5 定量指標分析の方法

定量指標分析は、指標の特徴を定量的に抽出し、あわよくば市場予想と発表結果の大小関係を事前に予想するための分析です。
「あわよくば」というのは大事な点です。
わからなければわからない、という結論を得て、取引を諦めることも大事です。


5.1  指標分析

指標分析は、

  • 指標推移記録=個々の指標の過去の推移の記録をグラフ化し、そのグラフの特徴有無を検討
  • 指標間影響力比較分析=複数の指標が同時発表されるときに、どの指標の影響力が強いかを分析
  • 項目間影響力比較分析=ある指標の複数の発表項目について、どの項目の影響力が強いかを分析
  • 指標予想分析=指標毎の市場予想の傾向を分析し、発表結果が市場予想を上回るか否かを分析

という手順で行います。

一連の手順は、項目間影響力比較分析で事前差異判別式事後差異判別式実態差異判別式を求めるための分析です。
各判別式の解は、項目間影響力比較分析以降の分析、指標予想分析だけでなく、別記反応分析でも用います。


5-2  指標推移記録

指標分析のデータは、個々の指標毎に市場予想発表結果修正結果です。

それらはグラフ化して記録します。
もし、ある時点以前の指標推移のグラフを一見して、ある時点以降のグラフ推移が予想できるなら、それに越したことはありません。
見てわかる傾向があるなら、何も複雑な分析なんてする必要ないのだから、一次データを図示しておくことは出発点になります。

例えば、2015年1月集計分~2019年8月集計分の米国NY連銀製造業景気指数の指標推移は下図の通りです。

」は市場予想、「」は発表結果、「」は修正結果を表しています。
市場予想は指標発表前に公開され、発表定時に発表結果と前回の修正結果がわかります。
前回の発表結果が修正されなければ、「と「」は重なって、「」は隠れて見えなくなります。
」がほとんど見えないNY連銀製造業景気指数では、実態差異判別式を(発表結果ー修正結果)としても(発表結果ー前回結果)にしても実害ありません。

このグラフの基となったデータに基づき、過去から現在までの判別式の解を求めています。
なお、毎月発表がある指標では2015年以降、四半期毎の発表がある指標や金融政策発表では2013年以降のデータを採用しています。


5-3  指標間影響力比較分析

指標Aと指標B・C・D…が同時発表されるとき、どうすればよいでしょう。
ここでは、最も影響力の強い指標だけに注目し、他の指標は無視することにしています。
そして、指標の影響力を簡単に比較する方法は、比較指標の事後差異判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率を過去に遡って実績を調べるのが一番です。
この作業を指標間影響力比較分析と呼びます。

なお「事後差異判別式の解の符号」といちいち記すのは面倒なので、以下「事後差異」と略記します。


例えば下表は、2015年1月~2019年8月までの4年8か月の間に、米国NY連銀製造業景気指数と同時発表された指標(以下「同時発表指標」と略記)の一覧です。
同時発表が何回あったかと、同時発表指標の事後差異と直後1分足の方向一致率と、NY連銀製造業景気指数の事後差異と直後1分足の方向一致率を整理しています。

一番上の米国小売売上高は、コア前月比の事後差異に注目することにします。
小売売上高コア前月比は、過去にNY連銀製造業景気指数と同時発表されたことが18回ありました。
この18回のうち、事後差異と直後1分足の方向一致回数が12回、不一致回数が3回でした。
方向一致でも不一致でもなかったことが3回あり、それは事後差異が0か直後1分足値幅が0で判定不可でした。

いま、

  • 方向一致率=方向一致回数/(方向一致回数+方向不一致回数)

と定義します。この式に判定不可回数は含まれていません。

NY連銀製造業景気指数と同時発表されたとき、小売売上高コア前月比の事後差異と直後1分足は80%の方向一致率でした。
そのときのNY連銀製造業景気指数の事後差異と直後1分足の方向一致率は63%でした。
小売売上高(方向一致率80%)は、NY連銀製造業景気指数(方向一致率63%)よりも影響力が強いと判断できます。
この強弱を、小売売上高>NY連銀製造業景気指数、と表記します。


でもまぁ、小売売上高とNY連銀製造業景気指数の比較なら、こんな集計をしなくても、小売売上高>NY連銀製造業景気指数、ということは知られています。
ならば、PPIやCPIとNY連銀製造業景気指数との影響力強弱はどうでしょう。
上表で3行目(PPIコア前月比)・4行目(CPIコア前月比)にそれらが示されています。

そもそもPPIとNY連銀製造業景気指数は、連動もしくは追従があっても不思議ではない指標同士です。
そのため、両指標の事後差異と直後1分足の方向一致率はともに高く、ややNY連銀製造業景気指数の方が高くなっています。

けれども、CPIとNY連銀製造業景気指数は、PPIを介して連動もしくは追従がありそうでも、両指標の事後差異と直後1分足の方向一致率がともに50%台と低くなっています。
方向一致率がともに低い、ということは、これらが同時発表されるときに取引すべきでない、ということです。

CPIの方が圧倒的に影響力が強い、と思っている人が多数派です。
がしかし、過去の実績から言えば事実は異なります。
もっと長期に亘って記録を取れば、いつかCPIの方が圧倒的に影響力が強いことが立証されるかも知れません。
データを無視する人は、ほとんどがそう思っています。
がしかし、今は違います。

意外ではないでしょうか?

