力が強いと判断しています。
この「相対基準判断」について次項で説明します。


Ap.01-3  相対基準判断

相対基準判断」をざっくり説明すると、分析対象指標Aは相対基準指標Cよりも影響力が強く、その指標Cは比較対象指標Bよりも影響力が強いならば、指標Aは指標Bよりも影響力が強い、と判断することです。
A>C & C>B ⇒ A>B、です。
大した話ではありません。

でも、

A>C & C>B ⇒ A>B

という話は、実績基準で影響力の強弱を判断する上で、思い込みに基づく間違いを生じがちです。
その間違いを起こす可能性を減らすことが本項目的です。

もちろん、先の結論シートのように、NY連銀製造業景気指数とコアCPI前月比の影響力強弱ならば、そんな間違いは起こさないでしょう。
けれども、強弱が微妙な指標との同時発表はよくあることです。
だから、この方法論が必要なのです。


(問題点の把握)

さて、いくら実績に基づく判断と言っても、過去に同時発表が1回しか行われていない場合と10数回も行われている場合では、実績への信頼度が全く異なります。
そこで、過去に同時発表が一定回数以下しか行われていない指標同士は実績不足と見なし、影響力の強弱を「相対基準指標」を用いて判断します。
なお、分析対象指標と比較対象指標の影響力の強弱を、前項の手順で機械的に実績のみで判断することを「絶対基準判断」と呼び、相対基準指標を用いて分析対象指標と比較対象指標の影響力の強弱を判断することを「相対基準判断」と呼びます

(課題の明確化)

例えば、分析対象指標Aの方向一致回数をa1・方向不一致回数をa2とし、比較対象指標Bの方向一致回数をb1・方向不一致回数をb2、とします。
もし、指標Aが指標Bよりも影響力が強いなら、前項定義式に基づき、

a1/(a1+a2)>b1/(b1+b2)

だったことになります。
ところが、(a1+a2)か(b1+b2)かそれら両方が、1とか2とか3とか…の小さな数しかなかったとします。
このとき、

a1/(a1+a2)>b1/(b1+b2)

という先の関係が実績不足で信頼がおけない、という点が課題でした。

(解決方法)

そこで例えば、指標Bよりも影響力が強いことが既知で、且つ、指標Aと同時発表されたことがある指標Cを相対基準指標とします。
そして、指標Cが指標Aと同時発表されたときの方向一致回数をc1・方向不一致回数をc2とします。
このとき、

a1+c1)/(a1+a2+c1+c2)>b1/(b1+b2)

ならば、指標Aが指標Bよりも影響力が強い、ということの信頼を高めたことになります。
一方、指標Cを導入したことによって、

a1+c1)/(a1+a2+c1+c2)<b1/(b1+b2)

となってしまったら、先に挙げた

a1/(a1+a2)>b1/(b1+b2)

という強弱関係は信用できない、ということになります。

以上は、指標Aが指標Bよりも影響力が強いことを相対基準判断する方法です。
逆に、指標Aが指標Bよりも影響力が弱いことを相対基準判断するためには、指標Aよりも影響力が強いことが既知で、且つ、指標Aと同時発表されたことがある指標Cを相対基準指標とすれば良い訳です。

相対基準判断は、思い込みによる誤判断を防止するため、実績を正しく水増しして行う判断です

(解決方法の効果:解決事例で説明)

応用例として、わかりやすい事例を挙げます。

米国NY連銀製造業景気指数(分析対象指標)は、2015年1月~2019年9月集計分までの57回の発表で、米国消費者物価指数コア前月比(比較対象指標)と7回の同時発表がありました。
ところが、この7回の発表結果の良し悪しと直後1分足の方向一致率を調べてみると、NY連銀製造業景気指数57%>消費者物価指数コア前月比50%、でした(先の結論シートを参照願います)。

でも、NY連銀製造業景気指数の方が消費者物価指数コア前月比よりもチャートへの影響力が強いなんて信じられません
こんな結果になったのは、消費者物価指数コア前月比の有効判定回数(=方向一致回数+方向不一致回数)がたった2回しかないから、と考えられます。

そこで、相対基準指標として、米国生産者物価指数コア前月比を用いることにします。
では、NY連銀製造業景気指数の方向一致率は57%でしたが、これは消費者物価指数コア前月比の実績と生産者物価指数コア前月比の実績を合算した方向一致率71%より小、となります(計算過程は、先の図説に記載)。
よって、NY連銀製造業景気指数(分析対象指標)は、消費者物価指数コア前月比(比較対象指標)よりも影響力が弱い、が相対基準判断の結論になります。

この結論は、NY連銀製造業景気指数の方が消費者物価指数コア前月比よりも影響力が強いという、絶対基準判断の結論と矛盾しています。
ここが大事な点ですが、絶対基準判断の結論と矛盾しても、相対基準判断の方が「論理的に正しく実績を水増し」している分、結論の信頼度が高い、と考えるのです。

(歯止め)

2点補足します。

ひとつは、上記説明が、NY連銀製造業景気指数と消費者物価指数コア前月比を比べる、というわかりやすい事例を取り上げたことについてです。
ならば、相対基準判断はもっとわかりにくい事例で適用すれば、絶対基準判断よりも信頼性が減るのでしょうか?
ある分析対象期間に限って、そんなことが起きる可能性は0ではありません。
でも、それを言うなら絶対基準判断の方が、間違った結論になる可能性が高い、と言えます。
相対基準判断は、論理的に正しく母数を増やした分だけ、結論の信頼を高めます。

もうひとつは、消費者物価指数のように影響力が強い指標では、指標発表前に売買を終えており、指標発表後は「事実売り」のような現象が起きている可能性です。
だから、上の例で絶対基準判断が、NY連銀製造業景気指数>消費者物価指数コア前月比、となっていたことは正しいのではないか、という疑問です。
もちろん、そんな事例もここに挙げたように、ある期間・ある指標同士の組み合わせで過去に遡って探せばいくらでも見つかるでしょう。
けれども、消費者物価指数自体の指標発表直後の反応方向は、発表結果の良し悪しに素直なことがわかっています。
「事実売り」みたいな現象は、指標発表直後すぐに起きる確率が低く、指標発表から少し経ってから起きがちなのです。
それなのに絶対基準判断で、NY連銀製造業景気指数>消費者物価指数コア前月比、と矛盾した結果になっていたのは、判断の対象事例が少なかったため、と考える方が合理的です。

ともあれ、相対基準判断という方法は、たいした話でもないのにきちんと説明するのが面倒でした。


Ap.01-4  本分析方法における恣意性

別途追記します。


関連リンク

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以上

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