こうした思い込みがないか確認するためには、事実を調べるしかありません。
ならばこの例で、NY連銀製造業景気指数の分析に、小売売上高やCPIと同時発表が行なわれたときを含めるべきでしょうか?
含まずに分析を行うべきに決まってます。

分析を行う目的は取引に勝つためです
取引すべきでない(勝てない・影響力が弱い)ことがわかっている場合まで含めた分析は、その目的に忠実ではありません。
だから、指標間影響力比較分析を行わずに反応方向を分析しても、そんなものの価値は低いのです


5-4  項目間影響力比較分析

ひとつの指標で複数の項目が同時発表される場合があります。
これら複数の項目それぞれのチャートへの影響力の強さを判別式で表します
但し、この分析は、先述の指標間影響力比較分析の結果に基づき、より影響力の強い他の指標と同時発表された場合を除いて行います。
この作業を項目間影響力比較分析と呼びます。


例えば、米国生産者物価指数は、2015年2月~2019年8月まで55回発表されています。
がしかし、そのうち15回は米国小売売上高と同時発表、1回は米国耐久財受注、1回はFRB議長会見開始時刻と同時発表されています。
指標間影響力比較分析の結果、これら同時発表が行われた場合、生産者物価指数の影響力が強くありません。
よって、生産者物価指数の項目間影響力比較分析は、それらと同時発表されなかった40回の事例が対象です。

この40回の事例において、生産者物価指数の「前月比」「前年比」「コア前月比」「コア前年比」のそれぞれの各判別式と各ローソク足の方向一致率は下表の通りでした。

ここで判別式を、

  • A✕前月比の判別式+B✕前年比の判別式+C✕コア前月比の判別式+D✕コア前年比の判別式

と立式し、この判別式の解の符号とローソク方向の一致率が高くなるように係数A・B・C・Dを求めます。
結果、下表のように各係数を決定すると、対応する各ローソク足との方向一致率が高くなることがわかりました。

例えば、この表1行目は、

  • 事前差異判別式=1✕前月比の事前差異判別式+2✕前年比の事前差異判別式+1✕コア前月比の事前差異判別式ー4✕コア前年比の事前差異判別式

という判別式を表しています。
そして、この判別式の解の符号と直前10-1分足値幅方向は、方向一致率が70%です。

先の表と見比べると、この70%という方向一致率は、「前月比」「前年比」「コア前月比」「コア前年比」の各項目単独での事前差異判別式の解の符号と直前10-1分足値幅方向の方向一致率より高くなっていることがわかります。

項目間影響力比較分析の結論は、事前差異・事後差異・実態差異の各判別式と、それら各判別式に対応した各ローソク足値幅方向の方向一致率、ということになります。


5-5  指標予想分析

指標予想分析は、ある指標の次の発表結果が前回結果や市場予想を上回るか下回るかを予想するために行います。

我々が目にする市場予想は、大手のニュース配信会社が複数のエコノミスト予想の平均値中央値として公開している値です。
決して、過去の予想的中率が最も高かった人の予想値を公開している訳ではありません
だから、市場予想は外れて当然です。

市場予想がアンケート結果に過ぎない以上、アンケートに起こりがちな偏り(クセ)が生じます。
このクセをいくつか知っておけば、指標取引が有利に行えることがあります。

市場予想と発表結果の推移の仕方を大別すると、

  • 市場予想後追い型=市場予想と発表結果の移動平均線を用いて、発表結果が市場予想を超えそうか否かを予想できる
  • 過大反動/過小反動型=発表結果のブレの大きさを階層化し、階層毎に発表結果が市場予想を超えそうか否かを予想できる
  • 市場予想軽視型=他の指標との連動・追従関係や、指標発表前のローソク足の方向から、発表結果が市場予想を超えそうか否かを予想できる
  • 上記3つの型のいずれにも該当しない

の4種類があります。
予想可能な3つの型の詳細はこちらを参照願います。

上記のうち、他の指標との連動・追従関係から狙った指標の良し悪しを予想する「市場予想軽視型」は、経済データを参考にして経済を予想するのだから「真っ当な予想法」だと言えます。

けれども、「市場予想後追い型」や「過大反動/過小反動型」は違います。
市場予想と発表結果の過去推移だけで、その大小関係を予想します。
市場予想には専門家による現在の経済状況認識が踏まえられているはずだから、これらはその認識のクセを分析している、と言えるでしょう。


本稿のまとめ
  • 指標分析とは、指標の特徴を抽出し、あわよくば市場予想と発表結果の大小関係を事前に予想するための分析で、指標推移記録・指標間影響力比較分析・項目間影響力比較分析・指標予想分析、といった一連の分析手順を指す
  • 指標推移記録とは、過去の市場予想・発表結果・修正結果の推移のグラフ化を指し、その指標の特徴有無を見出すために行う
  • 指標間影響力比較分析とは、ある指標と他の指標が過去に同時発表されたときの実績から影響力を強弱判定する分析を指す
  • 項目間影響力比較分析とは、ある指標の影響力が強かったと認めらる過去の事例だけから、その指標の複数の発表項目の影響力を判別式形式で示す
  • 指標予測分析とは、ある指標が市場予想後追い型・過大反動/過小反動型・市場予想軽視型のいずれかのとき、今回の発表結果が前回結果や市場予想を上回るか/下回るかを予想するために行う

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